▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『慕心 〜人ヲ想ウ気持チ〜 』
フェンリエッタ(ib0018)


 騎士の役目に、定められた休暇といったものは無い。求められれば為さねばならない役目に在って、フェンリエッタ(ib0018)は年末年始も依頼続き。その中にも、成功とは程遠い結果を突き付けられたものが合って。本当に怖いのは、異形のモノではなく、人の心の闇なのだと思い知った。
 そんなフェンリエッタが、祖父母の元を訪れたのは、2月も半ばを過ぎた頃。
「ただいま!」
「おかえりなさい、フェンリエッタ」
 いつもと変わらず、祖母が穏やかな微笑みで迎えてくれるのが嬉しい。
 抱きしめてくれる祖母の腕がやさしくてあたたかく、フェンリエッタの顔に笑みが浮かぶ。
 ……人の心には闇があるけれど、間違いなく光もある。心を照らし、温めてくれる素敵な心の光が。
 長い抱擁から孫娘をから孫娘を解放すると、館をとりしきる老婦人は、軽やかに手を打ってメイド達に声をかけた。
「さあ、フェンが来てくれたのだからお茶にしましょう」
「あ、おばあさま!」
 心得たように頷き準備に下がろうとした古い馴染みのメイド達をフェンリエッタが呼びとめた。ゆるりと首を傾げた祖母に、手にしていたバスケットを差し出す。
「これ、おじい様とおばあ様へ。あと、いつもお世話になってるから、メイドさん達の分もあるの」
「まあまあまあ……それじゃ、今日はフェンのお菓子でお茶ね」
 祖母が、受け取った菓子の包み布を解いていると、奥から祖父が顔を覗かせた。
「にぎやかだと思ったら、フェンリエッタが来……おっと」
「おじい様っ」
 抱きついて来たフェンリエッタを難なく受け止め、抱きしめる。
 老いたりとはいえ、長く騎士として勤めていただけに、今も大きくなった孫娘を軽々と受け止める老紳士だ。受け止めた腕の中、溺愛する孫娘から頬にキスを贈られて、老紳士の頬がゆるむ。
「フェンが来たというのに、私を呼ばないというのは……」
「どうせ、お茶にしたらいらっしゃるかと思って」
 フェンリエッタからの『大好き』を目一杯に受け止めたからか、拗ねた口調も拗ねきれていない。
 あっさり看破されているのは、長年連れ添った夫婦だからだろう。
「それにちょうどいらっしゃったのだから、年甲斐も無く拗ねないでくださいな」
 くす、と祖母に笑われて、祖父もつられるように笑い。あたたかい、笑顔の絶えない館の雰囲気は、いつもと変わらない。祖父が機嫌を損ねたことなどなかったように、いつもの席に座って、フェンリエッタにも席をすすめる。いつもと決まった席――祖父と祖母と、フェンリエッタが揃うときまった場所は、自分の居場所が間違いなく在ることを確かめられるようで、ほっとする。
 祖母手づから淹れてくれたお茶を前に、ささやかなお茶会が始まり。
「今日はフェンが作ってくれたお菓子なのよ」
「おお、上手いものだなぁ……」
 幾つになっても仲睦まじい……理想の夫婦像を前に、フェンリエッタは微笑んだ。
「まだ他にもお土産があるんです。おじい様には膝かけ、おばあ様にはケープを」
「あらあら、手編みじゃない……大変だったんじゃないの? お役目も忙しいのに……」
「いいんです、いつもお世話になってるおじい様やおばあ様へのお礼です」
「さすが、フェンリエッタの気持ちがこもっている膝かけだな、温かい。ありがとう」
 心から喜んでくれている祖父母は、互いに贈られた品を広げて見せあっている。贈り物は、自分のためのモノでもあったから、そんな姿が少しだけ心に痛い。喜んでもらえるところがみたくて、でも喜んでもらえるのが分っていて贈る……矛盾に似た葛藤。
 自分が贈ったもので喜んでもらえることに触れたかった理由が、ちくりと心を刺す。
 無力感に苛まれる故、喜んで貰いたい一心の贈り物は、祖父母がフェンリエッタにくれる穏やかで和やかなひと時と、どれくらい違うのだろう。祖母が淹れてくれたお茶ほど、自分の贈り物は祖父母をあたためてくれるのだろうか。
 疑問は枯れない泉のように、胸の内に湧き続けたけれど、薫香を漂わせるカップに満ちたお茶が温かくて、闇に触れて凍えてとがった心がゆるんだのかもしれない。思っていたよりもするりと、抱え込んでいた想いが口から滑りでた。
「私、振られちゃったんです」
 フェンリエッタが吐露した言葉に、祖父の片眉が跳ね上がる。
 けれど、傍らの妻にやんわりとなだめられて、誤魔化すように咳払いを一つ。
 夫の様子に小さく笑いながらも、ゆるりと首を傾げてフェンリエッタの話の続きを待ってくれる祖母の優しい気遣いがわかるから、フェンリエッタは微笑んでいられた。
 憧れの二人は、昔からずっと……今もかわらない憧れの形のまま、フェンリエッタの前にいる。
 でも……。
「はっきり言って貰えて嬉しかったけど今はちょっとズルいなって思うの。好きじゃない、応える気はないって意味なら楽になれたかもしれないのに……」
 気持ちが重くて、二人の姿が眩しくて、フェンリエッタの視線は深い琥珀色の水面に落ちる。
 忘れることなどできない彼からの言葉は、心に深く刺さったまま。
 彼の在り様を思えば、もっともな言葉は、一人の乙女としては残酷なものだった。
 けれど、そんな彼だからこそ恋をした矛盾。
 人を恋い慕う気持ちは、算術のように明快な答えなどないからこそ、難しい。
「ごめんなさい。私ね、自分の事を大好きって言えないの……失敗ばかりで自信がなくて」
「フェン……」
 祖母の呼びかけに、フェンリエッタは小さく首を横に振る。
「でもおばあ様の仰る通り。愛する心は色々な事を気付かせてくれた。騎士や女性としてもっと自分を磨かなくちゃって。道の無い茨道は苦しいけど、前に進みたいから……」
 祖母は、悩みながら、けれど進むことをやめたくはないという孫娘の姿をじっと見つめていたが、やがて差し入れてくれたチョコレートに手を伸ばした。摘まみとった一欠けらを、口にし、ふわりと微笑む。
「甘く苦いチョコレートのように、恋も甘いだけでは無くて、苦いことがあるのね。でも、苦さを知っているから……」
「……甘さがより理解できるようになる」
 別の欠けらを食べた祖父も笑う。
 甘く美味しいミルクチョコレートと、ほろ苦いビターチョコレート。両方あるから甘さを知り、苦みを知ることができる。
「フェン、私もおじいさまも、貴女が大好きよ」
「迷うこともあるだろう。迷うことが悪いことじゃない……だが」
「私達が貴女のことを大好きな気持ちは信じて頂戴」
 優しい祖母の、けれど強い声音に、フェンリエッタが顔を上げると、真っ直ぐな視線が注がれていた。
「私達を好きだと言ってくれるなら、お前が好きな私達が大切に想う人間なのだということだけは、忘れないでくれればいい」
 長い人生の中で苦いことをたくさん味わってきた祖父母は、だからこそ甘いことが大切で苦さも経験なのだと知っている。
 そして、甘い幸せが失われたとしても、願い求め続ければ再び手にすることが出来ることも――知っている。
 真っ直ぐ注がれる視線に負けないように、見つめ返せば視線が結ばれ……祖父母が諦めず、生きてきたことを聞いて憧れ、騎士になったことを……フェンリエッタは思い出した。
 何かが心の中に落ちてきた気がした。
 闇の中で戸惑っていた心に変化を呼ぶ、何か。
「…………そう、ね。うん……大丈夫。私だって狼さんの孫娘だもの……ね? おじい様♪」
 一度失ったとしても、幸せを諦めない祖父の生きざまに倣うように。
『ね?』と語りかけたフェンリエッタをみて、祖父母は嬉しそうな笑顔を浮かべていた。 


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【ib0018/フェンリエッタ/女/18/騎士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
OPなしの窓開けへ冒険発注へ挑んで頂きまして、ありがとうございました。
精一杯、おじい様、おばあ様からの応援の気持ちをノベルにこめさせて頂きました。
人間、当たって砕けてなんぼです。
砕けたらまた組み立てて挑めばいいはずです。
当たることを恐れ初めてしまうと、前にすすむことができなくなる……すすむ勇気をお持ちですから大丈夫。どうぞ、心のまま、想いのまま……未来を手にするために、すすまれてください。
先日に続いての祖父母君たちとの団欒が、フェンリエッタ嬢のお心に添うものであれば幸いです。
Sweet!ときめきドリームノベル -
姜 飛葉 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2011年03月09日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.