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『Pumpkin Magic【巨人の見た夢】 』
マックス・ウォーレン(gb5891)


「ハロウィンか……」
 街を歩くマックス・ウォーレンは、オレンジの南瓜に目を細めた。
 陽は傾きかけ、冬の足音さえ聞こえる秋の風が肌を刺す。
 少しずつ街灯が灯り始め、南瓜も同様に街を照らす小さな灯りとなる。
 ――淡く光る、ジャック・オー・ランタン。
 南瓜が、笑う。

 ――遡ること数時間。
「今回の任務、大丈夫なんだろうな?」
 男は言いながら、ちらりとマックスの愛機であるバイパーを見やる。これから戦地に出向き、空から偵察する予定だった。
 男は傭兵としての任務に同行することになった軍関係者だ。マックスは覚醒すると、全身の筋肉が急激に膨張する。それに合わせて骨格も発達することによって、身体が二回り大きくなってしまう。元々二メートルを超える身長であったマックスが、更に大きくなるのだ。その巨大さは、想像を絶するものだろう。
 搭乗して覚醒しても本当に大丈夫なのか、男はそれが気がかりなのだ。
「大丈夫……だ、多分」
 マックスは頷き、バイパーに乗り込んだ。
「これだけの余裕があれば、問題はない」
 男に告げ、覚醒を遂げる。
 コクピットの中、その身体は膨れあがる。まだ大丈夫、まだ余裕はある、そう思っているうちに隙間は埋まっていき、やがて――。

 ――びりびりっ。
 服が、破れる。

 ――べきっ。
 鈍い音が膝付近で響く。ちくりと刺す痛み。

 ――みしっ。
 頭上で響く音。

 ――がしゃん。
 何かが潰れた。

「もういい、覚醒を解いて降りろ」
 男が溜息を漏らす。マックスは言われる前に覚醒を解き、コクピットから飛び降りた。
 怖くて愛機を振り返ることができない。コクピットの惨状は容易に想像が付いてしまうからだ。
「今回の任務は無理そうだな。それ以前に、このままではKVどころか通常のSES武器さえも扱えないんじゃないか?」
 男の指摘に、マックスは返す言葉がなかった。確かに、通常の武器は小さすぎてマックスの巨体では扱えない。一部、KV用の武器ならば扱えそうな気がしなくもないが、しかしそれは生身の身体で扱うような代物ではない。
「体格にあった装備品を調達するまで、依頼はしばらく休むことだな」
 無言のマックスに、男は追い打ちをかける。言われるまでもない、そうするしかないことはマックスにもわかっていた。
 マックスは身体に似合わないくらい、小さく小さく頷いてその場を去ろうとする。
「これで前を隠していけ、マックス」
 男はマックスを引き留めると、自身の上着を脱いでマックスの股間へと押しつけた。

 数時間前のことを思い出し、マックスは吐息を漏らす。
 陽はすっかり落ち、ネオンが眩しい街にはオレンジの灯りがかなり目立ち始めた。
 ハロウィンは二週間後だ。きっと当日はもっと賑やかなのだろう。
「食い扶持を稼がないとな……」
 しばらく依頼を受けることはできない。生活費を他の仕事で稼ぐ必要があった。自身の身体に合う武器を買う費用も、愛機のコクピットを広くする改造費も捻出しなければならない。
 ふと、以前世話になっていた現場監督の顔が脳裏を過ぎる。この身体とパワーなら、一般人十人分以上の働きはできるだろう。
「よし、そうするか……、……ん?」
 マックスが決意したとき、歩道をフラフラと歩く女性とすれ違った。
 まだ陽が落ちてそれほど時間は経っていないが、かなり酔っているようだ。ご機嫌そうな笑みを浮かべている。車道にほど近い位置を歩いており、マックスは嫌な予感を抱く。
 ――そのとき。
「‥‥きゃ‥‥っ」
 女性が小さな悲鳴を上げた。大きくバランスを崩し、車道側へと倒れ込む。そこに、トラックが――。
 ドラマや物語などでありがちのシチュエーション、それが目の前で展開されている。
 今、彼女を助けられるのは自分しかいない。そう考える前に、マックスは動いていた。
 女性とトラックの間に滑り込み、そして迷うことなく覚醒を遂げる。
 トラックを全身で受け止めれば、若干押されはしたものの、女性に到達する少し手前で止めることができた。
「怪我はないか?」
 安堵の笑みを浮かべ、振り返るマックス。女性を立たせようと手を伸ばす。
「あ、ありがとう、ございまし……、……、……」
 女性がマックスの手を取ろうとした瞬間、その視線は一点に集中した。
「どうした?」
 首を傾げるマックス、一点集中したまま固まる女性。
 その視線を追ったマックスは、今度は自分が硬直してしまった。
 そういえば、寒い。
 そういえば、覚醒したんだった。
 ――しまった……っ!
 マックスがその事実に気づいたときにはもう遅かった。
「いやあああああああああああああああああああああっ!!!!」
 女性は超音波を放ち、超高速で走り去っていく。先ほどまで酔っていたとは思えないくらいだ。
「いや、違う、誤解……っ」
 慌てて追いかけて弁解しようとするマックス、しかし追いかければ追いかけるほど自身にとって不利な状況になっていくことに気づいていない。
 覚醒していることで、一般的な大人の目線の位置や頭上にアレがある。
 硬直する大人達。「すげぇ!」と興奮して追いかけるのは、様々な理由でその場に居合わせた十歳前後の男の子達。
 やがて耳慣れた音が響き渡る。悪いことをしていなくても誰もが一瞬だけびびってしまう、あの音。
 そう、パトカーの――。
「そこの君、止まりなさい! ぶらぶらさせちゃいかん! こら、そこの子供達! 追いかけちゃいかん! 傘でつつこうとするのもやめなさいっ、そこは大事な場所っ、あっ、だからやめなさいって、痛いから! あっ、もう、もう、頼むからもうやめてあげて――っ!!」
 警察官が混乱気味に叫んで事態の収束に走り回り、そしてマックスは、公然わいせつ罪だかわいせつ物陳列罪だか道路交通法違反だか、とにかくそんな理由でしょっぴかれてしまった。


「散々な目に遭った……」
 マックスが警察署を出たのは、夜が明けてからのことだった。
 自分は決して悪いことはしていない。ただ、人を助けただけなのだ。しかし助けた相手は誤解し、警察まで呼ばれてしまった。
 それでもこうしてマックスが釈放されたのは、身体を張って止めたトラックの運転手による証言が得られたからだった。
 街中での覚醒は控えるように言い渡され、マックスは晴れて自由の身。ほとんど眠れなかったため疲労困憊だが、昨夜決めたとおりに監督の元へ行かなければ。
 そして重い身体を引きずり、マックスは歩き始めた。

「もう一度お前を?」
 工事現場に訪ねてきたマックスを見上げる現場監督。
 マックスが本当にここで働く気があるのか、それを見定めようと頭の先から爪先まで、じっくりと見つめてくる。
「肉体労働ならなんでもやる。俺一人で十人分以上働ける。まずはこれを見てくれ」
 マックスは上着を脱いで覚醒し、監督に自身のボディを見せつける。
「ぅぁ……いきなりなんてモンを見せつけてくるんだ、お前はっ! 大きいのはわかった、わかったから!」
 いきなり目の前にアレがきた監督は、一瞬だけ顔をしかめて目を逸らす。
「いや、見て欲しいのはそこじゃくて」
 しかし昨夜もそうだったが、いきなり目の前に「出現」してしまえば誰もが見てしまう。こればかりはどうしようもないだろう。
「そ、そうか、そうだよな」
 監督はうろたえながらも、とりあえず一歩下がって改めてマックスを見つめた。
「……ふむ」
「どうだろうか」
「その身体に合うような作業服はねぇが、いいか?」
 そう言って監督は目の前のそれを、手に持っていたボールペンで軽く弾く。
「ぁぅっ」
 巨体に似合わずちょっと可愛い声を出してしまったマックスは、しかし嬉しそうに笑って大きく頷いた。

 工事現場で働き始めたマックスは、それはもうよく働いた。
 作業服は監督の奥さんが二日掛けて作ってくれた。採用されてから監督に事情を話すと、装備品などが買えるように給料も少し上乗せしてくれるという。「他の連中には内緒だぜ?」と笑った監督にはきっと一生頭が上がらないだろう。
 そのうちに彼の巨体は周囲で話題になり、現場近くの幼稚園からは子供達と遊んでほしいと依頼されるなど、ちょっとした小さな仕事も舞い込むようになってきた。
「とりっくおあとりーとー!」
 昨日遊んであげた園児達が、休憩中のマックスを訪ねてきた。皆、ハロウィンのコスプレをして、手にお菓子を持って。
「おにーちゃん、昨日はありがとう! これあげるねっ!」
 皆、順番にマックスにお菓子を手渡していく。
「ありがとう。……そうか、今日はハロウィンか」
 受け取りながらマックスは月日の経つのは早いものだと目を細める。
 ハロウィンのディスプレイを見ながら夜の街を歩いたあの日から、もう二週間。警察に連れて行かれたのはもう随分前のことのようだ。
 あの女性は、今も自分のことを誤解しているだろう。そう思うと少し寂しいが、自分の手の平に載っていくお菓子達を見ていると癒される。
「……あの」
 ふいに、子供達の声に女性の声が混ざる。マックスがその声の主を見れば、そこには――。
「……あのときの」
 そう、あの夜、マックスに助けられたものの、彼の裸を見て誤解して逃げ去ってしまった女性だ。
 彼女は申し訳なさそうに頭を下げた。
「ごめんなさい……っ、助けていただいたのに誤解してしまって……! あれから、警察の方から本当のことを教えていただいて。謝らなきゃ、って……ずっとあなたを捜していたんです」
 震える声、下げられたままの頭。マックスは小さく首を振って、彼女の頭を指先で軽く撫でた。
「もういい、怒ってはいない。あのとき、怪我はなかったか?」
「はい……っ!」
 彼女はぱっと顔を上げ、頷く。そしてもじもじと何かのチラシを差し出した。
「それで、あの、お詫びと言うのも変なんですけれど……」
 それは、午後から開催されるハロウィンイベントのチラシ。
「うちの会社が主催する、子供向けのハロウィンイベントなんです。よろしかったらスタッフとして参加してくださいませんか……? 謝礼もお出ししますし、衣装はこちらで用意してあります。子供達も喜ぶと思うんです」
「午後からか。有り難いが仕事があるんだ」
 マックスはそう言って断る。しかしそれを聞いて黙っていなかったのは、先ほどの子供達。
「どうしてー! 僕達の幼稚園もこのイベントに遊びに行くんだよ! おにーちゃん来てくれたら楽しいのにっ」
「一緒に遊びたいよー!」
 きゃんきゃんわいわい、マックスを取り囲む。「ご迷惑ですよ、無理を言っちゃだめ」と教師が宥めるが、しかし子供達は聞いちゃいない。
 マックスの腕にぶら下がり、背中によじ登り。必死になって説得する。
 どうすりゃいいんだ――マックスが困惑していると、後ろからぽん、と肩を叩かれた。
 振り返ると、満面の笑みを浮かべた監督。
「午後から休みにしてやるから、行って来い。必要とされるのはありがてぇじゃねぇか」
「監督――」
 マックスは監督に本当にいいのか問い返そうとする。
 しかしそれを遮ったのは、子供達の大歓声だった。


 そのイベントは大成功だった。
 集まった子供達は最初から最後まで笑みを絶やさず、イベントを楽しんでいる。
 コスプレをしたスタッフも多く、子供達はスタッフ達とも大いに戯れる。
 最も人気があったのは、皮の腰巻きと大棍棒片手にした巨人だったという。
 子供達が帰ったあと、巨人――マックスは街灯の灯り始めた街並みを眺めていた。
 淡く光るジャック・オー・ランタン。しかしあの南瓜も、明日には姿を消してしまうだろう。
「ハロウィンか……」
 それは、二週間前とは同じようでいて違う呟き。
 マックスは南瓜を見つめたまま明日もまた頑張ろうと頬を緩め、澄み渡った夜空を見上げた。


 ――Trick or Treat?



   了


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【gb5891 / マックス・ウォーレン / 男性 / 32歳 / ダークファイター】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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■マックス・ウォーレン様
お世話になっております、佐伯ますみです。
「PM!ハロウィンノベル」、お届けいたします。

発注文にありました「巨人のコスプレ」という言葉から、「巨人と遊ぶ子供達」(あらゆる意味で)が真っ先に思い浮かび、このようなお話になりましたがいかがでしたでしょうか。
最初から最後までかなり楽しく書かせていただきました。
OMCイラストを拝見すると目の前に来ていたので、それを書かない手はないと思って書いたシーンが複数ありますが、特に子供達が色々やりすぎそうになってしまったので慌てて修正したくらいです。
日常と共にコメディ色も出しつつ、ラストは穏やかな雰囲気になりましたが、もしイメージと違うようでしたら、遠慮なくリテイクかけてやってくださいね!

この度はご注文くださり、誠にありがとうございました。
少しでも楽しんでいただけると幸いです。
季節の変わり目ですので、お体くれぐれもご自愛くださいね。
2011年 10月31日 佐伯ますみ
PM!ハロウィンノベル -
佐伯ますみ クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2011年10月31日

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