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『手と手を繋いで大逃走☆ 』
川那辺 由愛(ia0068)&野乃原・那美(ia5377)

 麗らかな陽射しが照らす乾いた路地。荷車が埃を立てる大路地という訳でもなく、怪しげという程暗い路地でもない。
 小さな娘の手を引いて、夕餉の材料を見繕いに歩く婦人と擦れ違ったか思えば。緊急の知らせでも受けたのか、血相を変えた男が忙しなく駆けてくる。
 流れる水のような動きで、汚らしい着流しの裾をからげて不恰好に走る男を避けた姿。緋黒の対称が目に鮮やかな娘の影。
 ちらと袴の裾から一瞬だけ覗いた形の良い脚を際立てる蜂蜜色の靴、その華奢なヒールが踏み固められた茶色い土を僅かに削った。
 動きに合わせ揺れる黒髪に隠れた瞳は、一瞥もせずに。どうでもいい男の存在も川那辺 由愛の脳裏からすぐに消えた。
 のんびりとした足取りの数軒先で、しけた顔をした親父が赤い安紙を貼った大提灯を軒先に引っ掛けて大欠伸、ひとつ。

「さぁて‥‥酒飲むには、ちと日が高いしねぇ」
 安普請の向こうに消える丸まった背を通り過ぎて、ぼんやりと一人ごちる由愛。
 暇――。
 特に今受けている依頼も無いが、家でごろごろしているという気分でもなく。
 何か面白い物でもその辺に転がっていないだろうか。
 そう思ったからではなかろうが。
 路地の角を曲がった時。騒動の種は向こうからけたたましく、そして楽しげにやってきた。

「あんの舐めた娘っこ、何処行きやがった!」
「逃げ足が速過ぎるぜ!待ちやがれ‥‥ぜぇぜぇ」
「もうしつこいな〜、やだよボクそんな手に掴まれるだなんて。さよなら♪」
 荒っぽい男共の声に混じり聞こえてきたのは、追われてるにしては能天気な若い女の声。
 何かすごく聞き覚えのあるような‥‥。
「何だか騒がしいわね。って那美!?」
「あ、由愛さんやっほ〜♪」
 だきゅっ。鉢合わせした由愛に抱きつくように飛び込んできたのは、野乃原・那美であった。
「ん、相変わらず腕が余裕で回るような安心信頼の胸周り♪」
「出会い頭からいきなり失礼な事を。那美、貴女一体、今度は何を――ちょっと!?」
「あ、やっば!追いつかれた。詳しい事はともかく由愛さん逃げるよ!」
 ぐいと腕を引っ張られ、もう何だか判らないがロクでもない男達に追われてるのは確かなので一緒に走る。
 こんな事に巻き込まれるだなんて予想してる訳もなく、履いていた踵の高い靴はちょっと走り難いが。
「居たぞ!仲間か、くそっ!髪の長い娘も捕まえろ、とんでもねえ一味だ!」
「ちょっとあたしまで勘違いされたじゃないの!?」
「気にしない気にしない。ちょろ〜っと撒いちゃえば、この広い都で顔を合わせたって判んないってば」
「そういう問題じゃないでしょうがっ。ああ、もう!とにかく面倒事は御免だわ!」
「あ、ちょうどいいや」
 由愛の烈火の怒りも余裕でスルー。この状況では。とりあえず何処かに落ち着いてから説教か。
 バタンと木戸を開けて、知らない他人の家の裏庭もお構いなしに突っ切る。
「お邪魔しま〜す♪」
 剪定鋏を持ってあんぐりと歯の無い口を開けた老爺の横を抜け。
 一応は靴を脱いで手に持つ気遣いも見せて、縁側から玄関まで一直線に突き抜け玄関から堂々と。
「ぬぉわ、そんな所から。てめぇら‥‥がふっ」
 右往左往していた追っ手の一人が残念な事に居合わせたが。
「悪いけど相手してる暇ないし。由愛さんそこ先に登っちゃって」
 鳩尾への軽い当身一発で、男は簡単に崩折れて膝を付く。
 本気なら一撃で意識を失わせた方が優しい気もするが無頓着に。加減したからいいじゃない別に。
 何故かそこに放置されてるでっぷりとした安定感抜群な蝦蟇の焼き物を踏みつけて、民家の塀を乗り越える由愛。彼女が無事越えたのを見届けて那美も。
「ま、待て。ぶはっ」
 去ろうとする那美の尻を見上げ、唾を飛ばした男の鼻腔から派手に散る鮮血。
 いつも通り履いてませんけど、何か?

「追っ手が増えてるのは気のせいかしらね」
「ん〜、さっきのは先月遊んだお店で見た顔だったかな〜。今日は居なかったんだけど」
 冴えない博徒の顔なんていちいち覚えてないけど。
 油が匂いそうなくらい七三に撫で付けた金髪に髑髏模様の悪趣味な着流しの男。
 岩のように鍛え上げられた赤銅の肌に大きく彫られた、人気草子の幼女が笑う刺青の男。
 そうそう他に居ない風貌だと思うが。
「どういう店に出入りしたら、あんなのと一緒になるのよ」
「百万文勝ったら、魔砲少女レナ☆マゼーパの等身大抱き枕と交換とか変な景品出てた店だったっけ?」
「やめなさいよ、そんな変な趣味の店に入るの。ってかまた賭博!?」
「適当に入ったら、たまたまだってば。賭け札の率が美味しかったんだよそこ」
「はいはい」
 今までやらかした数々からいって。那美は賭博場の連中の横の繋がりに触れが回っていてもおかしくない。
 一体今どの辺りを走っているのだろう。あまり馴染みの無い風景に突入してしまったが。
(やばっ。堀で行き止まりじゃないの。橋に辿り着く前に回り込まれそうだわ)
「おじさん、ボク達急いでるの!ちょっとこの舟、向こう岸まで借りるね!」
「あぁん?別に構いやせんが」
 仕事を終えて堀端で煙管を一服していた人足は可愛らしい娘の笑顔の頼みに鷹揚に答え。
 一難を逃れて堀を越え。人足が追ってきた大男に胸倉を掴まれて、逆に張り倒していた。
「人様に迷惑掛けるのいい加減にしなさいよ!」
「おじさん強かったんだからいいじゃないっ♪」

「あれ、な〜んだ!空飛ぶ人妖!?」
 どげしっ。
 表路地で今度こそ囲まれてしまった、が。
 古典的に空を指差した那美に釣られて見上げた男に、履いてないハイキック!
 たまたま居合わせた通行人が何人かいい思いしたようだ。
 囲んだのが人相の悪い男達。逃げる二人はうら若き娘達。
 一見では、どっちが悪者か逆転しているので周囲はやんやと無責任な応援を投げかけ彼女達に道を譲る。
「あんな手口に釣られるのが今時居るなんて‥‥」
「相当おめでたいよね♪」
「向こうに居るのもそうじゃない?曲がるわよ、那美」
 どんだけ包囲網を敷かれているのか。
 そろそろ那美の人相書きが瓦版に載る日も遠くないかもしれない。
(その横にあたしの顔まで載るなんて絶対に嫌よっ!!)

 大通の雑踏まで辿り着き、縫うように手を繋いで走っても。神楽の都、この程度では気に留める者も居ない。
 ようやっと完全に撒いて人心地。見慣れた地域にも戻っていた。
「それで、今度は何をやったのよ‥‥想像は付くけど大体」
 どっと押し寄せる疲れ。埃っぽい空気に喉もいい加減カラカラだ。
 那美の答えは‥‥まぁ道中既に予想していた通りそのまんまであったが。
 賭博場で遊ぶだけ遊んで有り金以上に大負けしたのを全部踏み倒して逃走。
 あっけらかんと正直に笑いながら語るのには、呆れるしかない。
「はぁぁ!?貴女、またやらかしたの!?」
 余計に疲れた。
「だ〜か〜ら〜。手持ちの範囲内で済ませろと何時も言ってるじゃないの!」
「だってちょっとお金が足りなかっただけなのに、着ているものも全部おいてけっていうんだも〜ん。ボクは悪くないよ?」
 いや悪い。それは、那美が悪い。
「少しは反省しなさい、反省。ったく‥‥」
 怒る気力もだんだん失せてくる。はぁ‥‥景気直しに酒でも飲みたいわねぇ。
 何やかやといい加減、路地にいい匂いも漂い始める時間帯だ。暖簾をくぐる者もあちらこちらに見える。
「ほら、酒飲みに行くから付き合いなさい」
「わーい♪お酒♪お酒♪‥‥もちろん由愛さんの奢りだよね♪」
「んな訳ないでしょ。あたしのこの無駄働きは‥‥」
「向こうの店『本日れでぃーす半額でー』だって」
「‥‥聞いてないし。まぁ、いいわ」
 説教で酒の味を不味くしてもアレだし。どうせ那美の耳を右から左へ抜けるだけだろう。
 せっかく時間あるんだし、ゆっくりと二人で飲みましょうか。
「由愛さん、もちろんこれだよね♪」
 びしっと指さされた墨跡新しい木札を一瞥して頷く。
「そうね。『酒豪さんいらっしゃい各国地酒飲み比べ膳』二人前、頼むわ」
「あいよっ!酒豪膳ふたつ入りました――」
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舵天照 -DTS-
2011年06月16日

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