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『RE-appearance 』
須佐 武流(ga1461)

 それは、夏の盛りのある日の事だった。
 あれからもう、一年――。

 徐々に夜が涼しくなりつつあるが、それでも日中はまだじめじめと暑苦しい日が続いている。避暑のシーズンは終わりかけていたが、やはりまだ暑さから逃げるように、人々は涼を求めていた。
「花火大会、ですか……この時期に?」
 小首を傾げた三枝 まつりに須佐 武流は頷いた。
「そう。この時期だから人手も少しはマシだろう」
 人混みの中では、ゆっくりと二人の時間を満喫できない。
 そう付け加えた武流に、まつりはもう一度首を傾げて微笑した。
「海とかもありますよ? 武流さんが花火大会なんて、珍しいですね」
「ん? ……水着を見せてくれても良いんだぞ?」
 冗談半分、半ば本気で言うと、案の定まつりは顔を真赤にして首を横に盛大に振った。
「は、花火で良いですっ! 是非花火にして下さいっ!」
 彼女の反応の素早さをある程度予想していたとはいえ、彼氏に対しても真正面から拒否してくる姿勢に、武流は何かを言いかけて言葉を飲み込んだ。
 まぁ、まだ機会はいつでもあるか……。
 そういう諦めというか、悠長に構えている自分にやや驚きつつも、武流は腰を上げて立ち上がった。
「んじゃ、決まりだな。出店で少し遊んでから、見に行こうぜ」



 時期は時期だが、それでも人は少なくなかった。
 勿論、二人並んで歩けないという程ではなかったが、気を抜けばはぐれそうでもある。
「まつり、大丈夫か?」
「む。あたしだってはぐれないくらいは出来ますよっ」
 ものすごく不安になる主張を聞かされた武流は肩を竦めた。それが出来ないから心配しているわけで、まつりはそこのところをあまり自覚していない。
 だが、浴衣やら着物やら気慣れているまつりに、歩きづらさや歩幅の心配は無用でもある。今日も淡い藍色の生地に蓮模様の浴衣の裾を上手く捌きながら、意外にもさくさく歩くのだ。
「蓮か……」
「嫌いでした?」
「いや、そんなことはない……似合ってる」
 さらっと言った武流の最後の一言は、射撃やらんかね、という出店の男性の声にかき消された。
 そんな事も知らずに、くいくい、とまつりが武流の裾を引っ張る。
「武流さん、武流さん。あれあれ、あのくまのぬいぐるみ、可愛いですっ」
 可愛いものと綺麗なものに目がないまつりの目が、まさにきらきら輝いている。
 あれか、取れということか。
「しょうがねぇな……」
 愛らしい年下の彼女の珍しいおねだりに、応えなければ何とする。
 能力者である武流にとって、子どものおもちゃのような道具で射撃など朝飯前にもならない。
「わっ!」
 一発でくまのぬいぐるみ――何か妙に大きい気がするが――を撃ち落とした武流に、まつりが手を合わせて歓声を上げた。
 出店の男性も腰を抜かしそうなほどの鮮やかな撃ちっぷりでぬいぐるみを手に入れた武流は、それを隣にいたまつりに渡した。
「ほら、これで良いか?」
「はいっ。ありがとうございますっ」
 満足そうに彼女はくまの頭に顔を埋めた。
 ぎゅう、とぬいぐるみを抱きしめて喜ぶまつりの顔を直視しようと頑張ったが、やはり少し視線が外れている武流であった。


 ベンチに座っている武流は、少女が戻ってくるまでの間、預けられたくまのぬいぐるみの腕を上げたり下げたりして遊んでいた。
 ぬいぐるみで喜ぶのは、まつりもまだ子どものようである。
 そう思って微笑ましく口元を緩めたところへ、綿飴を両手に持ったまつりが帰ってきた。
「はい、武流さん。甘いの、大丈夫ですよね……?」
「ああ、別に嫌いじゃない」
 隣に座ったまつりは、そんなに食べるのかと言わんばかりの大きさの綿飴を舐めている。女の子にとって甘いものは別腹、とはよく言ったものである。
 特に会話もなく、けれども焦るように話し込むことを好まない二人は黙々と綿飴を食べていたが、そこでまつりが道行く人々に目を止めた。
「なんでしょう……皆さん、移動していきますね」
「ああ。そろそろ、花火の場所取りなんだろうな」
「あたしたちも行きますか?」
「ああ……まあ、見るのに不自由はしなさそうだが」
 二人共170cm超えの長身なので、余程のことがない限り見えないなどという事態は発生しない。
 だが少しでも良い景色を見たいので、二人はベンチから立ち、集まりつつある人の元へと歩いていった。
 花火大会、と言えば河原だが、人気スポットらしく既にシートを敷いて開始を待っている人々が溢れていた。
「わぁ……すごい人ですね」
「だな。河原側は諦めるか――まつり、こっちだ」
「えっ、武流さんっ?」
 まつりの腕を引きながら、武流は出店を一直線に抜けて、小高い山へ続く道を進み始めた。
 まず民間人なら立ち入らないというほど、なかなか厳しい山道である。あっと言う間に人々の喧騒の音は掻き消え、静かに響く蝉の鳴き声が辺りを満たした。
「た、武流さん……待って……」
「疲れたか?」
「ごめんなさい、ちょっと……食べた直後なので――」
 言いかけたまつりの膝を掬って抱き上げた武流である。一瞬で彼女の顔が真っ赤に染まった。
「武流さんっ!? いえ、あの……あたし、ちゃんと歩けますよっ!」
「疲れたって言ったろ?」
「つ、疲れはしましたけどっ、その、担いで貰うほどのことでは……っ」
 あわあわとするまつりの腰に添えた手に力を込めて、武流はニッと笑ってみせた。
「良いから、大人しくしてろよ。頂上まですぐだから……な?」
 今にも顔から煙が上りそうなまつりは小さく頷いて、それきり何も言えないらしく武流にしっかりとしがみついていた。



 来客を待ちわびるかのように、山頂には古いお堂が残されていた。古い、とはいえ、丁寧に手入れされており、人二人が座るには充分である。
 二人が腰掛けた直後に、花火大会が始まった。静謐の中にあった山が、様々な花火の色に照らされていく。
「……思い出すな」
 ふと、武流が言葉を零した。彼の方を向いたまつりの表情は、彼女も同じ事を考えていたことが窺える。花火の光も加わって、ほんのり頬を染めているようにさえ見えた。
「去年、お前と始めて花火を見に行った時もこんな感じだったな?」
「そうですね……あの時は、最初からどきどきして、ちゃんと笑えていたか、今でも不安です」
 苦笑したまつりの髪を撫でて、武流は静かに微笑んだ。
「あの時は……いや、良いか。そのことは」
 言葉を切った武流は、空に咲く花火に視線を戻した。恥ずかしさが込み上げてきているのか、隣のまつりは浴衣の袖で口元を隠しながら小さくなっている。
「良いものだな」
「え…‥?」
「こうやって、誰かと二人っきりで花火を見るのも」
 そう言った武流の袖を、まつりが掴んだ。
「ん、どうした?」
「あ、あの……」
 潤んだ茶色の瞳で見上げるまつりの顔が赤いのは、花火の光のせいだけではないだろう。
 しばらく無言で武流を見つめていたまつりは、袖を掴む手を僅かに震わせながら、小さく口を開いた。
「覚えて、ますか……? あの時、あの……花火の日、武流さんが言ってくれた、こと……」
「勿論。もう一度、あの時の再現を……するかい?」
 まつりが答えるより早く、武流は彼女の正面で膝を折った。
 一年前――そう、あれは夏の盛りの頃だった――誓ったように、彼はもう一度その言葉を口にする。

「まつり。俺の傍に……いてくれるかい?」

 一年経った今でも、その気持ちに変わりはなく。
 今も心配事の方が多いくらいだが、自分に様々な変化をくれた少女だ。
 守らなければいけないと思う。
 愛していきたいと思う。
 その気持ちを込めて、傍にいてくれと武流は言った。
 一年前よりも膨らんだ感情を胸に、少女が頷くであろうことを思って。

 たっぷり三秒、呆けるように口を噤んでいたまつりは、やがて立ち上がり、武流の膝に添えていた手を両手で包み込むように握りしめた。
「武流さん……」
 彼の手を、自身の胸に置く。
 そうして、彼女は儚げな、けれども優しい笑顔を彼に返した。
「こんなあたしで良ければ……ずっと、武流さんの傍に、いさせて下さい……」
 それだけ言うのが精一杯で。
 逆にまつりの腕を引いて、武流は彼女を自分の胸の中へと収める。
 華奢な肩を抱いて、彼は彼女の耳元でそっと囁いた。
「……ありがとう、まつり」
 二人を照らすように、一際大きな花火が艶やかに空に咲き誇った。

 もう、夏も終わりの日の事である。





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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ga1461 / 須佐 武流 / 男 / 20 / ペネトレーター】
【gz0334 / 三枝 まつり / 女 / 17 / ドラグーン】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 こんにちは、冬野です。
 一年前……早いですね、もう一年経つんですね。
 そう思うと私も感慨深かったり。
 これからもあの子をよろしくお願いしますっ。
 この度は、ノベルを発注して頂きありがとうございました!

 冬野泉水
Midnight!夏色ドリームノベル -
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CATCH THE SKY 地球SOS
2011年08月23日

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