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『バラの葉の花言葉 』
栗花落・飛頼7851)&聖栞(NPC5232)

 栗花落飛頼は、今日も朝早くに起き、庭を散歩していた。
 庭の木々はまだ朝露に濡れ、それが朝の日差しに柔らかく照らされるのを見ると気持ちが静まる。

「あっ……」

 ちょうど飛頼の育てている花のエリアに差し掛かった時、少しだけ感嘆の声を上げて立ち止まった。
 本当なら白いバラと赤いバラを植えていたのに、どこかで混ざったんだろうか。珍しく赤い斑模様の付いた白いバラが咲いていた。その斑模様はバラを美しく彩っていた。
 ふと栗花落は思い出す。
 そう言えば理事長は、いつも花を持って行くと喜んで過敏に活けているな。
 そう思うと、栗花落はいそいそとハサミを持って来て、それを新聞に包んだ。
 朝露でまだ、バラは湿っていた。

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 もう聖祭の準備段階もラストスパートに入っている。
 それを横目で見ながら、飛頼は中庭を横切る。
 バレエ科の方はエトワールが突然入院したとかで大騒ぎになって、急遽別キャストで組み始めているが、表立って大騒ぎしているのはそこ位か。
 ……守宮さん。理事長は大丈夫だと言っていたけれど。
 先日の1件を思い出し、歩幅を早める。
 たくさん訊かないといけない事があるし。
 理事長館が見えると、飛頼はベルを鳴らしてから、ドアを開けた。

「すみません、理事長はいますか?」

 声をかける。

「はあい。ごめんなさい、ちょっと待ってね」

 すぐに奥から聖栞が出てきた。
 前に見た白装束ではなく、スカートにブラウスと言ういつも通りの格好だった。

「あら、いらっしゃい栗花落君」
「こんにちは、今日うちの庭で珍しいバラを見つけたので」
「あら……斑模様。自然に植えててこうなるのは珍しいのにねえ。ありがとう」

 飛頼が花を差し出すと、栞はにこにこと笑って受け取った。
 そのまま、いつもの調子で奥に通された。

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「ちょっと待ってね、飲み物すぐ出すから」
「いえ、別にお構いなく」
「単なる趣味よ」

 栞がバラを花瓶に活け始める。
 飛頼は葉っぱごとバラを持ってきたが、栞も葉っぱごと花瓶に活ける。
 飛頼はおずおずとソファーに座ると、テーブルにルーペが転がっているのが見えた。

「すみません、守宮さんの話ですが」
「ああ、彼女ね」
「……彼女は、いつ元に戻るんでしょうか?」

 少し気になった。
 彼女は今、星野のばらを宿したままバラの樹になってしまっている。
 呪いは上書きでなければ解く事ができないとは、栞が言っていた事だが。

「そうね。変えなきゃいけないものが、まだ変わっていないから」
「その……その変えないといけないものって言うのは、何ですか?」
「ええ……」

 プン……と独特の匂いのする飲み物を、ガラスのカップに入れて栞は戻ってきた。
 その液体は茶色いが、コーヒーには全く見えないし、紅茶にしては色が薄いような気がする。

「これ何ですか?」

 思わず訊いてしまう。

「ああ。ローズシナモンティー。身体にいいんだけどねえ、あんまりいいドライハーブ見つからないの」
「はあ……」

 何の匂いかと思ったら、バラとシナモンの混じった匂いだったのか。
 まあ確かシナモンは桂皮、漢方薬とかにも使われてたと思うけど。
 匂いを嗅いだだけで留めた飛頼は、再度疑問を口にした。

「変えないといけないものって?」
「……あなたが少し記憶がなくなっていた話」
「えっ?」

 咄嗟に、今は桜華の中にいるのばらの事が頭に浮かんだ。

「前に進めないって残酷な話ね。
 人は後ろ向きにでも前にしか進めないのに、止まっちゃう事があるから。人の死にはそれだけ大きな影響力がある。
 あなたが変えたのは、守宮さん。彼女はずっとコンプレックスに思っていた。自分自身をコンプレックスに思っていたから、言いなりになってしまっていたんでしょうね……」
「えっと……僕は守宮さんの何を変えたんでしょうか?」
「1番彼女が必要としていたもの。彼女自身の肯定よ」
「あ……」

 自覚はなかったが、そう言う事だったのか。
 でも……飛頼はもう1つ疑問を口にしてみる。

「でも、そこまで分かっているなら、理事長にもできたんでは?」
「私じゃあ駄目ね。そうだったら嬉しいけど」

 栞はふるふると首を振った。
 その様子は、どことなく寂しげだった。

「私はあの子達にとって叔母であり、小母さん。自分を肯定して当然の身内だから、私が肯定しても、あの子達は自信を持ってくれないから」
「肯定……じゃあ、変えなきゃいけない事って言うのは……」
「……最後の1人ね。あの子が何でこんな大騒動を起こしたのか、1度話を聞かない事にはね」

 多分。
 飛頼は思った。
 多分、もう理事長は理由も知っているけれど、近過ぎるのが原因で手出しができないんだろうなあ。
 人の心って、本当に難しい。
 飛頼は、おそるおそるローズシナモンティーを口にしてみた。
 匂いがきつくてどんなものかと思っていたが、ウーロン茶みたいな味で、思っているよりはまずくなかった。……おいしいかどうかは慣れの問題だろうが。
 最後の1人って言うのは、海棠織也君、かなあ……。でもどうやったら会えるんだろう。
 飛び込まなければ分からないって事、なのかなあ……。


バラの葉
花言葉:希望はまだある 頑張れ

<了>
PCシチュエーションノベル(シングル) -
石田空 クリエイターズルームへ
東京怪談
2011年09月30日

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