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『変化が、彼に齎すもの ─side:AA─ 』
ムーグ・リード(gc0402)

●Side:AA
 ラバトでの戦いの後、ムーグ・リード(gc0402)は杠葉 凛生(gb6638)を連れて直ちにラストホープへと帰還した。
 言葉少なにムーグが車を走らせる先は、病院。
 アフリカの地で凛生が負った傷は思いの外深く、重体に陥った身体を癒すには現地の治療だけでは足りなかった為だ。
 直ぐにでも凛生の治療を始めてもらいたい想いと、凛生の身体を労る気持ちは表裏一体。
 車両の速度を上げきれずにいるのは、そんな葛藤の末のことで。
 不安、焦燥、自責の念。どれともいいきれない複雑な思いを抱いたまま、ただ黙ってハンドルを握っていた。
「‥‥悪いな」
 少し倒した車の助手席のシートに横たわりながら、窓の外を眺めていたはずの凛生がぽつりと呟く。
 気付けば凛生は、ムーグの顔へと視線だけを投げかけてその様子を伺っていた。
 彼が、自分の事を気遣ってくれているのはよく解る。
 恐らく、ムーグが彼のことで自分を責めている事も含め、それを申し訳ないと感じているだろうことも。
「‥‥直、病院、デス」
 なんと言って応えたらいいのか、正直解らなかった。
 悪いなんて思っていないどころか、むしろそれは‥‥こちらの台詞だと言うのに。
 凛生は、アフリカ解放の為に続く長い長い戦いを共にしてきた戦友で、尊敬する人で――恩人、で。
 それ以上に感じるものもあったけれど、ただ、ざわつく心情は心の底に押しやった。

 かつての彼は、死に取り付かれていた。
 それは彼の背負う背景と、故郷である東京‥‥新宿への想い。
 出会った頃の彼は、およそ今の“生”について執着していないように見えて。
 だからこそ、それが見ていられなかった当時の自分は、彼にアフリカの復興の手伝いを依頼した。
 もちろん、どれだけ力を求めても解放と復興を自分一人では果たせそうにないという現実もあったけれど。
 結果、彼は自分の願いに応えてくれている。全力で。‥‥自分の身を、傷つけてまで。
 ハンドルを握る手に思わず力が入る。
 今こうしている時も何でもない風を装っているけれど、彼の負った怪我は想像よりずっと深く重い事も察せられる。
(復興と、大事な人。‥‥相克する願い)
 ムーグは、密やかに零された凛生の溜息に気付かぬまま、自らも静かに息を吐いた。 
 ふと、かけられた言葉は柔く。
「そんな顔をするな。まだ、アフリカは解放されていないんだ」
 こんなところで倒れる訳がないだろうと、彼はそう言って慣れた手つきで煙草を銜える。
 まるで当たり前のように流れるような所作で着火し、肺深くまで煙を味わう様子。
 余りにいつも通り過ぎて、自分への気遣いの奥に感じられる気持ちが苦くて。
 あの激しい戦闘の末に負った傷は覆い隠せる程度のものではないと、誰より自分が知っているだけに、
 堪えられている痛みが心を通して伝わってくるようで、息が詰まった。
 ───これでは、あまりに苦しい。

●生と死
 この傷は、直に治るだろう。
 それは、解る。死に至る程のものでないとは認識している。
 ただ‥‥“今回が偶々そうだった”だけ。
(次がそうじゃない保証は、どこにもない)
 こんな事を続けていたら、いつか本当に彼は自分の世界から失われてしまうと感じた。
 アフリカの地で相対したヨリシロも、凛生に目をつけていたし‥‥彼は、どこか危うげで刹那的に見えた。
「‥‥待たせた」
 その時、病院で検査と治療を終えた凛生がムーグの元へ歩いてくる音がした。
 顔をあげた先、最初に視界に飛び込んできた人物は自分の顔を見て表情を曇らせる。
 ‥‥また、何か気を遣わせてしまったんだろうか。表情には出していないつもりなのに、なぜ、解るのだろう。
「終ワリ、マシタ、カ‥‥?」
 努めて平静を装う相手。気遣いを無下にする事もできず、此方も同様に問いかける事にする。
 いつ崩れ落ちてしまうか解らない危うさが感じられたから、気付けば急いで彼の傍に寄っていた。
 治療のあとに感じられる傷の気配が、生々しく痛み彼の負った痛みを訴えてくるから、思わず怖くなった。
 結果はどうあれ、“今回、死にはしなかっただけ”だから。
「ああ。もう、問題ない‥‥」
 凛生はそう言ってまたいつも通りの態度をとる。
 目の前の安心よりも、この先を恐れて心が支配されていく。
 どうしてかは分からないし、そんな事よりも考えるべき事はあったから、言い表せない感情など見ないふりをして。
 気付けば、互いに言葉もなくなっていた。
 当の凛生自身もどこか考え事をしているようだったし、恐らくそれは自分の事だろうと感じたから、尚更何も言えなかった。

 切欠は、自分だった。
 アフリカへの想いが途切れた訳ではなく、あの地に足を踏み入れるたびに想いも焦りも募ってくる。
 だからこそ共に在ってくれる人がいる心強さはかけがえがなく、背を預けられる安堵感は目も眩むほどだった。
 それまでずっと一人で戦ってきた現実があるから、余計にそう思えるのかもしれない。
 家族と思える存在があっても、結局戦場に出れば一人だったから。
 ただ。
 『その代償に、彼を失ってもいいのか』と、恐怖の原因に、向き合う。
 そんな事態になったとして‥‥納得できるのか? 乗り越えられるのか?
 最悪の事態が、頭の中を駆け巡っていた。
 こんな考えが無意味であることくらい、解りきっていたけれど。

●憧憬のむこう
 止めてあった車に乗り込み、帰途につく。
 病院からの帰り道、二人の間を支配するのは車のエンジン音だけだった。
 元々雄弁な性質では無かったけれど、いつにも増して表情が硬く、何らか考え事をしているようだったから、ムーグは未だ何も言えずにいた。
 とはいえ、今なにかかける言葉があったかと言われれば、甚だ疑問ではあるが。
 心の内で二の足を踏んでいると、小さく心臓に響く音がする。
 その音に吸い寄せられるように視線を移せば、柔らかいスモークの張られた車窓の向こうに鮮やかな光を見つけた。
「花火、だな」
 沈黙していた凛生が、口を開いた。
 その口調は花火の光よりずっと柔らかく、想定していたよりずっと明るく。
 それに安堵したのか、ムーグも思わず言葉を返していた。
「‥‥祭り、デショウ、カ?」
 生い立ち上、余り花火を見た事もなければ、敢えてやっているものを見に行くという発想も無かった。
 端的に言えば、然程興味が無かったけれど‥‥今は少し違うように思う。
 遠くに上がる花火は、暗い闇夜を華やかに照らしていて。
 恐らく、あの花火の下にはたくさんの人々が居て、幸せに笑っているのだろう。
 隣で花火を見つめる凛生も、きっと同じ事を考えている気がする。
「興味があるのか」
 ふと助手席から聞こえてくる声は、からかうでもなく穏やかに問う。
 思わず口元を緩めてしまいながら、ムーグは静かに首を左右に振った。
 けれど、あの花火は今再び始まった会話のように、自分達に何らかの変化を齎してくれるのかもしれない。
 そう思うと、この機を逃す選択は出来なかった。
 この気持ちが溶けて無くなってしまう前にと、ムーグはハンドルをきる。
「デスガ、気分転換ニハ‥‥良いカモ、シレマセン」
 ラストホープ郊外の高台を、目指して。

 高台の上、車を停めると何も言わずに助手席側にまわり、そして凛生を介助するムーグ。
 人気のない高台から眺める花火は、車内から見た花火よりずっと大きく、近かった。
 そっと気付かれぬように移した視線の先、肩を貸したが故に間近に控える凛生の顔があって。
 眼下の街を眺めるその様子に、どことなく痛みを覚えた。
 そこでムーグが何を言っても、「なんでもない」、「些細なことだ」と、彼は言うのだろう。
 気を遣われる事がわかっているのに、上手く出来ない。その歯がゆさに、思わず嘆息が漏れる。
 ‥‥凛生と同じ様に眺めた眼下の街。そこに照らされる人々は、思いの外美しかった。
 けれど、この光景に反するようにせり上がってくるのは、故国の地の景色。
 アフリカにはもう、人は少ない。あの地に、こんな幸せが訪れるのはいつのことだろう?
 負に傾きかけた考えごと空に打ち上げてくれるかのように、空に一際大きな花火があがった。
「‥‥アノ風景、ヲ‥‥取り戻セル、デショウ、カ」
 我とは無しに呟いた言葉は、不安からくるものでは無く。
 出来ない事は無いだろうし、そもそも出来ないと言うつもりはない。
 『取り戻す』──それ以外選択肢もなければ、自分の原動力は彼の地に在ることに違いは無かったから。
 これはきっと、憧憬に似た何か。
「お前が、取り戻すんじゃないのか」
 他でもない、お前自身の手で。
 凛生の夜闇の様に深い瞳は、思いの外雄弁に語っていた。
 ムーグがそれを成せると信じてくれている。そして、その為ならば自分も尽力を惜しまないと、穏やかに手を差し伸べられた気がした。
「明日からまた、アフリカ解放の日々だ。焦らなくていい」

 花火の煙は風に流れて匂いを運ぶ。同時に、隣に立つ凛生から馴染んだ煙草の香りをも運んで。
 混ざり合う香りはどこかアフリカでの戦いを想起させた。

 ―――早く、成し遂げなくては。
 故郷と‥‥彼の為にも。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【gc0402 / ムーグ・リード / 男 / 21 / エースアサルト】
【gb6638 / 杠葉 凛生 / 男 / 47 / イェーガー】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、藤山です。
大変お待たせ致しました‥‥!!
アフリカの連動、諸々お疲れ様でした。積もる心情、ずっと拝見していました。
戦いはまだ続きますが、いつか来る解放の日を願っています。
イメージにそぐわない箇所等ありましたら、お気軽にリテイクしてください。
最後になりますが、この度はご発注頂き、誠にありがとうございました!
(担当ライター:藤山なないろ)
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2011年09月12日

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