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『+ 夏真っ盛り、二人は + 』
和泉・大和5123)&御崎・綾香(5124)&(登場しない)



「ふー……あっちぃ」


 それは夏真っ盛りのとある日。
 多くのプロレス団体がビックマッチを終わらせ、月末の合同チャリティー大会に向けて英気を養ったり準備をしている最中の話であった。
 例に漏れず「イリミネイト・マシン」というリングネームを持つ高校生男子――和泉大和(いずみ やまと)もまたそのチャリティーに参加する事もあり、己の身体作りに余念が無い。本日もまた時間ぎりぎりまでジムへと身を置き自身を鍛えていた。ところがそろそろ閉館時間という事もあり切り上げようと思っていたその途中、ジムメイトに声を掛けられ「事務所の方に行くように伝えろってさ」と伝言を受けた。
 ……と、言うわけで彼は着替えしないまま、首から垂らしたタオルで汗を拭いながらその言葉通り素直に事務所へと赴いたわけだが……。


「は? 宣伝、ですか?」


 事務所にいたのは自身が所属しているレスラー団体の営業部の男性と選手会長。
 彼らの口から出てきた言葉に対して大和は思わず目を丸め、確認として単語を吐き出した。


「そうだ。月末にはお前も参加する合同チャリティー大会があるだろう。実はだな、今現在WEBページや雑誌など色んな方法で宣伝はしているものの、やはりネットを見ない人や雑誌を購入しない人達にはいまいち伝わりにくい」
「そこで我が団体と懇意にして頂いている会社が海の家を出していて、そこでビラ配りなり口伝えで宣伝するなりしても構わないという話があがったんですよ」
「なるほど。経緯は分かりましたけど、それは俺の他にも誰かいるんすか?」
「その海の家に関してはお前だけだ。もちろん他の面々には無理の無い程度に別の方法で宣伝に行って貰う予定だ」
「そういうわけで、海という事ですし恋人なり友人さんを誘うなりして和泉君には海の家へと行って貰いたい訳ですよ。あ、ちなみに和泉君の分の交通費、宿泊費など必要経費は出ます。同伴者および協力者がいらっしゃる場合も宿泊費半額程度までなら考慮していただけると言う事です」


 二人の上司に宣伝に関する説明を受けた大和は自身のスケジュールを脳内で思い浮かべる。元々夏休み期間ということもあり、時間が許す限りはジムに通っていようと考えていた部分もありスケジュール的には無理難題ではない。それに同伴者についてもそれなりにメリットがあるという事もあり、大和は「別にいいですよー」と気軽に返事をした。
 すると営業部の方からは大量のビラが手渡された。
 思わず引き受けた事を後悔するような量でひくっと口端が痙攣してしまう。


「おっと、言い忘れたがもちろん、マスク被っていけよ。そこそこ知名度はあるし、目立つからな。ビラ配り終わったらオフに入れ」
「う、……わ、分かりました」


 最後に一言念を押されると大和は場を後にする。
 後は当初の予定通りシャワールームでさっと汗を流した後着替えを終えて帰宅するのみ。A4封筒三つ分の封筒にみっちりと詰め込まれたビラは重量感たっぷり。それを手に恋人兼婚約者である御崎 綾香(みさき あやか)の待つ家へと帰った。
 長い黒髪が美しい美女である綾香に迎えられ、リビングへと上がると大和は抱えていた封筒の中から一枚ビラを彼女に手渡し宣伝についての説明を行う。
 綾香は物珍しげにそのビラを眺め見ながらも冷蔵庫から冷やした麦茶を取り出しそれを氷を入れたグラスへと注ぐ。二人分それを作ると彼女は大和が座っているソファへと歩み、彼の隣に腰掛けた。その瞬間、彼女はふとある事を思いつく。そして冷たい麦茶に癒されている大和へと彼女にしては珍しくどこかウキウキとした様子で一言告げた。


「その話、私も協力しよう」
「本当か」
「ああ、もちろんだ」
「すまんな」


 たったそれだけのやり取り。
 だけどそれだけで十分な通じ合い。
 その関係を二人愛しく思いながら、続いてスケジュールの確認や必要品などの調整などを話し合う。特別なものは何一つないけれど、ただこうして二人会話をしている……その時間はとても心地よかった。



■■■■



 きゃっきゃっと高い声をあげながら子供達が水鉄砲を飛ばしあう。その傍には親であろう男性がスイカをクーラーボックスから取り出し、スイカ割りの準備をしている。視線を別方向へと向ければ男女のグループが楽しそうにビーチバレーをしている姿が目に入るし、遠くの方では泳ぎのスピードを競い合っているのか中学生らしき二人の男の子が全力で泳ぎあっているのが部屋の窓から見えた。


 そう、此処はまさに海水浴場以外の何物でもない。
 あの後、無事海の家の管理人に挨拶をし大和と綾香は二人の寝泊りする部屋へと通された。恋人同士ということで部屋は一室。そのため「料金は食事のみで構わない」と管理人から優しい言葉を頂いた。
 綾香は今、女子更衣室にて着替えている。
 大和は流石にマスクを着用するのに更衣室を使うのは忍びなく思ったので貸し与えられた部屋で着替えとなった。


 海の家まで行く時にすれ違った人達はやはりマスクを被った大和もとい「イリミネイト・マシン」の姿にぎょっとするが、中にはプロレスファンという人物も居て話しかけてくれる者も居た。その人にも当然ビラを一枚渡して綾香との待ち合わせ場所でもある海の家へと行けば、何故か男性の姿が多い。
 時間の問題だろうかと思い、その波を掻き分けて先へと進めばそこに居たのは――。


「遅かったな」
「あ、やか?」
「どうだ。似合うか?」


 黒い髪の毛が高く結い上げられる姿は変わらない。
 ただ、その水着がハイレグ仕様の競泳用水着だった事が人々の注目を集めているだけで。
 当然恋人である大和の視線は相手の身体に釘付けだ。その一方で心の中では今回の件を話した時のあのウキウキとした綾香は新しい水着を自分に見せたかったからかと思うと、それはそれで愛らしいと感じてしまう。しかもその格好で満面の笑みを見せられてしまえば尚更のことである。


「そうだな、とても良くに」
「すみませーん、カキ氷一つ下さーい!」


 しかし時間は止まってはくれない。
 余韻に浸る間もなく、二人の周り――否、海の家を目当てに客が集まってきた。プロレスファンや子供達はマスクと被った男という面白そうな人間もとい大和に、年頃の男性はハイレグを着た美女である綾香に声を掛ける。
 もちろん本来の目的であるビラ配りも忘れない。商品を渡す時に「よければ」という言葉と共に上司から預かったそれを添える。マスクを被りながらの真夏の海辺での接客というのは非常に堪えたが、それでも大和は懸命に働いた。その働く大和の様子を見て綾香も気持ちを切り替えて動いた。
 今はただ恋人のために。


 大和がそれなりに名の知れ始めたプロレスラーだということも幸いし思ったよりも早く話題になり始め、マスクマンという一見しただけでは不審者扱いされかねない格好ではあったものの割とすぐに馴染む事が出来た。


「いやー、大和君も綾香さんも居てくれて助かったよ。最初話を受けた時はまさかこんなに話題になるとは思っていなかったからね」


 美女とマスクマンというちょっと変わった組み合わせが見れる非日常に釣られた客達によって売り上げも上がっているらしく、管理人の方からも感謝の言葉を贈られる。ビラ配りも好調に進み、夕方を待たずして終了してしまった。
 最初の約束通り二人はオフに入ろうとするが、「もう少しだけ!」とねだられ結局延長という形で仕事をこなしていく。結果、海水浴客も居なくなり始める夕方頃まで二人は解放されなかった。


「お疲れ様。今日は付き合ってくれて助かったよ」
「ふふ、構わないさ。私も大和と一緒に居れて楽しかったしな」


 夕暮れ時の海。
 オレンジ色の光が海を染め上げ、昼間は青かったそれを橙へと変える。仕事を終えマスクを取った大和は綾香と砂浜を散歩を始めた。寄せては返す波際を歩けばその痕跡はやがて消える。足元に僅かに掛かる海水に熱を冷やされながら大和は綾香へと視線を向けた。


「そうだ。最初に言いそびれたけどその水着似合うぞ」
「本当か?」
「似合い過ぎてて目のやり場に少し困るけどな」


 ちらっと視線を斜め上へと逸らしながら大和は告げる。
 男性客の多くは綾香の姿に惹かれていた事だろう。彼女本人へそれを告げることはしないが恋人としてはやはり嫉妬してしまったことは否めない。
 そんな大和の心中を知ってか知らずか、綾香自身は好感ある言葉に胸をときめかせ仄かに頬を赤らめる。それからその腕を持ち上げ、大和の腕へとそっと絡めた。
 こつん、と頭も筋肉の付いた肩へと寄せれば大和は綾香の手を探り、それから指の隙間に指を這わせやがて二人は深く指を絡めあう。二人分のシルエットが足元から砂浜へと細く長く伸びていくのを大和は視界の端で見た。


 なんだかんだと忙しくもあったけれど、恋人同士としての時間も取ることが出来て二人は満足している。
 やがて大和は多大なる感謝の念と愛しさを込めながらそっと綾香の方へと顔を寄せる事にした。







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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【5123 / 和泉・大和 (いずみ・やまと) / 男 / 17歳 / プロレスラー】
【5124 / 御崎・綾香 (みさき・あやか) / 女 / 17歳 / 主婦(?)・巫女】

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■         ライター通信          ■
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 発注有難うございました!
 今回はビラ配りと恋人同士の時間という事でこんな感じに仕上がりましたvいかがなものでしょうか。
 しかしハイレグ姿の綾香様の姿は本当に魅惑的だと思います^^
 ではまた機会がございましたら宜しくお願いします。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
蒼木裕 クリエイターズルームへ
東京怪談
2011年08月15日

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