▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『大激突!熱き拳よ 幻の敵を貫け 』
ガイ3547)&(登場しない)


格闘技―自らの鍛え上げられた筋肉を武器に己が限界までぶつかり合う最強にして最高の技。
その魔性のごとき魅力に惹きつけられ、互いの技をぶつけ合う闘技大会とは格闘家たちにとって極上の戦場であり、至上の修行の場であった。
が、激しきぶつかり合いには怪我が否応なくついてまわる宿命であり、その治療を全般に引受けるガイの疲労は計り知れないもの……なのだろうが、当人は『日々、これ修行だ』と笑って蹴り飛ばしてしまう。
格闘大会に集った若き格闘家たちの憧れを一身に受けながら、今日も治療に携わりつつも、自身の試合に全力で備えていた。

熱戦に賑わう声に満ちている闘技場とは裏腹に休憩室兼救護室は麗らかな日差しが降り注ぎ、ガイはつかの間の短い午睡をむさぼっていた。
短いとはいえ、かなり深い眠りに格闘家たちは気を遣いながら、終わった試合の反省や今後について熱く語り合う。
そのほほえましい姿を横目で見ながら、眠っているガイにぬっそりと大男は近寄るとためらいもなく足裏をその眼前に突き付ける。
猛烈な匂いが鼻をえぐった瞬間、ガイの眉間に深いしわが刻みこまれ、カッと閉じていた双眸が大きく見開かれた。
男の所業に若い格闘家たちもようやく気付いたが、強く咎めることもせず、恒例と化した日常に何とも言えない苦笑いを浮かべてやり過ごす。
来たばかりの者たちは仰天し、止めに入るものが続出していたが、ガイが自ら大男に頼んでやってもらっている起こし方だと聞かされ、どうにか納得するというのが多かった。
だが最近では『あの臭いを嗅がずに気配だけで目覚めるように鍛えているのだ。眠っている時でも自らを鍛えるとはさすがガイ!格闘家の鏡だ』といった声まであるのだから、筋肉至上主義者はあなどれない。
余談はさておき、かなり強烈な起こされ方をされたにも関わらず、目覚めはすこぶる良いガイは大男にニッと笑い返す。

「おはようさん、ガイ」
「おお、すまないな。ちょいとばかり寝すぎたみたいだな」
「このところ、治療の連中が多かったからな。それだけ疲れてたんだよ」
できればもうちょい寝かしといてやりたかったが、と罰悪そうに頭をかく大男にガイはちょいとばかり首をひねる。
気にするようなことでもないし、いつもなら彼も気にもしない。
確かに試合や治療のない休憩なら起きるまで放っておくのだから、少々違和感がある。
問いただすような目を向けると、大男は小さく肩をすくめながら窓の外に視線を移す。
「お前の対戦相手が決まりそうなんだ。偵察って訳じゃないが、見ておいて損はないだろう?」
「そりゃありがたいな!礼を言わせてもらうぜ」
いうが早いかガイはつい今しがたまで寝ていたとは思えない身のこなしで救護室を飛び出しかけると、大男が慌てて引き止めた。
「おいおい、今から闘技場に行っても試合は見れねーよ。こっから方が特等席だっての」
呆れをにじませた声をあげながら、大男は窓を押し開けながらガイを手招きする。
やや罰悪そうに鼻をかきながらガイは特等席と称させる窓から闘技場を覗き込んだ。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「でりゃぁぁぁぁぁぁぁっぁぁっぁぁぁ!!」
闘技盤上でそれは見事な筋肉を持った男たちが激しくぶつかっていた。
時に鋭い蹴りを、時に重い拳を己が全力を込めて打ち合う姿は強く心を揺さぶる。
しかし単調になりつつある戦いに飽いたのか、黒装束を纏った男は当たらぬと分かっていながら相手の男の腹に蹴りを放つ。
むろん相手はそれを察知し、後ろへ飛び去って事なきを得たので、はたから見れば無意味な攻撃と感じた。
だが、格闘家として優れた目を持つガイにはそれが別の手を打つための布石だと瞬時に察し、思わず窓から身を乗り出す。
にやりと口元に笑みを浮かべ、黒装束の男は左手で印を結ぶ。
ぐにゃりと男の周りの空気の密度が大きく変化し、真夏の陽炎のような影が無数にその体から分かたれた。
ヒッという短い悲鳴が観客たちから沸き起こり、対峙する男も呆然と数人に増えた黒装束の男を見つめる。
次の瞬間、彼らの手によって対戦相手の男は見事に弧を描いて空を舞い、闘技盤の外へとふっとばされていた。

「ほう……分身の術ってやつか」
感嘆の声をあげながらもガイは素早く頭を巡らせる。
この試合の勝者となった黒装束の男が次の試合―つまりガイの対戦相手だ。
確かにあの分身の術は厄介だが、分身ならばそれなりの対応がある。
「大丈夫なのか?!ガイ」
「まあな。明日の試合が楽しみだな」
青くなる大男の肩を軽くたたくとガイはニッと白い歯を見せて笑った。

その日の闘技場は異様な緊張感に満ちていた。
前日の試合で分身という離れ業を使いこなし、数の上で優位に立てる黒装束の男とこれまでの連戦を鮮やかに正々堂々とした戦いぶりで勝利してきたガイ。
相容れぬ戦い方をする二人の一戦は見逃せぬとばかりに集まった者もいれば、技とはいえ数に頼んで相手を打ち負かすなど一対一の闘いをよしとする格闘大会に対する挑戦だと憤り、ガイに打ち破ってもらいたいと願う者、勝つことが全てで手段を問わぬと思う者が入り混じり、言い表しがたい熱気を作り出す。

その盛り上がりとは裏腹に闘技盤の上のガイと黒装束の男は純粋に互いの技をぶつけ合う。
ガイの噂を耳にしていた黒装束の男は闇色の気で限界まで強化した自らの両手両足から前日以上の鋭さを増した攻撃を息つく暇を与えずに繰り出してくる。
刃を思わせる手刀から放たれる気の円盤をガイは見事な身のこなしでに避け、同じく気を纏わせた腕で無造作に叩き落とす。
その一瞬を狙い、黒装束の男は左右どちらかの足から蹴りを繰り出し、半月状の斬撃を次々と打つが瞬時に気を高めて防御力をあげるガイに致命的な打撃を与えられない。
両者一歩も譲らない互角の勝負に観客たちは息をつめながら、成り行きを見守る。
小さく舌を鳴らし、黒装束の男は大きく両腕を交差させて振り下ろす。
空を切り裂きながら交差し合い、円盤状の気の刃が2つ、ガイに襲い掛かる。
「やるな。だが、まだ甘い!!」
眼前まで迫った円盤を青白く輝く気を纏った腕で薄氷のように打ち砕き、同時に蹴りによる気の攻撃を繰り出す。
予想していなかった反撃に黒装束の男は苛立ったように地を蹴り、高く飛び上がってやり過ごすとそのまま後ろへと引き下がる。
「さすがはガイ……これで終いだ!!」
不敵な笑みをこぼし、黒装束の男はすばやく両手で印を結ぶとぐにゃりと男の周りの空気が大きく歪み、数十体以上の黒い影が次々と浮かび上がる。
闘技盤の上に突如出現した影―黒装束の男たちにガイは少しばかり感嘆の声をあげた。
昨日の優に数十倍以上の分身を作り上げることが出来るとは思いもしなかった。
「印の結び方で数を自在に操れるのか。なんとも便利な技だな」
「これはれっきとした技なんでな。卑怯だろうがなんだろうが要は勝てばいいんだよ!!」
勝ち誇った残忍な笑みを浮かべ、黒装束の男たちが獲物を狙う獣のごとく一斉にガイに飛びかかる。
観客たちの間から悲鳴があちこちで上がり、目を覆う。
が、ガイはやれやれと小さく肩をすくめ―全身に青く輝く気をたぎらせ、襲い掛かる黒装束の男たちに向かって拳を繰り出した。
「必殺!一網打尽!!!」
拳から繰り出された数千発以上はある気の弾が容赦なく男たちを貫き、吹っ飛ばす。
空中にいたために回避することもできず、つぶされたカエルのような声をあげ、次々と闘技盤や闘技盤の外に落ちていく黒装束の男たち。
うず高く積みあがった男たちは音もなくふわりと風に溶けて消え、後にはものの見事に気絶して白目をむいた男がひとり転がっていた。
「優れて便利な技なんだろうがな〜本体をいちいち探すよりも問答無用に全員ぶっ飛ばせば、意味ないだろ?」
呆れたように気絶した男を見下ろしながら、ガイは小さく笑みをこぼす。
次の瞬間、成り行きを見守っていた観客たちの爆発した歓声が闘技場を激しく打ち震わすのだった。

今日も今日とて熱戦が繰り広げられる闘技大会。
そして、癒しの苦痛がほとばしる救護室でガイは自慢の筋肉を駆使しながらひとり負傷者に気の治療を行っていた。
目の回るような忙しさではないが、治療者が少ないだけに負担が多いのは言うまでもない。
何人目かの治療を終え、額ににじんだ汗をぬぐいながらガイはふと先日の対戦相手の分身が脳裏に浮かぶ。
闘いはもちろん、人手が足りない時や用心棒といった小遣い稼ぎにはかなりお役立ち率が高い。
といっても特殊な技だろうから覚えるのは難しいのかもしれない。
が、試合後、あの黒装束の男はどういう心境の変化か分からないが、すっかりガイに心酔しきって1時間と置かずに手土産片手にやってくるから案外教えてもらえるかもしれない。
「あの分身の術も身につけてみてーな」
誰ともなくつぶやきながら、ガイは新たに運ばれてきた負傷者の治療に取り組むのだった。

FIN
PCシチュエーションノベル(シングル) -
緒方 智 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2011年09月09日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.