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『ミルタの呪い 』
皇・茉夕良4788)&怪盗ロットバルト(NPC5279)

 夢を見た。
 フェンシング部で怪盗ロットバルトに出会った時の事だった。
 天窓から月明かりが差し込む中、ロットバルトと対峙している。
 確かにこの前の出来事なのに、それを俯瞰して見ているのは不思議な気分だった。
 ロットバルトは、マントを翻して杖を取り出した。
 杖からは、ローズマリーの芳香が香る。
 夢の中にも関わらず、眩暈がするほどに濃厚な香りがする。
 皇茉夕良は唇を噛んで耐えようとしたが、足元がおぼつかなくなってきた。

「どう……して……」
「……君の魂は取らない」

 そのまま、意識がなくなった……。
 そこで茉夕良は目が覚めた。
 茉夕良はぼんやりと思い出す。
 確か、会長が言ってたわ、倒れた生徒が起きないって。他にロットバルトに襲われた人も起きないって言っていたけれど……。

「どうして私は助かったのかしら……?」

 首を捻ってみる。
 んー……。やっぱりここまで深入りしちゃった以上は調べてみた方がいいのかも。
 そうと決まったらと、急いで学園に行く為に身支度を整え始めた。
 まだ、夕焼けと勘違いしそうな朝焼けの出ている時刻だった。

/*/

 学園新聞だと情報規制が入っているだろうと、学園に向かう前に近所のカフェ、プティフールに入る。

「モーニングを1つお願いします」
「かしこまりました」

 モーニングが来るのを待つ間に、立てかけてある新聞や週刊誌を漁った。
 まだ早い時間だから、朝を急いで食べるサラリーマンしかおらず、新聞も今日出たばかりの週刊誌も誰も触っていない。
 新聞を読み、怪盗に関する記事を探す。
 美術館で予告が出たり出てなかったりするが、模倣犯が増えているから注意するようにと言う勧告の方が多くて、正確な予告ではないらしい。
 今日は外れなのかしら……。
 そう思いながら次は週刊誌を読む。

『泣きっ面に蜂? ある女性警備員の悲劇』

 随分と下世話な記事が目に留まった。
 美術館で働いている女性警備員の話だった。あれ? その美術館の名前を確認した後に、前にコピーした記事を鞄から取り出した。
 前に怪盗ロットバルトが出た美術館だった。

『○○美術館で働いていたA・Kさんは、怪盗ロットバルトと名乗る強盗に襲われた後、昏睡状態になっている。彼女の入院している病院の医師は「健康状態には何ら問題がなく、外傷も全くありません。ただ眠り続けて起きないんです。精神的なショックが強過ぎた場合は眠り続けると言う事例があるのですが……」と語っている。
そこにさらに彼女に悲劇が襲った。昏睡状態になっている間にAさんの婚約者が新しい恋人ができたと言うのだ。
 Aさんの友人のYさんは「彼女が起きた時、余計にショックを受けるだろうから、今は眠り続けた方が幸せなのかも」と語っている。』

 随分と下世話な記事だな、と少し茉夕良は鼻白むが、さらに続きを読む。

『また、倒れたのは全て女性だと言うのが何とも言えずにこの事件の不可思議さを語っている』

「……えっ?」

 思わず同じ行を読み返す。
 ……女の人しか、倒れた事がない?
 思い返してみる。そう言えば、会長は何の影響もなかったみたいだけど……?
 そう思っている間にモーニングのトーストとコーヒーが出てきた。
 茉夕良は週刊誌と新聞を急いでどけて、急いでモーニングを食べ始めた。
 ロットバルトが言っていた事って……。
 ふとローズマリーの匂いを思い出した。
 何かあったような気がする……。
 出された皿は、あっと言う間に空になった。

/*/

 茉夕良は図書館に向かうと、魔法書の棚を探した。
 今は早朝だ。当然こんな時間に図書館で本を探す人はまずいない。
 基本的な占いや民間療法レベルの治癒魔法の本はあったが、流石に呪い系統の本はなかった。

「やっぱり、この手のものは禁書棚に行かないと駄目か……」

 もっとも、普段禁書棚はどこにあるのかなんて、さすがに茉夕良も知らない。
 でも死んだ人を生き返らせるなんて本が、普通に図書館に並んでいたら流石に問題だろうなとは思う。
 そう言えば。
 ロットバルト……海棠織也が何故ローズマリーにこだわるのか。
 前の時も、ローズマリーの匂いを使って自分を気絶させたし、園芸部で育てていたローズマリーを持っていってしまったのも、恐らくは織也の仕業だろう。
 …………。
 茉夕良は図書館の検索端末を見始めた。
 ローズマリーに関する本、ローズマリーに関する本……。
 検索にかかったのは園芸の本や民間療法の本、そして。

『バレエの小物』

 何故かそんな本が引っかかった。

「あれ? バレエ……」

 そう言えば、前に調べた事があったのを、茉夕良は思い出した。
 そうだ。確かバレエの「ジゼル」。確か「ジゼル」の登場人物のウィリーの女王、ミルタがローズマリーを持っていたはず。
 茉夕良は急いで端末で本の場所を確認すると、探し始めた。

「……あった」

 手に取ると、写真と絵に解説をつけたような本が見つかった。
 茉夕良は急いでその本を抜き取ると、閲覧席まで持っていった。
 パラパラと「ジゼル」の欄までめくる。
 読み進めて、やがて自然と目が大きく広がるのを感じた。

『ミルタはローズマリーを墓の前にかざし、女性の魂をウィリーに変えます』

 ……確か。
 下世話な週刊誌の内容を思い出した。もっとも、あれをそのまま鵜呑みにするのも気に障るが。倒れた人は全員女性。そして……恋愛に関する悩みを持っていた。
『ジゼル』になぞらえているのならだけど。
 ミルタがウィリー……確かヨーロッパにいる女性の精霊の一種だったはず……に変えるのは、恋破れた人、だったわね。確か。
 もしかして織也さんは……強い魔力を持っている魂と一緒に、恋破れた女の人を狙って、魂を奪っている?
 ……やっぱり私の魂は、本当だったら抜かれる所だったんじゃないかしら……。
 原因不明の昏睡状態になっている人達の事を思う。

 生き返らせたい人にかける情けを、私にかけてくれた情けを、どうして、他の人にも向けてくれないんだろう……。
 茉夕良は悲しくなった。
 くらくらするような濃いローズマリーの匂いを思い出す。
 あの匂いで目が覚めるウィリーにとっては、これは絶望の匂いなのかもしれない。
 無理矢理起こされてしまった。

<了>
PCシチュエーションノベル(シングル) -
石田空 クリエイターズルームへ
東京怪談
2011年06月06日

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