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『華の都に淑気満つ〜今此処に集いし縁に 』
ライラ・マグニフィセント(eb9243)&クリス・ラインハルト(ea2004)&ロックフェラー・シュターゼン(ea3120)&ベガ・カルブアラクラブ(ea5215)&アーシャ・イクティノス(eb6702)

 華の都は巴里に、その冒険者酒場はある。
 最も華やかで、活気があり――懐かしい場所。
 新年を祝い集った冒険者達は、仲間達と気の置けないひとときを過ごすのだ。

●ひさしぶりの再会
 ホールを芳しい香りと威勢の良い声が移動してゆく。
「さあさ、沢山食べとくれよ。料理はまだまだあるからね」
 熱々出来立ての料理皿を両手に、人混みをかき分けてゆくのはライラ・マグニフィセント(eb9243)、巴里では知らぬ者はない菓子職人だ。
 空いていたテーブルに皿を置きクロッシュを開けると、香辛料の香りがふわりと立ち上る。アーシャ・イクティノス(eb6702)には心当たりがあるようだ。
「この香りは‥‥?」
「気付いたかい? 新大陸産の香辛料を使ったチキンのポワレさね」
 例のアレだよ、とライラ。
 新大陸の発見は、人々に大きな変化を齎した。文化しかり食材しかり。今日の料理はライラの心尽くしなのだが、そのいくつかにも恩恵が現れている。

 白馬八頭立ての豪奢な馬車が酒場に到着すると、巴里の街は益々華やかさを増した。
「新年おめでとう!」
 御者達が恭しく礼をする中、馬車から颯爽と現れた人物は、まさに貴人と呼ぶに相応しい麗しさと立ち居振る舞いであった。
 銀糸で刺繍が施された水色の礼服、優雅な物腰は自信に満ちて。人の上に立つ者の風格を感じさせるベガ・カルブアラクラブ(ea5215)の登場に、巴里っ子達は異国の王太子であろうかと、噂する。
 一身に視線を集めている事などまるでお構いなしで、ベガは恭しく赤子を抱いたクリス・ラインハルト(ea2004)の手を取りエスコートする。
 そう、ベガとクリスもまた冒険者であった者。旧友との再会の為に、巴里を訪れたのだ。

 麗しい青年の登場に、ホールが沸いた。
 シフォンケーキを切り分けていたライラが、に、と微笑う。場の空気を一変させる華やかさは彼以外考えられない。
「ベガのご到着さね」
 アーシャが振り返ると、そこにはかつてと変わらぬ玲瓏たる姿があった。
 銀の髪を僅かに揺らし、ベガは「やあ!」旧知の友に合流する。
「お久し振りです、ベガさん。お変わりなく」
「アーシャはいつ会っても新鮮だね。また一段と素敵な人妻になった」
 巴里から遠く離れたイスパニアで幸せな家庭を築いているアーシャには、伴侶を得た落ち着きが伺えた。かつてのお転婆娘も素敵だったけれど今も魅力的だよとベガに囁かれ、アーシャは「相変わらずですね」と返す。
 年を経ても人となりはそう変化するものではない、まして気の置けぬ仲間の前であれば尚更だ。
 懐かしいですねと微笑むクリスの背には生後半年ほどの赤子が負われている。桃色の頬を上気させてご機嫌な女の子は、今日が酒場デビューだ。
「これ、娘の霜夜です。将来冒険者を志したら、ご指導お願いです〜」
 抱き直し、霜夜の手をつまんで振り振りして挨拶すると、場が一気に和やかになった。
「‥‥すっかり母さんだな、クリスさんも」
 大きな手で霜夜の頬をつんつんして、ロックフェラー・シュターゼン(ea3120)が感慨深げに言ったものだから、クリスはえへんと胸を張った。
「霜夜は聞き分けの良い、いい子なんですよ〜 ねー霜夜?」
「クリスさんの娘さんなら、元気で明るく、前向きな女の子に育ちそうですね」
 きゃっきゃと笑う赤子をあやすクリスの横から霜夜を覗き込んで、アーシャが微笑んだ。
 ところでライラさん、と、アーシャに霜夜を預けてクリスが期待の目を向ければ、心得ているとばかりにライラは頷いて言った。
「当然、お菓子屋ノワール特製のスイーツ類も用意してあるさね」
 わぁっと場に居た者達の歓声が上がったのは言うまでもない。

●えきぞちっく・じゃぱん?
 それはアーシャの一言から始まった。
「ジャパンには、面白い正月遊びがあるのですよ〜」
 何処で仕入れた知識やら、異国の風習を仲間に伝えんと張り切る若妻は、お転婆な少女のようだ。月道を行き来してジャパンに行った事のある冒険者達も、興味津々集まって来る。
 えへんとスレンダーな身体を反らしたアーシャがごそごそと取り出したるは――
「「荒縄?」」
「ジャパンの正月に欠かせない、独楽回しです〜!」
 アーシャが自信満々に言い切ったもので、皆へぇと彼女のペースに呑まれている。
 そして犠牲者が――
「俺?」
 ちょいちょいと手招きされたロックフェラー、ジャパンの遊びと信じてアーシャに言われるがまま其処に立った。アーシャはロックフェラーに荒縄を巻きつけてゆく。
「何々? 俺にはそんな趣味はないぞ?」
 ロックフェラーはきっちり締め付けられながらも軽口を叩いていたのだが。
 荒縄を巻き終えたアーシャが、一歩下がって一気に縄を引いたものだから堪らない。
「これがコマ回し〜!」
「‥‥!!」
 心の準備も何もあったものではない、ロックフェラーはその場で勢いよく回り始めた。
「こ、これが独楽回し‥‥! 通称ヨイデハナイカ! えらい回る! 世界回る! 地面掘れそう〜!!」
 後の話によると、ホールの床に焦げが出来たとか何とか。
「ボクは娘いるから見学かなぁ‥‥」
 霜夜と一緒に大回転は無理があるしとクリスが残念そうにしていると、墨と筆を手にしたアーシャがクリス母子にもできる遊びを伝授。
「‥‥え、『福笑い』という変な顔を作る遊びです?」
 遊び方を教わったクリスは、わくわくと筆に墨を含ませているが――はたして、福笑いに筆や墨は必要だったろうか。
 この『ジャパンの正月遊び』、色々と間違っているような気がする。

 賑やかなホールが更に騒がしくなったのを、ライラとベガは慣れた様子で眺めている。
「ああ、この感じさね。懐かしい‥‥」
 シャンゼリゼ名物の古ワインをベガのグラスに注ぎながらライラが目を細めれば、ベガは優雅に肩を竦めてみせた。
「懐かしい‥‥? ハン! 思い出に生きるには、まだ早いさ」
 だってそうだろう? まだ人生を懐古するほど老いてはいない。
 銀の炎が淡青の蝋燭に揺らめくが如く。
 若く自信に満ちたベガらしい言葉に、ライラは「そうさね」微笑んで己のグラスを掲げた。

 さて、アーシャは次の正月遊びを皆に指南中。
 取り出したるは――鉄板?
 がごんと床に置いた鉄板はふたつ、人の頭ほどもある木製のボールがひとつでワンセットだそうな。
「何これ?」
「羽根突きです。ロックさんこれで打ち返してくださいね〜」
 アーシャは鉄板をひとつロックフェラーに手渡すと、残りの鉄板と木球を手に取って。右手に鉄板を握り左手に木球を構えると、アーシャは徐に木球を投げ上げた。
「受け取れなかったら顔に落書きですよ」
 がごーん!!
 ホール中に響き渡る音と共に打ち出された木球は既に凶器。手動大砲と言っても遜色ない殺傷能力を伴ってロックフェラーを襲う!
「待て! くっ‥‥鉄板重い! ハゴイタ? でかい重いぎゃあああああああ!!!」
 未だ世界が回りっ放しのロックフェラーが羽子板(とアーシャがあくまで言い張る鉄板)を持て余している間に、木球は容赦なく彼の後頭部にヒットしてごろんと落ちた。木球もろとも前へ倒れたロックフェラーの足に鉄板羽子板が落ちてトドメを刺す。
「‥‥じ、ジャパン凄ぇ‥‥」
「はいはい、福笑いですよ〜」
 そのまま動かなくなった大柄の男を筆でつんつんするクリス。
 まぁる描いて、ちょん。
 ロックフェラーの端整な顔立ちは途端にコミカルなものになってゆく。追羽根の敗者の顔に墨で落書きをするのはよくある風習だが、福笑いは紙に描いた顔の輪郭に目鼻口のパーツを並べてその妙を愉しむものである――念のため。
 ともあれ、伸びている間にロックフェラーの顔は墨まみれになってしまい。
「霜夜ぁ、面白いですか〜? 霜夜も喜んでますー」
 母の背で、きゃっきゃと笑う赤子の声に釣られて、場に居た皆も楽しげに笑い始めた。
「おやおや、折角の益荒男振りが台無しさね」
 くすくす笑いながら近付くライラが手にしているのは、ムクロジの実に鳥の羽を数枚取り付けた――所謂追羽根用の羽根。アーシャが打った木球とはまるで別物の、指先で摘める軽い羽根だ。
「どれ、あたしからも罰ゲームしようかね」
 実の部分を手に羽をロックフェラーに向けたライラ、皆に向かって悪戯っぽく微笑むと、徐に羽を床に伸びた男の鼻先で遊ばせ始めたものだから、当然ロックフェラーは――
「こ、こそば‥‥鼻! そこ鼻!! やめハックショイ!!!」
「ん? 何だい? ああ、霜夜もやってみるかい?」
 クリスの背から手を伸ばしてくる霜夜に気付いたライラが赤子の小さな手に羽根を握らせてやると、母も悪乗りして霜夜を背から下ろして抱きかかえ。
「ほーら霜夜、ロックのおじちゃんに挨拶しましょーね〜」
「あぅ〜?」
 霜夜が近づけられるままロックフェラーの面前で羽根をぶんぶん振ったから、墨の化粧を施された顔が更に大きく歪んで大惨事に――

 そんな大騒ぎをやれやれと眺めるベガにアーシャが近付いた。
「ベガさんも、ジャパンの正月遊びいかがですか?」
「彼と同じ目には遭いたくないね」
 言葉は素っ気無いが優美な仕草が緩和する。美しく楽しみたいねと微笑んだベガに、アーシャは双六はいかがとホールの隅に転がしてあったカーペットを示した。
「サイコロを振ってゴールを目指す、シンプルなゲームです」
 ただしアーシャが用意したのは冒険者専用の超巨大双六だったが。
 場所を空けさせカーペットを広げれば、そこに描かれているのはジ・アース。
 ノルマンがあって、イギリスがあって、イスパニアにエジプトにフランク王国――
 皆それぞれの生まれ育った地を出て、冒険者になって、巡り合って。
「いいね、悪くない」
 出逢った奇縁を感じつつ、双六に興じるのも良いだろう。
 ベガが髪揺らして微笑うと、良香がふわりと香った。

 皆で此処に集った縁を祝おう。
 ここは巴里の大ホール。冒険者達が集う場所。
 多少の騒ぎは日常茶飯事、おまけに今日は新年とあれば無礼講の大騒ぎ。
WTアナザーストーリーノベル -
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2011年03月14日

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