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『スキマノ、オヤスミ 』
西村・千佳(ga4714)

☆☆絶賛予約受付中☆☆

 マジカル☆チカ写真集『ねこのしっぽ』2011年7月31日発売予定
 コンサートのバックステージから水辺のリゾート、
 さらにはプライベートなピクニックフォトまで、
 あなただけに見せる、チカの素顔が満載!
「買ってくれないと、マジカル☆シュート☆アタックにゃ♪」

 予約特典 数量限定激レア!(7月15日ご予約受付分まで)
「チカがきれいきれいにゃ☆黒猫のしっぽ風ケータイクリーナー♪」

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 こんなポスターが、ラスト・ホープ中の書店に張り出されている頃。
(そしてビジュアルが水着のせいか、結構な割合で盗難に遭っている頃)
 当のマジカル☆チカこと西村・千佳は、撮影の追い込みに入っていた。
 この物語は多忙なアイドルが得た、つかの間の休息にカメラを向けたものである‥‥。



 巨大人工島ラスト・ホープ中心街からチューブトレインで2時間、そこからさらにバスで1時間。
 海からの潮風を遮る防風林に囲まれた一帯は、自然公園として整地されていた。
 公園といっても、侮るなかれ。柔らかな緑のじゅうたんを敷き詰めた小山は広々と広がり、見渡す限り視界を遮るものはない。初夏の空は青くどこまでも高く、野鳥の鳴き声が時折涼やかに響く。
「すっごい‥‥ラスト・ホープにこんなところがあったなんて」
 この地をはじめて訪れた少年、笠原 陸人は歩きながらも空を見上げて感嘆の声をあげずにはいられなかった。
 ぼんやりテレビを見ていた土曜日の朝、届いたメールが彼をここに誘ったのだ。
 メールの送り主は、マジカル☆チカ。 まるでこれは、彼女がかけた魔法みたいだと少年は思っていた。
「急に呼び出してごめんにゃ。機材の都合で撮影がお休みになったのにゃ」
 陸人の横を歩くマジカル☆チカ‥‥いや千佳が、楽しげに笑う。膝小僧が丸見えの半ズボンに、髪はふたつに分けて緩く編んだだけのラフな装いだ。手には大きなバスケットを持っている。
「見てのとおりステキな場所だから、笠原くんとハイキングに行きたいって思ったのにゃ」
 正体を隠す大きな帽子と伊達眼鏡での変装が妙にマッチして、誰が見ても素朴な地元民にしか見えない。
「ん。マネージャーさんがまた倒れたとかじゃなくて、よかったです。‥‥っていうか撮影って、こんなイナカでドラマか何かのロケですか?」
「ん、写真集のお仕事なのにゃよ。もう発売まで間がないから追い込みにゃ」
だからお休みは今日で終わりにゃね。千佳は肩をすくめて付け足した。
「え、写真集って『ねこのしっぽ』のことですか? 僕もう予約しましたよ、すごい楽しみです」
 陸人の名誉のために断っておくが、ポスターを盗んだりは断じてしていない(はずだ)。
「にゃふ、予約してくれたのは嬉しいけど‥‥笠原くんなら、いくらでも撮らせてあげたにゃ」
「え?」
 可愛らしく首を傾げて顔を覗き込む千佳に、陸人は口ごもりそわそわしはじめた。
「何考えてるにゃ?」
「や、水着とか温泉とかヌー‥‥っと、もとい! そんなやましいことは一切っ」
「‥‥笠原くん、それ以上言うとマジカル☆シュート☆アタックにゃよ?」
「そ、それはちょっと‥‥あ、ほらっ! 頂上が見えてきましたよっ」
 呆れ顔の千佳の気分を帰るように、少年が先を指さす。
 緑色のゆるやかな斜面の、てっぺんがもう目の前にあった。



 柔らかい草に覆われた頂上は、360度のパノラマが広がる展望台さながらだった。
 遠くに防風林が見え、その先には青く広がる海が見える。振り返って反対側に目をやれば、陽光を受けて輝くラスト・ホープの街並みが眼下に広がっていた。
「わあ! すっごい眺め!!」
 想像以上のパノラマに、陸人が歓声をあげる。千佳はその様を微笑ましく見守りながら、バスケットを草むらにそっと下ろした。
 蓋を開け、赤いチェックのクロスを取り出し、緑のじゅうたんの上にそっと重ねる。
「笠原くん、ごはんにするにゃよー。お弁当作ってきたにゃー」
「はーい!」
 今日のふたりのランチは、千佳の手作りサンドイッチ。
 甘辛い照り焼きチキンとふわふわのスクランブルエッグ、それにレタスが白いパンに彩りよく挟まれている。さらにもう一種類、ヘルシーな黒パンとハム&クリームチーズ&トマトのコンビネーションも用意されていた。
「わぁ、チキンだー! いっただきまーす!!」
 ぱちんと手を合わせ、陸人はさっそくチキンサンドに手を伸ばした。
「おいひいっ」
 右手にひとつ持ったまま口の中に頬張りながら、さらに左手で黒パンもキープする。
「うに、よかったにゃ♪ いっぱい食べてにゃ♪」
 御世辞にもお行儀がよいとは言えない食べ方にも、千佳は寛容だった。ポットから紅茶をカップに注ぎ、ひとつを陸人の前に置く。もうひとつは自分で、口に含んだ。
「いいお天気でよかったにゃね♪ はい、あ〜ん、にゃ」
「あ、ありがとですっ‥‥そふでふねっ」
 照れながらも、口にいれてもらった3つめのサンドイッチを幸せそうに咀嚼する陸人の顔を、じっと見つめた。
「笠原くん、お口のまわりにお弁当がついてるにゃ」
「え?」
 少年が口元を拭う前に、形のいい指先がパンくずに伸びる。つまみ上げようと頬に触れた途端
「‥‥って、わ」
「何赤くなって、固まってるにゃ?」
 分かりやすく、実にわかりやすく挙動不審になる少年。
「な、なんでもないですっ、ごちそうさまっ」
 気恥ずかしさを隠すように手の中のサンドイッチを丸のみし、紅茶を一気に呷った。



 陽射しが少し西に傾き始めた頃、二人は下山の途につくことにした。
 空になったバスケットは陸人が持つ。
「帰りは別のルートで降りるにゃ♪ 撮影の時に見つけた、ステキなお花畑があるのにゃ」
 そう提案した千佳は陸人より数歩前を、スキップするように歩いた。
「ほら、こっちにゃー! 笠原くん早くにゃー!」
「ま、待ってくださいよぉ」
 なるほど彼女の言うとおり、中腹には花畑が広がっていて。
「小さいころ、お花の冠を作ったりしたにゃ♪」
 しばし童心に帰って遊び、ゆっくりと降りてゆく。
 そんな二人が、山のふもとにほど近い林の中で見つけたのは
「‥‥わ、千佳さん。こんなところに泉が。ここも撮影で使ったんですか?」
「うに、ここは知らなかったにゃ! すごくきれいにゃ!!」
 斧の女神(金の斧銀の斧銅の斧のアレだ)が住んでいそうに澄み切った、美しい泉だった。
「丁度汗かいて疲れたとこだったにゃ♪」
 疲れた、と口では言いつつ、元気いっぱい興味シンシンで千佳は泉に近づく。
 そしてスニーカーと靴下を脱ぎ、白い素足をそっと水面に浸した。
「うに! 冷たくて気持ちがいいのにゃ〜♪」
 まるで子どものように飛沫をあげ、水の感触を愉しむ少女。
 普段大人ばかりの芸能界で、分刻みのスケジュールをこなしているマジカル☆チカにとっては、かけがえのない時間であり、触覚だったのかも知れない。
「笠原くんも早くー!」
「え、あ、はいっ」
 バスケットを草むらに置いた陸人も、千佳に倣って裸足になり水に入る。
「ひゃ──っつめたいっ!」
 足の裏にごつごつと小石が当たったがそれもまた、心地良かった。
「魚、住んでたりしないかなぁ‥‥」
 ああ、男子というのはどうしてこう、無駄な狩りをしたがるのであろうか。
「笠原くーん、こっちにお魚いるにゃよー☆」
「え、ほんとに?」
 千佳の声に目を輝かせて、陸人が振り向いた。
「ひっかかったにゃ♪」
 いたずらっぽい声とともに、飛沫がばしゃんと、高く上がる。
「ちょ!? やったなー!?」
 数秒呆然とした後、水をかけられたことに気がついた少年は、自分も両手で水面を掬った。
「おかえしだー!」
「うに──! 冷たいにゃー! 退散にゃーっ☆」
 笑い声と水の跳ねる音が、木漏れ日の中響く。
 が、楽しいひとときは長くは続かなかった。
「ここまでおいでにゃー‥‥っ!?」
 丸い小石に足を滑らせた千佳が、泉の中でバランスを崩したのだ。
「千佳さんっ!?」
 陸人が慌てて手を伸ばすも、一瞬遅く。
「にゃふ‥‥」
 盛大な飛沫と水音とともに、少女は服を着たまま尻餅をついてしまったのだった。
「み、水もしたたるいい千佳さん?」
「誰が上手いこと言えっていったにゃ〜!?」

 幸い初夏の陽射しは十分に強く、濡れた衣服を草むらに広げて乾かすには十分だった。
「うに‥‥はしゃぎすぎちゃったにゃ。ごめんにゃ」
 下着の上から陸人のシャツを羽織った千佳が、さすがにしょんぼりと謝る。
「‥‥ってどうしてTシャツ脱ごうとしてるんですかああああ」
「うに、笠原くんの服濡らしちゃったら悪いにゃ‥‥それにさっき水着とかヌー‥‥が撮りたいって‥‥」
「言ってないですっ! そりゃちょっとは思いま‥‥いや思ってもいないですからホントですから! いいから着ててくださいっ」
 でないと僕が鼻血を出して失血死しますから。
 ‥‥とはさすがに言わなかったものの、陸人が動揺しているのは千佳の目にも、そして本人も自覚していて。
 陽射しの中、しばし沈黙が流れる。
 やや会って、千佳の隣で少年は俯いたままぼそりと呟く。
「とにかく、ケガがなくてよかったです。もし何かあったらマネージャーさんに殺されちゃうし‥‥っていうか、僕そんなの、嫌ですから」
「ありがとにゃ」
 千佳も小さく答えて、そっと掌を、陸人の手の甲に重ねた。



 さてさて、ちょっとしたハプニングはあったものの。
「うに、ようやく降りてこれたにゃ〜!」
「お疲れ様でしたっ」
 陽射しがオレンジ色を帯びる頃ふたりは無事下山し、千佳の滞在している宿まで戻ってきていた。
「じゃ、僕はこれで。明日からの撮影も頑張って下さいね」
「にゅ、楽しかったにゃ♪ 笠原くん、気をつけて帰るにゃよ♪」
 軽く握手を交わして、ふたりはそれぞれの世界へと戻る挨拶を交わす。
「‥‥やっばい、月曜日に数学の小テストがあるんだった‥‥自信ないなぁ」
 だが今日は、ほんの少しだけオマケがあった。
「じゃあ、僕がいい点を取れるおまじないをしてあげるにゃ♪」
「え?」
 マジカル☆チカが魔法をかけたのだ。
 すなわちぎゅっと抱きついて、ひとこと呪文を囁いて
「がんばるにゃ」
「────!!!!??」
 真っ赤になってうろたえる陸人から、すっと離れて、微笑んで手を振って。
「またにゃ」
 よっつの音をつなげた短い言葉は、初夏の風にのって流れてゆく。
「──また」
 ふたりは今度こそ手を振った。
 次の約束は、しない。
 楽しい休日はまた、きっと来るから。


(おしまい)




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ga4714/西村・千佳/18/女/ハーモナー
gz0290/笠原 陸人/17/男/ドラグーン


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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千佳ちゃんまたまたこんにちは♪ クダモノネコです。
自然豊かな休日、楽しんでいただけたなら幸いです。
時系列としては「Backstage Pass」の少しあとを想定して書かせていただきました。
写真集の出版、期待してお待ちしていますね♪
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
クダモノネコ クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2011年06月09日

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