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『●準備 』
サクル(ib6734)

 今日はこの都市で大々的に行われる夏祭り。
 陽の高いうちから、殷賑な街は活気に溢れていた。
 夜になって益々熱を帯び、街中がお祭りの会場と言っても過言ではないほどの賑わいである。
「すごく大きなお祭りなのですね‥‥皆楽しそう‥‥」
 サクル(ib6734)は、窓の外を見つめながら熱っぽい口調で言う。
 彼女の眼下には、暗闇に浮かび上がる光の列とひしめき合う人の列。
 人々を誘うようにゆらゆらと不規則に揺れるその光は――「これ! こっちを向きなさい。着付けができないっしょ」
 宿屋の女将さんにそう窘められ、ごめんなさいと言いながらサクルは窓から離れると慌てて体ごと女将さんに向き直る。サクルの金色の髪が柔らかそうにふわ、と揺れた。
 それでも、サクルの表情は明るかった。高揚感もあるが、彼女も年頃の女性。服装がいつもと違うものだから――ということもあるかもしれない。彼女は現地の服‥‥『着物』という天儀諸国で愛用されているようなものを着せられている途中だ。着付けができないため、女将さんの手を借りている。
「祭りを楽しみながら暑さを忘れるのですか?」
「そうさねぇ、暑気払いにしちゃ初めての試みだよ‥‥はい、出来たよ。楽しんでおいで」
 帯を結び終え、女将さんはサクルの腰をポンと一叩きする。腰を押されて数歩よろめきつつも姿見でその全体を映したが‥‥満足だったのだろう。思わず顔がほころんだサクル。その様子に女将さんも柔和な顔をする。
 彼女の着物は白生地に、淡い桃色や濃いめの赤等、美しく着色された『牡丹』が咲き乱れるデザインをあしらっている。
 普段下ろしている髪は後ろだけを軽く纏めて結いあげられて、黒と赤の羽根と霞草をあしらった簪。彼女が動くと密やかに揺れて、なんとも清楚で涼しげだ。
「着付け、ありがとうございます、それでは行ってきます!」
 丁寧に礼をし、女将さんに『大股で歩くんじゃないよ』と注意されながら、夜祭へと向かっていくのだった。

●光の正体と祭り

 宿から一歩出たサクルが見たものは、会場へ流れ行く人々の列。
 わぁ、と思わず声を上げたものの、次に視線は路上に移る。
 道に置かれていたのは竹の器だ。様々な模様や形にくり抜かれていて、その中に蝋燭が灯されていた。先ほど窓から見たのはこれが連なる明かりだったのだろう。
 その灯火は会場へと向かう道なりに置かれているらしく、途中で明かりも行列も曲がっている。
 期待に胸踊らせてこの地方独特の土壁や、道端にぽつぽつと出ている露店を見ながらようやく会場へと到着。小さい路地からぱっと開けた大きな広場に――サクルは感嘆のため息を漏らす。

「さぁーさあ、いらっしゃい! うちの食い物は美味いよ!」
「はい、この着物! 新作柄だよ! 見てっとくれ!」
 広い場所に所狭しと並んだ店。
 威勢の良い客寄せの声。楽しめるのは眼や耳だけではない。
 あたりから漂う飲食物の芳しい香りが食欲も増進させる。
 楽しそうな人々の声も、独特のお囃子の音と混じってそれすらも音楽のように聞こえる。
 広場の真ん中には紅白の垂れ幕に彩られている高い櫓が立ち、周辺では人々が手のひらを頭上にひらひらと返しながら踊っていた。
 腹の中に響くような和太鼓の振動も――初めて聞いた音色だというのに何処か懐かしく、彼女の心に安堵と切なさを与え、心を踊らせた。
 照明はすべて提灯と呼ばれる独特のもの。吊り下げられ、店の名前が書かれたものなどもある。
 食べ物の屋台にしても、イカを丸ごと焼いて独特の調味料で味付けしたものや、粉を水で溶いて、野菜や麺類などと一緒に焼く食べ物など、これもまた目新しい。
 所違えばすべてが違うということに驚きつつも、好奇の視線を向けた次の瞬間に彼女の顔には微笑が宿る。
「オウ、お姉ちゃん! 一回やってかないかい! 遊ぶだけなら2回出来るよ!」
 手拭いを捻り鉢巻きにして禿頭に巻いている、全体的にこんがりと日焼けした親父が懐っこい笑顔で手招きした。それに応じるように近づいてみると――彼の前には陶器で出来た睡蓮鉢が幾つか置いてあり、その中で赤や黒の小魚が気持よさそうに泳いでいる。金魚という種類らしい。
「楽しそうですね‥‥この紙を張ったものでお魚を?」
 睡蓮鉢の前に屈み込んで、しげしげ魚を眺めていたが――親父の説明に興味をそそられたのだろう。ではやってみます、と代金を渡した。
 どうやらこの魚釣り、『金魚すくい』という割とそのまんまの愛称で親しまれているらしい。遊戯に興じるサクル。和紙を張り付けた『ポイ』というもので金魚を掬おうとするのだが‥‥中々難しく、一度目はすぐに破けてしまう。
「ダークエルフのおねーちゃん、金魚すくいは、こーやってやるんだよ!」
 近くで興じる子供のやり方を見せてもらいながら、そっと入れる。結果―― 一匹だけだが掬うことが出来た。
 自分の椀に入ってちまちまと泳ぐ魚を見つめて、嬉しそうに微笑むと少年に礼を言うと椀ごと店主に返し、再び心躍る何かを探しに歩く。
 小鳥に小銭を渡すと、小鳥がそれを咥えて店主手作りの鳥居をくぐり、賽銭箱のような場所からおみくじを持ってきてもらえるという屋台、大きなテントに覆われたお化け屋敷。中から人の悲鳴が聞こえ、
 涼しそうな音色を響かせる鐘の風鈴。これで涼を取れるとは思えなかったが、サクルも風鈴の前に屈みこみ、耳を澄ませる。

 ちりー‥‥ん‥‥

 金属で出来ているというのに、重厚感のあるそれではなく、透き通る繊細な音に、サクルは不思議そうな顔をして、目を細めた。
 先ほどの太鼓や笛の音とは違い、じわじわ心に染みてくるような余韻。
「‥‥この国の方々は、この余韻を楽しみ、しばしの涼を得るのですね‥‥素敵な文化だと思います」
 初見だが、風鈴というものは素晴らしいですねと素直な感想を述べると、店主は大いに喜んで『異文化の旅人さんに』と小さな風鈴をプレゼントしてくれた。
 代金を払うといったのだが、自分がそうしたいからと言ってくれた店主の気持ちを受け、サクルは棒に取り付けた風鈴を受け取ると‥‥再び歩き出す。
 広場の端には橋がかかっており、足首が浸かる程度の川‥‥と呼んで良いのか、と悩むほど申し訳程度のものが流れている。
(‥‥? これは?)
 その川に、人々が四角い提灯‥‥に似たものをそっと水面へと置いて、流れ行くそれを見守っていた。
 何かと尋ねると『灯籠』というものらしい。これは儀式的な意味もあるらしく、幾つもの灯籠がゆっくりと流れていくさまは幻想的で
 文化が違うといえども、祭りの雰囲気は共通している部分も多い。
 大人も子供も楽しめるということ、知らない人でもすぐに打ち解けあえるということ。
 この弾むような心が、人の気持ちを大らかにさせているのかもしれない。

 風が吹けば歌うように奏でる風鈴を供とし、人垣の間から男衆に担がれる豪奢な山車を遠巻きに眺める。
 祭りの熱気に負けじと松明もゆらゆらと揺れ、この祭りだけではなく、山車すらもこことまた違う存在のように映す。
 あれには神様が乗っているのでしょうかと尋ねれば、この山車は神様を楽しませるものであり、神様は乗らないと答える住民らしき人。
 神様を楽しませるために、あれだけ趣向を凝らしたものを作られるとは、この国はますます不思議なものだと興味深そうに眺めるサクル。
「すごく楽しいですね。こんなに沢山笑ったり、驚いたりと‥‥感情を出したのは久しぶりな気がします」
 サクルは優しい顔つきで無数の掛け声の上がる夏の祭りを見つめ、自らも声を上げながら、異文化の芸術を心の中で賛美していたのだった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ib6734 / サクル / 女性 / 外見年齢18歳 / 砂迅騎】

 
◆ライターより
はじめまして、藤城とーまです。
Midnightノベルをご発注頂きましてありがとうございます。納品が遅くなりまして申し訳ございません。
プレイングを拝見しまして、異国の祭りに興味津津なサクルさんを想像し、思わず可愛いなあ、と思ってしまいました。
祭りの情景や楽しさが少しでも伝わればいいな〜と思って書かせて頂きました。
貴重な機会をいただき、ありがとうございました!
Midnight!夏色ドリームノベル -
藤城とーま クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2011年08月18日

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