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『気ままな午後。〜決意と姉妹の絆と〜 』
シャルロット・パトリエール7947)&ナタリー・パトリエール(7950)&扇・都古(NPC5354)



 自宅としているマンションのキッチンで、シャルロット・パトリエールは料理を作っていた。今日は中華だ。
 そんなシャルロットの横では、手伝っているナタリー・パトリエールがいる。
 黙々と姉の手伝いをしながら様子をうかがう彼女は、姉の雰囲気が変わったことに気づいていた。
 シャルロットは妹の前では容易く本心……特に後ろ向きなマイナス思考を見せないのだがナタリーは気づいた。
 それほど……シャルロットが本当に落ち込んでいるということなのだろう。余裕がない、ということだ。
「姉様」
「ん? なあに?」
 とびっきりの笑顔を向けてくる姉に、ナタリーは少し落ち込んだ表情で尋ねる。
「なにか……あったのよね?」
「……べつになにも」
 視線を、作っている料理に戻す。火はまだ使っていないから、手元からそう目を離していても危なくはない。包丁を握っている時はべつとして。
「なにもって感じじゃないわ!」
 ナタリーの、少し怒ったような声音にシャルロットは手を止める。
 隠しておくことは、たぶん……家族にとってはマイナスにしかならない。
 秘密にするつもりだった。妹をこの件に関わらせたくないから。命が、危ないから。
 シャルロットは溜息ともつかぬ、軽い息を吐き出してからナタリーを見た。
「都古に……会ったの」
「都古……? 扇都古さん?」
 あの奇妙な美少女だ。ナタリーは姉ほどの強烈なインパクトがないので、都古の姿はぼんやりとしか思い出せない。
「都古が……一応なんだけど、私を受け入れてくれたみたいなの」
「ん?」
 意味がわからない。受け入れるとはなんだ?
 眉根を寄せている妹に、ちょっと笑ってみせる。
「都古と私、相性があまりよくないみたいなのよね。なんかいつも都古を怒らせちゃうし」
「ああ……」
 ナタリーは納得した。確かに姉と都古は相性が悪いだろう。ナタリーからでもそれははっきりとわかっていた。
「でもね、……ありがとうって……」
「姉様……」
「けど、無駄になっちゃったわ。残念」
 肩をすくめるシャルロットの、独白じみた言葉の意味はナタリーにはわからない。だがきっと、それでいいと思う。
 とりあえず、都古が姉を受け入れてくれたことにナタリーは安堵した。
「それでこの間、都古に憑いてるっていう精霊に会ったのよ」
「精霊? 彼女は精霊使いなの?」
「たぶん……私たちが想像しているのとは違うんじゃないかしら?」
「へぇ……。それで?」
「ウツミのこととか……色々話したわ。やつは……危険ね」
「危険って……?」
「取り憑いた相手を……容赦なく殺すみたいなの」
 なんだか言葉を濁されたような気がするのは……気のせいなのだろうか?
「それじゃ、かなり危ないじゃないの姉様!」
「でも倒せる方法はあるって都古は言ってたわ。大丈夫よ」
 微笑するシャルロットを、ナタリーは疑わしそうに見ている。明らかに信じていない目だ。
 実の姉だから信じたい。でも、やっぱり疑ってしまう。
「姉様」
「どうしたの?」
「私もこの件、お手伝いするわ」
 凛とした言葉を発するナタリーを、シャルロットは凝視した。
 シャルロットの脳内では、否定と、困惑と、拒絶が入り混じる。
 ナタリーはシャルロットにとって大事な大事な家族で、妹だ。守るべき相手なのだ。
(姉様だけじゃ、絶対に都古さんとうまくいかないと思うし……どうなるのか気になる)
 興味はあるけど、きっとそれだけでは済まないはずだ。
「ダメ」
 シャルロットは決意してそう言い放つ。あまり攻撃的にならないように、やんわりと。
「どうして!」
「どうしてって……心配しなくても、私はうまくやるわ」
「うまくやれてない」
 ナタリーはムッとしたように顔をしかめて、姉に歯向かった。
「扇都古さんとのことだって……姉様、全然気づいてなかったけど……お節介が過ぎて結局敬遠されてたの、気づいてた?」
「……ナタリー」
「姉様が都古さんや、ウツミのことに一生懸命になるのはわかるわ! みんなのために、己の信念のために、悪を……なんとかしようって気持ちも」
「…………」
「たぶん姉様のことだから、自分のできる精一杯のことをしようとしてるっていうのはわかる。だって私は、姉様の妹だもん。わかるわよ」
 必死に言う妹を、シャルロットは黙って見つめるしかない。
「でも、努力が必ず報われるとは限らない……! 都古さんは、たぶんそれを知ってる人だと思う!」
 あくまでナタリーからの印象だ。
 都古は人懐っこい様子ではあるが、どこか奇妙だったのだ。彼女はきっと、打ちのめされたことがある……。
 姉のようにはなれない。もちろん、姉も自分のようにはなれないだろう。けれど、羨む気持ちも憧れも、どうしたって存在する。
 足掻いてもどうしようもないことだってある。何をしても無駄だということもある。
 都古はきっとそれを悟っている。後ろ向きな思考だと言われればそれまでだ。でも、どうしようもないことだって世の中にはあるのだから!
 シャルロットが黙っているのに我に返り、ナタリーは慌てて赤面をした。
「あ、ご、ごめんなさい。私が勝手にそう思っただけなの。姉様からは、たぶん都古さんは違うふうに見えてると思うけど」
「…………どうしても、この件に関わりたい?」
 穏やかに問われ、ナタリーはゆっくりと慎重に頷く。一度した決断を、翻すことはできない。
 そう、と小さく言って、シャルロットは前を向いた。
「都古の精霊に言われたの。死ぬ覚悟があるのかって」
「え?」
「ウツミを倒すには、誰かの命が必要なのかもしれないわ……。ううん、その可能性が高い」
 それでも。
「関わる?」
「……ええ」
「よろしい。あなたの気持ちはわかったわ」
 にっこりと微笑むシャルロットに、ナタリーも笑顔を返す。
 シャルロットは困ったように眉を寄せた。
「怖くはないの? 命に関わることなのよ?」
「怖いに決まってるわ。でも、ウツミを放っておけばもっと多くの人の命が失われるんじゃないの? それに」
「それに?」
 ナタリーは下を向いて耳まで赤くなる。
「ね、姉様が心配だし……」
「……あなたに心配されるとはね」
 守るべき相手からの言葉に、嬉しさはある。だが同時に寂しさもあった。
 ナタリーは成長している。いつまでも、シャルロットの思い描いているままではない。
「本当に、いいのね? あなたが死ぬかもしれないのよ?」
「それでも私も手伝うわ。それに姉様がそうならないようにしてくれるんでしょう?」
「……ええ」
 そうだ。
 シャルロットはナタリーにウィンクしてみせる。
「ええ、約束するわ!」



 二人で昼食に作った中華料理を食べる。どれも美味しい。
 やはり「二人で」というのが一番のスパイスだと思う。料理は「愛情」とはよく言ったものだ。
「あ、これ美味しい」
「あ、ほんと」
 などと、和気藹々と会話をしていると、シャルロットがふいに何かを出して渡してきた。
「これ」
「? なあに、姉様」
「気休めかもしれないけど、憑依を防ぐためのルーン」
「…………ありがとう」
 受け取って嬉しそうにナタリーが微笑んだ。
 シャルロットが思い出したように苦笑する。
「そういえば都古の精霊はルールがどうのって言っていたわね」
「ルール?」
「そうなの。同じように、憑依されないようにって作ったアイテム、使えないって言われたのよね」
「使えない……?」
「魔術師は魔術師のルール、退魔士には退魔士のルール、バケモノにはバケモノのルールがあるんですって」
「…………」
 ナタリーはその言葉に無言になり、ぎゅっと強く握り締める。
(それは遠回しに、ウツミの『ルール』では姉様のアイテムだと役に立たないってこと?)
 これでは本当に気休めにしかならないかもしれない。しかし大切な姉がくれたものだ。大事にしよう。
 姉はとても頼りがいがある。ありすぎるほどだ。
「……姉様、都古さんは、なにか言ってた? ウツミを倒す方法」
「一つだけあるとは言っていたわね。私個人ではできないみたいなこと言っていたけど」
「…………」
 方法はあるけど、都古はそれを言わなかった。
(知られるとまずいのかしら……? それとも、都古さんには何か考えがあるの……?)
「協力すると、命を落とすって……まぁ脅しに近いこと言われたけど……。私、そうは思わないの」
 シャルロットがお茶を飲みながら、微笑んで言う。ああ、とナタリーは思った。
(かなわない……なぁ……)
 それだけを、痛感した。
「絶対にみんなが助かる方法はあるわ。確かに……ウツミのせいで命を失った人はいる。だけど、立ち止まってはいけないわ。そのぶんの命を背負って、私たちはウツミに立ち向かわなくてはならないと思うの」
「…………」
「悲観的になるのは簡単だけど、方法を探していけば、万に一つでも可能性はある。そう信じているの」
 はっきりと言い放った姉は、まぶしすぎるほどだった。
 ナタリーはちょっぴり悔しくなる。これが自分の姉でなければ、正直腹が立っていたことだろう。
(なるほど……これじゃあ、都古さんにはきついわね)
 都古がどういう人物かはわからないが、一般人にとってはシャルロットの言葉は相当「重い」と感じてしまうものだ。
 前向きなエネルギーが強いぶん、そのエネルギーと逆のものを持っている人には強烈な負荷を与えてしまう。
 光が強ければ強いほど、影はその分、濃くなるものだ。
「私は姉様にすごく賛成だけど」
「けど?」
「時々、姉様って無謀だなあって思う」
 はっきりと言って、いたずらっぽく笑う。
「無謀じゃないわ。きっと方法はあるはずよ!」
「諦めなければ?」
「そう。諦めたりしないわ、私は。絶対に」
「じゃあ私は姉様を信じるだけよ」
 ナタリーの言葉に、シャルロットは目を丸くした。
「言っておくけど、姉様にはプレッシャーに感じて欲しいの。そのほうが、やる気が出るでしょ?」
「ナタリー……」
「信頼されるのってね、実はすごく大変で、すごく重いものなの。だから、その分、姉様には頑張って欲しい」
「ええ……うん」
「なに涙ぐんでるのよ」
「な、泣いてないわ。ちょっと感動しただけよ。ナタリーも大きくなったのねって思っただけ!」
「いつまでも子供じゃいられないもの」
 でも。
「私はずっと、姉様の妹よ。それだけは、忘れないで」
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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東京怪談
2011年07月19日

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