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『【KMC】カメル決戦(共通パートA) 』
櫻小路・なでしこ(ga3607)&漸 王零(ga2930)&井出 一真(ga6977)&新条 拓那(ga1294)&終夜・無月(ga3084)

●2011年5月 東南アジア・フロレス海洋上
 スラバヤの港から出航したプリネア王国海軍空母「サラスワティ」は、エメラルド色の海面に白く長い航跡を曳き、一路戦闘海域を目指していた。
 2007年の名古屋防衛戦における初陣からはや5年目。
 その後UPC東アジア軍が誇る超巨大母艦「轟竜號」就役などにより人類軍の海洋戦力も格段に向上し、一方度重なる戦闘で艦体各所にダメージが蓄積したサラスワティは、間もなく戦闘艦としての使命を終えようとしている。
 既に今回の出撃を最後に同艦は第一線から退き、今後はバグアから解放されたアジア各地の戦災復興など後方任務にあたることが決定していた。

(あれからもう5年……長いようで短い年月でしたね)
 最後の戦闘航海に赴くサラスワティのデッキで潮風に長い髪をなびかせながら、櫻小路・なでしこ(ga3607)は眼下に広がる南洋の海原を見やっていた。
 むろんカメルを奪回した後も、バグアとの戦いはまだまだ続くだろう。
 とはいえ依頼や催し事などで幾度となく乗り組んだ艦との別れには、いささかセンチメンタルな気分にならざるを得ない。
 思い返せば、この5年間に様々な出来事、そして出会いと別れがあった。
 ふと思い出し、ポケットから赤いリボンの切れ端を取り出す。
「メイ様、あなたはどう思われるのでしょう?」
 なでしこの脳裏に、黒いドレスをまとい頭に大きな赤いリボンを揺らした少女の面影が蘇った。
 バグア強化人間、結麻・メイ(gz0120)。
 不幸な巡り合わせからバグア工作員として敵対した相手だが、そのメイは死の間際、なでしこと姉妹の契りを交している。
 これから向かうカメル共和国は、皮肉なことにメイが絶対の忠誠を誓った主・シモン(gz0121)の手で人類から奪い取られた地でもあった。
「とうとう、この日に……でもこの戦いは退く事は出来ません」
 感傷を振り払い、決然とした面持ちでリボンをポケットにしまうなでしこ。
 いま自分が為すべき事はカメルをバグアの手から解放すること。そしてハリ・アジフ(gz0304)が進めるNDF計画を阻止し、二度とメイのような「犠牲者」を生み出さないことなのだから。

●サラスワティ艦内KV格納庫
「機体の塗装を……迷彩色で頼む」
 プリネア軍の整備兵にそう注文すると、漸 王零(ga2930)は腕組みし、改めて己の愛機雷電「アンラ・マンユ」を見上げた。
 迷彩色といえば、いまは亡き最大の宿敵、あのゾディアック「蟹座」が好んで使用していたカラーリングでもある。
(誓った以上、敗れることは許されんからな……汝以外のバグアに)
 胸の裡でそう呟くと、背後へ振り返る。
 そこに「天衝」の小隊服をまとった少年、高瀬・誠(gz0021)が立っていた。
「……汝は『SIVA』の部隊に同行するそうだな?」
「はい」
 今回の戦闘はUPC正規軍、ULT、SIVAの合同で行われる大規模な作戦だ。
 サラスワティから出撃する王零らULT傭兵部隊の任務がカメル首都近郊のバグア軍基地強襲であるのに対し、誠を含むSIVA傭兵部隊の目的は敵基地内に存在する強化人間関連施設の確保。
 ただし双方とも目的地が同じバグア軍基地となるため、戦場で合流する可能性も高い。そこで出撃を前に、作戦の調整のためSIVA司令官・ラザロ(gz0183)の代行として誠がこの艦を訪れていたのだ。
「後で皆さんもカメル戦線に来ると聞いて……でも間に合ってよかったです。こうして最後のご挨拶ができましたから」
「縁起でもないことをいうな。お互い生きて還れば、また会う機会などいくらでもある」
「そ、そうですね」
 頭を掻いて苦笑してから、誠は真顔に戻り、
「でも……僕にとっては大切な任務です。ですから、せめて『天衝』の小隊服で出撃することをお許しください」
「無論だ。汝は今でも天衝の一員と思っているぞ」
 そういうと、王零は用意しておいた「天衝」のエンブレム、そして長年愛用してきた刀「国士無双」を手渡した。
「たとえ離れていても心は一緒だ、がんばれよ」
「ありがとうございます、総隊長……」
 瞳を潤ませ一瞬言葉に詰まった誠だが、すぐ背筋を伸ばし敬礼すると、
「――長いことお世話になりました!」
 踵を返して格納庫を去った。

 同じ格納庫の一角で、井出 一真(ga6977)は愛機・阿修羅「蒼翼号」の整備に余念がなかった。
 蒼翼号の隣にはサラスワティ所属のアンジェリカが駐機し、そのパイロットであるマリア・クールマ(gz0092)がひっそり佇んでいた。
「ちょっと待っててください。これが終わったら、マリアさんの機体もしっかり整備してあげますよ」
「うん……よろしく」
 銀髪碧眼の少女はこくんと頷くと、少しはにかむように俯いた。
「でも、一真が来てくれてほんとに心強い……ありがとう」
「そんな、水くさい」
 一真は整備用のタラップを降り、マリアと向かい合う。
 普段は異性相手に今ひとつ積極的になれない一真だが、精一杯真摯な表情で少女の瞳を見つめた。
「約束しましたからね、ここで……必ず終わらせましょう」
 マリアの白い頬がわずかに赤らむ。少女は一真を見上げると、自らのパイロットスーツを飾るエンブレムを指さした。
「憶えてる?『スカイブルーエッジ』……再結成だね」

●サラスワティ艦内・パイロット控え室
 KV搭乗者専用の個室控え室の椅子に座り、終夜・無月(ga3084)は出撃前の精神統一のため静かに瞑想に耽っていた。
「あの戦い以来ですか……」
 目をつむればいまでも脳裏に蘇る。
 カメル大統領官邸のバルコニーから人類に向けて宣戦布告をするシモンの演説。
 その後のカメル南征における戦いで、無月はステアーZCと融合し異形の怪物と化したシモンを自らの手で討ち取った。
 ――そう、ゾディアック「射手座」は既に滅びたはずだ。
 改めて怪物にとどめを指した己の掌を見つめる。
 警戒すべきはNDFだが、いかに新型強化人間の実験部隊といえどもゾディアックやゼオン・ジハイドほどの脅威とは成り得ないだろう。
 しかし……。
(いったい何でしょうね? この嫌な予感は……)
 UPCはシモンを「殲滅した」と公式発表しているが、一部の傭兵たちの間ではとある「噂」がひっそりと囁かれている。

『轟竜號艦内から採取されたバイオステアー、及び分裂体の細胞片からは(ヨリシロとなった)シモンのDNAが検出されなかった』

「まさか……ね……」
 電話のベルが鳴った。
 作戦会議の時間を告げるプリネア軍士官からの呼び出しだった。
「分かりました。今からそちらへ向かいます」
 椅子から立ち上がると、一抹の不安を振り払い、無月は部屋を出た。

●サラスワティ艦橋・作戦会議室
「カメル、シモン、俺にとってはほろ苦い過去です。だから、この作戦は完遂させます。未来に進む為に」
 出撃前のブリーフィングに出席するため艦内会議室へ集合した仲間の傭兵たちに向かい、新条 拓那(ga1294)は己の心情を包み隠さず吐露していた。
(カメル軍の施設を脱走したDFメンバーの追跡……思えば、あの依頼から全てが始まったんだよな)
 自分とカメル、そしてそれを通したシモンとの因縁。
「俺がシモンをヨリシロにしたようなものです。そしてあいつとの決着を他人任せにしたことを、正直今でも悔しく思っている……たとえシモンが死んでも、あいつが遺したカメル・バグア軍とNDFがいる限り、俺の戦いはまだ終わっていません」
「それはわたくしも同じですわ。メイ様の……いえNDF計画の犠牲になった子供たち全てのためにも、カメルは何としてもバグアの手から解放しなければなりません」
「カメル攻略の先には、アジア地域最大のバグア拠点オーストラリアがある。いずれにせよ、我らにとって避けては通れない戦いだな」
 拓那の決意を聞かされたなでしこや王零も、今回の任務にかける自らの覚悟を口にした。
「窮鼠猫を噛む……劣勢とはいえ、カメルにおける最大のバグア基地である以上、今回は敵も決死の覚悟で反撃してくるでしょう。くれぐれも油断は禁物です」
 冷静な口調で無月が己の意見を述べる。
「……」
 一真は隣席のマリアが、席上でシモンの名が出るたび唇を噛んで俯くのを気にかけていた。
 ふと持参した資料を見やると、かつてシモン対策のため分析したデータも混じっている。
 もはや用済みのはずの対「射手座」データ――。
 だがなぜか気になり、一真は何となく目を通すのだった。

 やがて会議の出席メンバーが出揃うと、最後にサラスワティ艦長ラクスミ・ファラーム(gz0031)、副長シンハ中佐、そしてラクスミの兄でプリネア艦隊司令官クリシュナが入室。
「ご無沙汰しておりました。両殿下におかれましてはご機嫌麗しく」
「うむ。その方らも健勝そうで何よりじゃ」
 傭兵一同を代表するなでしこの挨拶に対し提督服姿のラクスミも微笑を返すが、すぐに表情を引き締め空母艦長の顔へと戻った。
「まず最新の情報から伝えよう。現在、カメル首都のザンパでは親バグア政権に反対する一般市民の大規模なデモが発生。また前線でもカメル国軍の離反やUPC軍への投降が相次いでおる。これは我が方にとって有利な状況じゃが……」
 ラクスミの表情が一瞬曇る。
「見方を変えれば、業を煮やしたバグア側がいつカメル国民へ見せしめの虐殺を始めるやもしれん。その前に、一刻も早く我が軍が首都及び近郊のバグア基地を制圧する必要がある」
 傭兵たちも同様の危惧を抱いていた。
 かつてカメルを占領したシモンは、バグアにしては珍しく「傀儡政権による間接統治」という比較的緩やかな支配体制を取っていたが、現司令のハリ・アジフはそんなことなどお構いなく、カメル国民を容赦なく最前線へ動員し、強制労働やUPC軍の空爆に対する「人間の盾」として利用しているという。
「結果としてバグア軍に協力させられたといっても、一般のカメル人の方々には何の罪もありません。事態は一刻を争う……ということですね」
「うむ。そういうことじゃ」
 なでしこの言葉に頷いたラクスミは、引き続き作戦の説明に入った。

 フロレス島、及びカメル沖洋上の空母部隊から出撃したKV部隊のうち、まずチェラル・ウィリン(gz0027)軍曹指揮の正規軍部隊がバグア基地上空の制空権を奪取。
 ただし基地の敷地内ではカメル国民多数が労働力として使役されていることが予想されるため、フレア弾などを使用した空爆はできない。
「そこでそなたら傭兵は制空権確保後に基地へ強行着陸、地上のバグア軍制圧にあたってほしい」
「敵戦力の中核は……当然、NDFということになりますね?」
 一真が尋ねた。
「じゃろうな。だがたとえNDFを全滅させても、元凶を潰さぬ限り、また新たなNDFが生み出されるだけのこと」
 ラクスミは副長から書類を受け取り、
「実は今回の作戦、UPC本部からはバグア基地制圧の他、もう1つ依頼が入っておる――『現カメル・バグア軍司令官、ハリ・アジフの確実なる殲滅』とのことじゃ」
 その名を聞いた傭兵たちの間に緊張が走る。
 アジフとて一軍の司令官を任されるバグアである。ゾディアックとまではいかずとも、そう容易く討ち取れる相手でもないだろう。
「場合によっては……生身でバグア基地に突入する必要もあるってことか」
 改めて今回の戦闘の困難さを覚悟し、拓那は舷窓の外に広がる南洋の海原に視線を向けた。

●強襲〜カメル・バグア軍基地
「誓約の名の元に……漸王零、出る!!」
「アンラ・マンユ」の4連ブースターが轟然と火を吐き、サラスワティのスキージャンプ式飛行甲板を震撼させつつ蒼空へと舞い上がる。
 甲板に立つ空母クルーのゴーサインを確認の後、他の傭兵たちも順次KVを発艦させていった。
 純白に染め上げたミカガミ「白皇」のコクピットで無月は先刻の会議前、一瞬感じた不安の意味を考えていたが、自らの発艦順が回ってくるや、覚醒変化で金色に変じた瞳を輝かせ操縦桿を握り直した。
「此処で終らせましょう……」
 メインブースターを全開にした白皇は真昼の彗星のごとく天空へ駆け上った。

 カメル首都近郊にあるバグア軍基地上空へ接近すると、既にそこは空の戦場と化していた。
 先行して出撃したUPC正規軍KV部隊が、迎撃に上がったバグア軍ワーム群と死闘を繰り広げていたのだ。
 両軍合わせれば700機以上に及ぶ兵力が入り乱れて激突する大空戦である。
「こりゃすごいな。ちょっとした大規模作戦だ」
 ペインブラッド「Windroschen」――この名を与えた機体も既に5代目となる――のコクピットから戦場を一望し、拓那が驚きの声を洩らす。
 若干のタロスや本星型HWを除くと、バグア軍航空戦力は従来型HWと飛行型キメラが主体だった。
 全般的に旧式化したカメル・バグア軍に対し、シラヌイ・竜牙など高性能中堅KVやCOPKVで大きく戦力を底上げした正規軍は、質・量共に圧倒的な兵力で畳みかけるように攻勢を強めていく。
 その先頭に立って敵編隊に突入し次々とHWを撃墜しているのが、おそらくチェラル搭乗のシラヌイS型だろう。
(NDFの連中はいないようだな。切り札として温存してるのか、それとも首都方面で戦ってるのか……?)
 拓那が考え込む間にも、エース機と思しき1機のタロスが小型HW6機を率いてこちらに向かってきた。
「おっとぉ! やっぱり正規軍に任せっきりってわけには行かないか!」
 今回の作戦を典型的な電撃戦と考える拓那は、初手から出し惜しみなしで機体スキル「フォトニック・クラスター」を起動。
 高熱量フラッシュによる範囲攻撃を浴びたワームたちが大きく編隊を乱す。
 辛うじて態勢を立て直し、プロトン砲を乱射しながら接近してくるタロスに対し、
「邪魔はさせません!」
 なでしこのマリアンデール「藤姫」が掃射モードでDR−M高出力荷電粒子砲を発射、凶暴な光の槍がタロスを貫き、後方にいたHWをも被弾させる。
 翼の下にぶら下がった巨人の様な飛行形態を取る異形のワームは、攻撃の手を休め損傷部位の再生を開始した。
 その余裕を与えず、アンラ・マンユの機体から発射されたK−02小型ホーミングミサイルの奔流が襲いかかり、さらに肉迫した白皇と蒼翼号のソードウィングがタロスの手足をバラバラに切り刻んで行く。
 エース機さえ片付けてしまえば、残りの小型HWなど傭兵たちの敵ではなかった。

「空の敵は打ち合わせ通り正規軍に任せよう。我らは目標のバグア基地を目指す!」
 王零の通信を合図に、傭兵たちのKV編隊は急速に高度を下げた。
 敷地内に発見した手頃な平地に目をつけ降下態勢に入ると、地上に配備されたタートルワーム、REX−CANONがさかんに対空プロトン砲を打ち上げてくる。
「邪魔だ!」
 多少の被弾はものともせず強行着陸、人型変形した王零は【OR】強襲用追加ユニット「荒狂嵐」を発射。アンラ・マンユの両肩から指向性地雷のごとく撃ち出された超小型ベアリングの暴風が砲撃型ワームたちを怯ませる。
 その隙に僚機の傭兵たちも次々着陸を果たしていた。
 時を同じくして、ウェタル島方面から飛来したSIVAのKV部隊も続々と降下して来る。彼らの目的はバグア基地内に存在する強化人間関連施設だが、とりあえず基地突入までは友軍として共闘する手筈だ。
(あの中に誠もいるか……)
 王零はちらりと思ったが、すぐ気を取り直し前方の敵軍を睨んだ。

 後退したタートルやREXに代わり、ゴーレムと大型キメラを主力にしたバグア地上部隊が前進し行く手を阻む。
「道を開けさせて頂きます!」
 地上戦では中衛に位置する藤姫が再び荷電粒子砲を掃射。
 バグア式ディフェンダーを降りかざして突進してきたゴーレム1機を貫通、背後のキメラ数匹をまとめて粉砕した。
 なでしこが次弾発射のため砲身冷却を行う間、肉迫するバグア軍を前衛のKV部隊が食い止めた。
「手厚い歓迎感謝します……だがあなたがたと遊んでる時間はない」
 人型変形した白皇がアハト・アハトの狙撃で前方のゴーレムを狙い打ち。
 素早く間合いを詰めると、レーザーライフルの穿った穴にロンゴミニアトの凄まじい連撃を加え沈黙させる。
 群がる大型キメラは鎧袖一触で蹴散らし、地下への侵入路となりそうなHW発進口へと進路を向けた。
 やはり前衛に立った拓那のWindroschenは、基地の奥へは行かせまいと防衛ラインを張るゴーレムとキメラ群に対して2発目のフォトニック・クラスターを放つ。
 敵の陣形が乱れたところにブースト接近で一気に斬り込んだ。
「どけどけーっ! おまえら雑魚に用はないんだよ!」
 練剣「羅真人」を実体化させ、立ちふさがる相手はワームかキメラかを問わず一閃で切り捨てると、ドゥっと地響きを上げ大地に倒れ伏す敵の姿など目もくれず次の獲物めがけて突き進む。
 バグア式バズーカ砲を肩に構えたゴーレムが僚機を狙っているのに気づいた一真は、4足歩行形態の蒼翼号にブーストをかけた。
「SESフルドライブ! ソードウィング!!」
 鋼鉄の獣の肩口からせり出した剣翼がゴーレムの装甲を切り裂き、すれ違い様に防御不能のクラッシュテイルが追加ダメージを与える。
 防御のがらあきになったゴーレムを狙い、蒼翼号の後方からピタリと追随したアンジェリカのスナイパーレーザーが打ち込まれた。
 仰向けに倒れた人型ワームがたまらず自爆する。
「大丈夫ですか? マリアさん」
「ええ。問題ないわ」

 ゴーレム・キメラの防衛線を突破、先陣切って突入したアンラ・マンユの【OR】ソードテイル「禍刃尾」が鞭のごとく唸り、REX−CANONの脇腹を切り裂いた。
 悲鳴を上げてくずおれる恐竜型ワームの向こう、ワーム発進口の扉がスライドして開き、新手の敵戦力が姿を現わす。
 王零のコクピットに据えられたKVアイカメラのモニターが、ゴーレム部隊に護衛された2機の強化タロス――1機は灰色、1機は青に「06」のナンバリングがペイントされている――を映し出した。
「いよいよ敵司令官のお出ましか……しかし肝心のNDFが1人だけとはどういうことだ?」
 そのとき、傭兵たちと共にサラスワティから発進し、後方からジャミング中和と戦場周辺の索敵にあたっていた斉天大聖のパイロット、李・海狼から友軍のKV全機に緊急通信が入った。
『首都方面からタロス7機の高速接近を確認。この青い機体は――NDFです!』
「役者がそろいましたね……」
 藤姫のコクピットでキッと口許を引き締めたなでしこの耳に、今度は上空の正規軍部隊から緊急通信が飛び込む。
『チェラルから地上班の友軍機へ! オーストラリア方面から敵の増援部隊が来たっ! 1機がこちらの迎撃を突破して地上に向かったよ――気を付けて!』
「オーストラリアから!? くそっ、こんな時に!」
 舌打ちする拓那機のモニターに、早くも上空から舞い降りるバグア軍ワームの機影が映し出された。
 敵はただ1機。
 外観はタロスに似ているが、よく観察すれば、それは大規模作戦でも度々姿を現わしたバグア精鋭機「ティターン」だ。
 正確な機数は不明だが、その搭乗が許されるのはゾディアックやゼオン・ジハイド、あるいはそれに準じる高位バグアといわれる。
(パイロットは誰だ!?)
 警戒しつつティターンを包囲したKV全機の通信機とモニターに、何者かの電波が強引に割り込んだ。
『久しぶりだな、傭兵ども。また会えて嬉しいぞ』
 モニター画面に現れた男の顔を見た傭兵たちが、思わず息を呑む。
「まさか、そんな……!」
 なでしこの口から驚きの声が洩れた。
 無月は出撃前に感じた不安の正体が何であったかを悟り、「その男」の名を静かに呟いた。
「シモン……」
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
対馬正治 クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2011年05月31日

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