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『気丈な夜更け。 〜魔術と石と運命と〜 』
シャルロット・パトリエール7947)&扇・都古(NPC5354)




 深夜――。
 自室で、同居している妹やメイドには知られないように、それでも、鬼気迫る様子でシャルロット・パトリエールは大量の石にルーンを刻んでいた。
 ルーン文字を刻むことには、それ相応の意味がある。
 そしてこれは……対ウツミ用のもの。
 扇都古に会ったら……渡すつもりでシャルロットは作成していた。
 この石さえあれば、都古が憑依された人間を殺す必要はなくなる。そうなるはずだ。きっと……!
(都古に会えるのは、次が最後かもしれない)
 そうだ。
 一期一会という言葉もあるではないか。
 次があるかもという期待をしていてはいけないのだ。
 石の効果は、ある一点に集中させている。
 これはウツミ用……つまり、憑依した人間から分離させる、ということのみに特化しているのだ。
 憑依された人間がこの石に触れれば、憑依しているモノを追い出せる。ただ……望んで憑依させている場合は別となるのだが……。
 この石は特殊なもの。作成された時点で、魔法が込められる。そのため、ルーン魔術の心得がない人間でも簡単に使用できるのだ。
(細胞レベルで肉体に融合していても、効果はある……)
 そのように作っているのだから。
 どれほどのレベルのモノだろうとも、効果があるようにと……!
(もちろん、憑依された相手には悪影響なんて一切残さないわ)
 だが……。
 ふいに刻んでいた手をシャルロットは止めた。
 都古が拒絶する可能性も皆無ではないのだ。
 それに魔術を使うものとして忘れてはならない。それは「相性」だ。
 日本の魔術と西洋の魔術が根本的に違うように、魔術には相性というものが存在する。
 果たしてシャルロットの作るこの石が、都古たちの一族の使う術に対応できるものであるかどうか。
 万一、反発しあってしまうと石の威力で都古のほうが大怪我をすることだってあるだろう。
 それは……どうなるかシャルロットにはわからない。都古は自身のことを明かしてくれないから。
 いや、だが一度は目にしたのだ。都古の術を。……よくはわからなかったけど。
(相性が悪いかいいか、都古に判断してもらえばいいわ)
 ためらうなど、らしくない。
 黙々と石に刻み始めたシャルロットは、アロマキャンドルの明かりと月光だけを頼りに作業をおこなう。
 アロマキャンドルなら同居人は不審に思ってこの部屋の様子を見に来たりはしないはずだからだ。
 優れた魔術師でもあるシャルロットは、この過酷な作業を延々と続けていた。
 みなが寝静まってから開始したのだが、それでも……まだできている量は予定より少ない。
 シャルロットは怪我人など、死人など出したくない。けれども……ウツミという相手がよくわからない以上、「多すぎる」ということはないはずだ。
 正体がわからない敵。
 ゾッとするしかない。
 都古は正体を知っているようだが、言いたくない事情もきっとあるのだろう。
 肩が痛くなってきて、シャルロットは手を休めた。本来なら、休めるべきではない。だがルーン文字の刻印に正確さを欠くわけにはいかない。
 休憩も、時には必要なのだ。
 朝になれば同居人たちが起き出してしまう。それまでに、やれるところまではやっておかなければならないのだから。
 カーテンを開け放った窓からは月が見える。
 ぽっかりと浮かぶ月は、どこかぼんやりとしていて姿を曖昧にさせていた。
(…………まるで)
 まるで?
 なにかに例えようとしたシャルロットはかぶりを振り、肩を軽く反対の手で揉んだ。
(そんな考えとかしている場合じゃないわ)
 何度か揉んでほぐして、再び作業に戻る。
 自分は魔術師だ。それに、そこらにいる連中よりもずっと優秀だと自負している。けれども、それでも不安が完全にないということはない。
 魔術には反動というものが必ずあるし、おとぎ話のように簡単に使えるようなしろものではない。
 実際、科学の品物を使ったほうが早い、というものだって多いし、扱いが便利で簡単だ。
 目が痛くなってきた。石を凝視して作業をしているのだから当たり前だが……。
 室内にある時計を見て、時間を確認する。
(もうこんな時間……)
 急いでいる時や、作業をしていると時間なんてあっという間に過ぎ去っていく。もっとゆっくり流れてくれてもいいのにと、不満をもらしてしまいそうになる。
 瞼の上からゆっくりと眼球をおさえる。軽く溜息を一つ。
 薄暗い中で作業をしているのだから当然の結果だが、これは明日……いや、もう「今日」か。今日に差支えが出てしまうかもしれない。少しだろうが。
 誰にも気づかせない、というのは無理かもしれない。体力は無尽蔵ではないし、シャルロットの筋力も永遠に疲れないというわけでもないのだから。
(夢見が悪かったといえば通じるかしらね)
 言い訳を考えつつ、そっと瞼から手を離して、目の動きを確認する。
 ぼやけていた視界がクリアになったところで、シャルロットは気合いを入れ直した。
 集中力も必要になるため、この作業はシャルロットのスタミナを思った以上に削っていく。
 けれど自分のこんな力添えで、死者が、怪我人が少しでも減るというならばやる価値はあるのだ。
 無駄な努力なんてものはない。
 シャルロットはハンカチを取り出して、額にうっすらと浮いた汗をふく。
(手が痛い)
 苦笑いがこみ上げそうになる。
 普段以上の力を使って石を作成しているのだから当たり前の代償。
 手首を軽く振って、痛みを確かめる。まだ大丈夫だ。大丈夫……。うん。
 深呼吸一つ。集中を途切れさせないため、もう一度ゆっくりと一つ。



 窓の外が白くなってきた。夜明けだ。
(できたけど……)
 なんとなく、足りないような気もする。
 多すぎるとは思えないけど、少な過ぎるとも思えない。でも「足りない」とどこか感じてしまう。
(もうちょっとは大丈夫よね)
 起きる時間まではまだある。朝食の時間までも。
 シャルロットは立ち上がってちょっと身体を動かす。体操とまではいかないが、そこそこ動かしてあちこちの筋肉をほぐしてやる。
 再び「もうちょっと」と思って作業を開始する。
 一つ作るだけでも時間をかなり要するのに、よくもまぁ自分はやったものだ。
 見回して、褒めてやりたい気分になる。
 緩くなりそうだった表情を引き締めて、シャルロットはもう一つ、もう一つと石を作っていく。
 時計を見ながらの作業になるので、どうしても気が散るのはしょうがない。誰にも気づかれずに作ることが今回の目的だったのだから。
(……できた)
 今度こそ、もう限界。
 これ以上やっていると同居人たちにバレてしまう!
 シャルロットは大きく息を吐き出して、作った石を見回した。
(工場みたいに大量生産できたら楽なんでしょうけど、それだと威力がかなり落ちるし、逆に危ないわ)
 やっぱり手作りして、一つ一つの威力を確認しながらでないといけない。
 ノックの音が軽めにするまであと15分。
 シャルロットはカーテンを、音がしないようにするするとしめて、片付けをし、ベッドにもぐりこんだ。
 もう一度溜息のようなものが口から洩れる。
 やるだけのことはやった。あとは……どうなるか……。自分でもわからない。

 そのきっかり15分後、部屋のドアがひかえめにノックされたのでシャルロットは閉じていた瞼を開けて上半身を起き上がらせ、返事をした。



 シャルロットは作った魔術石を都古に渡す機会に遭遇する。
 それは紛れもない…………分岐点。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
ともやいずみ クリエイターズルームへ
東京怪談
2011年05月16日

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