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『愛と勇気の必殺技! 』
和泉・大和5123)&御崎・綾香(5124)&(登場しない)


 和泉 大和、職業はプロレスラー。リングネームは『イリミネイト・マシン』。
 決め技は、鍛え上げた左腕から繰り出されるラリアート。ジュニアヘビー級の選手なら、水車のように一回転させるほどの威力がある。これが放たれれば、リングのドラマに終止符が打たれる。それがマットの常であった。

 そんなある日。大和が道場で汗を流していると、ある先輩が声をかけた。
 最初は、前の試合に放ったラリアートの角度について、実技も交えての指導である。先輩も「マシンにラリアートあり」と認めており、必殺技の精度アップの策を伝授した。
 インパクトの際、振り下ろすように打てば、相手をマットに叩きつけられる。敵はフォールのタイミングを見誤り、勝手に慌ててくれるという寸法だ。あわよくば3カウントを取れるし、フォールを返されても息を整える暇を与えない。
 「意識的に変えると、試合の流れを変えれるから便利だぞ」
 「なるほど……」
 そして逆に振り上げるように打つと、相手は自ら倒れる以外にダウンできず、その場に立ち尽くすしかなくなる。敵の攻撃を受け切って勝利するのが、プロレスというもの。立っている敵は根性をポーズで示し、「もう一発打て!」と煽ってくるだろう。そこを再び伝家の宝刀で襲い、確実に仕留めるというわけだ。
 先輩は「まぁ、大和なら大丈夫だろうけどさ」と笑った後、あるアドバイスを授けた。今までの話は前置きで、実はここからが本題らしい。
 「決め技がラリアートだけってのは、ちょっと足らないな。今のうちに何か奥の手を考えとけよ」
 タイトルマッチ戦線に絡めば、試合時間も長くなる。そうなれば、自然と披露する技も多くなる。この先のことを考えると、ラリアート以外の決め技もほしい……先輩はそう言った。
 「タッグとか組んだら話は別だけど、シングルでやってると研究して閃くしかないからな。ま、ボチボチでいいからよ」
 「はい、ありがとうございました!」
 大和はそう返事し、また練習に戻った。しかし、頭の中はもう決め技のことでいっぱい。自分にあった決め技は、いったいどこにあるのだろうか……?

 その夜、道場からたっぷりプロレス関係のDVDを借りてきた大和は、自宅で研究を開始した。
 今のプロレス界は、見た目に派手な技がウケる傾向にあり、底知れぬ威力を秘めた決め技も多く考案されている。トレンドを取り入れようと技の入りなどをスローで見るが、しばらくすると首を振って次の場面にスキップ。また次をスローで見て、途中でスキップ……しばらくはこれの繰り返し。気づけば、借りてきたDVDの半数を見終わっていた。
 そこへ綾香が夜食を持って入ってくる。今日はたまごサンドだった。
 「何かつかんだか?」
 彼女の言葉に、大和は首を振った。
 「難しいもんだな。派手で威力バツグンってだけならいろいろあるが、どうもな……」
 技のかけ方や入りのタイミングはわかるが、自分のファイトスタイルから繋げるとなると、どこか無理があるように思えてならない。それが大和の悩みだった。
 綾香は「うむ」と言いながら隣に座り、しばし目を瞑って大和の試合運びを思い描く。そしておもむろに目を開き、テレビを見た。さすがに違和感とまではいかないが、スムーズに繋がらない気はする。まるで途中から別人がマスクをつけてファイトしてるように思えた。
 「まぁ、確かに大和のキャラには合わないかもな」
 ここで気休めを言っても仕方ない。綾香は笑いながら、素直な感想を述べた。そして、こう続ける。
 「そういえば、大和は相手を背中から落とす技が多いな。難しく考えずに、その路線で行ってみたらどうだ?」
 背中から落とすといえば、基本中の基本であるボディスラム。そこから締め技に入ったり、トップロープに上がって空中戦をするなど、さまざまな技に派生する。
 だが、これを決め技にまで発展させるのはちょっと難しい。大和は腕を組んで「う〜ん」と考え込んでしまった。
 「派手なのが厳しいなら、相手をこうやってぐいぐい締め上げるとか……」
 完全に煮詰まった大和の背後を取り、綾香はいきなり裸締めの真似事を開始した。首筋には甘い吐息があたり、背中には豊満な肉体が密着。大和は研究や悩みが吹き飛ぶほどの衝撃を全身に受ける。
 「ノーノー! ロープ、ロープ! これ以上はやめてくれ!」
 いろんなところが締められて、大和の顔は真っ赤になった。これ以上は危ないと慌てて技から逃れ、しばし息を整える。
 「ふーっ。締め技か……ありがと、綾香」
 予想外の攻撃に見舞われたものの、大和は何かをつかんだようだった。

 その後、満員のお客さんが詰め掛けたシングルマッチで、運命の瞬間を迎えた。
 勝負も佳境に入り、ここが決め時とイリミネイト・マシンはラリアートを振り下ろし気味に放つ。満足に受身も取れずマットに叩きつけられた相手を、急いでフォール。手ごたえも十分で、勝負は決まったかのように思われた。
 「ワン、ツー……」
 ところが敵レスラーは身体を跳ね上げ、カウント2.9で九死に一生を得る。渾身の一撃で決め損ねたマシンは、いよいよ苦境に立たされた。
 それでもラリアートの威力は大きく、相手もすぐに動き出せない。これをチャンスと見たマシンは相手を無理やり引き起こして、そのまま肩に担ぎ上げて猛然と対角線へダッシュ!
 『おーっと! イリミネイト・マシン、これは新技かー! 助走で勢いをつけ、そのままマットに叩きつける! 基本に忠実なオクラホマスタンピード炸裂ーーー!』
 リングサイドのアナウンサーも思わず大興奮。ラリアート一筋のマシンが、新たなる必殺技を披露した瞬間である。
 そして隙を与えず、そのままものすごい角度の逆エビ固めで相手をぐいぐいと締め上げた。この合わせ技を食らってはひとたまりもない。あっという間にタップさせ、ギブアップを奪った。
 『強烈に叩きつけた背中を徹底的に攻める! エグい角度の逆エビ固めは、まさに背骨をへし折らんとするマシンのフルコースだーーーっ!』
 相手セコンドが背中の治療をする中、イリミネイト・マシンはコーナーポストの上から存分に勝利のアピールを見せる。彼の背中には、まだあの時の感触が残っていた。

 マシンの殺人フルコースは、プロレス雑誌にも取り上げられた。特に逆エビ固めは実況のセリフを借りて「HESHIORI」と名付けられ、ラリアートと並ぶ必殺技として評される。
 これを見た綾香は自分のことのように喜び、大和にお赤飯とご馳走を作ってたらふく食べさせた。愛と勇気の必殺技は、こうして完成したのだった。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
市川智彦 クリエイターズルームへ
東京怪談
2011年02月23日

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