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『続々・とらっこ彩ちゃんの大冒険 』
趙 彩虹(ia8292)

 いつも元気で屈託ない笑顔を見せてくれる彩ちゃん。でもちょっとだけ人見知りなんですよ、彼女。
 そんなお馴染みの虎さん拳士、趙 彩虹が小隊を立ち上げたというお話は知っているかしら。
 ふふ、そうですね。あちらこちらで活躍を見せているから、彩ちゃんの事が大好きな貴方が知らない訳がないですよね。
 今から遡る事、季節はふたつほど戻り。去年の秋だったでしょうか‥‥大きな大きなお祭りがあったの覚えていますか?

 神楽の都の外れにある、誰も住まう事が無く打ち棄てられたお屋敷。
 造りはしっかりとしているのですが、いかんせん広いので手入れには時間が掛かります。
 違うお話の本を開いたんじゃないかと心配しましたか?
 ほら、よく見てごらんなさい玄関で掃除をしている青い旗袍を着た女の子。彩ちゃんですよ。

 ◆

 ハァ‥‥。
 物憂げに箒を動かしながら漏れ出てしまった溜め息。誰かに見られたのではないかと慌てて見回します。
「物は勢いとギルドに書類を出してきてしまい、あれから何日も立ってしまいましたが」
 一人で立ち上げた小隊、まだ何処にも宣伝を出せずにいました。知らない人が突然押し掛けてきたらどうしよう。
 石鏡で大きなお祭りが開催されていて、この頃の人の行き来は大変なものです。
 どうせなら皆でわいわいやれたらいいよね。あちこちでそんな話が賑やかに交わされる中で。
 いい機会だと思うのですが、勇気が出ません。仕事で知らない人と一緒に冒険に出る事は多々あるのですが、それとこれとは別です。
 だったら友人だけを集めて。それも考えてはみたのですが。
 やはり開拓者生活の長い友人達は交友も広く、掛け合う声は積極的で。既に他の小隊に所属しているのでした。
 今更それを抜けて一緒にやろうよだなんて言えません。実績も何も、まだ本当にできたてほやほやの名前だけなのですから。
「仕方ないですよね、一人でも」

「――ってボクにまで内緒だなんて水臭いなあ、もう」
 そろそろ手紙が届いてるはずだけど、と出入り自由な溜まり場となっている客間へ食材を抱えて上がってきた黒髪の少女。
 仲良しの人形造りが趣味の陰陽師。暇があれば彩ちゃんの家へ上がり込んで夕食を共にするのは恒例なのです。
「まったくだね。あ、ごめん『虎威隊』の一番乗りは私がとったよ」
 とてもご家庭用とは思えない大きな鉄鍋を軽々と抱えて、囲炉裏に据え付けながら相槌を打つ青髪の志士。
 今宵の献立はおでん。秋も深まり冬の足音も少しずつ近付いてきていて夜は冷え込みますしね。
「ん、内緒とかそんなつもりはなかったんですけど‥‥」
 葉を落とし皮を剥いた大根をどぽんっと丸ごと鍋に放り込みながら、照れくさげに口籠もる彩ちゃん。
(手紙が届いた時は、ちょっと泣きそうになりましたよ)
 和気藹々と鍋を囲みながら何をしようか、と相談する日毎に小隊へと加わる人は増えていったのでした。

 大もふ様の騒動、三位湖での空中レース、そして宴会三昧!?

「宴会は戦いです!は名台詞だったよね〜」
「あの時の事はその‥‥お願いです、忘れてくださいっ」
 散々小隊員に呑まされて、純白の特注とらさんが見事な紅白になったのも良い想い出?
 他はともかく腕とか、だいたい半分は素肌ですから。それはさぞかし良い眺めだった事でしょう。
 あれ赤くなったのは顔だけでしたか。さてそれはその時居合わせた皆さんに聞いてみないと判らないですから。
 聞こうとしたら彩ちゃんがまた顔を赤くして止めそうですしね。

 ◆

 あれから冬を越し、春の声が聞こえてきたと思ったら今度は新大陸の騒動です。
 新たな仲間も続々と合流して小隊らしさも増した『虎威隊』。
 志士に弓術師に巫女に陰陽師。心強き友達と手を携えて熱き砂漠へと向かいました。
 空から、その持ち味である機動を活かして進んだ彼女達が他の小隊と共に陥ったアヤカシ達の罠。
 無数の砂漠独自のアヤカシ達に囲まれて。彩ちゃん達、大ピンチです。
「くっ。でも私達が離脱しては下で戦っている人達が‥‥」
 自分達だけなら逃げられる。そんな状況でも迷いはありませんでした。でも大切な仲間が。
 白黒の鯱を思わせるような姿の滑空艇を傾け、彼女達の顔を見た瞬間に決意は固まりました。
「助けに、行きますよっ!」
 白き毛皮に包まれた腕に力を込め、急降下。雄々しい爪を先端に施したとらさんに包まれた脚がすらりと伸びて。
 波際を跳ねるように先鋭的な舵を切って上昇した彼女の瞳に映ったのは、これもまたアクロバティックな飛行を見せる龍。
 敵の攻撃を避けた動きは見事です。風に靡く切り揃えられた黒髪、垣間見えた騎上の人はそれだけでしたが。
 動きだけで判りました弓術師の女の子だと。別の弓専門小隊から移ってきてくれた彼女も縁の深い友です。

(私も負けていられませんっ)
 次の旋回で気を整えなおし、唇より迸る野生の虎のような猛々しい唸り声。
 握り締めた棍を包み込む精霊の力。滑空艇と一体となり、棍はまるで翼の一部であるかのように。
 デザートゴーレムの砂塵に埋もれるかの勢いで飛び込み、その瘴気を斬るように散らします。
「ホンちゃん、あっちにも!」
 彩ちゃんの事をそのように呼ぶのは陰陽師のあの子。言葉の先で、シュラム達が集合し巨大な姿となってゆき。
 そしてその向こうに砂から人の姿を象ってゆく上級アヤカシ。
 ですが、ゴーレムと戦う彼女達の傍には彼ら禍々しきモノ達を乗せてきた船、それさえもアヤカシという存在。
 他の隊に任せるより仕方がありません。
「集中できるように、こちらは私達でできるだけ抑えますよ!」
 仲間の巫女達の回復や支援を頼りに苦しい戦いを続け。
 大勢と共に、小隊は絆を乱す事なく。いえ更に深めながら乗り切ったのでした。

「何とか重傷の方も出ずに済んで良かったです」
 どうにか足止めという役割を果たし終え、そして小隊員全員の無事を確認して彩ちゃんはほっと息を吐きました。
 自慢のまるごととらさんは砂まみれ。暑さは心配要らなかったようでした。
 もしかしたら暑かったのかもしれませんが、激戦でそんな事を感じている余裕もなく。
 むしろ冷や汗をかいたという方が正しかったでしょうか。乾いた空気とはいえ風邪をひかないようにしましょうね。
 小隊全員で向かった初めての激戦。乗り越えられた感慨にまだ胸の中が熱く。
「次も全員無事で頑張りましょうね」

 そして次の作戦も、その次の作戦も――。

 ◆

 たった一人で始まった『虎威隊』。
 時には依頼を共にしたりもしつつ、和気藹々と。戦場では真剣に言葉なくとも信頼しあって彩ちゃん達は突き進むのでした。

 今日は彩ちゃんというより『虎威隊』のお話でしたね。あらあら戦いのお話で余計に眠れなくなりましたか?
 ほら、もう寝ないと明日の朝が辛いですよ。彩ちゃんのお話はまた今度ゆっくりとね。おやすみなさい。
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
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舵天照 -DTS-
2011年05月30日

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