▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『始まりの、その日。〜君への誓い 』
奈々月琉央(ia1012)

 そこは、とある一軒家だ。天儀風の、決して大きくはない、落ち着いた佇まいの家。縁側から見える草木は力強く、そして静かに初夏の陽射しを浴び、緑を輝かせている。
 部屋に敷き詰められた畳は程よく風合いが出ていて、どこか落ち着く風情を漂わせていた。その中にただ、静かに座って畳と、縁側と、その向こうにある明るい庭を眺めていると、心がくつろいできて、張りつめた糸がゆっくりと緩んでいくような。
 そんな部屋の中に、琉央(ia1012)は座っていた。上座に2つ、並べて置かれた上等な座布団の上で、精一杯にかしこまって。ぴんとまっすぐ背筋を伸ばして、ただひたすらに正面を――正面に座る、2人の人物を見つめている。
 彼の妻、藤村纏(ia0456)によく似た雰囲気を持つ、夫婦。さもありなん、彼らは纏の両親だ。ここは、纏の実家なのだから。

「よぉ似合ってる」

 ふいに、纏の母が娘を見つめ、目を細めてしみじみと呟いた。おおきにな、とはにかんだ微かな笑みを浮かべた纏に、ほんまによぉ似合ってる、と母親はもう一度、噛み締めるように呟く。
 その言葉に込められた、万感の思いを感じ取って、琉央はそっと小さく息を吐いた。息を吐き、やはり自分の考えは間違ってなかった、と眼差しだけで傍らの纏をちらり、見つめた。
 ――今日、琉央は祝言を挙げる。自分が身に纏っているのは五つ紋と対になるように、傍らの纏が身に纏っているのは真っ白な練絹に真っ白な絹糸で施された、精緻な刺繍が見事な白無垢で。綿帽子をすっぽり被って、髪をきっちり結い上げて、どこから見ても愛らしい花嫁姿。
 つい、と纏の両親へとまっすぐに視線を戻した。そうしてぐっと、腹の底に力を込めた。
 本当はとっくに、纏と琉央は結婚式を済ませている。ほんの少し前、とある縁があって天儀の教会で、開拓者の仲間や友人達に祝福されて、それはそれは心暖まる、そうして賑やかな式を行ったのだ。
 けれども。遠く離れた地で行われたその結婚式に、纏の両親が参列する事は叶わなかった。ならば纏の両親に、結婚の挨拶をしに行きがてらもう一度、今度は纏の近しい身内の前でささやかな式を挙げてはどうだろうかと、妻に提案したのである。
 だから今、琉央は纏の両親の前で、五つ紋に身を包み、纏の傍らに座っている。二度目とは言っても、彼女の両親を前にするこの式は、琉央にとっては一度目の式と言っても過言ではない。
 しっかりと、正面に座る2人の顔を見つめて、琉央は深々と頭を下げた。

「娘さんは、幸せにします」
「――不束な娘ですが、末永く、よろしくお願いします」

 そうして告げた、ある意味では今更のようにも思える琉央の言葉に、深々と頭を下げて答えたのは纏の父親だった。その声が、わずかに震えていたように聞こえたのはきっと、気のせいではない。
 その胸の内を想い、けれども琉央に何か言えるはずもなく、ただもう一度胸の中で「必ず幸せにします」と強く誓い、深く頭を下げた。そうしてゆっくり頭を上げると、にこにこ笑顔に戻った父親が、纏を優しく見つめて「幸せになりや」と笑っている。
 うん、と纏が、とびきりの笑顔で頷いた。

「もう幸せ一杯やねんけど。ウチ、もっと幸せになるわ〜♪」

 そう言いながら耳まで真っ赤になっている纏に、くすぐったいような笑みがこぼれる。今でも幸せ一杯だと言ってくれる、その心がとても、嬉しかった。
 いつもほんわりとして居て、周囲を和ませてくれる優しい娘。その彼女が自分を好きだと言ってくれて、自分と一緒に居る今が幸せだと言ってくれて。けれども自分とこれから生涯を共にする事で、もっと幸せになると言ってくれる。
 これ以上の幸いがあるだろうかと、琉央は思うのだ。だからこそ、絶対に纏を幸せにして見せるのだと、強く思う。自分と一緒に居て幸せだと言ってくれる彼女だから、その彼女を必ず幸せにするのだと。
 溢れんばかりの幸せを顔いっぱいの笑顔で表す纏に、良かったなぁ、と彼女の両親はまるで、自分の事のように満面に笑顔を浮かべた。そうして揃って琉央を見つめて、今度は2人一緒にもう一度、よろしくお願いします、と頭を下げた。
 そろそろ、と縁側から声がかかる。見れば祝言の為、準備を整えてくる、と最初に挨拶したきり姿を見なかった女性だ。彼女もまた琉央と纏を眩しそうに見つめた後、本日はまことにおめでとうございます、と深く、頭を下げる。
 ありがとうございますと、揃ってぺこり、頭を下げた。それから纏の両親が腰を上げ、その後を追うように琉央と纏も立ち上がり。
 歩き出そうとした直後、がくん、と綿帽子に隠された纏の頭が、前のめりになる。

「わ、わ‥‥ッ?」
「‥‥と。纏、大丈夫か?」
「わわッ! う、うん、大丈夫やで!」

 どうやら白無垢の裾を思い切り、踏んでしまったらしい。わたわたと、必死で踏みとどまるように両手を振りまわしたかと思うと、傍らの琉央に必死にしがみついてくる。
 そんな纏を危うげなく抱き止めて、ひょい、と綿帽子の下の纏の顔を覗き込むと、ぼんッ、と音がしそうなくらいに真っ赤になった彼女はまたわたわたと、慌てた様子で両手を振りながら琉央からぱっと手を放した。そんな娘の様子を見て、くすくすと纏の両親が微笑ましく笑う。
 うぅ、と恨めしそうに白無垢の裾を睨みつけながら、纏はますます真っ赤になって、綿帽子の中に顔を隠すように俯いてしまった。けれども、彼女の両親が笑う気持ちの方が琉央には良く判るのだ。
 纏と付き合い始めてからもうずいぶん経つというのに、どころか同棲を始めてからももうしばらくが過ぎたというのに、未だに纏はちょっとした事で顔を真っ赤にする。いつまで経ってもまるで、初めて恋を知った少女のように自分を見て真っ赤になる様は、何度見ても愛おしい。
 ちら、と伺うように綿帽子の陰から見上げてきた纏を、ん? と見つめ返すとまた真っ赤になって、はにかんだようにえへへ、と笑顔になる纏。もう幸せ一杯やねんけど、彼女が両親に幸せそうな笑顔で告げた言葉を思い出し、ぽふり、とそんな纏の頭を綿帽子の上から撫でた。
 それから、ほら、と手を差し伸べると、うん、と頷いた纏がその手をそっと握る。そうして、今度こそこけないように慎重に、ゆっくりと歩き出した纏にまた微笑んで、琉央も一緒に、纏を支えるように歩き出す。
 そんな風にご近所の神社まで辿り着き、やっと始まった式は、ひどくのんびりとしたペースで進んだ。2人で誓いの言葉を述べて、それから三々九度の杯を交わして。

「これを‥‥」
「あ、おおきにな♪」

 言葉少なに紅杯を渡した、巫女に朗らかに頭を下げる纏に、くすくすと微笑ましい笑みがあちら、こちらからこぼれ落ちた。それは纏の傍らで、先に三々九度の杯を飲み干した琉央も変わらない。
 こういうものは厳粛に、私語は慎むものだけれども、何だか纏がにこっと笑って頭を下げると、それだけでもういいやと言う気分になってしまう。三度、三度、琉央と纏で交代に同じ紅杯を持ちかえる、その度に礼を言い、お神酒を注がれまた礼を言い、けれどもお酒が苦手なものだから、三々九度と言いながらちび、ちびと一生懸命に、ゆっくりゆっくり飲み干す纏の姿に、周囲から向けられる暖かな笑顔。
 彼女を必ず幸せにするのだと、改めて強く、思う。纏の両親に誓った言葉は、自分自身への誓いでもあった。必ず、彼女を幸せにする、と。
 ――何とか三々九度を乗り越えて、榊を納めるのにまたおろおろする纏を見守って、すべてが終わった頃には当然ながらと言うべきか、祝言の場から厳粛な空気はすっかり去って、纏のようなほんわりとのどかな空気が流れていた。それを感じたのだろう、にこにこ笑顔になった纏の母が、纏らしいお式だったわねぇ、とくすくす笑う。
 うん! とその言葉に、纏が満面の笑みで頷いた。

「めっちゃ楽しい、えぇ式やったわぁ」
「‥‥纏」

 祝言で『楽しい』はどうなんだと、思わず苦笑いをこぼしながら、琉央はそんな纏の笑顔を見下ろす。へ? と見上げてきた纏がまた、自分と目が合うとぽッ、と頬を染めるのが愛らしく、そんな彼女の頬をそっと撫でた。
 そうして。来た時のようにぎゅっと纏の手を握りしめ、ゆっくり、ゆっくりと元来た道を戻って行く、2人の後ろについて歩き出した纏の両親の眼差しが、ほんのり寂しさを滲ませていた事には、気付いていた。けれどもこればかりはやっぱり、琉央には何とも言えない事だった。





 祝言の後は、ささやかな宴で2人の結婚を祝ってくれるのだという。その準備が整うまでは休んどき、と言われて纏と琉央はありがたく、別室で休憩させてもらう事にした。
 暖かなお茶と、ちょっとしたお茶菓子を運んできた纏の母が、また呼びに来るな、と去っていく。これから宴が始まれば、どうせ主役の2人は食事をする暇などないのだから、今のうちに少しでもお腹に入れておきなさい、という気遣いらしい。
 ありがたく頂いて、胃の中に落ちていく甘さを噛み締めた。同じく、胃の腑に落ちていく暖かなお茶は、沁み渡るように心に広がって行く。

「‥‥良いご両親だな」

 そんな事を思ったら、ふと、そう呟いていた。

「へ?」
「纏の両親らしい、暖かくて、ほんわりしてて‥‥」
「そ‥‥そうかぁ?」
「式も、本当に纏らしい式だったし、な。榊は逆回しにするし、礼の数は間違えるし‥‥」
「あ! あれは、その、緊張してたんもん〜‥‥!」

 一つ、一つ、式の事を数え上げると、纏は真っ赤になってもじもじと膝の上で指を動かしながら、上目遣いに琉央を見上げてくる。そうして、うぅ、と真っ赤になってしまった纏を、琉央は優しく見つめた。
 嫌でも思い出すのは、自分の両親の事。纏たち家族のような、暖かさや穏やかさからは遠く離れた所にあった、父と母の物語。

「俺は‥‥俺にはあんな、暖かい家族は居ないから、な」
「琉央‥‥?」
「俺はあまり、家族というものには慣れてない。俺自身は父に母子共々捨てられたし、母からはそんな父への恨みつらみを聞かされて育った、から」

 家族、という言葉はだから琉央にとって、馴染みのないもので。あんな風に穏やかに、お互いがお互いを見つめ合うような関係とはほど遠くて。
 けれどもそれは、少々面映ゆくはあるけれども、悪いものじゃないと思う。あんな暖かな家族で生まれ育った、纏を見ているとそう思う。
 ふいに。ぎゅっと、両手を強く握られた。

「これからは! ‥‥これからは、ウチが琉央の家族、やで?」
「‥‥纏?」

 そうして、どこか必死にも見える真剣な眼差しで、強く強く琉央の両手を握ったまま、訴える纏が居る。びっくりしてそんな彼女を見下ろすと、にこ、と纏は微笑んだ。
 それはまるで、琉央のすべてを包み込もうとするかのように。

「ウチらはもう、琉央のお母さんからもろた『奈々月』さんゆう、家族やろ? ウチの両親も、もう琉央の家族やし。ほんで、これからも新しい家族が、増えるやろう? どんどん、な? ‥‥ぁ、その、子供とか多い方が楽しいかなぁ、って」

 そう。笑顔を浮かべたまま、真剣に語る纏の事を、琉央はしばし、茫然と見下ろしていた。けれどもやがて、口の端にふ、と小さな笑みを浮かべる。
 いつもほんわりとしていて、いつでも周囲を和ませてくれる、優しい纏。そんな彼女が自分達はもう家族だと告げて――これからも新しい家族は増えるのだと、語る彼女が愛おしくて。
 ぐい、と。強く腕を引いた、次の瞬間には纏の体はすっぽりと、琉央の腕の中に収まっている。
 びっくりして動きを止めた、腕の中の愛しいぬくもりを、ぎゅっと力強く、抱き締めた。

「これからはずっと一緒だ。離さないからな」

 そうして、纏の耳元でささやいた言葉は、祈りにも、決意にも、希望にも似ていた。これからはずっと一緒、だと。何があっても、纏を抱き締めるこの腕を、離す事はないと。絶対に、離したりはしないのだと。
 ほんの少しの沈黙が、あって。うん、と纏は嬉しそうに微笑んだ。微笑み、琉央の体を同じ位に強く、強く抱き締め返した。

「‥‥これからもよろしくな。旦那様♪」

 そうして幸せそうに告げられた言葉に、目眩がするような気がした。生涯を共にしたいと願う女性が、同じ様に自分と生涯を共にしたいと思ってくれる――それは何という、幸いだろう?
 だから。琉央は溢れ出る幸せを噛み締めるように、纏を抱く腕に力を込めた。愛しい、愛しい、最愛の妻。
 彼女と、これからも一緒に居れる幸いと、一緒に居たいと想ってもらえる幸いを、ほんの少しだって零したりしないよう――精一杯に、強く抱き締めたのだった。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 /  職業 】
 ia0456  / 藤村纏 /  女  /  14  /  志士
 ia1012  /  琉央  /  男  /  18  / サムライ

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

いつもお世話になっております、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。
そして、大変にお待たせしてしまって本当に申し訳ございません(全力土下座

大切な方との2度目の結婚式、如何でしたでしょうか。
お2人が良いご縁で結ばれたのは、幾度か依頼でご一緒させて頂きました蓮華にとっても大変嬉しく。
これから新しいご家族になられ、またさらに増えていかれるのだろうなぁ、と想像すると、息子さんの喜びもまたひとしおなのだろうと思います。
‥‥というか、そんなにもったいないお言葉を頂いても良いのでしょうか!?(がくがく
ご、ご期待に沿える内容であれば、良いのですが!

息子さんのイメージ通りの、ほんの少しの切なさも混じった、面映い始まりのノベルであれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と
水無月・祝福のドリームノベル -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2011年07月25日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.