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『女装という名の男のたしなみ 』
マミエル・ランキパ8317)&三下・忠(NPCA007)
拝啓。
私、マミエル・ランキバと申します。未来の妖精王国において、王女に仕えるしがない魔導士でございます。現在は訳あって私どもにとっての「過去」である現代に身を置いております。どうぞ以後お身知りおきを。

さて、私めの記憶が確かならば、王女様に着替えを届けるため新聖都学園を訪れたはずなのですが、どうも場所を間違えてしまったようです。
聞き及んだところによれば、かの学園は共学校であるとのこと。王女が通っておられるのですから、当然と言えば当然のことなのですが。
しかし教えられた教室に、私の探し求める麗しい御姿はございませんでした。それどころか、室内は男の汗にまみれた、なんとも形容しがたい空気に包まれていたのであります。
そう……言うなれば、男祭り。
これは如何なことかと首を傾げまして、手近な椅子に腰かけた学生服のナイスガイに声をかけたのです。
「失敬、お尋ねしたいのだが、ここは新聖都学園で間違いないだろうか」
するとナイスガイは男気溢れる白い歯を光らせて、衝撃の事実を語ってくださいました。
「いや、まあそうなんだけど、なんか? 妖精の儀式? とかっていうやつ拒否したら男にされちゃった、みたいな」
野太い声で女子校生のような事をのたまったナイスガイは、両頬に手を当ててはぁっと乙女のような溜息をもらしました。
つまり、この男祭りは、我々の身内の仕業ということでしょう。龍たちに対抗する手段として、古代人を呼ぶ儀式のさなかで、彼……もとい彼女たちの言葉が、我らが同朋の逆鱗に触れたのです。
成程、事態を把握した私めは、大声で何やら騒ぎたてている室内の中央に足を向けたのです。
「いかがした、ご婦人どの?」
私が逞しい胸板のご令嬢(だったと思しき殿方)に話しかけると、彼女はくるりと顔を向け、野太い声で可憐にのたまった。
「あたしたちこのままじゃ困るのよぉ、あなた、何かいい方法知らない?」
そう問われては、私もノーとは申し上げられません。なにせ我らが同朋の所業、さすれば私にも責任を取る必要がございましょう。
首を縦に振り、改めて彼……もとい彼女の横に視線をやると、可憐な少女とも見紛う少年の姿が目に飛び込んできました。
「ふむ……承知いたした。それでは、私めの術で一時的に彼を妖精にしてさしあげましょう。妖精の王女に化けさせた彼に、何らか言葉をかけさせれば、相手方も諦めるのでは」
「……ということは、忠くんに可愛ぃい洋服を着せてあげればいいってことぉ?」
「左様。少年、いかがかな?」
私が水を向けると、少年は小さな肩をびくっと震わせて、今にも泣き出しそうな声で呟きました。
「ぼ、ぼ、僕ですかっ!?」
「女性の願いを聞きうけるのは、男の宿命。女性が手を困っているときに手を差し出してこその紳士というものですぞ」
私がびしっと言ってやりますと、周囲の筋骨隆々な乙女たちが、口ぐちに声を合わせてそうよそうよ! とはやし立てます。
事情を知らない者が見れば、いかほど奇怪な場面だったでしょうか。しかし、外聞を気にして行動しないなど、男の風上にも置けませぬ。
「いかがかな、少年」
問い詰めるようにずいっと寄ると、今にも泣きそうな顔をして、少年はこくこくと頷いてくれました。
やはり誠心誠意説得をすれば、理解は得られるものですな。それとも、それだけ私の言葉に力が籠っていたという証明でしょうか。どちらにせよ嬉しい事に変わりはありません。私はより一層、彼らの力になってやりたいと感じた次第でございます。

さて、王女になり済ますとなれば、まずはビキニです。
ぴらぴらの薄っぺらいビキニを少年の目の前にちらつかせると、彼は半泣きになりながら震える手でそれを掴みとりました。
まだまだ序の口だというのに、どれだけ焦らせば気が済むのでしょう。彼……もとい彼女はそれを色々な方向から眺めると、この期に及んで「本当に着るんですか」などと言い出す始末。
喝。そんな態度で敵が騙せると思ったら大間違いですぞ!
もどかしいのは私だけではなかったようで、詰襟を着こんだ淑女たちが忠殿の手を取り足を取り腰を取り、やさしく指導して差し上げております。
うむ、やはり女ものの着用方法は女性に訊ねるのが最良ですな。
次に取り出したるは、いわゆる「すくみず」というやつでありまして、遊戯としてではなくスポーツとして水泳を楽しむ際に、現代の女性が着用するゆにほーむなのだそうで。
伸縮性に富んだ素材でできたそれをつまみ上げると、忠殿は顔を真っ赤に染めておどおどと落ち着かない様子。どうやら着かたがいまいち分からないご様子であります。
然らば私めが着用方法を指導して差し上げようと、文字通り一肌脱いでさしあげよう。
ばっと上着を脱ぎ捨てて忠殿の手から水着を奪い取り、ぽっかりと開いた丸い穴に足を通そうといたしました。
しかしなぜか、女性陣がぶうぶうと野太い声で抗議してきます。
「おっさんが着たらただのレスラーだろうが常識的に考えて」
「おっさんいいから忠に着せろよ」
僭越ながら、まだおっさんと呼ばれるような歳ではないのですが。それに冷静に考えれば彼女たちの方が年上なのでありますが、紳士である私はそのようなことは申しません。代わりに抗議の意味も込めて、彼女たちの制止を振り切りれおたぁどに似たその洋服を身につけて差し上げました。
うほっこれはいい着心地……
「意外にも着られるものですなぁ」
見られたものではないかもしれぬが、着ることはできる。女性になったような気分で悦に入っておりますと、私の先導が勇気になったのでしょう、忠殿はようやく共に着替える意思を見せてくれたのです。
いやあ、頑張った甲斐がありました。思わず笑顔になりながら、彼……もとい彼女の着替えを手伝います。
「次はこちらです」
「ぶ、ぶる、まですか……」
「シャツは中に入れて下さい。淑女のたしなみですぞ」
取り囲む男たちの熱い視線に屈するように、涙目の忠殿が次々に着替えてゆきます。
「ブルマだけじゃなくて、こんなフリフリも穿くんですか……」
ぷるぷると小動物のように震える彼を、私は諭すように優しく指導してさしあげます。
「フリルこそ気品ですぞ、王女様」
そう。目的を見失いかけておりましたが、彼を王女様に偽装するのが我々の目的でございます。姿だけでなく心までも成りきってもらわねばなりますまい。
そうなれば、外見だけでなく中の着物もまた王女様を模倣する必要がございます。彼女と同様にして重ね着をせずに、彼女の胸中を推し量ることなど、誰にできましょう!
「す、スコートの上にスカート……? なんでこんなにいっぱい重ね着、」
「紺と純白は国旗の色であるからして。さあ、赤のタイを結んで完成です」
どうでしょう、我ながら完ぺきな扮装が完成いたしました。この姿ならば誰もが、彼……もとい彼女を王女だと信じて疑わないでしょう。
一仕事終えたところで、共に戦った戦友であるところの元貴婦人方と祝杯を交わすことにいたしました。
涙目の忠殿? そんなものは、忘れたふりをしておきましょう。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
クロカミマヤ クリエイターズルームへ
東京怪談
2011年06月27日

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