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『月に吠えるイリス 』
夜神・イリス8457)&三下・忠雄(NPCA006)


 深夜0時を過ぎても、イリスによる破壊は着実に進んでいた。
 光を宿さぬ少女の瞳には、瓦礫と化した東京の街が映っている。だが、それを振り返って確認することはしない。まだ破壊すべき街並みは、いくらでも残っているのだから。
 全長約48mにしてパワードスーツ【F・E・N・R・I・R】まで装着したイリスは、IO2の面々を退けた後も貪欲に破壊を繰り返していた。

 そんな彼女が進む先には、アトラス編集部が入るビルがある。
 この中には万年ヘタレ社員の三下 忠雄が、自分のデスクを枕に、たったひとりで寝こけていた。
「う〜ん、ムニャムニャ……」
 やわらかな月明かりを浴びながらの居眠りは、また格別だろう。三下は大いに惰眠を貪った。
 その時、聞きなれぬ破壊音が耳に届く。そして体を包み込む冷たい風……彼は異変に気づき、ゆっくりと起き上がった。
「う〜〜〜、ちょっと寒いな……って、なんだこれ?!」
 驚くのも無理はない。さっきまであった天井がすっかり消え、そこから外気が入り込んでいたのだから。
 慌てて逃げ出そうとするも、窓から血走ったイリスの目に睨まれると、見事に腰が抜けてしまった。
「ひ、ひぃーーーーーっ!」
「ぐおおおぉぉ!!」
 天井を穿った破壊光線『フェンリス・ヴォルフ』を再び放つイリス。今度は会社の一角が削り取られてしまう。
 それでも三下はみっともない姿ながら見事に逃げ延び、なんとかレーザーを避けた。どこかに出口はないかと探すも、上の階を破壊した際、瓦礫に塞がれてしまっている。
「へ、編集長〜〜〜!」
 三下は頼りになる上司に連絡を取ろうとするが、ここまで破壊されていて電話線が生きているはずがない。物言わぬ受話器は、彼をさらなる恐慌へと導くだけだった。
「け、警察とかは……まだ来ないのかなぁ……」
 彼がお望みの赤い光は、時折イリスの黒い鎧を染めるが、これは街の破壊で燃える炎である。決して、三下を救う光ではない。
 イリスが纏う黒は、闇の匂いが漂うデス・ノワール。死んだことさえも気づかせない無情の破壊光線『フェンリス・ヴォルフ』のみ、甘美で安楽の死を約束する必殺技と言えるだろう。
 三下は彼女の鎧を見るたびに、絶望の黒が心を埋め尽くしていくのを実感していた。これが走馬灯というやつか。今の彼にとって、この一瞬は何時間にも感じられた。

 その時だ。三下は視線を泳がせながらも、あるものを発見した。
 一流社員ではないが、職業柄、何かを見つける癖がついていたらしい。彼はイリスの肩に立つ青年の姿を見つける。
「だっ、誰だっ?!」
 サイズから察するに、三下と同じ人間に見える。彼は勇気を振り絞って声をかけた。
 ところが、青年の返答は意外なものだった。
「立派になったな……三下!!!」
 いきなり自分の名を呼ばれ、三下は戸惑った。その声は怒りに満ちており、何かを恨むかのような響きを持っている。何が青年を狂わせたのか、今の三下には知る由もない。
「うおおおぉぉーーー!」
 イリスは青年の声に呼応するかのように叫び、拳を天高く振り上げた。狙いはもちろん三下である。もはや彼に逃げ場はなく、絶体絶命のピンチだった。
 しかし、その拳は三下の命を奪わなかった。それどころか、救ったのである。拳は三下の真上で止まり、それは今まさに崩れ落ちんとするビルの瓦礫から守ったのだった。
「な、なっ?!」
 青年の戸惑いは、三下の戸惑いでもある。いったい少女に何が起きたのか。それはまだ誰にもわからない。
 だが、その予兆は確かにあった。イリスの胸にある発光体が、静かに点滅を始めていたのである。
「うお、うおぉぉ……おお……」
 ついにはイリスからも、雄叫び以外の声が聞こえるようになった。それは苦悶なのか、それとも……?
 まだ、始まりの夜は終わりを告げない。今はまだ目覚めがあるばかり。これからが本当の始まりなのだ。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
市川智彦 クリエイターズルームへ
東京怪談
2011年05月09日

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