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『未来への、寄り道 』
ライラ・マグニフィセント(eb9243)&アーシャ・イクティノス(eb6702)&ユリゼ・ファルアート(ea3502)&クリス・ラインハルト(ea2004)&サクラ・フリューゲル(eb8317)


●再会、初めての港
 果てなく続く大海原の向こうへ漕ぎだす船乗りと冒険者の夢。新大陸発見という大望を遂げたライラ・マグニフィセント(eb9243)ら冒険者達一向は、冒険の成果を乗せた船でノルマン王国・パリを目指す帰路に着いていた。
 欧州大陸沿いに進む航路から見える土地は、すでにノルマン王国――折角、レンヌ領の近くまで来たのだからと、補給も兼ねて寄港することになった。
 レンヌに縁の深い仲間もいたし、レンヌを治める一家に、新たな発見や冒険の成果などといったものを好みそうな人物がいることを知っていたからだ。
「レンヌは私、来るのは初めてになるんですよね」
「私もレンヌは初めてなのです。ハーフエルフだから耳隠したほうがいいでしょうか、暑いけど…」
 初めて訪れる場所とあって感慨に浸るサクラ・フリューゲル(eb8317)の横で、アーシャ・イクティノス(eb6702)が耳を隠すように下ろした髪にリボンを結ぶ。不要なトラブルは避けられるにこしたことは無い。ささやかな、けれど大切な気遣いに、クリス・ラインハルト(ea2004)が笑ってアーシャの背を小さく叩いた。
 海沿いから遠く向こうに、濃く深い森山が見える。おそらく深い森の向こうには、船で渡ってきた海とは違う煌めきをもつ湖があるはず。
「ユリゼの故郷だと聞いていますし、感慨もひとしおです」
「ええ、レンヌは大事な故郷……船から見るのは随分久しぶりかもしれない。ずっとフロージュと一緒だったから」
 振り仰ぐサクラに小さく頷く。
「このまま帰りたいけど、待ってるから。フロージュが、次の旅が」
 懐かしそうに、けれど少しだけ寂しそうに瞳を眇めるユリゼ・ファルアート(ea3502)の隣りにそっと立ったライラは、やがて近づいて来たレンヌの港へと視線を移した。
 そこには、戦禍から遠く離れ、人々の活気に溢れた満ちた港と街が広がっていた。

 ところが……
「許可証が無い船への停泊は認められない」
「ええー?! そんなー……僕達、パリの冒険者ですよ?」
「そうですよ、身元の怪しい者ではありませんてば」
 港湾の警備を兼ねる受入担当の事務官は、クリスやアーシャの抗議の声は聞く耳をもたない様子だった。ブランシュ騎士団分隊長でもあったラルフ・ヴェルナー(ez0202)の協力を得て、天界由来の構造を組み込んで設計された新式の帆船が警戒されているのだろうか。サクラが一行の中心であるライラを見るが、慌てる様子も無く、涼しげな表情のままだ。
「せめてお水や食糧の補給だけでもー……」
「駄目だ。許可証が無い船への停泊は……」
「身元は私が保証するわ、停泊許可を」
 見慣れぬ帆船に警戒するのもやむをえないのか、せめて……と交渉の線をさぐるクリスにすげない事務官の返答をぴしゃりと遮る声。
 訝しげに振り返った事務官の表情が固まる。視線の先に立っていたのは、夏の日差しに負けない鮮やかな色彩を従えた、レンヌ公の息女・フロリゼル・ラ・フォンテーヌ(ez1174)だった。
「フロリゼルさま!」
「見慣れぬ造りの船だからと聞いてくれば、やっぱり貴女達だったのね」
 事務官とクリス達の顔を、楽しそうに見比べながら桟橋を歩いてくる。
「小船や漁船でもない限り、接岸できる港は限られているから、もしかして……と思ったけれど」
 整備された港を擁してこそ、交易の金が領地に落とされる。必要なものを識っているマーシー一世の確かな政治手腕は子女にも受け継がれているらしい。
 領主の娘であるフロリゼルの保証をもって、ライラ達の船は無事レンヌの港へと停泊が決まった。
「フロリゼルさんがいる時で良かったです……」
 ほっと息を吐くアーシャに、「あら」とフロリゼルが目を瞬かせた。
「ライラから手紙をもらったのよ? 行き違わなくて良かったわ」
 フロリゼルがひらりと振ってみせた羊皮紙の筆跡は、確かに見慣れたライラのもの。「いつのまに!?」と振り返る仲間に淡く微笑み返す。
「ふふ、フロリゼル殿下、お久しぶりさね。あの海の遥かな向こうの大陸へ行って、ノルマンの祖先の遺言を果たして帰ってきた所さね」
「お帰りなさい、お疲れ様。海を越えて……となると、壮大な冒険だったのかしら?」
「それは勿論っ♪」とクリスが頷くと、アーシャも「ジャイアントよりもずっと大きな熊と戦って斬り伏せたのです」と腰に掃いた剣の柄をぽんと叩く。
「とまあ……聞いて頂きたい話も、お土産もあるし、折角だから、披露させて貰えないかな? ああ、それと、厨房を貸して貰って良いだろうか? それと幾つか材料も。新大陸の香料、バニラとカカオ、唐辛子を使った料理をお目に掛けたいのさね」
「勿論よ、何だか素敵なモノがたくさんありそうね。高台にある屋敷へお招きするわ」
 父に報せないと叱られるかしらね、と楽しそうに笑って言葉に違わず、歓迎の手をライラ達に差し伸べた。


●道中、初めての街
 船を預け、マーシー一世の屋敷へ向かう道中。
 レンヌの港町を走る石畳の上を軽快に走る馬車の天蓋は無く、街並みを眺めるにはもってこいのものだった。勿論、路地馬車とは違う上等の仕立てで、転がる車輪の振動が、乗客を大きく揺らすことは無い。 
「ここがマーシー卿の所領でフロリゼルさま、エカテリーナさまの故郷ですか。ブルターニュ地方の自主独立の気風が感じられる街並みです♪」
 吹き抜ける潮風に遊ばれる髪を抑えながら、クリスが声をあげる。
「すっごく綺麗ですねぇ……」
「本当に……戦争から遠い街、なんですね」
 アーシャの端的な、けれどふさわしい一言にサクラが小さく頷く。
 港を中心に広がる石造りの街並みは、意思をもって整えられ、発展していった後がみてとれる。遠くに見える深い緑にも、海と交わる空の青にも調和する。
 それは彼女達が親しんだパリとは少々異なる独自の文化を辿り発展しているように見えた。
「ユリゼ以外は初めてかしら?」
「私の故郷は森に近い方だったので、港町には慣れているわけじゃないんですけれど……そうね、パリのような街を想像しているとちょっと違うかもしれないわね」
 サクラが首を傾げているのを見て、ユリゼは少しだけ言い添える。
 国としてはまだ若いノルマン王国の中でも、元々独自の文化を育んでいた地域であり、一つの国として統合された今も、元々の街並みが変わったわけではない。豊かな自然を壊すこと無く発展してきたレンヌは、交易の要として発展し続ける海側と、精霊が暮らすといわれる森側と生活が少しだけ分かれていた。
 一つの地方として、海と森と二つの恵み、顔を持つ街なのだと、仲間へ語るユリゼを、レンヌで育ったフロリゼルは、微笑み見つめていた。


●晩餐、これからも
「揺れずにディナーを頂けるのも久しぶりですよ〜……」
「ほんとです〜……やっぱりライラさんのお料理は美味しいです〜」
 クリスとアーシャが頷きあって、食べているのはライラの心尽くしの料理だった。
 海を越えてとなると旅路も、短くは無い。冒険者を名乗る以上、困難に対応する力も手段も身に着けてはいるが、辛いや我慢がなくなるわけではない。
 長旅に疲れているだろうと申し出る屋敷のシェフの申し出には感謝しながらも、とっておきの料理が並ぶ。
 パリにいる時から親しんだライラのお菓子や料理に加え、今宵の晩餐で並ぶのは新大陸で入手した香辛料や食材を使った品々は、豊かな生活を送る貴族とて食べることが叶わない……食べたことの無い味に、フロリゼルは興味が尽きないようだ。唐辛子は、食べ慣れない者には刺激的で『ソース・ディアブル(悪魔風)』と名付けられたソースに納得し、ライラのネーミングセンスに流石ねと笑ってポワレを食べる。
 香辛料を食べて一波乱あったことのあるアーシャには、香辛料抜きの子供も食べられる味付けのものの料理だけだったけれど。手間を惜しまず、仲間に合わせて料理をはからうのは気遣いも、流石だった。
「これで一財産作ることもできそうね。月道が解放されて以降、交易のありようも変わったけれど、海の向こうにこんな品があるなんて……世界は広いものね」
「香辛料もだが、個人的にはバニラとカカオの実が発見だったさね」
 成果は冒険者として、けれど手にした宝はお菓子屋ノワールのパティシエとしてのもの。
 冒険者としてもパティシエとしてもしっかり冒険を成し遂げているのは、流石だった。
「バニラはとにかくカカオは齧るだけだとすごく苦かったんですけどね〜」
「ライラさんの手に掛かると美味しいお菓子になるんだから……ライラさん、本当は魔法使いなのかも」
「褒めてもあたしに出せるのは、お菓子だけさね」
「ライラさんのお菓子が食べられるなら幾らでも褒めますともっ」
 
 並ぶ料理を堪能しながら、

「色々なお土産を頂いたけれど、新しい大陸はどんな場所だったの? 香辛料と同じく刺激的な土地だったのかしらね?」
 ジャイアントよりも大きな熊と戦ったという話が気になっているらしい。
 その地に住む獣は皆大きいのかと聞かれ、アーシャは首を横に振った。
「全部が全部大きいわけではないです。大きな種類がいたっていうのが正しいでしょうか。フロリゼルさんはと〜っても強いと聞きました。またあの熊と戦う時とか、一緒に戦えたら楽しそうです」
「貴女達と一緒だったら心強くて、楽しそうだわ」
「今度は僕ですねー! えと……かの地は地平までずっと草原が続いてて。大地を渡る風の匂いが、冒険者心をくすぐる場所でした☆」
 思い切り馬を駆ったら気持ち良さそうな……と笑う公女は、以前会った時とやはり変わらぬようで、ユリゼは嬉しかった。
 バードのようにはいかないけれど……と、ユリゼが綴る言葉に添えたのはファンタズムの幻。
 未知の土地の水の精霊に出逢えたこと。空を映す鏡のような湖は、どこまでも広く、彼方まで続き……故郷の青とは違う青は、けれど繋がっているのだろうとも思う。
 空を同じくしても、異なる大地に育まれる植物や動物達の不思議に、興味深そうに聞きいるフロリゼルを見て、貴女の心だけでも連れて行きたいと語る声が、切に響き聞こえて公女は淡く微笑んだ。
 話したいことは尽きなくて。それは冒険の一つの成果でもあった。
「ものすごくとっておきな、贅沢だったわ。ありがとう」
「……贅沢だったかな?」
 食後のお茶のお代わりは、ユリゼが振る舞うハーブティ。腕を振るった後のゆったりした時間に、ライラが瞳を瞬かせた。
「勿論。パリに戻る途中で立ち寄ったというならば、パリに暮らすどんな貴賓者よりも先に頂いたんだもの」
「成程」
 お礼の意味に納得し、ライラは笑った。ライラの笑顔を映すようにフロリゼルも微笑む。
 機と縁によってのものだったが、新大陸への冒険そのものが、機と縁以外の何物でもないように思えて、ライラの笑みが深くなる。
「ここから、モン・サン・ミシェルも近いのですよね?」
「そうね、パリからよりは近いわね。でもここからだと陸路でも海路でもそう変わらないんじゃないかしら……これから沿岸沿いにパリに帰るのでしょう?」
 帰路についてはどうなんでしょうと、ぱくりとスプーンを口にしたままクリスがライラに訊ねれば、私もとアーシャが手をあげる。
「あ、レンヌの街も観光希望。あ……、ちゃんと耳隠しますから。パリと違った雰囲気でしょうか。ねー、あっちも行ってみましょうよ〜」
「刻限のある急ぎの旅でなければ、レンヌの街も、モン・サン・ミシェルぜひ見て行って欲しいけれど」
「あ、でもライラさんは、旦那さんが待ってるから帰りたいのかも」
 サラダをつついていたユリゼが首を傾げると、ライラは小さく笑っている。
「会いたくないといえば、ウソになるが……」
「それをいうならユリゼだって、ねえ?」
「えっ、私は関係ないわ! ないない」
「フロージュさんが待っているんでしょう?」
 引っ掛けられたことに気付いたユリゼが顔を耳まで赤く染める。
「サ〜ク〜ラ〜……」
「きゃあっ」
「仲良しで何よりね」
 半ば、じゃれあうようなユリゼとサクラをみて、ふわりと微笑む。
「出航の準備が整うまでは、港まで少し距離があるけれど、屋敷の部屋を自由に使って頂戴。何かあれば屋敷の者に言い付けて。もしレンヌを観てまわるのだったら案内するから」
「そんなにお世話になるわけには……」
「貴女達からの『お土産』の価値を思えば足りないくらいでしょう」
 恐縮するクリスに微笑むと、ライラへ向かい『お土産』の顔触れをゆるりと指し示す。
 どうしたものかと冒険者が顔を見合わせ、ライラを見る。
 見つめられ、ライラは……微笑んだ。
「お菓子はまだたくさんあるさね……ゆっくりお茶を楽しみながら、次の旅の準備の相談でも?」
 新大陸の旅路の指針となったライラの提案にクリスとアーシャが破顔して、サクラが淡い笑みを浮かべれば、ユリゼは仕方ないかと小さく肩をすくめた。
「それじゃ、皆さんに……それからレンヌの精霊さんに届くよう、この地への感想を詩にして歌いますね」
「いいですね〜、それじゃ僕伴奏しますっ」
「あら、じゃあ私はユリゼの笛の音も聞きたいわね」
「あ、私もローレライのフルートありましたっ」
 サクラの申し出に、クリスが手をあげると、フロリゼルがさりげなく要望を出し、アーシャも加わる。
 一つ小さなため息を零したユリゼの肩をやさしく叩き、ライラは大陸でみつけた実で甘い飲み物を用意しようと席を立った。
 サモワールの隣りに並ぶカップを手にしながら、胸に過ぎったのはモンサンミシェルに、いつか訪ねてみたいなぁ……と、想いを馳せるクリスに「いつかといわずに」と勧めたフロリゼルの言葉。
 帰る場所があって、帰るまでが冒険……旅路の途中の、休憩時間。

 いつかではない冒険を続けるライラ達の旅は、まだ途中。
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Asura Fantasy Online
2011年07月29日

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