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『見上げた空の、その先の。〜星精霊の歌う夜 』
ユリゼ・ファルアート(ea3502)

 暗い、暗い夜空を、見上げる。じっと、静かに。知らず、息すら押し殺して見上げた先に、小さな小さな輝きを求めて――幾度も、彼女が旅の最中で見上げたように。
 けれどもユリゼ・ファルアート(ea3502)の眼差しの先にあるのは、今まで見てきたそれと同じ様でいて、はっきりとどこかが違う。はっきり違うと解るのに、じゃあどこが違うのかと問われれば答えに窮してしまう。
 ――それは不思議な空だった。昼の空は虹色で、ユリゼが見慣れた青空などどこを見つめてもありはしない。夜になれば比較的見慣れた光景にはなるものの、やっぱりここは違うのだと肌で感じられる空。
 それでも暗い夜の中、道しるべのようにさやかに、力強く輝く星の光は同じ様に見えた。夏の空を、その夜を、見守るように、見下ろすように、キラキラと輝くその光は変わらないように見えるのに、実は星精霊の光なのだと言う。

(不思議ね)

 くすり、暗い、暗い夜空を、見上げてユリゼは微笑んだ。傍らには月龍のフロージュ。大切な相棒と、ずっと来たかったこの世界の空を見上げているなんて、それだけでどこか不思議で、くすぐったい。
 真っ暗な夜空の中、宝石のような煌めきが、夜闇の中で踊っているのをじっと、見上げる。この空はけれども、ユリゼ自身が生きてきて、旅をしてきた空のどことも繋がってはいなくて。旅の最中、幾夜も見上げた星とも全く違っていて。
 この世界にずっと来たかったのだと、星精霊の光と、月精霊の光を見上げた。月道を通ってしかこれない不思議な国――アトランティス。ユリゼが暮らすジ・アースとはそもそも異なる、不思議な不思議な竜と精霊の国。
 ある時月精霊の力が満ちて、或いはひょっとしたら他の要因も重なって、世界中の月道が月の満ち欠けに関係なく開かれた。もちろんその折り、このアトランティスへと続く月道も開かれたのだけれど、そうなってもまだジ・アースから気軽にこの国を訪れるのには、大きな障害があったのだ。
 果たしてそれが、どんな理由があってのことかは解らない。そも、月道とは月の精霊が司るものなのだから、精霊の論理に人間のそれを差し挟むことが間違っているのかもしれない。
 けれども人間の身からすればやっぱり不思議なことに、アトランティスへ訪れたものは、かの国からジ・アースへと帰還する折りには、身につけたすべてのものを置いて帰らねばならないのだ。アトランティスで手に入れた物だけではない、ジ・アースから持ち込んだものですら、一律に。
 行きたいと願いながら、ユリゼが月道をなかなか通ることが出来ずにいたのも、そのせいだった。旅から旅を続けていたから、その道のりをずっと共にしてきた衣類や武具には愛着がある。それを失うのは嫌だったし、といって失っても構わない最低限のものを手に入れ、着替えるのも面倒だと感じてしまって。
 面倒――そしてほんの少しの不安。自らの分身のようでもあるそれらに、ほんのわずかの間ですら別れを告げて、馴染みのない衣服を身に纏う、勇気。
 それでも、ユリゼが月道を通ったのは、月竜のフロージュと共にこの世界に来たいという気持ちが、押さえきれなかったからだ。

(姉さん、来たわよ)

 星精霊と月精霊の輝く空を見上げ、こことは違う空の下にいる人へと囁きかける。ユリゼが姉と呼ぶ彼女は、ユリゼとは違って幾度かこの地を訪れた事があり、その時の話を聞かせてくれた。
 竜と精霊のさきわう国。昼には陽精霊の光が満たし、夜には夜空を月精霊と星精霊が彩る虹色の空の下、竜と精霊に感謝して暮らす人々の住む世界。
 この世界には多くの精霊が住んでいて、さらには険しい岩山の頂上に竜族の長とも言われている月の竜が住んでいる。そう聞いて、ユリゼはどうしてもフロージュと共に、かの竜に会いたいと思ったのだ。
 高位なる月の竜、エクリプスドラゴン。姉が見ただけでも幾頭もの竜に敬われ、人には解らぬ竜の論理で気まぐれに人に力を貸し与え、そうでなくばただ世界の行く末を見つめている巨竜。
 かの竜に会えるかどうかすら、竜の気分次第なのだから、確証があったわけではない。姉やその仲間は巨竜の力を借りるためにシャドウドラゴンと戦わねばならなかったと言うし、また別の冒険者は巨竜に会うために3日近く楽の音を奏で続けたとも言う。
 けれども、もし会えるなら。そうしたらこの子を――フロージュを、かの竜に誉めて欲しいと、思ったのだ。

「‥‥フロージュ。初めて会ったエクリプスドラゴンは、どうだった?」

 精霊達の光の下、照らされるフロージュにふと問いかければ、小さな瞬きが一つ返ってくる。そう、と微笑んでユリゼはまた、空を見上げる。
 ユリゼ達がかの竜に会えたのは、全く幸運だったとしか言いようがない。かの竜が住まうという岩山に辿り着いた時、偶然かの竜は月光浴を楽しんでいた所であり、そうしてかの竜の友である人間と親しい月精霊と対話をした後で、ひどく機嫌が良かったそうだから。
 かの竜に比せばあまりに小さなフロージュと、さらに小さなユリゼを見下ろして、かの竜は『よう来たの、世界の向こうの同胞よ』とふいごのような声で言った。そうして退屈しのぎにと、彼女たちの旅の話を所望したのだ。
 北の果て、南の果て、月道の向こう。ユリゼの我侭に付き合って、何処へでも乗せて連れて行ってくれた大切な相棒。
 その相棒と見た数多のことを、思い出せる限りつぶさに語ったユリゼに巨竜は、深く、深く頷いた。そうして恐らくは竜の言葉で、フロージュに何事か話しかけた。
 果たして、どんな会話があったのか。ユリゼはきっと、永遠に知ることはないだろうけれど。
 フロージュの穏やかな様子からきっと、ユリゼの願いは叶ったのだろうと、思う。語り尽くせないほどの感謝の思いを、ただ自分の言葉だけでありがとうと伝えるくらいじゃ足りないと思ったから、だから巨竜に会いたかった。会って、遙かな時を生き、世界を見つめる、月の属性を持つ最高位の竜からフロージュを認めて、そうしてよく頑張ったと誉めてやって欲しかった。

(それもきっと、私の我侭なのだろうけど‥‥)

 人と竜の理屈は違い、人と竜の見つめる世界は違う。それでもきっと、ユリゼの気持ちを優しいフロージュは汲み取ってくれただろう。
 そっと、フロージュの大きな体に寄り添った。寄り添い、星精霊の輝く夜空を共に、見上げた。
 この先たとえ、誰と共に旅をしても、誰と共に空を見上げても、今日こうしてフロージュと見上げた星空を忘れることはないだろう。相棒と見上げた精霊の光瞬く不思議な空は、ずっとユリゼの心に輝き続けることだろう。
 だからそっと寄り添って、静かに静かに、空を見上げた。この胸に迷いを抱いて、さまようように世界の果てまで旅をした日々を、その間ずっとそばにいてくれた相棒を、思った。
 その日々はきらきらと、まるでこの夜空のように暖かに光り輝いている。その思い出を、輝きを大切に胸に抱きしめて、ユリゼはただ、フロージュの大きな優しさに包まれながら、空を見上げていたのだった。






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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /     PC名     / 性別 / 年齢 /   職業   】
  ea3502 / ユリゼ・ファルアート /  女  /  26  / ウィザード

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。
また、先日のノベルもお気に召して頂けたと言うことで、本当に嬉しいです(笑

アトランティスでの星精霊を見上げるひととき、如何でしたでしょうか?
AFOでのお嬢様は時折、チャットで拝見する位でしたので、イメージにそぐっていれば良いのですが;
というか、あの、描写のリビドーが何か、違う方向に行ってしまっていたらすみません‥‥久しぶりのアトランティスが、書いてて楽しすぎました(ぉぃ

蓮華の拙いノベルで、旅を続けたお嬢様の相棒たる月竜さんへの感謝が、伝われば良いのですが。
偏屈だけど竜には優しい(←)巨竜さんも、せっかくだからと出てこられましたが、あの、ホントにアレなドラゴンですみませんorz

お嬢様のイメージ通りの、大切な相棒さんと過ごされる、感謝を込めた特別なひとときのノベルであれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と
Midnight!夏色ドリームノベル -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
Asura Fantasy Online
2011年09月27日

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