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『『生きる場所』 』
千獣3087)&リミナ(NPC0980)

 大木に寄りかかって。
 木漏れ日を浴びていた。
 雲がゆっくり流れて。
 光の位置が変わる。
 頬に降り注いでいた小さな光が、目の位置に上ってきて。
 千獣は、瞬きを一つ、した。
 それから半眼になって、体の力を抜いて。
 その身を森に委ねていく……。

 しばらくして。ぽつぽつと、光の欠片が落ちている森を、また瞳に映した。
 耳には鳥の鳴き声、虫の音が入ってくる。
 その全てを、千獣の五感は自然に受け入れて、森の一部として彼女はその中に在った。
 長い時間、そうしていた。

 人は――。
 必要以上に、傷つけて殺す。
 命尽きたあの人を踏みにじり、嘲笑った。
 傷つけ奪った命に、偽りの言葉を吐いた。

(そして、私も……そんな『人間』)
 視線を落として、千獣は自分の身体を見た。
 これは、この形は、『人間』の身体。

(感情に、流されるまま……大切な、彼女達を、救うかもしれない彼女を――殺、した)
 人の皮を被った魔物。
 魔物のような人間。
 そういう生き物がいると言った人がいた。
 それはまさに、私の事だろうと千獣は思う。

 だけれど……。

 目を閉じれば、思い浮かぶ人がいる。
 そんな魔物のような存在とは程遠い生き物。
 優しい微笑みがとても似合う彼女は。
 そんな千獣に、涙した。
 目に見えない傷を思い、泣いた彼女も『人間』。

 悪戯に命を奪うのも人間。
 他者の傷を憂い、泣くのも人間。

 人間とは、何だろう――?

 人間という形をした生き物は。
 一体、何なのだろう。

 そんな生き物を知らなかった頃。
 千獣は森であの人。
 そう、人間としての最初の親に、出会った。
 あの人は、千獣のことを『人間』だと言った。

(あの人は……私に、どんな『人間』をみたの……かな)
 その答えは、もう聞くことができない。
 あの人とは、二度と話をすることが、できない。

(どんな『人間』になってほしいと、思ったのか、な……)
 あの人。
 そして、出会った様々な人達が、自分に思いを乗せる。
 それを、引き裂くように振るった爪牙。
 人間を、裂いた自分。

 その時の、感情が。
 感触が、思い浮かび、千獣の拳に力が籠った。

(私、は……『人間』を、殺した)

 記憶の中のあの人は。
 一緒に過ごした『人間』達は。心を持つ存在は。
 自分を、許してくれないかもしれない。

 で、も。

 千獣は何を見るわけでもなく、ぼーっと、木の根元に目を向けていた。
 一見何の変化もない、風景だった。
 緩やかに流れる時間、だった。

 でも。
 この目で。

「ごめん……もう、少し……人間を見て、いたい」
 もう、会えない記憶の中のあの人に、千獣は謝った。
 許してもらえることじゃないけれど。
 自分とは違う『人間』の傍にいていいのか、分からないけれど。

「もう少し、傍で、人間を……見ていたい」
 せめて、彼女が私のことで涙することがなくなるまで……。

「千獣、ご飯の時間よー! 戻ってきて、手伝って」
 ――風が彼女の声を運んでくれた。
 返事をしなければ、彼女は心配をする。
 怪我をして帰れば、彼女は悲しむ。そして、また泣いてしまうかもしれない。
 戻らなければ、知らずにすむことだけれど。
 千獣がいなくなることを。
 千獣が傷つくことを。
 彼女が悲しい、嫌だと、感じるということは、もうよくわかっている。
 何故かはわからなくても。

 どうしてか、は。
 千獣は、やっぱり理解することが出来ていない。
 自分は、彼女とは違う種類の生き物だから。
 人の皮を被った魔物なのか、魔物のような人間なのか。自分がどちらなのかはわからないけれど、そのどちらかだから。
 そう、思ているから。

 だけど、千獣は彼女を、彼女達人間を、見ていたいと思った。
 その気持ちは千獣の紛れもない本心。
 悩み、葛藤し、苦しみぬいて、たどり着いた結論。

 一緒にいて、考えていくと。
 そう決めた。

 だから、千獣は帰る。

 薪にする木の枝を沢山拾って。
 木の実を沢山持って。

 人間の住処へ。
 彼女達が待つ家へと。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2011年08月26日

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