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『禁じられた遊び 』
皇・茉夕良4788)&怪盗ロットバルト(NPC5279)

 図書館の1階。
 自習室やパソコン室に並んで、ひっそりと扉がある。
 その扉はひどく重くて、他の部屋の扉と比べてみてもやけに古い事が分かる。
 あれは開かずの間だとか生徒間で適当な事を言われ、初等部や中等部の生徒達が肝試しとして出入りしている。
 そして大抵は開いた瞬間がっかりするのだ。
 埃臭くかびた階段がそこにはあるだけなのだ。
 放置されているせいで灯りがつかず、下に何があるのかは分からない。
 大抵はその埃臭くかび臭い匂いにうんざりして立ち去ってしまい、そして忘れてしまう。
 それこそがこの場所にかけられた魔法だと言う事に気付きもしないで。

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 階段に足音が響く。
 開かずの間と呼ばれる階段を、皇茉夕良は駆け足で降りていたのだ。
 茉夕良は理事長から渡されたルーペを掲げた瞬間に、ルーペにはくっきりと魔法陣が浮かび、途端にかび臭さは消えてしまった。
 ひどく古臭くて、てすりがないので替わりに石壁に触れながら降りているのだが、不思議な事に匂いらしい匂いが全くしない。かびの臭いはもちろんの事、石壁の匂いすらしないのだ。
 ここには何重にも魔法罠が仕掛けられているって言っていたけど、それのせいかしら……。
 茉夕良はスカートに入れている携帯電話をそっと触った。
 アラームが鳴るようにしているから、1時間以内にはここを出られるはず。
 そう思いながら、ようやく階段が途切れた。
 途切れた先には、クラクラとするほどの量の本棚が、この空間を埋め尽くしていた。

「……急いで探し出さないと」

 茉夕良は駆け足で走った。
 ここには「図書館では静かに」と言う司書も、図書委員も存在しない。
 そしてここを1時間以内に出ないと大変な事になるのだから、茉夕良は真剣に本棚を見定めた。
 最初に入った区画を見定める。新聞部の古い記事や、古い音楽雑誌、バレエ雑誌が並んでいる。これは多分……海棠さん達の事の情報規制かしら。
 多分、ここにはもう自分の欲しいものはない。
 茉夕良は首を振りながら次の棚へと向かった。
 1つの並びは音楽や演劇、新聞部のバックナンバーなど、情報規制で禁書棚行きになったものが並んでいた。
 茉夕良は息をつくと、裏に回り、次の棚の並びを見た。
 こっちは、小説の棚だ。
 何で禁書かは分からないけど、こっちは今は関係なさそう。
 そして、次の棚を見た。

「……あ」

 探していたものが、ここにはあった。

【こちらの棚の本は持ち出す事、写生もしくはそれに類する事を一切禁止する】

 禁書棚にも関わらず、わざわざそうその棚に注意書きが貼られてある。
 並んでいるのは、魔法や呪いに関する分厚い本の数々だった。
 茉夕良はちらりと携帯電話の液晶画面を見た。
 ……帰る時間を考慮したら、残り30分。それ以内で探し出さないと。
 茉夕良は急いで棚から手当たり次第本を取り出し、それを床に積み始めた。
 ……人を生き返らせるなんて。
 茉夕良は分厚く重い本を取り出しながら考える。
 秋也さんは話せば分かる人だった。織也さんは違うのかしら……。
 4年前にあった出来事は、2人にとっては忘れられない事なのかもしれない。でも……。

「そんな事やろうとしているなんて、信じたくない……」

 そう思いながら、茉夕良が積んだ本を取ろうとした時。
 1冊、『禁術に関する考察』と言うやけに古い本が手に止まった。
 茉夕良はそっとルーペをかざしてみると、ルーペからは魔法陣が浮かび上がる。
 やっぱり、この棚にはどれも仕掛けがあるのね……。
 茉夕良は少し震えながら、本をめくり始めた。
 その本は、世界中の禁術と言う禁術の解説がしてある本だった。どこの国のものから分からないものから、ルーマニアやイギリスなど、魔女がいると前々から言われている国のものまで、様々だった。
 茉夕良は震えながら、ページをめくる。

『死者蘇生法』

 ――――!!
 本を半分までめくった時、そんな言葉が飛び出した。
 茉夕良の心臓が跳ね上がる。
 落ち着け。落ち着け。落ち着け。
 肩で息をしながら、震える自分の肩を抱きしめる。
 茉夕良は震えながらその言葉の続きを読み始めた。

『死者蘇生法

 材料:蘇生対象の魂、7つの感情、1000の魂もしくはそれに類するもの、器
 材料を過不足なく揃え、器に全て盛る事により、死者蘇生は完成する。

 死者蘇生法が禁術とされるのは、倫理的問題だけではない。
 死者蘇生法は1番難しい術とされているためである。
 まず材料を過不足なく揃える事が難しい点がある。
 特に最後の器を、きちんと得る事が難しい。
 死んだ人間の器をそのまま使うまでに他の材料を集めきる事はまず不可能に近く、もし他の器を使えば、それは死者蘇生とも言わない』

 茉夕良の携帯電話のアラームが鳴る。
 ちょうど10分前にセットしたので、そろそろ出ればここに入ってから出るまで1時間以内に収める事ができる。
 でも、あとちょっとだけ……。
 茉夕良は他の本を片付けながらも、その本の続きを読み進めた。

『器に、他の者を使えば可能ではあるが、その場合、死者蘇生を行った人間は果たして人間と言えるのだろうか?』

 茉夕良はアラームが鳴り響く中、そこまで読み終えると、最後に残ったこの本を本棚に差し、急いでここから走り出した。

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 茉夕良が階段を昇りきったと同時に、ルーペから魔法陣は消え、うんともすんとも反応しなくなってしまった。
 どう言う事なの?
 茉夕良の頭の中にぐるぐると駆け巡る。
 7つの感情って、何かしら?
 キリスト教の教えには7つの大罪があるって言うけど……。
 前に新聞部で教えてもらった情報には、怪盗が盗んで回っているものは、古くて魔力が強いって言っていたから、これが1000の魂もしくはそれの類と7つの感情を兼ねているとしたら……。
 器って何?
 さっきからちらりちらりと可能性が頭に浮かぶのだ。

 ……もし、過不足なく材料を揃える事ができなくなったら、どうなるのかしら?

 彼が学園を追放された事を思う。
 彼がしようとしている事は、とても……。
 ひどい事。

「そんな事、してほしくないのに」

 茉夕良の心臓が、しくしくと痛む。
 それは嫌な予感がするからなのか、全速力で走ったからなのか、それとも悲しくてなのかは、分からなかった。

<了>
PCシチュエーションノベル(シングル) -
石田空 クリエイターズルームへ
東京怪談
2011年07月11日

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