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『【KMC】悪魔たちの墓標 』
リヒト・グラオベン(ga2826)&水雲 紫(gb0709)&ノビル・ラグ(ga3704)&御坂 美緒(ga0466)&白鐘剣一郎(ga0184)&レティ・クリムゾン(ga8679)

●ウェタル島・SIVA駐屯基地
「ノビルさんも来てたんですか?」
 ハンガー内でロングボウを点検していたノビル・ラグ(ga3704)が振り返ると、そこに高瀬・誠(gz0021)が立っていた。
「なんだ、誠じゃないか」
 ノビルもL・Hで彼と同じ小隊に所属しているため、兵舎内で面識がある。
「今回の作戦ではフロレス島の正規軍や空母『サラスワティ』からも依頼が出てましたよね?」
「ああ。どれにしようか迷ったけど、ここの依頼が一番報酬がデカかったからな」
 と口では答えてみるものの、本当の目的は少し違う。
(フロレス島の依頼で戦ったNDFの彼女……何だか妙に気になるんだよな)
 ノビルはNDFリーダー、マグダレーナ(gz0316)のことを思った。
「同じ小隊の方がいるなんて心強いです。明日はどうぞよろしくお願いします」
「おう。こちらこそ、よろしく頼むぜ」

●カメル首都近郊・バグア軍基地
「シモン(gz0121)……生きていたのか!?」
 愛機シュテルン・G「流星皇」のコクピットで、白鐘剣一郎(ga0184)は驚きに目を見張った。
 だがすぐに気を取り直すと、同じくサラスワティから出撃した僚機の傭兵たちと素早く通信を交す。
 その結果、剣一郎、リヒト・グラオベン(ga2826)、御坂 美緒(ga0466)、レティ・クリムゾン(ga8679)、水雲 紫(gb0709)の5名は当初の計画通り、このままバグア基地最深部への侵攻を決定した。
「賛成だ。我々の目的はあくまでバグア軍基地制圧、そしてハリ・アジフ(gz0304)殲滅。亡霊の相手などしている場合ではないからな」
 前衛のディアブロ「Pixie」からレティの返信。
 他の仲間たちからも異論はなかった。

「地殻変化計測器に反応あり! 左右前方の地中から大型物体が接近して来るです!」
 着陸時、予め地面に設置しておいた計測器からのデータをウーフー2の機内でモニターしつつ、美緒が僚機に警告を発する。
 果たして、咄嗟にスラスターを吹かしジャンプした紫・レティ両機の足元から、2機のEQがドリル状の牙を剥いて飛び出してきた。
「いつまでも同じ手が通用するか!」
 レティは機体スキルのパニッシュメント・フォースを発動し威力を強化したレーザーを照射。他の傭兵KV各機も一斉に知覚兵器を発射し、醜悪な地中ワームを蒸し焼きにした。
 だがその間、アジフ機周囲にNDFタロス7機が降下し、前方からプロトン砲とチェーンガンで攻撃してきた。
「貴方のせいでメイさんは……許さないのです!」
 UPCの医療施設で結麻・メイ(gz0120)の最期を看取った1人である美緒は、アジフへの怒りを込めてウーフー2から煙幕銃を発射。
 傭兵たちのKVは白煙に紛れて一斉に前進する。
(全ては奴を抹殺するために――!)
 アジフ機を狙い先陣切って突撃する紫のシュテルン・G「携香女」の前に立ちはだかったのは、青い機体に白線で「08」「09」とナンバリングされた2機のタロス。
「邪魔をするなーっ!」
 紫が横薙ぎに振るった機鎌サロメの刃を紙一重でかわし、すかさず近接兵器のハルバードで反撃してくる。その動きは、なまじのエース機ゴーレムなどの比ではない。
「させるか!」
 後方からブーストをかけ割って入った剣一郎が、温存していた機体スキル併用で機槍ロンゴミニアトの刺突を繰り出す。機槍の穂先はナンバー09のタロスに食い込み、注入された液体火薬の爆発が青い機体を揺るがした。
 タロス09はいったん退き損傷部の再生を始める。
 代わって前に出たタロス08のハルバードを機盾で受け流しつつ、剣一郎は兵装を機槍から機刀へと持ち替えた。

 その頃になると僚機の傭兵たちはもちろん、周辺のゴーレムやキメラをあらかた片付けたSIVAのKV部隊も集まり援護射撃に加わった。
 後方で指揮を執るアジフが指示したのか、基地のHW発進口からCW群がワラワラと浮上し、戦場の能力者たちを激しい頭痛と電子ジャミングで悩ませ始める。
 懸命に頭痛を堪えつつ、美緒は震える指でウーフー2の強化型ジャミング集束装置を起動させた。
 一段と効果を増したECCM(対電子妨害)がCWのジャミングを和らげ、再び人類軍の火箭がNDFタロス部隊へと集中する。

「敵のリーダーを叩きます。レティ、援護をお願いできますか?」
「了解した。例のマグダレーナだな?」
 リヒトの要請を受けたレティの機内モニターに、人類側の砲火をものともせず強引に突き進んでくるナンバー13のタロスが映っていた。
 Pixieの砲撃に援護されたリヒトのディアブロ「グリトニル」が前進し、タロス13へと接近していく。マグダレーナ機を引きつけ白兵戦に持ち込むためだ。
 リヒト機とタロス13の接触を確認したレティは、
「任せたぞ」
 一言だけ通信を送った。あえて「大丈夫か?」とは問わない。
 これも仲間の力を信じていればこそだ。

 凄まじい勢いで振り下ろされたハルバードが、グリトニルの片腕を装備した剣もろとも切断した。
『アハハハハ! このまま八つ裂きにしてやるよっ!』
「それはどうでしょうか?」
 両者が殆ど機体を接するまで近接した瞬間を狙い、グリトニルの残った片手が伸びたかと見るや、Pフォース併用で電磁篭手の零距離攻撃をお見舞いする。
『うぁっ!?』
 一瞬動きを止めたタロス13に、至近距離からショルダーキャノンの砲撃が炸裂した。
「肉を斬らせて骨を断つ――これが俺の戦い方です」
 慌てて一歩下がり機体の再生を図るマグダレーナ機に、再びPixieの砲撃が襲いかかった。

 ――斬ッ!
 剣一郎が振るった機刀の刃がタロス08の肩口を切り裂く。
 続いて紫の機鎌も、その切っ先をタロス09のコクピット付近に深々と食い込ませていた。
 2機のNDFタロスは機体から黒煙を上げフラフラとよろけ、次の瞬間には両機とも相次いで自爆した。

『そろそろ撤退するぞ。シモン様への義理立てはこの程度で充分だ』
 後方のアジフ機から煙幕弾が発射され、今は6機に減ったNDFタロスが煙に隠れて後退を始めた。

●ハリ・アジフの手記
 上空では相変わらず両軍の激戦が続いているが、バグア基地の地上部はほぼ人類側の制圧下に入った。
 SIVA能力者のうち百人ほどがKVを降り、爆破したワーム発進口からロープを垂らして次々と降下していく。
 指揮官ラザロ(gz0183)の指示は「具体的な行動は各自の判断に任せる」と実にアバウトなものだった。
 要は「好きにやれ」ということらしいので、ノビルも「どうせなら顔見知りの傭兵たちと……」と思い、誠も連れて同じくKVを降りたリヒトたちの部隊に加わった。
 基地内で強制労働させられていたカメル人たちを解放した際、彼らの証言から作成した急作りのマップを参照しながら、一行は時折襲いかかってくる中小型キメラを排除しつつ地下に張り巡らされたバグア基地の廊下を進んでいった。

「この近くにアジフが使っていた研究室があるようだ。ちょっと寄っていっていいか?」
 ノビルの提案にリヒトと誠が賛成。剣一郎ら他の傭兵は、引き続きアジフたちを追うため一時別行動を取ることとなった。

 ノビルたちが向かった区画は、研究室というよりはもっとプライベートな、書斎に近い雰囲気の部屋だった。
 それでも何か役に立つ資料はないか――と室内のラックを見回したノビルの目に、それだけ妙に場違いな革表紙の「本」が止まった。
「……日記帳? バグアのくせにアナログな奴だな」
 おそらくヨリシロにされた心理学者の習慣をそのまま引き継いだのだろう。
 その証拠に、日記の内容も人類の文字で記述されていた。

『生前のアジフは若い頃、メトロポリタンXの刑務所で囚人相手のカウンセラーとして活動していた。分けても興味深いのは、死刑囚ピーター・アンダーセンとの面会記録だ』

「アンダーセン事件か……そういや昔、そんなコトもあったっけ」
 確認されているだけで百人近い老若男女が殺されたという無差別連続殺人事件。
 といってももう10年前の話である。その後のバグア大侵攻により事件の真相はうやむやとなり、犯人のピーター自身メトロポリタンX崩壊の際に死亡したというが。
(しかし何だってバグアが人間の殺人犯なんかに興味を持ったんだ?)
 訝しみながら頁を繰るノビルの手が、ある箇所でピタリと止まった。

『実に興味深い素体を発見した。オーストラリアで入院していたアンダーセンの娘ヘレンだ。私は彼女に父親ピーターの心理データを移植し、13体目のNDFにしようと思う。これでNDF計画は一層の――』

「殺人鬼の親父の記憶を娘に……? 野郎、何てことしやがる!」
 一緒に日記を読んでいたリヒトと誠も驚きを隠せない。
「ヘレン、つまりマグダレーナがアンダーセンの娘? ということは……」
「どうした2人とも? 何か心当たりでも――」
 ノビルが尋ねかけたとき、無線機の呼び出しコールが鳴った。
 ラザロが指揮するSIVA本隊が基地内でNDFを発見、交戦状態に入ったという報せだった。

 リヒトら3人がバグア基地内の一角に駆けつけたとき、既に戦闘は終わり、そこは血の海と化していた。
 能力者20人、しかもSIVAの最精鋭で編制された本隊のうち8名が死亡、残りの12名も重軽傷を負い無傷の者は1人としていない。
「酷いものですね……」
 惨状を目の当たりにして、リヒトは頭を振った。
「アジフとNDFは逃げたのか?」
「はい。何とか3人までは仕留めたのですが……」
 比較的傷の浅いSIVA社員が悔しげに答える。
 床の上にまだローティーンらしき少年が3人、NDFの青い制服を血塗れにして息絶えていた。
 うち1人の顔にノビルは見覚えがある。
「こいつは確かフロレス島で戦った……ヨハネだったか」
「ラザロはどこですか?」
「それが……敵のリーダーらしい、蒼い髪の女に……」
 友軍の戦死者たちを並べて寝かせた壁際の一角。その中に、既に絶命したラザロの遺体もあった。
 首筋をざっくり切り裂かれている。
 変わり果てたラザロの姿を、リヒトは複雑な心境で見下ろした。
「彼のような男でも……実の娘が相手では本気を出せなかったのでしょうか?」
「それは分かりません。僕にも……」
 リヒトと誠の会話を耳にしたノビルが、慌てて聞き返した。
「マグダレーナがラザロの……本当かよ!?」
「おそらくは。彼自身がそういっていましたから」
 そのとき傭兵たちの無線機に新たな通信が入った。

『こちら白鐘。逃走中のアジフとNDF3名を発見、現在交戦中だ!』

●格納庫の決戦
 地下の広大なHW格納庫。発進準備を整えた大型HWが1機、機体のランプを点滅させ低い唸りを上げていた。
 アジフたちは基地内で別機体に乗り換え逃亡を図るだろう――と見越して先回りしていた傭兵たちの前に、案の定彼らが現れたのだ。
「ここから先へは通さないのです!」
 美緒がすかさず錬成超強化を発動、虹色の光が飛んで仲間たちの能力を上昇させる。
 アジフを護衛するNDFは傭兵たちにも顔を知られたマグダレーナとマティア、そして初見となるカメル人の少年(アブラハム)。
(まず奴とNDFを分断しなければ……)
 紫は一歩踏み出し、アジフに声をかけた。
「お久しぶり。『左腕』の調子は如何?」
「何? 貴様、なぜそれを」
「あら……私をお忘れ? この声を?」
「……!」
 アジフもようやく悟った。「あの時」は面を付けていたので分からなかったが、眼前の女傭兵が自らの左腕を切り落とした当人であることに。
「――どけっ!」
「ドクター!?」
 アブラハムの制止を払いのけ、悪鬼の形相と化したアジフが突進した。
 左手の武装義手が変形する。手袋が千切れ飛び、紫を狙って鋭い爪状の刃が飛び出した。
 その切っ先を、紫は手にした鉄扇で受けると同時に絶対防御を発動、砕け散る鉄扇と引き替えに敵の攻撃を無効化する。
「ちっ」
 悔しげに身を退こうとするアジフにレティのシエルクラインが銃撃を浴びせ、まんまと挑発に乗ったヨリシロを剣一郎と共に包囲した。
「猿どもが……私を見くびるなよ」
 不気味な音と共にアジフの白衣が筋肉の膨張で破れ、老人の体が一回り大きな異形の姿へと変貌していく。
 慌ててアジフ救出に向かうNDF3名を、背後からSMGの弾幕が襲った。
「てめぇらの相手は俺たちだ!」
 格納庫の入り口からノビル、リヒト、誠が駆けつけてきたのだ。

 ラザロの返り血で真っ赤に染まったマグダレーナは、2刀のククリナイフを構え直して斬りかかってきた。
 短期決戦を決意したリヒトも高速体術で迎え撃つ。
 腕に装着したクローでナイフを弾き、マグダレーナの懐へと飛び込む。
「おまえ、さっきのKV乗りか!?」
 だがこの動きはフェイントだった。リヒトは腰を沈めて転がり相手の刃を避けると同時に、刹那を使いクローに練力を注ぎ込む。
 エアスマッシュで射程を伸ばし、体勢を崩したマグダレーナに真燕貫突の2連撃を叩き込んだ。1撃目でFFを突破。淡く光るクロウの切っ先が2撃目で少女の脇腹に深々と突き立った。
「……ぐふっ……!」
 大量の吐血と共に、マグダレーナは跪いた。
 両手からナイフが落ちる。
 とどめを刺そうと立ち上がったリヒトとマグダレーナの間に、ノビルが飛び込んだ。
「ちょっと待て! 彼女と話をさせてくれ!」
「……余計な真似……すんなよ……」
 溢れ出す血に咳き込みながら、少女はノビルを睨んだ。
「お前は……こんなトコで死んじゃ駄目だ。身勝手な連中に運命を狂わされたまま死んじゃ駄目だ!」
「バカ言わないで……」
 マグダレーナは苦しげに、だが不思議そうな目でノビルを見やった。
「今までアタシが何人殺したか知ってるの? 強化人間になる前だって……」
「それはおまえの親父、ピーターの記憶だろ!? おまえはヘレン。殺人鬼のピーターじゃない!」
「……ヘレン?」
「抗え! 押しつけられた偽の人格なんかはね除けてみせろ!」
 少女の視線が、何かを思い出そうとするように宙を泳ぐ。
 その瞬間、ドスっと鈍い音がしてマグダレーナが倒れた。
 影の様に忍び寄ったマティアが、背後からサーベルで彼女を刺したのだ。
「てめぇ! 自分の仲間を――」
 ノビルのSGMが火を吐き、小柄なマティアを弾き飛ばす。
 だが彼女はむくりと起き上がり、ケラケラ笑った。
「仲間ぁ? あたい最初からバグアだよ? アジフの奴、自分のモルモットに体内爆弾を移植するのを嫌がった。だからあたいがこのガキの体をヨリシロにして、NDFを監視してたのさ」
 疾風のごとく駆け寄ったリヒトのクロウが、幼女の体を器にしたバグアを葬った。

 両断剣・絶を発動した剣一郎が手にした大太刀に練力を集中し、紅の刃が太陽のごとく輝く。さらに猛撃と剣劇を発動。
「悪鬼必滅。受けよ、天都神影流『秘奥義』紅叉薙っ!」
 剣一郎はその場に残像を残すほどの凄まじい連続斬撃をアジフに見舞った。
「ゲハァアア!?」
 バグアの巨体が苦痛に揺らぐが、それでもなお倒れない。
「ア、アブラハム――命令だ! 奴らを片付けろ!」
「……イエス。ドクター」
 誠と切り結んでいたNDF最後の1人が何を思ったか武器のサーベルをその場で投げ捨て、アジフの方へと駆け寄る。
 制服の懐から大型手榴弾を取り出すと、何の躊躇いもなく安全ピンを抜いた。
「何っ!?」
 閃光が走る。
 激しい爆炎が傭兵たちを包んだ。

「馬鹿どもめ。オセアニアに戻れば、新たなモルモットなどいくらでも手に入るわ!」
 毒づきながら、アジフは傷ついた体を引きずるように脱出用HWへと急ぐ。
 背後から吹き付けるような殺気。
 間一髪で避けると、太刀を振りかざした紫が前方へ飛び出し行く手を塞いだ。
「何だと……?」
 振り返れば、アブラハムもろとも吹き飛んだはずの傭兵たちも全員が健在である。
 咄嗟に不壊の盾を発動した紫が、仲間たちを爆発から守ったのだ。
「慰めにもなりませんが、あの子の為に、私の為に、お命頂戴します」
 そういって振り返る紫の足元がよろめいた。
「うっ……」
 スキルで仲間たちを庇ったといえ、彼女自身は至近距離から爆発を浴び相当のダメージを負っている。
 アジフはニタリと笑った。
「丁度いい。貴様を殺して新たなヨリシロとしてくれる」
(無念……せめて、あと一太刀……)
 ふいに紫の体が軽くなった。
 それは痛みから来る幻覚だったのかもしれない。
 しかし彼女は、自分を背後から抱くようにして支える幼い少女の存在を感じ取っていた。
(メイ……さん?)
 武装義手で襲ってくるアジフの姿が、視界にはっきり焦点を結ぶ。
「外道は外道らしく、涅槃に堕ちろ!」
 すれ違い様の一閃。
 アジフの首が床に落ちる音を聞きながら、紫の意識は遠のいていった。

●エピローグ
「ただいま戻りました、王女殿下」
 サラスワティに帰投後、剣一郎は艦長のラクスミ・ファラーム(gz0031)に微笑して敬礼、戦闘結果を報告した。
「うむ。大義であった」
「白鐘君たちも、おっ疲れ〜♪」
 一足先に帰還したチェラル・ウィリン(gz0027)と笑顔でハイタッチを交す。
 その場には美緒の錬成治療で回復した紫を含め、仲間たちも無事に揃っている。
 ただしノビルだけは、まだ微かに息のあるマグダレーナに付き添いバグア基地に留まっていたが。

 甲板上では祝勝会の準備を整えた空母クルーたちが、陽気な拍手と指笛で傭兵たちを出迎えた。
「どんどん食べてくれ! お代りは幾らでもあるからな」
 厨房に赴いたレティが手製の特大ピザを乗せたキャスターを押して現れると、再び大きな拍手喝采が上がる。
 美緒の公約通りチェラルやマリア・クールマ(gz0092)もセーラー服姿に着替えていた。当然ラクスミも。
「しかし……何でわらわまでこんな格好に……」
「良いではないか。おまえも本来ならまだ学生でおかしくない歳だ」
 ワイングラスを傾けながら、クリシュナが苦笑する。

「あの……クリシュナ様?」
 美緒の視線に気づいた皇太子は、パーティー会場の人混みを離れ、人気のない甲板の隅に移動した。
 そこで彼女は、初めて自らの想いを告白した。
「きちんと言葉にするの、初めてですから……お返事もきちんと頂きたいです!」
「ふむ……」
 若き皇太子はしばし考えこんでいたが。
「何しろ今はこんな時勢だ。私にも国を守る義務がある」
「え……それじゃあ、やっぱり……」
「いや、そうではなくて」
 クリシュナは少し悪戯っぽく微笑した。
「この戦争が一段落したら、いずれ私自らL・Hに出向こう。その時、正式なプロポーズを行うから受けてはくれまいか?」
「――はい!」
 もはや傭兵も皇太子も関係ない。
 若者の逞しい腕に抱かれ、美緒は夢見心地で涙ぐんだ。

「アタシ……まだ生きてるの?」
 バグア基地内の一角。SIVAの別働隊が確保したバグア用治療カプセルにより回復したマグダレーナは、ぼんやりとノビルの顔を見上げた。
「ツイてたぜ。装置の原理はサッパリだけど、バグア軍に徴用されたカメル人技師がいたんで使い方だけは分かったからな」
「これからどうなるのさ?」
「とりあえず軍の病院に運ばれるんじゃないか? アジフの奴にされた洗脳を治療しなけりゃなんねーし……エミタ鉱石さえあれば人間に戻れるかもだぜ?」
「でもアタシの中にはまだ『あいつ』がいる……また人を殺すかもしれないのよ?」
「そん時ゃ、俺が全力で止めてやるさ。体を張ってもな」

「マグダ……いえヘレンさん、助かったそうです!」
 会場に現れた誠が、ノビルからの通信内容をリヒトに伝えた。
「それはよかった。では、真弓も……」
「ええ。エメリッヒ中佐が、明日にでも施設から輸送機を飛ばしてくれるって……」
 嬉しそうにいう誠だったが、ふと表情を曇らせた。
「でも、ヘレンさんは自分のお父さんを……」
「たとえ元の人間に戻っても、彼女はNDFとして犯した自らの罪と向き合わなければなりません……この上、重い十字架を背負わせる必要があるでしょうか?」
「……」
「殺人鬼ピーターは10年前に死んだ。能力者ラザロは名誉の戦死……それでいいではないですか」
「僕も……そう思います」
 神妙な顔で頷いた誠は、ふと会場の隅で、赤いリボンの切れ端を手に持ち愛おしげに撫でる紫に気づいた。

「誠さんは、日本に帰られるそうですね?」
「はい」
「ではこれでお別れですね。末永くお元気で」
「いえ、水雲さんこそ……あ、そうだ! もし真弓が元気になったら、ぜひ日本にいらして下さい。きっと喜びます」
「そう……よかった。あの子だけは、助けられたのですね」
 紫は視線を海の彼方へやった。
 南洋の夕暮れを彩る美しい落日も、彼女の目にはモノクロームの光景としか映らない。
 一切の色彩を失った灰色の世界。
 天国でも地獄でもない煉獄――。
(それでも……また真弓さんに会えるまで、生きてみるのも悪くない、かもしれませんね)
 そんなことを思いながら、紫は誠に軽く一礼してその場を立ち去った。
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
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CATCH THE SKY 地球SOS
2011年06月20日

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