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『夏の思い出〜お祭〜 』
サラファ・トゥール(ib6650)

茹だるような暑い夏の日。
体力も気力も奪いそうな暑い日々が続くけれど、
嫌な事ばかりではない。
「‥‥夏祭り、か」
7月になる前から色んな場所に貼られた『夏祭り』の案内広告。
今日は夏祭りの当日であり、街を歩く人達もどこか浮かれているように見える。
「行ってみようかな」

視点→サラファ・トゥール

「今日も暑いですね‥‥でも砂漠の暑さに慣れてるから、他の人達ほど辛くはないかも」
 サラファ・トゥールは空を見上げながら呟く。
 空は綺麗な青空で、じりじりと照りつける太陽にサラファは目を細めた。
「これなら楽しい夏祭りになりそう」
 道行く人を見ながらサラファも楽しそうに言葉を付け足した。
 最初は夏祭りの広告を見かけた事が始まりで、お祭好きなサラファも今日を楽しみにしていた。
「今日も暑いねぇ、そうそう‥‥夕方になったら浴衣の着付けを手伝ってあげるから来るんだよ?」
 買い物帰りなのだろう、近所のおばさんが両手に買い物袋を持ちながらサラファに言葉を投げかけてきた。
「はい、よろしくお願いしますね」
 郷に入っては郷に従え、というわけではないけれど夏祭りに行く事を近所のおばさん達に伝えると浴衣を貸してくれる事になり、サラファは浴衣を着て夏祭りに行く事になった。
「見せてもらった浴衣、すごく綺麗だったなぁ‥‥」
 色々な浴衣を見せてもらったのだが、サラファが気に入ったのは帯は赤地で浴衣は白地にキキョウの咲いてる模様の浴衣だった。
「夏祭りも楽しみだけど、浴衣を着るのも楽しみかも」
 ふふ、とサラファは小さく笑って夕方から始まる夏祭りのことを考えていた。

 そして夕方――‥‥。
「よし、これで着付けはおしまいだよ。なかなか似合うじゃないか」
 からん、と下駄の音を鳴らしながらサラファはくるりと回りながら鏡で自分の姿を見る。
(いつも着てる服より動きにくいけど、風情があっていいかも)
 白地の浴衣がサラファの白銀の髪、褐色の肌を更に引き立てており、妖艶な雰囲気を醸し出している。
「それじゃ楽しんでくるといいよ。小さな神社でやるお祭だけど、毎年人は沢山集まるし、最後の花火も綺麗だから」
「はい、ありがとうございます」
 サラファが軽く頭を下げて出て行こうとすると「ちょっと待って」と呼び止められ、後ろを振り向く。
「お祭にはバカ騒ぎする人も出てくるから気をつけるんだよ」
 分かりました、と言葉を返しサラファはお祭の会場となっている神社へと向かって歩き始めたのだった。

 夏祭りが開催される神社は意外と近場で、これから夏祭りに行くであろう浴衣の女性や甚平の男性が歩いている姿がサラファの視界に入ってくる。
「‥‥太鼓の音?」
 神社に近づくにつれて『どん、どん』と太鼓の音も近づいてくる。
「う、わぁ‥‥」
 夏祭りの会場、そこにはどこから集まったのかと問いたくなるほどの人で溢れかえっており、まともに歩くこともままならない状況だった。
「すごい‥‥こんなに人が集まるんだ‥‥」
 人が沢山集まるとサラファは聞いていたが、まさかこんなに人が集まるとは思わなかったのだろう、驚きで目を丸くしながら周りを見渡していた。
(やっぱり祭の雰囲気は好きだなぁ‥‥)
 サラファは心の中で呟き、近くにあった屋台でりんご飴を買い、食べながら神社の境内へと向かう。
(わ、こんなに堂々と外でお酒を飲む人もいるんだ‥‥)
 境内の片隅に座り込んでビールを浴びるように飲む男性を見かけ、サラファは心の中で呟きながら驚いていた。
 普通ならば許されない――‥‥というまではないけれど、良い印象には見られないはずなのに祭の雰囲気がそれらを許しているようにも見える。
(不思議なものね、祭というだけで普段は「えっ」と思うような事も違和感なく見えるもの‥‥きっと夏祭りには心を解放させる何かがあるんだわ)
 色々な所で騒ぐ人を見ながらサラファは心の中で呟いていた。
「おい」
「え、きゃっ‥‥」
 呼び止められると同時に腕を掴まれ、サラファは前につんのめって転びそうになる。だけど掴まれていた腕のおかげで転ぶことはなかった。
(危なかった‥‥でも、そもそも腕を掴まれなければ転びそうになる事もなかったんだけど)
 少しだけ恨めしそうに掴んできた男性を見ると、顔が赤くなっており、サラファの腕を掴んでいる逆の手にはビール缶が握られていて、どこから見ても酔っ払いの男性だった。
「あの、何か用でしょうか?」
 酔っ払いを刺激しないように、サラファが大人しく言葉を投げかけると男性は言葉の代わりに下卑た笑みを浮かべる。
「ねーちゃん、外人だろう? 夏祭りの楽しみってのを俺が教えてやるよ」
「‥‥いえ、結構ですから」
「そう冷たいこと言うなって。それとも教えてやろうっていう俺の好意が受け取れないってのか?」
 周りの歩いている人達もサラファが絡まれている事に気がついてはいるけれど、関わりたくない、巻き添えを食らいたくない、というのが本音なのか申し訳なさそうに横を通り過ぎる者、全く関心を見せない者、それぞれだった。
(おばさんが心配していたのは、こういうことだったのね‥‥)
 男性に気づかれないように小さくため息を吐きながら、どうしたものかと思案する。
(追い払えない程度の人じゃないけど、そうするとこの人をケガさせてしまうかもしれないし‥‥かといってこのままにしておけば夏祭りを楽しむ事が出来ない)
「あの、あれって何ですか?」
 サラファが男性の後ろにある物を指差しながら問いかける。
「あ、どれ?」
 男性が後ろを振り向いた瞬間、サラファは走り出す。ケガをさせるのも悪い、だけど祭は楽しみたい――‥‥サラファがたどり着いた結論は『逃げる』だった。
(この人混みに紛れてしまえば、そう簡単に捕まる事はないはず)
 サラファの考え通り、男性はサラファが気にしてた物が見つけられないのかサラファが逃げた事にすらまだ気がついていない。
「どれだよ、おい――‥‥っていねぇ!?」
 おい、どこだ! 男性の声が遠くから聞こえたけれどサラファは気にする事なく人混みに紛れて再び夏祭りを堪能する為に歩き始める。
「ふぅ、浴衣は動きづらいから逃げるのに時間がかかってしまいました‥‥夏祭りは楽しいこともあるけど、楽しいだけじゃないんですね‥‥」
 助けてもらえなかった事が少しだけ悲しくて、サラファは壁に背中を預けて少しだけ俯いてしまう。

 ド――ンッ‥‥

 その時、大きな音と夏祭りにやってきていた人達のざわめく声がサラファの耳に入ってくる。
 何だろう、と空を見上げると少しの間が空いて、また音が響く。その音と同時に綺麗な花火が空へと次々に打ち出されていた。
「わぁ‥‥」
 きらきらと輝く花火に目を奪われ、サラファは首が痛くなる事も構わず空を見上げ続けていた。

「祭は楽しんできたかい?」
 あれから、色々な屋台を見て周り、浴衣を貸してくれたおばさんにお土産を買った後、サラファは家へと帰って来た。
「はい、色々ありましたけど楽しかったです。花火も凄く綺麗でしたし」
「そうだろう、祭の規模は小さいけど花火は毎年綺麗だからね」
「そうですね、また機会があれば行ってみたいです」
 絡まれて嫌な事もあったけれど、サラファは心から「また祭に行きたい」と思っていたのだった。


END





―― 登場人物 ――

ib6650/サラファ・トゥール/17歳/女性/ジプシー

――――――――――
サラファ・トゥール様>

初めまして、今回執筆させていただきました水貴透子です。
今回はご発注いただき、ありがとうございました!
内容の方はいかがだったでしょうか?
気に入っていただけるものに仕上がっていれば嬉しいです。

それでは、書かせて頂きありがとうございました!

2011/7/9
Midnight!夏色ドリームノベル -
水貴透子 クリエイターズルームへ
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2011年07月11日

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