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『【KMC】射手座の残光 』
漸 王零(ga2930)&井出 一真(ga6977)&櫻小路・なでしこ(ga3607)&終夜・無月(ga3084)&新条 拓那(ga1294)&煉条トヲイ(ga0236)

●南からの敵影
(何が起っている……?)
 UPC正規軍と共にフロレス島より出撃、フェニックスを駆りバグア軍基地上空で交戦中の煉条トヲイ(ga0236)は、機内のモニター画像に表示される戦闘の動向に眉をひそめた。
 つい数分前まで、戦況は圧倒的に人類側優勢だった。
「オーストラリア方面より敵の増援部隊が接近中」との報告を受けた時は全軍に緊張が走ったものだが、判明した新手のバグア軍ワームはおよそ80機前後。本星型HWとタロスからなる精鋭部隊は確かに侮れないが、現在の戦局を覆すほど大きな戦力とも思えない。
 問題はバグア側の反応だ。
 もはや潰走寸前に追い詰められていたはずの敵基地守備隊が、援軍到着を知った瞬間から突如息を吹き返したように態勢を立て直し、組織的な反抗を開始したのだ。
(これは兵力の問題じゃない。増援部隊の指揮官……奴らにとって余程の信望を集める者が現れたということか?)
 その疑問は、割り込み通信をかけてきた男の顔を見て氷解した。
『久しぶりだな、傭兵ども。また会えて嬉しいぞ』
「やはり、生きていたか……シモン(gz0121)!」

 南方から接近してきたバグア編隊から、1機の青いティターンが先陣切って矢の如く飛び出した。
 偶々進路上にいたUPC軍KV十数機を瞬く間に撃墜すると、シモン搭乗機と思しきティターンは反転・急降下し、傭兵部隊が陸上ルートで攻撃中のバグア基地へと向かって行く。
「いかん! 俺は編隊を離脱してシモンを追うぞ!」
 正規軍の指揮を務めるチェラル・ウィリン(gz0027)へ通信で許可を求める。
『頼むよ煉条君! もし地上基地の攻略を妨害されたら、今回の作戦は失敗だ!』

●「射手座」の逆襲
 地上でバグア基地侵攻の戦いを続けていた傭兵部隊も、既に敵の増援部隊到着、次いでゾディアック「射手座」シモン帰還の報せを受けていた。
 基地内から現れたハリ・アジフ率いるNDFのタロス部隊は友軍の別動隊に任せ、漸 王零(ga2930)、新条 拓那(ga1294)、終夜・無月(ga3084)、櫻小路・なでしこ(ga3607)、井出 一真(ga6977)、そしてマリア・クールマ(gz0092)らが搭乗するKV各機は、降下してくるティターンを警戒して各々の兵装を上空に向けた。

 ティターンは地上50mほどの超低空まで降りてきたところで動きを止め、眼下を睥睨するかのように滞空した。飛行形態でも人型を保っているのはタロスと同様だが、その背部に量産機とは明らかに異なる半球状のポッドが増設されている。
「亡霊が何の用です?……」
 最初に穏やかな声で通信を送ったのは無月だった。
『ご挨拶だな。私はまだ生きてるぞ? 確かにステアーが墜とされ深海に沈んだが、万一に備え水中用ワームを待機させていたのが幸いしてね』
「あの後、轟竜號で我らは汝と融合したバイオステアー、そして汝の分裂体と戦い滅ぼした。あれはいったい何だったのだ?」
 険しい口調で王零が問う。
『バイオステアーに分裂体か……大方ステアーのパーツに使われていた生体機械が、私の生体エネルギーの影響を受けて暴走したというところだろう』
「生体エネルギー?」
『そう。貴様らも極東ロシアの戦場で見ただろうが? バグアが永い歳月をかけて取り込んできたヨリシロたちの能力を一気に開放する限界突破……最後の切り札であり、また己を自滅させる諸刃の剣でもある。だが私はその破壊的なエネルギーを、自らのエミタで制御することにより限界突破を起こさず安定して取り出すシステムの開発に成功した。それがあのステアーZCだ』
「もっともらしいこと言ってるけど、おまえ本当にシモンか?」
 わざと挑発的な口調で拓那が通信に割り込んだ。
「どうせバグアお得意の替え玉だろ? 見え見えなんだよ!」
『その声は新条だな? 懐かしいじゃないか。以前カメルの軍港で私に殺されかけて、命拾いしたことも忘れていまいな?』
「なるほど。それを知ってるということは……やはり『本物』ってワケか」
 ティターン搭乗者が確かにシモンであること、そして以前通りの記憶と意識を有する同一のヨリシロであることを確認し、拓那は満足したように呟いた。
 改めて通信機に向かい、今度は真剣な言葉で己の決意を告げる。
「おまえが本物のシモンなら言っておこう。人としてのおまえを終らせて、化け物にしちまった責任を今果たすよ。俺の全力で、おまえをバグアから解き放つ!」
『化け物か……生前のシモンは幼い頃から地下組織に強制され、プロの暗殺者として育てられた。シモンを怪物にしたのは、他ならぬ貴様ら人類ではないか?』
「なぜメイ様にあんな無茶をさせたのですか!?」
 厳しい口調で糺したのはなでしこだった。
「メイ様は最後まであなたを信じて戦いました。なのに……あなたにとっては、メイ様も道具に過ぎなかったのですか?」
『メイのことは言うな。……知っていれば止めていた』
 心なしか気まずそうに答えるシモンに対し、なでしこはなおも毅然として通信を送る。
「シモン様、迷い現れたのでしたら、今度こそ迷わない様に全力を以て丁重にお送り致します」
『そういうわけにはいかんな。私には、まだこの惑星でやる事がある』
 ティターン頭部の機体カメラが動き、傭兵たちの後衛に位置するアンジェリカに向けられた。
『そこにいるのはマリアだな? 同じ人間にあれだけ酷い仕打ちを受けたおまえが、なぜ人間どもを守るために命がけで戦う必要がある?』
「私は……」
『今からでも遅くはない……こちらへ来い』
「――違う! あなたは、私が知ってるシモンじゃない!」
 コクピット内で激しく頭を振ってマリアは叫んだ。
「やめろ! 彼女を惑わせるな!」
 獣型の阿修羅「蒼翼号」の頭部アイカメラが、まるで一真自身のようにティターンを睨み付けた。
『誰だ? いや、その機体にはいつぞやの戦いで見覚えがあるな』
「悪いけれど……今のあなたに彼女は渡せない!」
 足りないものは幾らでもある。
 だがそこは覚悟で補って見せる――と腹を括っての宣言だった。
『……さて、少々お喋りが過ぎた。では貴様たちには実験台になってもらおうか? このティターンZC、実戦テストのな!』

 ティターンの機体が、FFとは異なる青白い光芒に包まれた。
 高度はそのままに、青い人型ワームは慣性制御特有のジグザグ飛行を開始。
 低高度から傭兵KV部隊にプロトン砲の光線を浴びせてきた。
 傭兵たちも各自対空射撃を始めるが、ただでさえ高機動の敵機に対し、地上からの砲撃では殆ど効果は望めない。
「我らも上がるしかないか……」
 王零が離陸のチャンスを窺い始めたとき、ちょうど上空から急降下してきたフェニックスがティターンに攻撃を仕掛けた。
 シモンを追跡してきたトヲイ機だ。
 ティターンの注意が上方からの敵に向けられた瞬間を利用し、迷彩塗装を施した王零の雷電「アンラ・マンユ」を始め傭兵KV各機は空戦形態に変形、一斉に空へと駆け上った。
「王零、無茶はするなよ? と言いたい所だが、仕方が無い。存分にやれ!」
 トヲイから気遣うような通信を受け、王零はチラリと計器板に目をやる。
 バグア基地突入時に最初の強行着陸を果たしてから休み無しの戦闘で、アンラ・マンユの損傷率もやや大きいようだ。
「何のこれしき。やれるところまでやるまでだ!」

『ふふっ、飛び入り歓迎だ。標的は多ければ多いほど面白い!』
 ティターン背部のポッドから黒く小さな影が連続して射出される。
 KV各機は咄嗟に回避行動をとるが、それはミサイルではなかった。
 全長2mほど、アーモンド型の飛行物体――だが次の瞬間、先端部が花のように開いて禍々しいプロトン砲が姿を現わす。
 戦闘用子機。先の北京解放戦においてはゼオン・ジハイド専用機ソルが同様の兵器を使用している。
 7対1でティターンを包囲、集中攻撃を加えようとしたKV編隊の間に飛び込んだと見るや、計5つの子機は至近距離から容赦なく淡紅色のプロトン光線を浴びせ始めた。
 致命的な破壊力こそないものの、その威力と命中精度は並の小型HWを凌ぎ、しかも小回りが利く分回避も高い。
 拓那のペインブラッド「Windroschen」、なでしこのマリアンデール「藤姫」が共に範囲攻撃の可能な機体スキルで子機を狙うも、シモンはその裏を掻くように巧みに子機を操り、つかず離れずの砲撃で傭兵たちの機体生命を削っていく。
 王零はK−02ミサイルの発射態勢に入ったが、その時ダメージの蓄積したアンラ・マンユの機体がガクンと揺れ、マルチロックオンのタイミングを逸してしまった。
「くっ。こんな時に……!」
 さらに子機の攪乱攻撃で連携を乱されたKV各機を、親機ティターンの強化プロトン砲、大口径スナイパーライフルが狙い打ちにしてくる。

 僅か数分の戦闘で、傭兵たちのKVは大破寸前までボロボロにされていた。
『思い知ったか? これが私とおまえたちの力の差だ!』
 通信機から勝ち誇ったシモンの哄笑が響き渡る。
 だが傭兵たちもただ一方的にやられているわけではなかった。
 めまぐるしくKVにまとわりつき攻撃してくる戦闘用子機の動きに、ある一定のパターンが存在することに気づき始めていたのだ。
「あの子機を操作しているのがシモン自身なら、当然彼のクセも反映されるはず――俺が分析したこれまでのシモンの戦闘パターンです。今から全機に転送するから参考にして下さい!」
 一真が仲間たちに呼びかけ、同時にデータ転送を開始する。
 過去のシモンの戦闘パターンと子機の動きは確かに一致していた。
「助かります……」
 無類の運動性を誇る無月のミカガミ「白皇」が、機体を捻りつつ子機の攻撃をかわし、ブーストオンでティターン本体へと肉迫する。
 シモンは舌打ちして子機を呼び戻し、白皇を追撃させた。
 ――が、これこそ無月の真の狙いだった。
 1つの目標を追尾する5つの子機は、自ずと密集することになる。
 その瞬間を狙い。
 Windroschenが温存していた最後のフォトニック・ブラスターが。
 藤姫のDR−M荷電粒子砲の掃射が。
 アンラ・マンユのK−02ミサイルが――。
 互いにタイミングを合わせて発射され、全ての子機を爆散させた。
 愕然とするシモンだが、すぐ気を取り直すとティターン単機での戦闘に備える。
 そんなシモンの目に映ったのは、ブーストオンで体当たりのごとく突撃してくるアンジェリカの機影だった。
『マリア? 愚かな真似を』
 さすがに攻撃を躊躇い、機体をスライドさせて回避する。
 しかし過ぎ去ったマリア機の陰からもう1機の阿修羅――蒼翼号が飛び出し、剣翼の一閃がティターンの機体に刻みつけられた。
『なっ……!?』
 一真とマリア、たった2人の小隊「スカイブルーエッジ」による連携である。
 続いて突入した拓那はブラックハーツを起動、Windroschenの機体性能が許す限り最大限の全力攻撃を叩き込んだ。
 拓那機の動きになでしこも呼応、M−12強化粒子砲が光の矢でティターンを射抜く。
『小癪なぁぁぁっ!』
 怒りの雄叫びと共に、なりふり構わぬティターンの反撃。
 重大なダメージを受けた一真、拓那、なでしこの各機はやむなく高度を下げ、眼下の海岸部へ不時着を試みた。

●最後の死闘
 残る白皇、アンラ・マンユ、そしてトヲイのフェニックスがティターンを包囲し、連携して集中砲火を浴びせる。
 トヲイは間合いに入ったところでフェニックスの変形スタビライザーを起動。
 まずは機槍の一撃でティターンの胴を貫く。
「己丑北伐での戦いを、今こそ終らせる。……唸れ! 練剣!!」
 H・O・グローリーで射程を伸ばした練剣で続けざまの斬撃を加えた。
 いったんは大きく機体を傾けるシモンだが、
『――まだだっ!』
 体勢を立て直しSライフルをパージすると、近接戦用の特殊サーベルを抜いて傭兵達のKVへと斬りかかる。量産型タロスと違い、空中挌闘も可能な様にカスタマイズされているのだろう。
 飛行形態に復帰したトヲイ機と入れ替わるように、今度は無月の白皇が前に出た。
 アンラ・マンユの砲撃と連携してアハト・アハトのレーザーを浴びせつつ急接近、
「貴方の傍が唯一の許された居場所……メイの言葉です……」
 純白の機体から放たれた粒子砲のビームがティターンの肩口に命中。
 膨れあがる爆炎が一瞬シモンの視界を奪い、次の瞬間には一気に間合いを詰め、空中で人型変形した白皇の機体がモニター画面一杯に現れた。
『何ぃ!?』
「亡霊が彷徨っては其の魂が彼女と在る事は無い……シモンの亡霊よ……我が刃にて今度こそ眠るが良いっ……」
 内蔵雪村の一閃がティターンのボディを袈裟懸けに切り裂く。
 一瞬空中でバランスを失い墜落しかけるも、すかさず飛行形態に復帰し反転・急上昇した。
 立て続けの大技を食らい、さしものティターンZCも大破に等しいダメージを受けているのは明白だ。
 しかし幾つもの大穴を穿たれた機体表面は早くも自己再生を開始している。
「ここが……勝負所か」
 機体のダメージを考慮しそれまで後方からの支援砲撃に徹していた王零が、意を決してアンラ・マンユの4連ブースターを全開にした。
 機体が分解する寸前まで出力を上げ、ティターンに激突する寸前に空中人型変形。
「これで……終わりだぁぁぁぁ!!」
 ドリル状の機剣ジャイレイトフィアーが唸りを上げて回転し、ティターンに深々と食い込む。
 両機はもつれあったまま落下を始めた。
『貴様ッ、差し違えるつもりか!?』
(それも悪くないか……いつかは聖闇の底へと還る我が身だ)
 王零の脳裏にふとそんな考えが過ぎる。
 そのとき、薄れいく彼の意識に何処からか囁く声があった。
『不甲斐ない。不甲斐ないぞ零! 貴様はそこまでの男か?』
(エリーゼ……いやカルキノス?)
『誓約を忘れたか? 私以外のバグアに敗れることは許さん。刺し違いで心中など、負けも同然ではないか?』
(……ふっ。我としたことが、肝心なことを忘れていた)
 カッと王零の両眼が見開いた。
「もちろん誓約は守る! 相手がシモン、貴様であっても!」
 眼下の大地へ激突する直前、ティターンを蹴り飛ばし、地面へ向けてスラスターを全開に吹かす。
 激しい墜落の衝撃に見舞われるが、辛うじて機体の爆発は免れ、アンラ・マンユは機剣を杖にして起き上がった。
 ほぼ同時に地面に激突したティターンが大爆発を起こす衝撃波が伝わる。

 そこは戦場から少し離れた、人気のない海岸部だった。
 アンラ・マンユの操縦席を出た王零の身を案じ、先に不時着していた仲間たちがKVから降りて駆け寄ってくる。
 無月とトヲイもその場にKVを着陸させた。
「我は大丈夫だ……それよりシモンは?」
 顔を上げると、数百m離れた場所に墜落したティターンの残骸がバラバラになって浜辺の砂にのめりこんでいる。
 シモンは死んだのか、それとも――。

 淡紅色の光線が走り、傭兵たちの足元に突き刺さった。

「奴め、まだ生きてるのか!?」
「みんな、悪いけどここで奴の注意を引きつけてくれないか?」
 そういう拓那の手には、バグア基地での白兵戦に備えて用意していたツーハンドソードが握られている。
「無茶です! 手負いとはいえ、たった1人でゾディアックとなんて」
「分かってるさ。俺がやられたら、その時はみんなで奴を始末してくれ。ただし、それまでは……手出しはなしだぜ?」
 少しおどけた調子で人差し指を振ると、一転して真顔となった拓那は瞬天足で走り出した。
 30mごとに足を止める度、拓那の体はプロトン光線に射抜かれ生命を削られる。
 だが彼は体の痛みも忘れ、逆に打ち込まれる光線の射角からシモンの居場所を割り出した。
 浜辺に突き立つ残骸の1つ。
 その陰にプロトンライフルを構える「奴」がいた。
「シモン――ッ!!」
 拓那の姿を見るやライフルを投げ捨て、腰のナイフを抜くシモン。
 最後の練力を振り絞り、拓那は男の胸板目がけ真燕貫突を繰り出した。

 永遠とも思える一瞬の後――。

「ふっ。くふふ……」
 拓那の耳にシモンの含み笑いが響いた。
「皮肉だな……あの時と同じ結末とは……」
 シモンのナイフは拓那の肩を。
 そして拓那の剣は彼の心臓を貫いていた。
「すまない……本当に、人であるうちにおまえを救ってやりたかった」
「そんなことを……悔やんでいたのか……」
 シモンはナイフを捨てると、拓那から離れ砂浜に座り込んだ。
「人間のシモンが本当に憎んでいたのは人類ではない」
「……なに?」
「彼が許せなかったのは、組織の掟とはいえ父親を手にかけた己自身だ……おまえはとうに救ってたんだよ、あの男を」
「……」
「……青いな、地球の空は」
 拓那が初めて目にする穏やかな表情で、シモンは空を見上げた。
「私はこの地をバグア第2の故郷にしたかった。暗く冷たい宇宙を彷徨う同胞たちを、暖かい陽射しの降り注ぐこの惑星に……儚い夢だったが」
「本当に、俺たち殺し合う必要があったのか?」
「やむを得ん。それが我らバグアの業なのだから……だから、おまえたちも自らの星を守りたいなら覚悟を決めろ。本星のバグア軍にはゾディアックやゼオン・ジハイドなどより遙かに手強い連中もいるぞ」
「それは――」
「勝手をいってすまんが、マリアに伝えてくれ。『幸せになれ』と」
「……シモン?」

 他の傭兵たちが駆けつけたとき、既にシモンは息絶えていた。
 怪物化も限界突破も起こさない。彼自身が言った通り、そんなエネルギーはあのステアーZCによる戦闘で使い果たしていたのだろう。
「シモン様は……本当はご自分の死に場所を求めていたのではないでしょうか?」
 なでしこの疑問に答えられる者はいなかった。
「いと高き月の恩寵が在らん事を……」
 眠るように頭を垂れたシモンを見つめ、弔いの言葉のように無月が呟いた。

●エピローグ
 サラスワティに帰還した傭兵たちを出迎えたのは、別行動でハリ・アジフ殲滅に成功した仲間たち、そしてプリネア軍将兵たちの陽気な祝勝パーティーだった。
「大義であった。本艦はこれが最後の任務となるが……これからもその方らの武運を祈っておるぞ」
 仲間たちを代表し戦闘結果を報告するなでしこの両手を握り、なぜかセーラー服姿のラクスミ・ファラーム(gz0031)が涙ぐんで何度も頷く。

 パーティーの喧噪から離れ、一真は空母の格納庫で傷ついた蒼翼号を黙々と修理していた。
 その傍らに、やはりセーラー服に着替えたマリアが立っている。
「これで本当に終わったのね……」
 放心したように呟く少女の頬を一筋の涙が伝う。
「……終わってません」
「え?」
「だって、マリアさんまだ笑ってないじゃないですか? マリアさんが心の底から笑顔になれる、その日まで俺は戦いますよ」
「私で……いいの? 私の中に、まだあの人がいるんだよ? 一生消えないかもしれないんだよ?」
「構いませんよ。ちょっと癪だけど、それでマリアさんが幸せになれるなら――ほら、シモンも最後に言ってたじゃないですか?」
「カズマ……」
 ツナギ服の一真に、おずおずとマリアが歩み寄る。
 どちらからともなく抱き合い、やがて2人は唇を重ねていた。

 その夜、王零は空母の整備兵に頼んでアンラ・マンユを何とか飛べるまでに応急修理してもらい、最後の戦場となった浜辺へと引き返していた。
 トヲイと高瀬・誠(gz0021)も各々のKVで同行している。
「UPCは今回シモンが出現したことを機密扱いにするそうです」
 誠が残念そうに報告した。
「ゾディアック『射手座』は己丑北伐の戦いで殲滅した……公式発表した手前、やはり正規軍としての面子に関わるそうですから」
「構うものか。我らは奴とこの地で戦い、そして決着をつけた……それで充分だ」
 そういうと、王零は持参した酒を浜辺に注いだ。
「そうだろう? シモン……」
 トヲイは夜の海に目を向けた。
「母なる海で眠れ。メイが待っている……」


 ひと月ほど後――。
 なでしこは誠と共に名も無き小島を訪れ、そこにある結麻・メイ(gz0120)の墓を詣でていた。
「シモン様をお連れしました」
 軍に遺体を回収される前、こっそり切り取っておいた一房の髪を、メイの墓の隣に立つもう1つの墓の下に埋める。
「来世では、どうぞお2人でお幸せに……」
 墓前でしばし合掌してから、背後の誠に振り返った。
「あれから、真弓様の容態は?」
「ええ、おかげさまですっかり回復して……あとは、元の体に戻るために必要なエミタ鉱石ですが……いざとなったら、僕のエミタを提供するつもりです」
 最近では医学も進歩し、能力者のエミタ摘出手術も以前より遙かに安全となっている。
「それは本当によかったですわ。もし真弓様が施設を出られたら、ぜひお2人でL・Hに遊びに来て下さいね?」
 にっこり微笑むなでしこの頭上遙かを、解放されたカメルへ戦災復興の物資を運ぶ輸送機編隊が、KVに守られ一路南へと飛んでいくのだった。
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
対馬正治 クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2011年06月28日

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