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『+ 私らしく前向きに + 』
深沢・美香6855)&國井・和正(7002)&三下・忠雄(NPCA006)



 私はソープ嬢だ。
 一番最初にこの文章を述べるのも今の私を知ってもらいたいが為。
 過去、結婚詐欺に遭い多額の借金を背負わされた私はその金を返す為の手段としてソープ嬢としての道を選んだ。当時は自暴自棄となり、望んでもいない相手へ望んでもいない方法で接待を行う事に抵抗があったが、ある事をきっかけに私の中の考えは180度変わった。
 最初こそ嫌悪していた職種ではあったが、今ではその仕事もまた誰かを癒す仕事の一つだと前向きに考える様になったのだ。
 そう思えるようになったきっかけには今でも感謝している。


 お嬢様として親の敷いた道を生き、自由を求めていた過去。
 ソープ嬢として自棄になっていた過去。
 どちらも後ろ向きに生きていたことには変わりない。しかし自分の境遇を嘆いていただけの自分はもういないのだ。上流家庭の生まれから一変した事も、ソープ嬢として働く今も過去があったからこそ。


「いらっしゃいませ、お客様。ウサギの美紀がご案内させて頂きます」


 そして今日も私はバニーの衣装を身に纏いながら客人の前へと堂々と姿を現す。客人と共にスタッフに個室へと案内されながら私は笑顔を浮かべた。



■■Side:國井 和正(くにい かずまさ)■■



「なんか吹っ切れたんじゃね?」
「そうかしら」


 私は男に酒を注ぐ。
 男の名は國井 和正(くにい かずまさ)、私の大学時代の元同級生だ。大学時代からも何かと付き纏ってきた男で、今も私が働くこのソープランドによく遊びに来る。個人的感情で言うならば典型的な不良男。性格はプライドが高くて飽き性。そのせいか揉め事をしょっちゅう起こしている。
 しかし彼の家は私の家が霞むほどの資産家で、親の後ろ盾を使って小さな悪事ならコネを使って揉み消す……、ある意味関わりたくない人種であった。金に関しては困っている様子は無く、近辺のチンピラや不良に金をチラつかせて顔役を務めているとか。
 そこまでは踏み入りたくないので私はそれが事実なのかは知らないけれど。


 和正の手が私の腰へと回り、ぐっと力を込めた。
 その為僅かに酒が揺れ、コップの縁から逸れて零れる。慌てて傍にあったおしぼりでテーブルの上を拭こうとするも腰に回った手がそれを許さない。がっしりと掴まれた状態では動きが制限されてしまい、仕方なく手を伸ばすだけの形で私はテーブルの上を拭いた。


「ちょっと前までは仕事は嫌そうにやってたじゃねえか。他の客にはどうだか知らねえが、俺に対しては酒を注ぐのもあくまで仕事と割り切った感じだったのによ。それが今はどうだ。雰囲気が柔らかくなってやがるじゃねえか」
「あら、そう見えますか?」
「何かあったにしろ、理由は借金完済だけじゃねえな。それだけならさっさと仕事を辞めてるだろうしよ。なあ、何があった?」
「大した理由ではありませんわ」


 業務上、元同級生にも一応敬語を使う。
 しかしその態度が気に食わなかったのか、彼は腰に回した腕を更に引き寄せ、唇を私の耳へと寄せた。もちろんウサギの耳ではなく、本物の耳にだ。
 ねちょりと、舌が這う。
 酒臭い息が鼻先をくすぐったが、私はおしぼりから手を離しその流れで人差し指を立て相手の鼻の頂点をちょんっと押した。彼の目が真ん中に寄るのが見える。それから不思議そうな視線で彼は私へと顔を傾げた。


「少しだけ仕事について考え方を変えることにしたの。ただそれだけよ」
「ホントかよー。信じらんね」
「でもこの仕事を辞めない方がそっちには都合がいいんじゃないかしら? 金さえ払えば私はここに居るもの」
「そりゃあ、そうに違いねえんだけどさ」
「じゃあ、それで良いじゃない」


 いつまでもこの男相手に敬語を使っているのはそぐわない。
 私はやがて仕事用の敬語から『同級生』相手への口調へと変えた。それが良かったのか、男は機嫌を良くする。
 しかし「腕を離して頂戴」と願っても彼はまだ納得していないのか今度は腰から胸へと手を上げてきたので、めっ、と子供を叱る要領で手を叩き落すことにした。



■■Side:三下 忠雄(みのした ただお)■■



 今日の仕事も終わり、私服へと着替え店の外で両腕を伸ばす。
 朝日が眩しい。手を額へと押し当て光量を調節しながら私は空を見上げた。仕事柄朝帰りは当たり前。分かってはいるものの朝夜逆転生活は身に堪えるものがあった。


「あ、深沢さんじゃないですか」
「あら……三下さん。お久しぶりですね」


 かけられた声に反応しそちらへ顔を向ければそこには以前自分に取材を申し込んできたスーツ姿の男が居た。
 彼は三下 忠雄(みのした ただお)。白王社・月刊アトラス編集部の編集員だ。年は私よりも少し上。おどおどとした性格で、ちょっと記者向きとは思えないところがある。実際上司に対してあまりにも頭が上がらず、良いように使われているようなニュアンスの言葉を取材中に零していた事もあった。


「三下さんはこんな時間にどうしたんですか?」
「いや〜、また急に怪奇現象についての取材に行って来いと昨夜編集部を追い出されまして〜……しかもうっかりドジって終電逃しちゃって、仕方ないからネットカフェで時間つぶししてましたぁ〜」
「あ、相変わらずお忙しそうですね……」


 どよーんっと暗い雰囲気を背負う三下へと同情の視線を送る。
 終電を逃してしまう事はよくある話だ。しかし仕事で逃したとなると流石に僅かに哀れみを抱く。美香は苦笑いを浮かべながら駅へと足を向ける。当然三下も駅が目的なのだから同じ方向へと歩き出した。


「三下さんはこれから家に帰られるんですか?」
「うーん、本当はそうしたいところなんですけどこのまま帰っちゃうと出勤時間が合わなくなっちゃいそうなので編集部の方へと行こうかと思っているんですよ」
「お仕事大変ですね」
「深沢さんだって今お仕事帰りでしょう? 大変なのはお互い様じゃないですか」
「でもこれが私の仕事だもの。平気よ」


 駅の改札を定期を通しながら潜る。
 三下さんも同様に改札を通り抜け、階段を下りればそこはホームだ。私と三下さんは丁度この駅を境に進行方向が反対の電車に乗る。私は自宅、三下さんは編集部の最寄の、だ。電車が来る間の僅かな時間、本当に他愛の無い話を二人で続けた。天気がどうだとか、先日の怪奇現象のレポートについてだとか、こっちは客についてだとか。
 やがて私側の電車がやって来るという放送が聞こえ、トートバックを肩に掛け直して列へと並ぶ。
 ――とは言ったものの、早朝ゆえ列と呼べるほど人は居ないが。


「深沢さん、少し明るくなりましたね」
「え?」
「取材させて貰った時よりお仕事に対して前向きになられたというか、なんだか雰囲気が優しくなった気がしますよ〜。僕の勘違いかもしれませんけど」


 三下さんが私が電車に乗り込む手前でそう声を掛けて来た。
 私は一瞬目を丸めて驚くけれど、やがてふっと息を吐いて彼に微笑みかけた。複数人に自分が変わった事を認識してもらえて嬉しかったのかもしれない。
 やがてプシュー、と音がして扉が閉まる合図が鳴る。
 私は片手を肩の高さまで持ち上げて相手にさよならの意味を込めて手を振った。


 人気の少ない電車の中で私は考える。
 そして実感するのだ。私が『前向き』に歩き出した事を。
 暗く考えていた過去を振り切ることはまだ出来ないけれど、それでも前に進む事で何かが変われるなら嬉しい。


「私、まだ頑張れるわね」


 贅沢にも誰も座っていない座席の真ん中へとぽすんっと腰を下ろし、ふふっと小さく笑った。










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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【6855 / 深沢・美香 (ふかざわ・みか) / 女 / 20歳 / ソープ嬢】
【7002 / 國井・和正 (くにい・かずまさ) / 男 / 23歳 / 大学生】

【NPCA006 / 三下・忠雄(みのした・ただお) / 男 / 23歳 / 白王社・月刊アトラス編集部編集員】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、シチュノベでの発注有難うございました!
 今回は三つの視点で書かせて頂きました。実はゲーノベから今回への流れでちょっと嬉しかったりします(笑)
 仕事に対して「前向き」になった美香様が周囲の人間に認識されていく……そんな雰囲気が出ていれば幸いです。
 ではまた機会がございましたらよろしくお願いいたしますv
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
蒼木裕 クリエイターズルームへ
東京怪談
2011年07月07日

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