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『Promise of the Future 』
須佐 武流(ga1461)

 鐘の音が響く。
 日本家屋が並ぶ地域にある教会というのは、かくも不釣合なものなのかとも思ったが、結局和式、洋式の違いは式に臨む本人達にとってそれほど重要なことではないのだろう。
 白無垢かドレスかの違いじゃないのか、と呟くと出席者の服装や料理、式の進行具合も違うんです、と力強く訂正されてしまった。
 だったら教会で白無垢にすれば解決ではないのかと疑問に思ったわけだが、そこは乙女心が許さないらしい。
 複雑怪奇な心情を抱える女性は大変だな、と彼は溜息をついた。
「……そろそろ良いか?」
「むー。もうちょっと見たいです」
「見てて何が楽しいんだか……他人の結婚式って暇じゃねぇか?」
 ましてや俺達は参列者でもないのに、と付け加えた須佐 武流に、黒髪をなびかせて振り返った三枝 まつりは人差し指を立てて頬を膨らませた。
「全然暇じゃないですよっ! 色々と見るところがあるじゃないですかっ。例えばウェディングドレスとか、教会とか、幸せそうな顔とか」
「……それで小一時間喜んでいられる女も少ないと俺は思うぞ」
 二人で特に意味もなくぶらぶらと散歩をしていた折に結婚式に出くわしてから一時間弱、まつりは武流をその場に待たせてひたすら式をじっと見続けていたのである。
 楽しんでいる彼女からすれば大した時間ではないのだろうが、興味も何も無い武流にしてみれば、割と退屈な時間でもある。まだ隣に彼女がいるだけマシなのだが、一人で歩いていればほぼ確実に無視していたであろう光景である。
「あ、武流さん。見て下さい、紙吹雪ですよーっ」
「あーはいはい、紙吹雪な」
 受け答えも適当そのものだが、まつりは特に気にしていないようだった。
(ベンチで寝てやろうか……)
 何もすることがないので、眠気まで感じてきた武流である。
 それにしても、だ。
 武流とて、人並みには物事に対する興味はあるので、滅多に見る機会がなかった結婚式を目の当たりにして新鮮さを感じなかったわけではない。いつも戦場にいる彼らにとって、特別な日常風景はとても遠いように思えるからだ。
「他人の結婚式は幸せそうだねぇ……」
 一人呟いた武流に、まつりは不思議そうな顔をした。
「結婚式が幸せじゃなかったら、する意味がないじゃないですか」
「いや、そういう意味じゃなくってな」
「ほえ? 武流さん……結婚式にトラウマでもあるんですか?」
「……」
 答えるのが面倒くさくなり、まつりの頬を押して結婚式へ視線を戻させた武流である。結婚していないのにトラウマもへったくれもあるはずがない。
「結婚式、ねぇ……」
 自分は幸せになることができない。
 誰かを幸せにすることも出来るわけがない。
 そんな理由も資格も、相手も見つからないと思っていた。
 勿論、そんなことを考える暇があれば鍛錬していたわけだが、ふとした拍子にはやはり考えてしまうことでもあった。だが、それでも構わない、一人でも問題ないと強がってみせたりして、答えを出さないまま今に至っていた。
(でもまぁ……)
 武流は隣で目を輝かせているまつりの横顔を見た。幼さの残る十七歳の少女は、随分先の未来を想像しながら花嫁を見ているのだろうか。
 人生は分からないもので、年下の彼女と付き合う今になっては、武流も若干心境の変化を自覚せざるを得なくなっていた。
 少なくとも、まつりと一?獅ノいると心を落ち着かせていられる自分がいる。放っておくと勝手にどこかへ走って行ってしまうので、そこだけがやや心配ではあるが、そうやって振り回されることも悪くないとさえ思う。
 それにしても、空が眩しいからか、まぶたが重い。
 青々とした空を見つめながら、武流は切れ長の目を細めた。
(変わったなぁ、俺)
 一体なにがどうなってこうなったのか、武流自身も分からない。ただ、そう思う自分が不思議でもあり、安心でもあった。
「まぁ……悪い気はしない、な」
「何がですか?」
「こういうのも」
「こういうの……?」
 隣でまつりが首を傾げているのは分かったが、そこから先はゆらゆらと画面が移ろいでいくように見える。
 目を凝らすのも億劫だった武流はそのまま意識を手放していた。

+++

 気づいた頃には辺りが薄暗くなっていた。
「あ、気づきましたか?」
 見上げるとまつりの顔があった。
 何故に俺はこいつを見上げているんだろうかと思った武流だったが、数拍後には物凄い速さで身を起こしたのである。かけられていたのであろう羽織がずり落ちそうになる。
「俺、寝てたか?」
「んと、きっちり半時間寝てましたね」
「そ、そうか……」
 眠かったが、まさか本当に眠っていたとは。
 しかもまつりの膝で。
 膝枕ぐらいで慌てるようなことはしないが、二の句が繋げなくなった武流である。
 そうしてしばらく逡巡していたが、ひとまず差し障りのないことを口に出してみた。
「……結婚式はもう良いのか?」
「武流さんが眠ってすぐくらいでお開きになったんです。起こすのも申し訳なかったので……あの、嫌でしたか?」
「いや……」
「それなら良かったです」
 だって武流さん、気持ち良さそうに眠っているから、と言って微笑んだまつりである。
 その顔を見ていると、無意識ではあったが、武流の口が自然と動いていた。
「……まつり」
「はい?」
「……他人のを見て、結婚してみたいと思ったか?」
 武流の言葉の意味を理解したまつりが、一瞬で真っ赤になった。予想通りの反応をして見せた彼女は、あわあわとしながら顔の前で手を振った。
「ええっ。そ、そんな……ほら、あたしはまだ十七ですし、そ、そんな先の話は……ええと、その……」
「嫌か?」
 ぐっと詰まったまつりは更に赤くなりながら俯いて小声になった。
「い、嫌とかじゃないんですよっ。ただ、ああいうのってもっと大人な人がするものだと思ってますし、その……あ、あたしには似合わないというか、まだ早いというか……ええと、ええと……」
 どうしていきなりそんなことを聞くんですかーっ、と顔に書いてあったので、武流は面白そうにまつりの額を指で突いた。
「ほら、そんな真剣に考えこむな」
「し、真剣に考えることじゃないんですか……?」
「別にしたかったら俺はいつでも良いぞ?」
「だ、だからですねっ、そういうことをさらっと言うのはですね……っ。も、もう良いですっ」
 顔を手で覆ったまつりはすくっと立ち上がった。困らせすぎたか、と少し反省した武流も立ち上がった、掛けてもらっていた羽織を彼女の肩に乗せてやる。
「た、武流さん……ほ、本気で言ってます?」
「何がだ?」
「け……結婚、とか。その……」
「だから、お前さえその気ならいつでも良いって言ってるだろ?」
「あうぅ……」
 本気で弱っているまつりである。拒絶されたわけではないが、その様子を見ていると武流は少しだけ不安に思う。
 いつか、自分の腕をすり抜けてどこかへ行ってしまうのではないか、と。
 だから、武流はまつりの肩をつかんで彼女の顔を覗き込んだ。
「今すぐだって構いやしねぇ……つーか、もっと俺を見てろっての! なんかすっげー心配になるんだが、毎回!!」
「ま、毎回っ!? あ、あたし、そんなに心配かけてるんですかっ?」
「毎回どころか毎日だ!」
「そんなに迷惑かけてないもんっ! 多分ですけどっ!」
「いーや、かけてるね。どれだけ俺が心配してると思ってんだ!」
「うぅ……ご、ごめんなさい……」
 言い合いは押しに弱いまつりの負けだった。なまじ二人共身長があるので、傍目には物凄く威圧感のある言葉の応酬である。
 だが、まつりの性格をよく知る武流にとって、目の前で何かを言いたげにぷるぷるしている彼女は、何か新手の小動物のようにしか見えない。
 あんまりぷるぷるさせていると、赤面したせいで知恵熱を出して卒倒しそうだったので、武流は溜息をついてまつりをそっと抱き寄せた。
「ったく……次にあそこに立つのは俺達だ。良いな?」
 あそこがどことは、今更言う必要もないだろう。
 腕の中で縮こまっていたまつりは、小さくではあるがきちんと頷いた。
「席の予約も、ちゃんとさせてもらうぜ?」
「は……はい。待って、ます……」
 それだけ言うのがやっとだったのか、武流の腕を逃れたまつりは、蒸気した頬を押さえながら小走りに歩き出した。苦笑した武流も彼女の後を追って歩き始める。
 未だにあそこまで初々しい反応をされると先が思いやられるわけだが、それはそれでまつりらしいとも思う。
「やっぱり飽きねぇな、こいつは」
 自分で言って自分に納得した武流である。
 だからこそ、あの永遠を誓う神聖な場所に二人で立つまで、誰にも渡したくないと思えるのだろう。






━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ga1461 / 須佐 武流 / 男 / 20 / ペネトレーター】
【gz0334 / 三枝 まつり  / 女 / 17 / ドラグーン】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 こんにちは、冬野です。
 久しぶりにニヤニヤしながらまつりを書かせて頂きました(笑)
 二人らしさが出ていれば良いかなぁ、と思いつつ。
 お気に召して頂ければ幸いです。
 この度は発注して頂き、ありがとうございました! 

 冬野泉水
水無月・祝福のドリームノベル -
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CATCH THE SKY 地球SOS
2011年07月27日

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