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『Snow Dream ――甘やかな夢は危険なかほり―― 』
李・蘭花(ha1693)

 年が明けて初めての夜に見た夢を、初夢って呼ぶのよね。
 初夢は正夢になる、なんて言う人もいるけど……ほんとかしら?


「んー、今日は良い天気!」
 開け放たれた窓から吹き込んで来る暖かな風が、少し色あせたカーテンを優しく揺らす。
 見上げた空は青く澄み渡り、柔らかな日差しが芽吹き始めたばかりの木々に降り注ぐ、そんな穏やかな春の午後。
 なのに、彼……フェイニーズ・ダグラスときたら。
「こんな良い日に窓も開けないで、お昼過ぎまでぐーすか寝てるなんて……フェイニィくらいなものよ?」
 李蘭花(ha1693)は慣れた手つきで、頭の上まですっぽり掛けられた布団を引っぱがす。
「……ぅ……」
 陽の光をまともに浴びたフェイニーズは、眩しそうに薄目を開けて……
「……蘭花、またお前かよ……」
 ぶつくさと文句を言った。
「休みの時くらい、ゆっくり寝かせてくれ……」
 もぞもぞ、ごそごそ。布団は剥がされてしまったので、仕方なくシーツにくるまって、フェイニーズは蘭花に背を向ける。
「だーめ、これも洗濯するの!」
 ぐいっ、ごろごろ、どすん!
 体に巻き付けたシーツを巻き戻され、フェイニーズはベッドの反対側に転がり落ちる。
「また寝てもいいけど、ソファでお願いね。布団と枕、干すんだから。シーツとカバーも剥がして洗濯するわよ。そうそう、この天気なら毛布も乾きそうね」
「……へーいへい……」
 のそのそと起き上がり、部屋を出て行くフェイニーズ。それは殆ど毎週、休みのたびに繰り返される光景だった。
「軽い食事、作っておいたから。気が向いたら食べてね?」
「うぃーす」
 掃除、洗濯、食事の用意。「押し掛け女房」とか「通い妻」とか、そんな単語が蘭花の脳裏をちらりとかすめていく。
「……そ、そんなんじゃないわよ! あたしは、ただ……っ」
 主のいなくなったベッドルームから埃と湿気を追い出しながら、蘭花はひとり呟き首を振る。
「ただ……ねぇ。あたしが片付けに来なかったらどうなっちゃうのよ、この家」
 毎週のように通っていても、その度に一日がかりの仕事になるのだ。一応、風呂と着替えだけは欠かさずに身奇麗にはしているようだが、脱衣所には脱ぎっぱなしの服が山積みだし、家の至る所に丸めた紙くずが散らばって、何かを調べるために本棚から出した本も床に積み上がり雪崩を起こしている。誰も片付けに来なければ、この家には一年中クリスマスツリーと門松とカボチャのランタンが飾られていることだろう。
「台所が奇麗になってるのだけが救いかしら」
 それだって、別に奇麗にしようとしている訳ではない。使わないから奇麗になっているだけのことだ。
「……毎食、あの食堂に食べに行ってるのかしら。あのおばちゃん、フェイニィを自分の息子みたいに思ってるし、体のこととかもちゃんと考えてくれてそうだけど……」
 食事はやっぱり、自分の家で……家族と一緒に食べるのが良い。
「家族……かぁ」
 家じゅうの窓を開けて風を通し、雪崩を起こした本の山を本棚に戻し、散らかったゴミを片付け、ゴミじゃなさそうなものはきちんと一カ所にまとめ、大量の洗濯物を庭に干し……
「ああ、すっきりした」
 清々しい気分で家の中に戻った蘭花は、家の主がいる筈の部屋をそっと覗き込む。
「……あ、寝ちゃってる……?」
 フェイニーズはソファに体を横たえ、静かに寝息を立てていた。床に落とした片腕の指先に、ページを開いたままの本が引っかかっている。読書をするつもりが、睡魔に負けてしまったのだろう。
 タイトルは……残念、カバーがかかっていて見えない。そっと拾い上げて、こっそり見いてみようか。
「でも、起こしちゃうかしら」
 見ると、脇のテーブルに用意しておいた食事はすっかり平らげてある。
「……ね、おいしかった?」
 尋ねてみても規則正しい寝息が返って来るだけで、返事はない。それはわかっている。それでも……なんとなく、声をかけてみたかった。
 食器を片付け、庭から取り込んだ日向の匂いがするブランケットを掛ける。そっと腕を戻して、その下に入れてやった。
 それでも、フェイニーズは微動だにしない。
「一応、信頼はされてるのかしら」
 くすり。小さく微笑みながら、本を拾い上げてテーブルの上へ。カバーをめくってタイトルを見るようなことは、しなかった。
「それとも……おせっかいな奴だって、思ってる?」
 もし、この人と家族になれたら……毎日、掃除して、洗濯して、食事作って。
「あら?」
 今と殆ど変わらない、かも?
 ――それでも、いい。毎日を、ずっと一緒に過ごせたら……
 無防備な寝顔を見つめているうちに、胸の奥が苦しくなってきた。ぎゅっと押さえ込んで、閉じ込めていたものが、じわじわと胸いっぱいに広がり、溢れて――
 我慢、出来ない。
「好きよ、フェイニィ………お願いだからキライにならないでね?」
 唇でそっと頬に触れ、囁く。
 ――起こさないうちに、離れよう。そうよ、夕食の準備しなきゃ……
 慌てて腰を浮かせ、立ち上がろうとする。だが、どういう訳か、蘭花はその場にぺたんと尻餅をついてしまった。
「……え?」
 腕が動かない。まるで誰かに掴まれているように……。いや、実際、蘭花の腕は大きな手でしっかりと掴まれていた。
「フェイニィ!?」
 ぐっすり眠っていた筈のフェイニーズは、ニヤニヤ笑いを浮かべながら蘭花を見上げていた。
「い、いつから……っ!?」
 まさか、聞かれてた!? 全部!? どこからっ!?
「なあ、もう一回」
「……え?」
「さっきの、もう一回……言えよ」
「さ、さ、さささっきの、って、……っ」
 もしかして、あれ!?
「す、す……すす、す……っ」
「……す……? んー、酢イカ」
「か……か、からすっ!」
「んだよ、また『す』か……。んじゃ、酢ダコ」
「こ、こ……、こいび……、……っ」
 ――って、しりとり!? なんで、どうしていきなり、しりとりが始まっちゃうのよ!?
 蘭花、もう大パニック。
 そこへ追い打ちをかけるように、フェイニーズが囁いた。
「……なあ、俺がお前を、嫌いになる筈がねぇだろ……?」
「……ぇ……っ!?」
 どきんっ!
 ――ど、どういう、意味……? ねえ、まさか……もしかして……っ!?
「意味は、自分で考えな」
 ニヤリ。
 意地の悪い微笑みを浮かべ、フェイニーズは素早くソファから身を起こして蘭花と体を入れ替える。蘭花の背は、ソファに押し付けられていた。しかし、痛くはない。肩を押さえたフェイニーズの手は、簡単にはねのけられるくらいに優しく触れていた。
 それでも……蘭花は動けなかった。体に力が入らない。ゆっくりと近付いて来る顔から、目を逸らす事も出来ない。
「……フェイ、ニィ……?」
 ……もう、近すぎて……何も、見えな……


 ――がばっ!!
「……い、いま、の……」
 飛び起きた蘭花は、大きな溜め息をひとつ。夢、だったのだろうか。
「……そ……そう、よね。夢……に、決まってる……」
 ほっと胸を撫でおろし、それでも……ちょっぴり残念な気持ちを引きずりながら、蘭花はベッドから降りた。
 ……いや、ベッドではない。これは……ソファ? それに、ここは……この部屋は、自分のでは……
「よぉ、目ぇ覚めたか?」
「きゃあぁぁっ!?」
 声のした方を振り向くと、そこに立っていたのは……
「おいおい、随分なご挨拶だな……きゃーはねぇだろ、きゃーは」
「フェイニィ!? ど、どうして……っ!?」
 よく見れば、そこはフェイニーズ宅の居間。さっきの夢と全く同じシチュエーションだった。
 まさか、あれは正夢……っていうか、夢じゃなくて、本当に……!?
「なんだよ、覚えてねぇのか? お前、人んちに勝手に掃除に来て、勝手にくたびれて寝ちまったんだろがよ」
「……ぇ……寝て、た……の?」
 ――そうか。じゃあ、あれはやっぱり夢……
「お前、どんな夢見てたんだ? 面白かったぜ、赤くなったり青くなったり……」
 にやにや、によーん。
 ――もしかして、見てたの!? 人の寝顔を、しかも……あんな恥ずかしい夢見てたところを……!?
「……ふぇ……フェイニィの、ばかあぁぁぁーーーっ!!」
 ばちぃぃーーーん!
 春の暖かな陽射しの下、庭の芝生で昼寝をしていた小さな三毛猫が物音で目を覚まし、大きな欠伸をひとつ。そして、家の中をちらりと一瞥すると、また気持ち良さそうに眠ってしまった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ha1693/李蘭花/女性/24歳/武人】
【hz0002/フェイニーズ・ダグラス/男性/32歳/ソーサラー】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 お世話になっております、STANZAです。
 この度はご依頼ありがとうございました。

 ……え……、こんなんできましたー(脱兎(ぇぇ
 ……ラスト、ちょこっと変えてあります。この方がおいしそうだし……「お約束」も入れられるし(←

 では、またいつか機会がありましたら、よろしくお願いいたします。
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The Soul Partner 〜next asura fantasy online〜
2011年02月16日

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