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『Sweet Dream【Chocolate Kiss, Kiss, Kiss】 』
セシル シルメリア(gb4275)


 甘くむせ返るようなお菓子の匂い。
 お菓子のように甘く優しいひととき。
 その瞬間に、見る夢は――。


「今日はバレンタインですし、折角なら一緒にチョコ作りとか、しましょうか」
 恋人のフェイト・グラスベルの言葉に、セシル シルメリアは目を輝かせた。
「フェイトとーラブラブー♪」
 満面の笑みでフェイトに絡みつき、すりすりと頬ずりをする。一緒にチョコを作るということは、まずは材料の買い出しから始まるということであって、それが意味するものはつまりただひとつ。
「デートですー♪ バレンタインのデートですー♪」
 とは言え、あくまでも「チョコ作りのための買い出し」だ。でも、デートだ。
「この時期は良いですよ、調理用の材料を色々売ってますから」
 フェイトはくすりと笑み、帽子とサングラスを用意する。覚醒している彼女はどうやら変装するらしい。割とありきたりな変装ではあるが、セシルにとってはそれさえも新鮮だ。
 深くかぶった帽子のつばの奥に見える瞳はとても淡く優しい薄紫色で、しかしセシルが見つめているうちにその色はサングラスによって隠されてしまう。少しだけ寂しさを覚えるが、恋人の背に流れる髪の色も薄紫だから、見るたびに瞳の色を思い出すことができる。
 お忍びムード漂う恋人の姿を頭の先から爪先までしっかりと目に焼き付けたセシルは、思わず両手を広げてフェイトを抱きしめてしまった。
「お忍び格好ですー、がしかし、溢れる美貌は隠せないー♪」
 大好きなフェイト。
 大好きという言葉では足りないくらい好きで、愛しくて、どんな格好をしていても世界で一番綺麗なフェイト。
 今日はとても大人っぽくてどこかお嬢様っぽくて、髪と瞳の色がそれを更に引き立たせていて、思わずどきどきしてしまう。いつもどきどきしているけれど、いつも違う「どきどき」だ。こんなにも沢山の感情を抱けるのは、相手がフェイトだからなのだろう。
 そんなフェイトとこれからデート……じゃなくて、買い出しに行けるなんて、自分はなんて幸せなんだろう。
 セシルはフェイトを抱きしめる手に力を込めて、その感触を確かめる。このまま抱きしめていたい。だが、それでは出かけることができない。どうしようかと迷っていると、それを見抜いたかのようにフェイトがセシルの頬を撫でた。
「そろそろ……行きましょうか」
「そ、そうです、れっつごーですー♪」
 そして二人は、ようやく買い出しという名のデートに出発する。もちろん、ぴったりと寄り添って。
 近場のスーパーや雑貨店、それから製菓材料の専門店。あらゆる店を覗いては気になった物を買っていく。もちろんその間も二人は腕を組んだり楽しい会話をしたりと、互いとのコミュニケーションを忘れない。
 同時に目をつけたビターチョコレート。
 手を伸ばせばやっぱりタイミングは同じで、チョコレートの上で指先が触れ合ってしまう。でもそこで慌てて引っ込めるようなことはせずに、指先を絡め合わせながら一緒にチョコレートを手にとって買い物かごに放り込む。
 もちろん、買い物かごを持つのもふたり一緒。買い物かごを持つついでに手を繋いでいるのか、手を繋ぐついでに買い物かごも持っているのか。
 常に身体のどこかが触れ合って、そして言葉が絡み合って。
 そうしている瞬間がたまらなく嬉しいセシルは、フェイトが欲しがりそうな材料を見つけると反射的に手を伸ばしていた。こうすれば、指が触れ合う確率が高くなるから。
 だが、そうやって片っ端から品物を買っていけば、当然のように荷物は半端な量では済まなくなる。
「……買い過ぎちゃいました?」
 フェイトが抱えている荷物を見て、セシルが少しだけ心配そうに首を傾げる。
「大丈夫、セシリーより力は強いんです、荷物持ちならお任せです」
「おおおう、フェイト力持ちですー。だきしめられたらぼきりしそうですー」
「セシリーを抱きしめるときは、優しく優しく抱きしめますよ」
「ぁぅー、大好きなのですっ♪」
 自分の目線よりも下方にあるフェイトの顔を覗き込み、セシルは頬を染めた。

 フェイトの家に戻ると、調達した食材などをダイニングテーブルに広げて手順を確認、必要な道具も揃えて調理開始だ。
「これでも料理には自信はあるんです、料理大会依頼で準優勝だったんですよ?」
 ナイフでチョコを刻みながらフェイトが言う。
「救急車の心配もありませんね♪ もちろん私も腕によりをかけますよー♪」
「救急車?」
「最近はやりの煙が出たりヘドロが出たり、食べたら救急車の心配もないってことです♪」
 セシルは楽しげにホワイトチョコレートを刻む。とんとんと、まな板に軽く当たるナイフの音が重なってキッチンに響く。
 端から見れば、女の子同士が楽しくチョコ作りに励んでいる画だが、ふたりのあいだに流れる空気はチョコの香りすら凌駕してしまうほどの甘さだ。
 それぞれに調理を進めながらも、隙さえあれば視線を交わし、ちょっとぶつかったフリをして身体を触れ合わせたりする。そのたびにころころと鈴のように笑う様は、じゃれ合っている猫のようだ。
 時折中断しつつ、脱線しつつ、しかし大事なチョコは次第に思い描いた形へと近づいていく。まだ型に入れていない、溶けたチョコをフェイトが指ですくって「あーん」と言えば、セシルは瞬時に反応して指をぱくりとくわえにいく。
 チョコを丁寧に舌で舐め取って口を離すと上目遣いにフェイトを見つめ――そして、吸い寄せられるように彼女の唇へと顔を近づける。
「セシ……」
 フェイトが名を呼ぼうとするが、最後まで呼ぶことなくその唇はセシルの唇によって塞がれた。
「ちゅ、ちゅむ……ちゅる」
 舌に残るとろとろのチョコを、そのままフェイトにもお裾分け。最初は驚いていたフェイトもすぐにそれを舌で受け止め、ゆっくりとチョコの味を堪能する。積極的に応じてくれる恋人に、セシルは身体の芯がとろけそうになっていた。
 その甘さがチョコなのか恋人の甘さなのかわからなくなる頃には、二人の唇にもルージュのようにチョコが照り、口の中のチョコがなくなると自然に互いの唇にあるチョコを舐め取った。
 チョコの味が完全になくなってしまうと、二人は名残惜しげに唇を離す。まだバレンタインのチョコレートは完成していないというのに、どうしてこんなにも絡み合ってしまうのだろう。
 今からこんな状態で――チョコが完成したらどうなってしまうのだろう。
 しかしそれを不安に思うことはない。とても幸せなことだとわかっているし、それを想像することさえ少しの恥ずかしさと幸福を伴うのだから。
「……不思議ですね」
「でも、気持ちいいですー♪」
 二人は顔を見合わせて笑むと、何事もなかったかのようにチョコ作りを再開した。

「完成しましたー♪」
 綺麗に飾られたチョコレートがガラスの皿に並んでいる。球形のもの、楕円形のもの、ハート型のものなど、多種多様なチョコレート達。どれもが一口サイズで、そしてそれぞれに味は違う。ミルク、ビター、ホワイト、アーモンド、ナッツ、トリュフ――二人でこんなに食べきれるのだろうかというほど、沢山作った。
 それらを満足げに見下ろして、セシルは額の汗を拭う。
 ――もっともこの汗は調理が大変だったとか、そういった理由の汗ではない。言うまでもないと思うが、暖房の効いたキッチンで繰り広げられた沢山の「脱線」の結果だったりする。
「綺麗にできましたね」
 フェイトも満足げにチョコを見下ろし、楕円形のものをひとつ手に取った。
「フェイト?」
 どうするのだろうと見つめているとフェイトはその端を軽くくわえて目を閉じ、ちょっとだけ背伸びをして、つん、と唇とチョコを突き出してきた。両腕はセシルの腰に優しくまわされている。
 彼女が何を考えているのかすぐに悟ったセシルは嬉しさで思わず飛び上がりそうになったが、ここはぐっと堪えて両腕をフェイトの背中にまわした。
「……愛してるですー……!」
 そして、意識するより早く漏れた言葉と共に顔を近づけ――チョコと唇を頬張りにいく。
 柔らかな感触が互いの唇に伝わった瞬間、ふたりはまわしていた両腕を自分のほうへと引き寄せ、強く、強く抱きしめ合った。
「……ハッピーバレンタイン」
 重なった唇の奥から甘いと息と共に漏れるフェイトの言葉。その中に「愛してる」という想いがこめられていることに気づいたセシルもまた、甘く息を吐く。
「ハッピーバレンタイン♪」
 重なり合ったまま、言葉と共に動く唇。そのたびにくすぐったさと心地よさがふたりを支配する。
 互いを繋ぐチョコレートは体温で少しずつ溶けていく。
 きっと、溶けていく速度はこれから加速するだろう。
 もう唇だけじゃ足りないと言わんばかりに、ふたりの両手は互いを強く抱きしめて求め合う。
 フェイトの手がセシルを守るようにして、腰から背にかけて滑るように撫でつければ、セシルの手はそこに委ねるかのようにフェイトの髪を絡めて滑る。
 未だ甘い香りの残るキッチン。
 その香りは消えることなく広がって――ただただ幸福のしるしのようにふたりを包み込んでいく。
 ハッピーバレンタイン――その言葉に、いつまでも続く想いを乗せて。



【Chocolate Kiss, Kiss, Kiss?】
「……気がついたら、手も顔も溶けたチョコレートまみれですー♪」
「こうすれば大丈夫ですよ♪」
 こうすれば――。
 それは、書く必要はないだろう。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【gb4275 / セシル シルメリア / 女性 / 17歳 / サイエンティスト】
【gb5417 / フェイト・グラスベル / 女性 / 10歳 / ハイドラグーン】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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■セシル シルメリア様
お世話になっております、そして初めまして。佐伯ますみです。
「Sweet! ときめきドリームノベル」、お届けいたします。
楽しそうな感じでらぶらぶきゃっきゃ、ということで、らぶらぶきゃっきゃしてみました。
らぶらぶきゃっきゃというよりは、いちゃいちゃべったり……に近いかもしれません。気がついたら指が勝手に動いておりました。
……なんだかやりすぎてしまった感もなくはないですが……だ、大丈夫でしょうか(汗
もし何かありましたら、遠慮なくリテイクかけて下さると幸いです。
書いているだけで幸せな気持ちになれるお二人で、今回こうして書く機会をいただけたことが嬉しくてたまりません。ありがとうございました!
セシル様のノベルは、セシル様視点となっております。フェイト様のノベルと比べてみてくださいね。

この度はご注文くださり、誠にありがとうございました。
とても楽しく書かせていただきました……!
随分と暖かくなりましたがまだ寒暖の差は激しいですので、お体くれぐれもご自愛くださいませ。
2011年 4月某日 佐伯ますみ
Sweet!ときめきドリームノベル -
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CATCH THE SKY 地球SOS
2011年04月08日

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