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『見上げた空の、その先の。〜星織姫 』
アルーシュ・リトナ(ib0119)

 暗い、暗い夜空を、アルーシュ・リトナ(ib0119)は、駿龍のフィアールカと並んで座り、じぃっと見上げていました。じぃっと、じぃっと、静かに。気がついたら、息すら押し殺してじぃっと、小さな小さな輝きが姿を現すのを待っていました。
 そこは、森を覆う木々のさなかの、ぽっかり開けた空が見える場所でした。とても空気の澄んだ、こんな気持ちの良い夜は、星達もご機嫌が良くなるのか、ひときわ綺麗に星の輝く様が見えるのです。
 だからフィアールカと2人、じぃっと星達が姿を現すのを待っておりましたら、やがてぽつり、現れた輝きがありました。それは時を追うごとにぽつり、ぽつりと増えていきまして、やがて幾つとも数え切れないほどの輝きが、すっかり夜空を多い尽くしてしまいました。
 つぅ、と尾を引いて夜空を横切っていくのは、流れ星です。流れる星の行く末は、追いかけようとしてもあっという間に消え失せて、どこへ行ってしまったのか解らなくなってしまいます。
 まるで歌うように、フィアールカが夜空を見上げて鳴きました。無限に光を湛える星の光と、刹那に消えて行く流れる星に、フィアールカも何か、感じるものがあったのでしょうか。
 アルーシュも同じように夜空を見上げて、暗い、暗い夜の中で、道しるべのようにさやかに、力強く輝く星の光を見つめました。まるで宝石のように煌めく光が、夜闇の中で踊り出すのを、じぃっと見上げていました。
 流れる星に願いをかければ、それは叶うと言われています。けれども星にかけられない願いは、一体、何処へ行ってしまうのでしょう?
 胸の中に、ぽつりと宿る願いの欠片を抱き締めながら、アルーシュの心はまるで夜空に溶けてしまったように、遠く、遠くへと広がりゆくようです。流れる星の行く先には、たくさんの願いが眠っているのでしょうか。

(‥‥あら)

 ふと、気づいてアルーシュは眼差しを自分の隣に、フィアールカの反対側に向けました。誰かが、そこにいるような気がしたのです。
 見ると、それはアルーシュ達と同じようにじぃっと夜空を見上げている、1人の男性でした。その姿は、水晶に溶けてしまったように半透明に見えました。
 その男性は、アルーシュの視線に気付くと、にこりと微笑んで「こんばんわ」と言いました。

「こんばんわ」

 アルーシュも微笑みを返しながら、そう言いました。そうしてつい先ほどまで、そこには誰も居らずただ、アルーシュとフィアールカが2人で夜空を見上げていたのだけれども、とほんやり考えました。
 男性はアルーシュに、にっこりと微笑みました。そうしてまた夜空を見上げましたので、アルーシュもつられて夜空を、輝く星達を見上げました。
 しばらくして、お願いがあるんです、と声が聞こえましたので、アルーシュはまた男性へと視線を向けました。男性はじぃっと夜空を見上げたまま、そんなアルーシュに言いました。

「この星の光を織り込んだ帯を、どうか織って欲しいのです」
「帯を‥‥ですか?」

 アルーシュは男性の言葉にちょっこんと小首を傾げて、輝く星空を見上げました。そうして静かに地上に降り注ぐ星の光に、帯ですか、と呟きました。
 アルーシュは、開拓者もしていますけれども、本職は機織師です。色とりどりの糸を使って、機を織り、布を生み出すのがアルーシュのお仕事です。そんなアルーシュのために、普段は街の機物ギルドで顔役をしているアルーシュのお父さんが、アルーシュの腕に見合った仕事を持って来てくれるのでした。
 けれども、テイワズ持ちの為か、時折アルーシュの所には不思議なお客様がやって来るのです――こんな、不思議な機織の依頼を持って。
 そうです、と男性は穏やかに、空を見上げたまま頷きました。頷いて、ぽつり、ぽつりと、星の輝きをこぼすように、どうして星の帯を織って欲しいのかをアルーシュに語って聞かせました。
 男性の話を聞きながら、アルーシュはぱちぱちと瞳を瞬かせまして、星の光を、その輝きをじっと見つめました。この輝きを織り込んだ帯は、一体どんな輝きを放つのでしょう。それを見てみたいと、アルーシュは思いました。

「――解りました。私で良ければ、心を込めて」

 だからアルーシュはその、水晶のような男性にこっくり頷きました。アルーシュは決して、ずば抜けた素晴らしい腕を持つ機織師ではありませんけれども、その気持ちは誰にも負けないつもりです。
 ありがとうございます、と男性は透き通った笑顔で、本当に嬉しそうに、ほっとした様子で頭を下げました。

「そう仰ってくださって、ほっとしました。ほら、あちらにもう、機も用意してあります」
「え?」

 そうして男性が指を指した方を見やりますと、そこにはアルーシュが見たこともないような、不思議な機織機がきらきらと、月と星の煌めきを振りまきながら、アルーシュを待っていたではありませんか。傍らのかごに積まれた糸も、夢のような輝きを放っています。
 ほぅ、とアルーシュはため息を吐き、機織機に近付きました。触れるとそれはすべすべと滑らかで、ほんのりと暖かく、しっとりアルーシュの手に吸いつくように馴染みました。
 きらきら輝く糸を、アルーシュは丁寧に、丁寧に機織機にかけていきました。そうしてすっかり糸をかけ終わりますと、フィアールカがそっと機織機の前に立ち、小さく一声鳴きました。
 さぁ、不思議な機織りの始まりです。タタン、カタン、とアルーシュが手を動かす度に、キラリ、と不思議な光が糸から飛び出してきました。それに合わせてフィアールカが翼を大きく震わせますと、空から降り注いでくる星の光が、すぅ、と機織機の中に吸い込まれていきます。
 タタン、カタン。
 カラカラカラ、カラカラカラ。
 トン、トトン。
 タタン、カタン――
 どんどんと、不思議な光をきらきら放つ、不思議な帯が織りあがっていきます。布のあちらこちらできらきらと、織り込まれた星の雫が瞬き、夜空のように輝きました。
 大切に、大切に。心を込めて。
 この、水晶のように半分透き通った男性は、長い事待っていた大事な方をついに迎える事になったのだと言います。その方に贈るために、この星の帯が欲しいのだそうです。
 長い、長い間、待っていた愛しい人。早く会いたいと、一緒にいたいと願っていたのに、どんなに身を切られるほど恋しくとも、焦がれるほどに会いたいくとも『早く此処へおいで』と星にかけてはいけなかったその願いごと。
 だから今、その願いが叶うこの時に、かけられなかった願いの代わりに、星の滴に想いを込めて。
 大切な方を美しく彩ります様に。
 彷徨う願い達が掬われます様に。

 ――あぁ、星にかけなくとも、叶う願いはあるのですね。

 タタン、カタン。
 カラカラカラ、カラカラカラ。
 トン、トトン。
 タタン、カタン――

 丁寧に、丁寧に、星空の中でアルーシュは、機を織る手を動かし続けました。じぃっと、星空を見上げるようなひたむきさで、男性が次第、次第に形になっていく星の帯を見つめました。


 それは、とある不思議な不思議な夜。
 ささやかな夏の、星降る夜にあった、不思議な不思議な出来事です。





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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /    PC名    / 性別 / 年齢 /  職業  】
 ib0119  / アルーシュ・リトナ /  女  /  19 / 吟遊詩人

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。

無心に星空を楽しむひととき、如何でしたでしょうか。
絵本のような優しい雰囲気のイメージを想定されていたとのことでしたので、こう言ったノベルにしてみました。
星の光を織り込んだ帯はきっと、夏の夜空のように力強くも儚く、美しい彩りであったに違いありません。

お嬢様のイメージ通りの、美しくも優しく穏やかな、不思議なノベルであれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と
Midnight!夏色ドリームノベル -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2011年08月16日

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