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『ちかく逢う、小さなあなたに 』
シェアト・レフロージュ(ea3869)&ライラ・マグニフィセント(eb9243)

 風爽やかに青葉を渡る五月の頃、慈愛の唄が紡がれる。
 ちかく逢う、あなたに捧ぐ――母の優しい子守唄。

●友を招いて
 初夏の兆しを感じるようになった、ある晴れた日。
「ライラさん、ようこそ」
 招きに応じて訪れた旧友を、シェアト・レフロージュ(ea3869)は穏やかに微笑んで出迎えた。
「シェアトこそ、お招きありがとうさね。また大きくなったんじゃないかい?」
 夏頃に出産予定だったか、以前会った時よりも丸みを帯びている。ライラ・マグニフィセント(eb9243)が大事ないかいと尋ねれば、幸せに満ちたシェアトの微笑が返って来る。
「‥‥聞くだけ野暮だったかね。旦那さんは今日はお留守かね?」
「ええ、出かけていて。今日はよろしくお願いしますね」
 ライラが差し出した小箱を受け取って、シェアトはにっこりと微笑んだ。
 巴里で有名な菓子職人の手土産はガトーとマカロン。勿論、味は折り紙つきだ。
「お茶を淹れましょうね」
 腹部に優しく手を添えて、もうすぐ母になる白銀の娘は、青の瞳を細めて言った。

 窓の外、庭では初夏の草木が青々と輝いていた。
 テーブルにはマカロンが入った菓子器、各々の前にガトーの小皿を置いて、シェアトは銘々のカップにお茶を注いだ。鮮やかな水色、ふわりと匂い立つ芳香の紅茶は菓子にもよく合いそうだ。
 着席し、カップを手にシェアトは言った。
「基本の編み方は、彼に教わってはいるのですけれど‥‥」
 テーブルに置いた籠には糸玉、その間から覗いているのは小さな小さな靴下――もうすぐ逢える我が子への贈り物であった。
 靴下は立体的な分、要所の編み方が難しい。家事万能な旦那様は編み物も得意なのだけれど、これは自身で編みたいのだとシェアトは母の顔をして言う。
「そうさね、じゃあ踵の前辺りで呼んどくれよ」
 頷いて、ライラは徐に糸玉を手に取った。
 何を編もうか暫し考えて、シェアトの子と彼女の共通の友人の子にもと揃いの帽子を編む事にする。
「正月に会ったあの子とは1歳違いになるかねえ。きょうだいみたいに育ってくれると、あたしは嬉しいさね」
 陽射しが強くなる、これからの季節に必要な、小さな帽子。
 ではその帽子に似合う日除けのケープも編みましょうとシェアト。小さな靴下の続きを編みながら、いつか逢う未来の我が子の為にではなく友人の子達にと編み針を持つライラを、彼女らしい優しさだとシェアトは眩しく見つめた。

●母になる
 開け放たれた窓から入り来た、五月の風がカーテンを緩やかに揺らしている。
 心地よい風を受けながら、せっせと針を動かして。時々針目を落として拾い編みなおすのはご愛嬌、語らいながらの和やかな時間が過ぎてゆく。
 近い将来に逢える我が子を想って編み進める一目一目は、優しさで出来ている。柔らかな陽射しと、風と、優しさと。

 待っていますよ、小さなあなた。もうすぐ逢える私の愛し子――

 語りかけるように、囁くように。いつしか口ずさんでいるシェアトをライラは微笑ましく見つめた。
 母になる幸せ。我が母も自分を身篭った時、幸せを感じたろうか。
 港から港へ飛び回る船乗りの母を思い出し、ライラもまた幸せを感じていた。

 根を詰めすぎないよう、時折お茶とお菓子で小休止。
 大皿からマカロンを取り分けて、シェアトはひとつ口に運んだ。心地よい歯応えの中はもっちりとして、一口の至福を感じさせる。
 美味しい、と思わず呟いたシェアトに、ライラは良かったと笑んだ。
「クロカンブッシュも期待しておくれさね」
 小さな子の誕生を心待ちにしつつ、ライラはガトーにフォークを入れた。
 ガトーは見目も麗しい春のタルト。旬の苺にブルーベリーで青みの彩りを添えて、器の生地はさっくりと、控えめな甘さのクリームに旬の苺特有の甘酸っぱさが絶妙な、お菓子屋ノワールご自慢の一品だ。
「ところでシェアト姉は、どっちだと思うのさね?」
「さあ‥‥どちらでしょうか。元気な子なのは間違いなさそうですね」
 ほら、動いているでしょう? と、命宿る辺りへライラの手を触れさせる。元気に母の腹を蹴っている様子が伺えて、二人は顔見合わせて微笑った。
「さて、この子が身に着けるものの続きを編みましょう‥‥ライラさん、教えていただけますか?」

 休憩後、靴下の踵部分の編み方を教わったシェアトは続きを編みながら、ふと呟いた。
「何時か‥‥ライラさんの赤ちゃんの為にも編めるでしょうか?」
「え、あたしの子?」
 青系の段染め糸で帽子を編んでいたライラは思わず尋ね返した。周囲はベビーラッシュだが、ライラはまだ自分の子の事を考えた事はない。ふふりと笑んで悪戯っぽく答えた。
「こればかりは授かりものだし‥‥占いは広大な草原と大きな湖と言うキーワードが出たがね」
 新大陸だろうか? などと冒険への夢馳せるライラ。
 母になる日はまだ遠いかもしれないが、これもまたライラらしいとシェアトは思う。
 いつかライラも母になる。二人の歳の差も開いてゆく――だけど。
 種族の違いを超えて友情を育んできたシェアトとライラだ。互いの時の流れは違っても、母から子へ、子から孫へ、その友情は受け継がれてゆくに違いない。

 窓の外には季節を繰り返す木々。幾層経とうとも、友情は永遠に――
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
周利 芽乃香 クリエイターズルームへ
Asura Fantasy Online
2011年06月07日

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