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『■乙女たちのピクニック♪■ 』
大鳥居・麗華(gb0839)&伊万里 冬無(ga8209)&L3・ヴァサーゴ(ga7281)&柚紀 美音(gb8029)



 朝の爽やかな陽射しが、窓から降り注ぐキッチン。庭で遊ぶ小鳥のさえずりが、微かに聞こえてくる中で。
「るらら〜 るららなのです〜♪」
 伊万里 冬無はお気に入りのメロディを口ずさみながら、せっせとお弁当作りに勤しんでいた。
 黒いレースの三角巾に、赤と黒のエプロンを身につけている。そのエプロンは革製で、どこかボンテージをイメージさせるデザインではあったが、彼女の心は乙女に他ならなかった。
 その証拠に、テーブルの上にはお弁当箱が4つ。ひとつは自分の分、残り3つは愛しい友達の分。
 誰かを想って美味しい物を作る、この健気さが乙女でなくてなんであろうか。
 と、冬無の背中で、オーブンレンジが電子音を鳴らした。
「ん〜 焼けたです!」
 黒髪の少女は軽やかにターンし、キッチンミトンをはめた手でオーブンの扉を開いた。
 注意深く取り出したミニグラタンを、水色のお弁当箱にそっと詰める。弁当箱の中には既にご飯と、おかずがいくつか詰まっていた。
「麗華さんはなんといってもお嬢様ですから、お弁当もセレブ風なのですよ〜。合鴨のテリーヌと今焼けたばかりのシーフードグラタンを、パエリアの前菜として組み合わせたのです。さらにプチトマトのマリネと‥‥」
 そこで冬無はぽんと手をたたき、冷蔵庫からハート型の入れ物を引っ張り出す。
「あらかじめ冷やし固めておいたブラマンジェに、愛を込めてトッピングなのです〜」
 どこぞの三分間クッキング的手際の良さで、白い冷菓にいちごジャムとチョコレートで飾り付けをはじめた。‥‥まぁあのその、若干スプラッタに見えないでもないが、まぁいいか。
 ほどなく飾り付けは終わり、次に彼女が手に取ったのは白い弁当箱だった。
「さて次は、ヴァサーゴさんのお弁当ですよ♪」
 ホウロウ製のちょっとレトロな雰囲気が可愛らしい。
「ヴァサーゴさんはちょっと浮世離れしたところがありますから……オーソドックスなお弁当で『ありふれているけどささやかな幸せ』を体験してもらいましょう♪」
 なるほど、先の弁当とはかなり違うおかずが皿の上で準備されていた。
 例えば砂糖を入れて焼いたほんのり甘い卵焼きや、鮮やかな赤色のタコさんウインナー、一口サイズのハンバーグなどである。
それらを彩りよく詰めた横にちんまり座るのは、鮭とうめぼしのおにぎりだ。
「さて、デザートは♪」
 器用な手つきでりんごを剥きはじめる冬無。剥き方はもちろん、ウサちゃんりんごである。
 さっと塩水にくぐらせて小さな入れ物に詰め、2つ目の弁当も完成!
「さて、美音さんのは、と♪」
 3つめの弁当箱は、サンドイッチケースだった。既にポテトサラダとアスパラガスのソテーが隅っこに収まっている。
「よ〜し♪ いい具合に馴染んでいますね♪」
 そこに冬無が、ラップに包まれた2種類のサンドイッチを運んできた。オーソドックスな白パンと、ライ麦入りの黒っぽいパンだ。
「ふふふ、ベーコンレタストマトサンドと、クリームチーズ&マーマレードのスイーツ風サンドで、味のバランスも栄養もバッチリなのです」
 カッティングボードの上でそれぞれ食べやすい大きさにカットされたサンドイッチが、ポテト&アスパラの横に行儀良く座る。
「さて、私のお弁当はと……」
 完成した3つの弁当をランチクロスに包みながら、冬無は壁の時計に目をやった。
 出発予定の時間は9時、6時から作業しているのだからまだまだ時間はあるはず……
「っってはちじごじゅっぷうううううううん!!!!!????」
 嗚呼、光陰矢のごとし、タイムイズマネー。
「遅刻なのですうううう」
 絶叫しつつも冬無は、4つ目の弁当箱に炊飯器から直接白米をよそい、のりと梅干しを乗せてフタをした。
 製作時間20秒のそれと、既に出来上がっている3つをバスケットに詰め込み、頭の三角巾とボンテージ風エプロンをむしり取る。
「シャワー! シャワーですぅぅぅぅ!」
 そう、どんなに時間がなくてもお出かけ前にはシャワーは欠かせないのだ。
 だって乙女ですもの。



 人類の最後の希望、巨大人口島ラスト・ホープ。
 UPC本部などがある中心部から、郊外行きのチューブトレインで2時間、そこからさらにローカル・バスで1時間。
海からの潮風を遮る防風林に囲まれた一帯は、島民が憩う自然公園として整備がなされていた。
 面積にしてドーム球場数百個分の広大な敷地には、柔らかな芝生が表面を覆う小高い丘が広がっている。初夏の空は青くどこまでも高く、風の匂いすら中心部とは違って感じられる程だ。
 丘のふもとには、小さなバス停。丁度走ってきた1台がゆるゆると停まり、3人の客を前の扉から下ろした。
「ん─、空気が美味しいですわ。今日は天気が良くてよかったですわね」
最初に降り立ったのは、大鳥居・麗華。大財閥の令嬢を自称する彼女であったが、今日のいでたちはコットンのパンツにブラウスといった軽装である。
 とはいえパンツのポケットについたタグやシャツの胸元に施された刺繍が、高級ブランド品であることを控えめに物語っていた。
「皆と外出、我、幸……」
 真っ黒な髪に抜けるような白い肌が印象的なL3・ヴァサーゴが、麗華にこくりと頷いた。
 一見無表情だが、瞳の奥には喜びの感情がしっかりと息づいている。
 白を基調にしたロリータ風ドレスにドロワースを合わせた、英国風ピクニックファッションが愛らしい。
「冬無さん、どうしたのかな……」
 ちらりと腕時計を覗き込み、首を傾げるのはフリルパーカーにジーンズを合わせた柚紀 美音。銀色の長い髪を、初夏の陽射しできらきらと輝かせている。
 彼女が心配しているのは、待ち合わせの駅にあらわれなかった冬無のことだった。
 携帯電話のメールで「すぐに追いつきますから、先に行っててください〜(>▽<)」とはあったものの、その後何の連絡もない。
 と、その時。
「あら? 高速艇ですの」
「……キメラ、出た?」
 傭兵達が依頼に赴くときに多用する、UPCマーク付きの高速移動艇が頭上から、木々の葉を揺らして降りてきたではないか。
 乙女達の注目の中、緑の芝生の上に着地したそれの扉が、ゆっくりと開く。
 はたして現れたのは。
「お、お待たせしたですぅ〜」
「冬無さん!?」
 レース付きの黒いレギンスに赤いフリルのミニスカート、豊満な胸を強調するビスチェにジャケットを羽織った待ち人だった。
「ちょ、伊万里!? どうして高速艇で!?」
 驚きを隠さない麗華に、冬無はしれっと答える。
「依頼で島外へ出る途中の皆さんに便乗させてもらったのです♪ ──どうもありがとです〜 お仕事頑張ってください〜」
 再び高度を上げてゆく高速艇にひらひらと手を振る友人に、美音が嬉しそうに微笑む。
「さあ、これで全員集合ですね」
「……出発?」
「ええ、行きますわよ」
 首を傾げるヴァサーゴに、麗華が頷いた。
 乙女たちは歩き出す。初夏の陽射しが、柔らかくふりそそぐ中に──。



 緑のじゅうたんを敷き詰めたなだらかな上り坂を、麗華、ヴァサーゴ、冬無、美音が仲良く登る。
 空は澄み切っていて高く、風は4人の髪を優しく揺らすように吹いていた。
 6月は、草花の萌える季節。芝生の隙間から可愛らしい花びらを覗かせる野花に惹かれたのは麗華。
「あら、きれいな花ですわね」
 淡いピンクのそれをいくつか摘み、しばし考えた後
「黒い髪によく映えますわ」
 冬無とヴァサーゴの髪に、そっと飾った。
「ふたりとも、可愛いです」
 ぱちぱちと手を叩く美音の髪では、飛んできた蝶々が羽休め。天然のリボンも、野花に負けず華やかで美しい。
「見てください、うさぎさんですよ〜!」
 しゅたっと冬無が指さした先にいたのは、シロツメクサを食んでいる野生のうさぎだ。
「兎‥‥ふわふわ‥‥」
 ぬいぐるみのような愛くるしい仕草に、ヴァサーゴが僅かに頬を染める。
「グリルにすると、美味しいですよヴァサーゴちゃん♪」
 が、冬無の感想は少しばかり違っていたようで。
「‥‥冬無‥‥焼兎‥‥?」
「なーんて♪ 冗談ですよ」
 いや、目は本気だったぞ半分ぐらい。本気と書いてマジと読むを地で行っていたぞ。
 そんなこんなで山登りも順調に後半戦に突入である。
 おしゃべりしつつ道草しつつの道中は楽しかったが、休憩なしであったのもまた事実。
「ふぅ‥‥少し疲れちゃったな」
 ややペースダウン気味の美音に、最初に気がついたのはヴァサーゴだった。
「美音‥‥我‥‥一緒に‥‥行く」
「はいっ」
 そっと差し伸べられた手を、銀髪の少女が嬉しそうに握り返す。
「一緒に歩けば、疲れも感じないです‥‥♪」
「我も‥‥嬉‥‥」
 ほのぼのとした幸せオーラを醸しだす2人を冬無が振り返り羨ましそうに声をあげた。
「あ、そこの2人! 除け者は嫌ですよ♪」
 割って入ろうとする襟首を、麗華がむんずと捕まえ
「伊万里はこのわたくしが、手をつないであげますわ」
 言うが早いか、右手でぎゅっと、左手を握った。
「文句があって?」
「あぁん麗華さん♪ 文句なんてとんでもないですぅ」
 分かりやすく頬を赤らめ、もじもじする冬無でありました。



 小高い丘の頂上は、360度のパノラマが広がる展望台さながらだった。
 遠くに見える青い海と、島の縁に植えられた防風林の緑が作るコントラストが美しい。
 一方内陸側に目をやれば、ラスト・ホープのビル群が陽光を浴びて輝いているのも見える。
「まあ、随分と遠くまで見渡せるものですわね」
「海‥‥街‥‥美しい」
「空気がとても美味しいです」
 麗華とヴァサーゴ、それに美音は大きく伸びをし、新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込む。
 その後ろで冬無が、いそいそとお弁当を広げていた。
「ささ、皆さんお昼の時間ですよ〜♪」
「あら、グッドタイミング。お腹がすいていましたの」
「我‥‥も」
「わーい、お弁当です」
 呼び声と食欲をそそる香りに、広げられたシートの上に座る一同。
 冬無は次々とバスケットからお弁当箱を取り出し、一つずつ順番に手渡した。
「今日は、朝早く起きて頑張ったのですよ〜。はいこれが麗華さん、こっちがヴァサーゴさん。サンドイッチは美音さん用なのです♪‥‥ささ、召し上がれ」
「いただきまーす!」
 3人の合唱が、青空の下で可愛らしくこだました。
「あら、このテリーヌとグラタン。いきつけのレストランのテイクアウトよりお洒落ですの」
「‥‥魚肉腸詰‥‥蛸の‥‥形?」
「じゃあ、ベーコンレタストマトから‥‥」
 料理人としては、見てくれよりも味の反応が気になるもの。
 フォークや箸でそれぞれの弁当を口に運ぶ3人の様子を、冬無は首を傾げて見守る。
 ──果たして!
 最初に口を開いたのは、テリーヌを飲み込んだ麗華。
「伊万里のお弁当流石に美味しいですわね。く、わたくしも料理出来たほうがいいですかしら‥‥」
 続いて、鮭おにぎりを頬張ったヴァサーゴ。
「美味‥‥飯玉の‥‥中に‥‥魚」
 そして、ベーコンレタスサンドにかじりついた美音。
「冬無さんのサンドイッチ美味しいです♪」
 表現は三者三様なれど、大好評だ。
「よかったのですぅ♪ では私も‥‥」
 冬無は胸を撫で下ろし、バスケットから自分の弁当箱を取り出した。
 なにぶん製作時間20秒のアレなので、フタを立てて食べ始めたのだが‥‥
「何をしているのです、伊万里」
「冬無の‥‥弁当‥‥極めて‥‥質素?」
 当然のごとく、総ツッコミを食らうハメに陥ったのであった。
「い、いえこれはっ。あの、その、ちょっと時間がなくてですよっ」
「まさか美音の分を作ってくれていて、冬無さんの分が作れなかったとか‥‥?」
「ちちち違うのです美音ちゃんっ。いえ違わないけど、美音ちゃんが気にすることじゃないのですよ〜」
 焦れば焦るほどドツボにはまってゆく冬無を、呆れたように眺めていた麗華だったが
「全くしょうがないですわね、あーんしなさいな」
 くすりと笑み、グラタンをスプーンですくって冬無の口元にそっと差し出した。
 途端、きらきらっと輝く冬無の瞳。
「んふふ〜麗華さぁーん嬉しいです! あむっ」
 大好きなお友達から、あ〜んしてもらって元気100倍! 彼女の中で何かのスイッチがオンになった。
「おっ。ヴァサーゴさん、ご飯粒がついてますですよ? れろっ♪」
 すかさず、自分と同じ黒髪の少女の口元にある「お弁当」を唇で舐めとるアタック!
「‥‥!?」
 驚きのあまりか、ヴァサーゴの頬にほんのりと朱が射す。
「ふ、冬無‥‥我の‥‥おかず‥‥食べ、たい‥‥?」
「ん〜、ヴァサーゴさんを食べたい気もしますけど、とりあえずその玉子焼きはいただきますですよ?」
 ぱくっと卵焼きを飲み込む冬無の横で、美音が恥ずかしそうに口を開けた。
「美音も、食べさせてほしいです。あーん」
 ヴァサーゴは頷き、箸でハンバーグを挟む。
「美音、挽肉塊、美味」
「美味しいです〜! じゃあ美音のサンドイッチも半分こですね」
 お返しにと、美音はマーマレードサンドを半分に割り、ヴァサーゴの口元にそっと運んだ。
「柑橘‥‥砂糖煮‥‥幸せ‥‥」
 美味しいものをふたりで食べれば、しあわせも2倍。
 そう言わんばかりに微笑みあう二人の傍らで、
「ふぁ、少し眠くなってきましたわね‥‥」
 小さな欠伸をしたのは麗華であった。
 言われてみれば、既に4人の弁当箱はほとんど空っぽである。
 お腹がふくれて陽射しも風もき心地良いこの時間は、絶好のお昼寝タイムと言えた。
「我も‥‥睡眠欲‥‥」
「あらあら、ヴァサーゴさんったら」
 冬無が膝をぽんぽんと叩き、ヴァサーゴを誘う。
「眠‥‥」
 ごろんと膝に転がったヴァサーゴと頭を撫でる冬無に触発されたのか、美音がちらりと麗華の方を見た。甘えんぼを察したのか、お嬢様は優しく友人を手招き。
「美音もこちらにいらっしゃいな」
「はい♪ ‥‥わぁ、柔らかいです‥‥」
 嬉しそうに膝枕で寝息を立て始めた美音を見守る麗華の目も、とろりとしてとても眠そうだ。
「むにゃ‥‥」
 冬無がクロスの上に、くたりと転がった。
「冬無‥‥」
 さっきまで膝を借りていたヴァサーゴがその手を握り、寄り添うように寝返りを打つ。
「今日は、素敵な休日ですこと」
 麗華もそっとクロスに身を委ね、美音の傍らで目を閉じる。
 やさしい午後の陽射しだけが、寝息を立てる4人を優しく見守っていた。



 楽しい時間は瞬く間に過ぎるもので。
「うっかり寝こんでしまいましたわ。わたくしとしたことが」
「まぁまぁ麗華さん、いいじゃありませんか♪」
 4人は手をつないで、丘を下り帰路についていた。
 傾いた陽射しは綺麗なオレンジ色。遠くでカラスが鳴いているのも聞こえる。
「我‥‥楽し、かった」
「美音、また皆さんといっしょにここに来たいです」
 その声は、かけがえのない休日の終わりを告げているようにも聞こえた。
 ほんのちょっぴり、センチメンタルな気分。
 それをひっくり返したのは、麗華の一言で。
「もちろん、また参りましょう? 今度はわたくしがお弁当をつくってさしあげますわ」
「えっ!?」
「麗華‥‥料理‥‥上手い‥‥?」
 やや不安そうな美音とヴァサーゴの言葉に、お嬢様はぷーっと頬を膨らませた。
「ちょっとふたりとも! なんですのその顔は」
 すかさず冬無がフォローに回‥‥
「私は麗華さんの作ったものなら、何でも美味しくいただきますですよ♪ たとえ消し炭でも塩の塊でも♪」
 ‥‥えーっと。
「な、なんですって伊万里? 待ちなさい!」
「え、何か私悪いこと言ったですかーっ!?」
 逃げる冬無、追う麗華。
 ふもと目がけて駆けてゆく2人の背中を、残された美音とヴァサーゴが微笑みながら見送る。
「‥‥二人‥‥仲良し‥‥?」
「ええ、私たちもですよ♪」
 短いやりとりの後、芝生に伸びた長い影が、そっと手をつないだ。


「皆、約束ですよ。また、来ましょうね」






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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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gb0839/大鳥居・麗華/20/女/ビーストマン
ga7281/L3・ヴァサーゴ/12/女/ファイター
ga8209/伊万里 冬無/18/女/ダークファイター
gb8029/柚紀 美音/16/女/スナイパー


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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乙女の皆さんこんにちは、クダモノネコです。
この度は納品が遅れてしまい、大変ご迷惑をおかけ致しました。申し訳ありませんでした。
初夏のピクニック、楽しんでいただけたなら幸いです。

■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
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CATCH THE SKY 地球SOS
2011年06月21日

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