▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『【如月手作恋味風味〜神楽之都甘恋話】 』
リーディア(ia9818)

●想いを形に

 時に形にしなければ、伝わらない事もある。
 あえて形にして、伝えたい時もある。

 近くにいても、遠く離れていても。
 通じ合っていても、一方通行でも。
 消えそうな言葉でも、小さなプレゼントでも。

 この想いを、形にして――。


●恋の味は甘く、苦く?
「えぇと、えーっと……」
 指先で文字を辿りながら、ぱらりぱらりとページをめくる。
 クッキーやパイ、ビスケット。
 キャンディー、タルトと砂糖漬け。
 冷たい氷菓子に、あつあつの揚げ菓子。
 ジルベリアのヤシン夫人から結婚祝いにもらった料理本をめくり、リーディアは沢山の料理やお菓子のレシピに目を通していた。
 元はジルベリアから天儀に伝わったバレンタインまで、あと少し。
 夫のゼロへ渡すプレゼントに悩んで、ほぅとリーディアは溜め息ひとつ。
 せっかくだから何か手作りのお菓子をと思いつき、料理本とのにらめっこを始めて、どのくらいの時間が経っただろうか。
「フォンダンショコラ……これにしましょう!」
 興味のある材料とレシピが心を捉えて、リーディアは書き写すペンを用意した。
 最近の神楽の都では、バレンタインの贈り物に珍しい「チョコレート」を使ったお菓子をあげる事が流行となっているという。
 そのまま食べてもヨシ。熱を加えて溶かし、他のお菓子にアレンジするも使えてヨシという一品。
 彼女はソレを口にしたことも、目にしたことすらない。
「チョコレート……って、とろけるように甘く、どこかほろ苦いと聞くのですよね」
 それはきっと恋の味ねと、なんとなく、そう思う。
 だから、好きな人にあげたくなるのかも……と。
 書き写したレシピを確認して、「よし」と小さく頷いた。
「バレンタインの日までに、材料を揃えないとですね。後は、義姉さんの棲家を借りて……」
 天儀風の長屋では、料理をする道具に限度がある。
 特にジルベリアの菓子を作るとなれば、色々と足りなかった。
 借りるつもりの『棲家』は、結婚するまでリーディアが住んでいた家で。
 ジルベリア風の部屋に、ケーキ作りに必要な調理器具があれこれと置いてある。
『本番』はバレンタイン当日と心に決め、気合を入れたリーディアは料理本を閉じた。

   ○

 そうして、バレンタイン当日。
「レッツクッキング、なのです!」
 部屋の主が留守なため、勝手に部屋を借りたリーディアは揃えた道具と材料を前にぐぃと腕まくりをした。
 書き写したレシピを見ながら湯を沸かし、粉を振るい、始めて手にしたチョコレートをゴリゴリと小さく砕く。
 焦げ茶っぽい色のソレを、少しかじって味見してみたい気持ちはあったが、そこはぐっと我慢した。
 チョコレートを湯煎して、バターを加えて更に混ぜる……間に湯の温度が下がって固まりそうになり、慌てて湯を取り替えた。
「うぅ、難しいのです……」
 時おり火傷しそうになりながら、ぱたぱたと一人でレシピを追っていく。
 用意した型を並べ、よく混ぜ合わせた生地を慎重に流し入れ。
 十分にオーブンが温まったのを確認してから、型を入れる。
 後は熱が上がり過ぎないよう、下がり過ぎないように注意しながら、じっと焼き上がりを待った。
 焼き時間が早過ぎれば固まらず、長ければすっかり中まで固まったり、硬くなってしまう。
 減っていく生地と増えていく失敗作に試行錯誤しながら、挑戦すること幾度目か。
「……出来ました!」
 やっと美味しそうに出来上がったフォンダンショコラを前に、やり遂げた表情でリーディアは額を拭った。
「でも温かいうちに食べないと、せっかくのケーキが台無しになるのですっ」
 大急ぎで失敗作や出来立てのケーキを保温用の籠に入れ、片付ける物を片付けて、彼女はかつての棲家を飛び出した。
(ゼロさん、どんな反応をしてくれるのでしょうか?)
 うっかり転ばないよう家路を急ぎつつ、家にいる筈の愛しい夫へと想いを馳せる。

   ○

「お? お帰りだぜ。えらく息を切らせて、どうした?」
 息を切らせて帰ってきたリーディアを出迎えたのは、ゼロの驚き顔だった。
「ゼロさん……良かったの、です」
 夫の在宅にほっとしたリーディアは、ひとまず板間に腰を下ろして息を整える。
「とりあえず、茶でも淹れるか?」
「それなら、私が淹れるのですっ。ゼロさんは座っていて下さい」
 慌てるリーディアに、首を傾げながらゼロは手を止めた。
 ひと息ついて部屋へ上がったリーディアは、温かい火鉢の傍に籠を置くと紅茶を淹れ始める。
 それから葉を蒸らす間にいそいそと皿やフォークを用意して、卓の上に並べた。
「今日は、何かあるのか?」
「はい。今日はバレンタインなのですよ」
「ばてれんたいん……そうだったか」
 呟く言葉は微妙に違うがリーディアは深く突っ込まず、まだ温かいフォンダンショコラと紅茶をゼロの前へ置く。
「えっと、今すぐ食べて下さいね。温かいうちが美味しいのですっ」
「今すぐ、なのか?」
 リーディアに力説されたゼロは、おもむろに小さなケーキへ手を伸ばした。
「はっ。でも直接ガブッとは、危険なのですっ!」
 その光景をちょっと見たい衝動に駆られながらも、急いでリーディアが止める。
 仕方なくゼロは慣れぬフォークを手に取って、見慣れぬケーキへ差し入れた。
 割れた部分から固まっていないチョコレートがとろりと溶け出せば、何故か困惑気味なゼロがリーディアへ視線をやり。
「そういうケーキですから、大丈夫ですよ?」
「そうなのか……少し、驚いたぜ」
 一挙一動にくすくすと笑いながら、リーディアはゼロの様子を見守る。
 興味深そうにケーキを食べたゼロは少し熱そうな顔をしたものの、もぐもぐと口を動かし。
「……どうです?」
 心配そうに感想を聞くと、飲み込んでから大きく息を吐き、そして頷いた。
「ちぃと熱いけど、旨いぜ。これもジルベリアの菓子なのか?」
「そうなのです。良かった……美味しく出来て」
「なんだ。まだ食べてないなら、喰ってみろよ」
 ほっと胸を撫で下ろすリーディアに、ゼロはフォンダンショコラを一口分だけフォークに乗せ、彼女へ向ける。
「ほら、中のが垂れちまう前に。ぱくっといっちまえ」
「あ、はい……!」
 急かされ、思い切ってぱくりとケーキを食べ。
「……どうだ?」
 我が事のようにわくわくとしながら尋ねるゼロに、こくりと小さく頷いた。
「美味しいです……」
「だろ?」
 リーディアが答えれば、嬉しそうな笑顔が返ってくる。
「もっと喰うか?」
「いえ、自分の分はあるのですよ」
「そうか。じゃあ、冷めないうちに喰わないとな。確かに、熱いのが旨い」
 苦笑しながらゼロはまたフォンダンショコラを食べて、紅茶をすする。
 今更ながら「あーん」されたことに気付いたリーディアが、遅れて頬を赤く染め。
「甘くて苦いチョコは、恋の味……ですか」
「うん?」
「いえ。なんだか、そんな気がして」
 ごにょりと返しながら、もにゅもにゅとリーディアも自分のフォンダンショコラを食べ始めた。
「甘いと思えば苦かったり、苦いと思えば甘かったり……となると、小さくて二口三口で喰っちまえそうなこの菓子は、てめぇの恋心ってところか」
「そ、そうなのですか?」
 二口か三口で食べられてしまうのでしょうかと、ちょっと悩みながらケーキを突っつく。
「見た目は飾ってなくて素朴だが、中は熱くて侮れねぇ。さっきは止めてくれたが、止められなかったら丸ごと喰って、絶対に口ン中を火傷してたぜ、俺」
「ふに……」
 何となく頬が火照って感じられるのは、ケーキや紅茶の温もりだけではない気もする。
 まったく、この旦那様は……などと心の内で考えながら、フォークを動かしていると。
「恋の味があれば、愛の味ってのもあるのかねぇ」
「……え?」
 どこか悪戯っぽく尋ねる夫に、きょとんとした表情をリーディアが返す。
「確かめてみるか?」
 ふっと、ゼロとの距離が近付いて。
「確かめって、ゼロさ……ん?」
 引き寄せられたリーディアは、問いかけた口唇を塞がれた。
 思わず、ぎゅっと夫の着物の袖を掴み。
「……分かったか?」
「はうっ……!?」
 耳元でそっと聞く声に、ぼふっと赤面する。
「その……動揺し過ぎて、よく……分かりませんでした……」
「そっか。安心しろ、俺もだ」
「ゼロさん……ッ!」
 くつくつと笑うゼロに、赤くなったままリーディアは彼の背をたしたしと叩いた。
「ぬぅ〜っ」
「そんなに悔しがるなら、もう一回試してみるか?」
「はうっ、遠慮するのです……いえ、嫌だったとかいう訳ではないのですけどねっ?」
 言葉の後ろ半分は、小声でそっと付け足す。
「せっかくのフォンダンショコラが、冷めてしまいますから」
「そうだな」
 笑いながら、ゼロは残ったケーキを口へ放り込んだ。
「しかし、恋ってのはちっと足りねぇくらいの方がいいんだろうが……腹具合としては、寂しいな」
「失敗したのでもよければ、食べます?」
 物足りなさそうな様子にリーディアはくすくすと笑い、籠を引き寄せる。
「火が通り過ぎて、中のトロッと具合が足らないのです。それでも良ければ」
「おう。てめぇが作ったんなら、ナンでも喰うぜ……俺のために、作ってくれたんだろ?」
 どこか嬉しそうに聞くゼロに、こくこくとリーディアは照れながらも頷いた。
『失敗作』でも美味しそうに食べるゼロにほっとし、温かい紅茶を飲むと、ようやく落ち着いてフォンダンショコラを味わう。
「……あら。ゼロさん、頬にケーキがくっついてますよ」
「ああ、すまね」
 笑いながらリーディアは夫の頬についたケーキの屑を取って口に入れ、ちらと指を舐めた。
 窺う視線に気付いて小首を傾げれば、何故かゼロは明後日の方向へ視線を泳がせて。
「どうかしたのですか?」
「い、いや。何でもねぇよ」
 その様子に彼女はきょとんとしながら、チョコレートのケーキを食べる。
 人生初のチョコレート体験は、甘いというか苦いというか、どちらかといえば熱いような気がしないでもないけれど。
「これがチョコレート、なのですね……」
「俺も、喰うのは初めてかもしれねぇ。わざわざ、ありがとうな」
 礼を言うゼロにふわりと笑み、リーディアは甘くてほろ苦い初めての味を堪能した。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【ia9818/リーディア/女性/外見年齢19歳/巫女】
【iz0003/ゼロ/男性/外見年齢21歳/サムライ】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
 お待たせしました。「Sweet!ときめきドリームノベル」が完成いたしましたので、お届けします。
 依頼の方では、いつもお世話になっています。今回はノベルという形での楽しいご縁を、ありがとうございました。
 え〜と……「遠慮なくいちゃラブを」という事で、ノベルならではの『お砂糖増量』でお送りしてみました。
 普段のリプレイでは描写できないような日常の小さな光景を書く機会をいただけて、楽しかったです。
 ただ、アレです。増量過ぎてお砂糖に埋もれてしまったら、申し訳ありません……!(汗
 もしキャラクターのイメージを含め、思っていた感じと違うようでしたら、申し訳ありません。その際にはお手数をかけますが、遠慮なくリテイクをお願いします。
 最後となりますが、ノベルの発注ありがとうございました。
(担当ライター:風華弓弦)
Sweet!ときめきドリームノベル -
風華弓弦 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2011年03月07日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.