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『唸れ 男たちの熱魂!!―天へ示せ 固き誓い 』
ガイ3547)&(登場しない)


格闘―それは己が肉体を唯一の武器とし、極限にまで高めた魂を激しくぶつけ、語り合う男たちの語り合い。
天に輝ける太陽がごとく、全てを燃やし尽くさんとする熱き格闘家たちの舞踊である。
そして、ここにも熱き魂の舞踊に魅せられた男たちの物語が幕を開けようとしていた。

さわやかな朝日が差し込む闘技場の一室は今日も―極限にまで鍛え抜かれた肉体を持つ男たちが床一面、所狭しと雑魚寝。
暑苦し……もとい、肉体に負けんばかりの熱気が部屋中を満たしていた。
名の知れた格闘大会とあって、いずれも強者ぞろい。
治療者として働きながらも、順調に本線を勝ち上がってきたガイもいかなる強者と戦えるかと思うと、胸が弾むというもの。
だが、真の格闘家たる者、休息は重要であることも十二分に熟知しており、昨夜も最大限の鍛錬を積んだ後、健やかなる眠りについていた。
ゆえに朝の目覚めもよい……とは言えなかった。

他の参加者と同じように雑魚寝していたガイの鼻先に何かがかすめたかと思った瞬間、ものすごく強烈な臭いが嗅覚を深々とえぐるように貫く。
あまりの凄まじさにガイが思わず目を開けると、そこには桁外れに分厚い足の皮。
きっちり5秒固まった後、これまた俊敏な動きで飛び起きた。
「おおおお、起きたか!ガイ。おはようさん」
眠っていたガイの顔面に己の足裏を突きつけるという所業とは裏腹に人の好きそうな笑みを浮かべた大男がのんびりと声をかけた。
がっちりとした体格に筋骨隆々とした腕を組む姿は格闘家たちをひきつけてやまない魅力がある。
が、この大男の足裏から発する桁外れな臭いはある意味、凶器。というか、この臭いは正真正銘の呪い。
この臭いをわずかでも嗅ごうものなら、どんなに凶暴な野獣だろうが魔獣も一撃で倒れるという折り紙つきだったりする。
寝ぼけを通り越し、一発で明晰な頭脳へと覚醒したガイは大きく伸びをしながら、にっと白い歯を見せて足裏を突き付けてくれた大男に笑いかける。
「ああ、おはよう。いつもすまないな、お蔭で今日も無駄なく仕事にに挑めそうだ」
「役に立てて何よりだ」
事情を知らない者たちが見れば、この二人のやり取りはおかしいと感じるのは間違いない。
はっきり言って、ものすごい匂いの発する足裏を寝てる人間に嗅がせるなんて嫌がらせ以外、何物でもない。
が、やられたガイはどこ吹く風で、逆に礼を言う始末。
それもそのはず。
何せ大男に足裏をつけて顔に近づけて起こしてくれと頼んだのは、ほかならぬガイなのだ。
戦いに身を置く者として、常日頃からいかなる事態でも瞬時に目覚めなくてはならない。
己を戒めると同時にいつでも戦いに挑む心構えを身に着けるために、わざとそうしているのだから、ある意味すごい。
快く手伝っている大男は口の端にやや苦笑を浮かべ、肩を小さく竦めるが、前夜、壁に張り出された本日の対戦表を一瞥すると、真剣なまなざしでガイを見る。
ガイも対戦表をちらりと見やると、楽しげな目で大男と相対する。
「ガイほどの格闘家と戦えるほど光栄なことはない!今日の試合はお互い全力を尽くそうな!」
「おお!!俺もお前ほどの鍛え上げられた筋肉を持つ男と闘えることを楽しみだ!!」
固く拳をぶつけ合い、互いの健闘を祈る姿はまさに格闘家の鏡ともいうべき姿。
ただ惜しむらくは、二人の周囲で雑魚寝していた参加者数名が大男の足裏の臭いを嗅いだがために、半日以上、意識を吹っ飛ばし―全員、ガイによる悶絶・気の治療を受けたのだった。

闘技盤の上でぶつかり合う拳と拳。
極限までに高められた気が天を突き、闘技場全体を激しく揺さぶられ、観客たちの熱狂が一層激しさを増す。
にやりと笑みを浮かべ、楽しげに互いを見合い―両者は後ろへと下がり間合いを取る。
「全く……治療者ってだけで雇われなくて良かったぜ。楽しくってしょうがねー」
「俺もだ。これほどまでの気の使い手と戦えるなんて光栄なことだっ!」
いうが早いか、一気に間合いを詰めて正確に気を纏った拳を繰り出すガイの攻撃を大男は左足で防ぐと、脇まで下げていた右腕に高めた気を纏わせ、無防備になったガイの腹に打ち込む。
だが攻撃をはじかれた流れに逆らわず、ガイは体を大きく左へ傾けながら身をかがめてやり過ごす。
大男の拳から繰り出された気は一瞬して紅蓮の炎へと化し、頑強な闘技盤を貫いて爆発した。
ほんの少し頭上をかすめていった攻撃を目の端で認めながら、瞬時に態勢を整えると尽かさずガイは大男に反撃をする。
「うおおおおおおおおおおおっ!!」
雄叫びを挙げ、鋭く重い拳を隙間なく繰り出すガイに大男は焦ることなく紙一重で避けながら、負けじと破壊力抜群の蹴りを打つ。
一歩として譲らぬ拳と蹴りの激しき攻防に観客たちのみならず他の参加者ー特にガイとの闘いを熱望する若き格闘家たちの士気は否応なく高まっていく。
この目にもとまらぬ速さへと化す打ち合いを制したのは大男。
ほんのわずかガイが拳に気を纏わせるのが遅れた隙を突き、大男は得意技の蹴りと同時に逆手に作り上げた気の球をぶつける。
ぶわりと襲いくる極北の冷たさを感じ、とっさに背後へと飛ぶガイ。
青白く輝く気の球が切り裂かんばかりの冷たき刃となって足元で爆発し、闘技盤に氷の牙が打ち立つ。
「まだまだまだまだぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
瞳を大きく輝かせ、大男は絶対零度の氷、すべてを射抜く雷、紅蓮の炎という多種多様な気の攻撃を続ける。
闘技盤を縦横無尽に駆けずり回りながらガイは大男の攻撃を避け、反撃とばかりに右足に高めた気を闘技盤に叩き付けた。
半円状に砕かれる闘技盤。吹き上げられた気の衝撃が闘技盤の破片を巻き上げた『大地の衝撃』が大男に襲い掛かる。
小さく舌をうち、大男は打ち出そうとした氷の球を自らの足元に叩き付け、分厚い白き障壁を作り出して防ぐ。
だが、その衝撃波の強さに耐え切れず、障壁は細かな欠片となって空に溶け―それを合図に再び二人の格闘家が恐るべき速さで怒涛の打ちを始める。
どちらが勝ってもおかしくない見事な戦いに観客たちはさらに天を揺るがし、闘技場を砕かんばかりの歓声が燃え上がる。
そんな熱気とは裏腹にガイは冷静に好敵手たる大男の攻撃を見極めていた。
直撃すれば決定打ともいうべき破壊力を持つ気の攻撃だが、その動きには単調で一直線。
広範囲に衝撃波を起こし、砕いた破片らを巻き上げて攻撃力をさらに増すガイの『大地の衝撃』と違い、相手に対し、直接もしくは至近距離でぶつけなくては威力が半減する。
「なら、反撃の手立ては十分にあるな」
ぼそりとガイはつぶやくと、大男の動きを注視する。
気による攻撃は思う以上に体力を削り取り、鍛えていなければ長期戦を勝ち抜けない。
ガイの変化を体力の限界と見て取った大男は絶好の勝機とばかりに拳を頭上に突き上げると最大級の特大火炎弾を作り上げ、大きくかぶって投げつける。
が、それよりもガイは瞬く間に早く強力に高めた気弾を練り上げられ、まさに投げ出されんとした大男の火炎弾に迷うことなく直芸させた。
「なっ!?」
大男の表情が驚愕に彩られた瞬間、その手で生み出された火炎弾がわずかに収縮したかと思った次の瞬間、猛烈な炎が屈強な大男の体を飲みーどこまでも澄み切った空高く吹き飛ばす。
ゆっくりと闘技盤に沈む大男と揺らぬことなき巌のごとく立つガイの姿に観客たちのみならず、大会に関わる全ての者たちは歓喜とも怒号とも取れる絶叫を上げたのだった。

柔らかな光が窓から差し込み、わずかにまどろんでいたガイの眼前にうっすらと褐色に染まった足の裏が突き出されたかと思った途端、嗅覚をねじり切り裂かんばかりの猛烈な臭いが鼻をつく。
「よう、おはよう。相変わらずの反応だな、ガイ」
条件反射で飛び起きるガイに足裏を突き付けた大男は見事な反応に大笑いをあげるが、その腕や足のあちこちには白い包帯が巻きつけられていた。
その痛々しさに関係者が―対戦相手ではあるが、ガイに治療を頼んだらどうだと提案したが、当の本人が頑として受け入れず、逆に素晴らしき筋肉を持つ格闘家との一戦を物語る勲章だと誇らしげに胸をはった。
ガイもガイでその気持ちをうれしく思い、今朝も変わらず起こしてほしいと頼み―今に至る。
「おう。今日も張り切っていくとするか!」
白い歯を見せながら、ガイは大きく腕を回しながら雑魚寝する部屋を大股で出ていった。

FIN
PCシチュエーションノベル(シングル) -
緒方 智 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2011年07月26日

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