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『+ ある風邪の日、三人で + 』
飯屋・由聖7587)&阿隈・零一(7588)&工藤・勇太(1122)&(登場しない)



「へ、っくしゅ!」


 黒髪の高校生、工藤 勇太(くどう ゆうた)は己の鼻に手の甲を当て若干乱暴に擦る。次いで額に手を当てれば普段よりも熱があるように感じた。


「やっべ、マジで風邪引いたかも……」


 時間が経つにつれ悪寒まで走り始め、体調は悪化していく。
 お得意の超能力もどうやら本領発揮とはいかないらしく、十八番であるはずのサイコキネシスでの物体移動すら失敗する始末。それでも授業は最後まで頑張って受け、ホームルームが終わったと同時に彼は帰路に着く。
 ブレザーの上から二の腕を擦りながら彼は早足で歩いていた、が――。


「ぶえっくしゅんっ!!」


 一際大きなくしゃみが人気の無い道路に響く。
 その次の瞬間、勇太の姿は己のテレポート能力によって忽然と姿を消した。



■■■■■



 一方その頃。
 飯屋 由聖(めしや よしあき)と呼ばれる少年は必死に『それ』から逃げていた。彼を追いかけているのは下級悪魔。飯屋はそのあらゆる負の気を浄化する能力を持つが故に常に『人で無い者』に襲撃を受けることが多い。
 その度に彼の友人である阿隈 零一(あくま れいいち)がこれまたこの世に存在するマイナスエネルギーに変換し攻撃的な力を生む能力によって追い払ってくれているのだが、今回は状況が悪すぎた。一匹、二匹ならば阿隈一人でも対抗出来る。しかしいつまで経っても飯屋を殺しきれない現状に苛立った悪魔が、大量の使い魔を送り込んできたのだ。
 その結果、飯屋と阿隈は戦闘体勢上分断を余儀なくされ、今は互いに一人一人戦っているという状態である。


「っ、早く阿隈と合流しなきゃ僕だって身が持たな――う、わぁあ!?」


 下級悪魔のしつこさに体力が追いつかず、思わず足を止めてしまいそうになるがそれでも頑張って走り続けた矢先、目の前に何かが突然飛来し道路に倒れた。
 最初は悪魔達の仲間かと思った。しかしそれは明らかに人型をしており、そして何より一見しただけではただの高校男子にしか見えなかった。飯屋は思わず逃走していることも忘れ、それを観察してしまう。問題のその高校生は額に口元に手を当てながら何とか立ち上がろうとする。


「ここ、どこだ〜?」


 声を発したのは問題の高校生。
 そう、うっかりテレポートして飛んできてしまった工藤勇太その人であった。彼は暴走した己の能力によって酔い、風邪による体調不良も相まって吐き気を催していた。


「だ、大丈夫ですか?」


 反射的に飯屋は具合の悪そうな彼を助け起こす。
 様子からして悪魔達の仲間ではないと察した上での行動だ。彼が何も無い空間から現れた事はさておき、具合の悪さは無視出来なかった。
 しかしその隙を逃すほど悪魔達も馬鹿ではない。
 飯屋が足を止めた瞬間を狙って確実に彼へと攻撃を始めたのだ。下級悪魔の一匹が口ならなにやら怪しげな液体を吐き出す。工藤はぐらついた意識を何とか立て直すと片手を前にかざした。飯屋に向かって直線を描き吐き出された液体は工藤のサイコキネシスによって軌道を歪められ、アスファルトへとびちゃりと汚らしい音を立てて落ちる。そして次の瞬間には醜い音と共に道路が解け始めたではないか。


「げっ、なんだよこいつら!!」
「こいつらは悪魔だよ! 君危ないから早く逃げて!」
「何言ってんだよ、お前だって危ないんだろ!」


 悪魔はもう一撃同様の攻撃を今度は邪魔者と判断した工藤目掛けて吐き散らす。しかし目標となった彼はまたも軌道を歪めた。
 飯屋は二度の攻撃の回避により目の前の相手が普通の人間ではない事を知り、己の力を展開する。それは不浄の者を近寄らせない『結界』。普通の人間には見えない透明のそれは二人の少年を包み込んだ。


「はぁ……人が調子悪ぃ時に……、来てんじゃねえ!」


 普段ならばサイコキネシスで軽く持ち上げられるはずの物質が重たい。
 とっさの判断として傍にあった郵便ポストをアスファルトから無理やり抜き取り、悪魔達にぶつける。その勢いと攻撃力は怒りと比例したのかぶつけられた悪魔二匹は多大なダメージを受け、空気中に四散した。
 ずきん、と工藤を襲う頭痛。その痛みに表情を歪ませ、掌で顔を覆いながらもエネルギーをぶつける。力を使う度に身体への負担は酷くなっていくけれど、そんな事に構っていられない。
 『困っている人間が目の前にいる』。その事実だけが工藤を突き動かしていた。


「どうか、僕に彼らに対抗する力を――」


 飯屋もただ護られているだけの人間ではない。
 普段は確かに阿隈に討伐を行ってもらう事が多いが、戦えないわけではない。ただ、彼は戦いを好まないだけなのだ。自分一人だけの問題ならばいつも通り阿隈と合流してから戦闘態勢を取り直すが今目の前に居る人は阿隈ではない。
 だけど阿隈のように下級悪魔に対抗出来る能力を持つ人間であり、誰とも知らない自分を護ってくれている人だ。ここで力を振るわなければ男が廃るというもの。
 飯屋は両手を組み合わせ、そして祈る。
 自分の中から仄かに温かな光が漏れ出し、そして不浄の者――悪魔達の力を吸い取ると同時に彼らを浄化し始めた。


 本来の力を使用した飯屋には下級悪魔は対抗出来るはずも無く、劣勢を感じた悪魔達は「オボエテロ!!」と定番の台詞を残しながら場を退散していく。
 後に残ったのは飯屋と工藤の二人。


 工藤は持ち上げていた郵便ポストをひょろひょろと力弱く元の場所に戻す。
 出来るだけ元通りにと心掛けてはいるが能力が低下している今、完全に修繕するのは難しい。実際乱暴に抜いてしまったアスファルトは欠片が飛び散っているし、普段ならそれをどうにか隙間に埋め込んで「ちょっとひび割れたかな?」程度にまで修復するが今はそれすらも叶わない。靴の底で乱暴に踏み固め、どうにか誤魔化すのが限界だった。


「あの、君、本当に大丈夫?」
「あ?」
「えっと具合悪いんじゃ……」
「風邪引いてるだけだから……っていうか、そっちの方こそ大丈夫なのかよ。変なのに思い切り狙われてたじゃんか!」
「う、うん。そうなんだけどね。でも君が居てくれたから助かったよ。有難う」


 アスファルトを踏み固めている工藤の元に飯屋は寄って話しかける。
 それから心の底から感謝の言葉を告げ微笑み返した。その笑顔に自分が手を出したことは間違いではなかったと悟ると工藤の方も力を抜いた。


 その後二人は互いの持つ力について話を交し合う。
 例えば工藤の持つ超能力について。これに関しては漫画などで描写されていることが多いため説明は至って簡単だった。工藤が持つのはサイコキネシス、テレポート、テレパシーの三種。つまり先程突然現れてしまったのは風邪によるテレポート能力の暴走という事も付け加えて。


 飯屋もまた自分が何故下級悪魔に狙われていたのか説明を重ねる。
 自分は不浄の者を浄化出来ること、その能力が悪魔達には目障りで隙あらば殺そうと命を狙われていること。普段ならば護ってくれる相手が傍にいる事など、だ。
 そんな風に二人語り合っている内に工藤は飯屋に対して物怖じしないちょっと変わってる人だと認識していった。


「具合が悪いのに力を使わせてごめんね。そろそろ友達が来ると思うんだけど」
「いいって、いいって。それより俺は此処がどこなのか知りたいんだけど?」
「あ、そうか。テレポートで飛んできちゃったんだよね。此処は――」
「ふ、ふえ、ふぇっくしゅ!!」


 飯屋に所在地を訊ねる工藤。
 しかしその回答を貰う前にまたしても鼻が痒くなり、大きなくしゃみを一つ起こしてしまう。そしてぐらりと目の前が歪む感覚、そして身体が弾き飛ばされる衝撃に包まれた。


―― ま、またかよー!?


「君!?」


 それは身体が透け消える瞬間、目を見開いて驚きの表情を浮かべた飯屋が伸ばす手だけが彼が見た最後の光景。



■■■■■



「――と、言うことがあったんだよ」
「……確かに、お前の傍にいた誰かが急に消えた光景は俺も見たが……なぁ」
「でもさ、風邪の不調でくしゃみした瞬間にぽんぽん飛んでいっちゃったら大変だよね」


 工藤が消えた丁度その時、やってきたのは阿隈。
 彼は飯屋に付きまとっていた悪魔の半分を見事退治し、無事合流することが出来た。飯屋の無事を確認出来たことに安堵しつつも内心「助けてくれた人」の事を朗らかに話す彼に表情を険しいものへと変えた。
 結果オーライという言葉はあるが、それとは違うちょっとした感情。どうにも割り切れなさが阿隈の身の内を焦がす。


「あのね、その人はちょっと阿隈に似てると思ったよ」
「な、に?」
「態度とか、攻撃とか……あ、雰囲気も似てたなぁ」
「俺は俺だけだ。そいつとは違う」


 飯屋が何か発言する度に阿隈は不機嫌になっていく。
 そんな彼を見て飯屋はくすっと一つ笑うと、彼の眉間に寄った皺を人差し指で突いた。


「妬いた?」
「見てもいねー奴に妬いてどうすんだよ」
「そう? でも僕はちょっと妬いて欲しいなぁー」
「お前なぁ……」
「また逢える機会があったら、今度こそは名前とか聞かないとね」


 そう言って空を見上げる飯屋。
 その先にあるのは清々しい空だけ。しかし阿隈はと言えば飯屋のそんな態度に「まだ見ぬ誰か」に対してもやついた感情を募らせるしかなかった。














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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男 / 17歳 / 超能力高校生】

【7587 / 飯屋・由聖 (めしや・よしあき) / 男 / 17歳 / 高校生】
【7588 / 阿隈・零一 (あくま・れいいち) / 男 / 17歳 / 高校生】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、またの発注有難うございましたv
 今回は発注分通り工藤様、飯屋様中心の話となりましたがどうでしょうか?
 くしゃみの度にテレポートしてしまうとなると本当に大変ですので、早く体調がよくなることを祈ります^^
PCシチュエーションノベル(グループ3) -
蒼木裕 クリエイターズルームへ
東京怪談
2011年10月05日

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