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『忘却せよ乙女 』
三島・玲奈7134)&瀬名・雫(NPCA003)

 玲奈は一人、学校から自宅に向かっていた。雫に家で勉強を教える約束をしていたのだ。その目は伏せ気味で、耳元で揺れる黒髪は柔らかい。セーラー服のスカートがいかにも清楚だ。
 だが、帰路の途中にあるコンビニに掲げられた『中華まん値下げ中!』の文字が目に入ると、玲奈は迷うことなくそちらに向かった。丁度小腹がすいていたのだ。

■□■

 同じく学校から玲奈の家に向かっていた雫もまた、コンビニの前を通りかかった。
『中華まん値下げ中!』の文字が気になったが、自動ドアのそばにセーラー服でしゃがみこむ女子高生がそれよりも気になり、その場を通り過ぎようといした。
「あっ、しっずくー! え、なんか久しぶりじゃん。こっち来なよぉ」
 その声が知り合いに似ている気がして、雫は立ち止まった。手を振っているのは、くだんの女子高生だ。雫は不思議そうにその顔を見つめながら近づき、そして気付いた。
 行儀悪くしゃがみこんでいたのは玲奈だった。能天気なまでの調子の良さが肌で感じられる。いつもの親切で優しい玲奈ではない。ただの軽薄なギャルだ。
 しかも、容貌や言動は軽そうだが、根は丁寧で親切ということもなさそうだ。自動ドアの横で、中が見えるのにも関わらずしゃがみこんでいることから鑑みて。
 絶句して動きを止めた雫の視線が癇に障ったのか、玲奈は目を吊り上げた。
「戦艦がコンビニで肉まん喰ってちゃ悪い?」
「いや、それは悪くないけど……ていうか……ううん、今はいいや。あのね、玲奈ちゃん」
「なにィ?」
「言いづらいんだけど……ブルマ丸見えだよ」
 その言葉に玲奈は一瞬ぽかんとし、それから甲高く笑った。ころころと感情が変わる。
「ブルマとかちょ、ウケるんだけど! 別にンなもん気にしないしー。パンツでもないしー」
「で、でもね、周りの人が」
「他のやつとかどうでもいいんだけど。さっきから雫、なんなの? 私のこと嫌い?」
 途端に、玲奈は再び不機嫌になった。
 異常としか思えない現在の状況に、雫は恐慌をきたしながら玲奈の腕を引っ張った。
「そういう訳じゃなくてね! ね、玲奈ちゃん、玲奈ちゃんの学校行こう! ここからだったらそのほうが近いし! ね!?」
 全力で校門をくぐったとき、雫が息も絶え絶えな様子に対して、彼女に引っ張られていたはずの玲奈はいくらか余裕を残していた。
 玲奈は教室に向かいながら、ぐったりとしている雫の背中をさすった。
「……あーもー……びっくりしたぁ。何があったの、玲奈ちゃん?」
 不審そうな雫の様子に、玲奈一瞬手を止めたが、すぐににこりと笑った。
「勉強が終わったら教えてあげる」
「えー」
「ごちゃごちゃ言わないのっ。私だって、この後予定があるんだからね! バレーの練習でしょ、バイトでしょ、それに」
「はいはーい」
 いつも通りの様子の玲奈に安心しながら、雫は指し示された教室の扉を勢いよく開けた。
 途端に漂ってきたのは煙草の臭い。雫はそろそろと教室に視線をめぐらせ、固まった。
「なんだテメェ」
「……あ」
 玲奈の教室は、放課後には不良の溜まり場と化すらしかった。玲奈も知らなかったらしく、目を丸くして動きを止めている。
 呆然とした様子の二人に向かって、一人が立ち上がって近づいてきた。
「なんで餓鬼がここにいるんだ? あ?」
「あ、あ、」
「なんとか言えやぁ!」
 怒声と共に殴りかかられ、雫は小さく悲鳴を上げた。これがスローモーション現象というものなのだろうか。いつまで経っても殴られる感触がない。代わりに感じたのは、すぐ近くで風が起こったような、不思議な感覚だけだった。まだ何も起こらない
 あまりにも何も起こらない状況を疑問に思った雫は目を開けた。そこに広がっていた死屍累々の光景に愕然とし、雫は玲奈に助けを求めようと振り向いた。
「あれ? ……あれ? 玲奈ちゃん?」
 だがそこに玲奈はいなかった。激しい不安に襲われ、雫は震える足で教室に踏み込んだ。
「どこ行っちゃったんだろ……ん?」
 途方に暮れて俯いた雫の視線の先に、破り取られたような布が落ちていた。ゴミにも見えるそれを拾い上げたのは、どこか見覚えがあったからだ。
(これ玲奈ちゃんのかな? 制服の当て布っぽいけど…)
 雫は顎に手を当てて考え込んでいたが、やがて玲奈を探しに教室を出た。閉められたカーテンの向こうを一度も見ずに。

■□■

「また殺っちゃったよ」
 血まみれの地面。頭から血を流して横たわる一人の男。その上に立って頭から顎までつるりと撫でたのは、美しい有翼の少女だ。――ただし、その頭に毛髪はなく、身に着けているのはブーメラン型の海パンのみ、という出で立ちだったが。
 止まっていた時間が流れ出し、周りから次々に叫び声と罵声が上がった。
「ば、化け物!」
「誰か110番せえ!」
「宇宙人! 宇宙人だ!」
 その言葉に、少女はまなこを吊り上げて観衆を睨んだが、その顔顔を見るなり、突然我に返ったかのように顔を朱に染め上げた。両腕で顔を覆い、騒ぐ人々の間をモーセの十戒よろしく駆け抜けていく。
 先程まで他人の上に半裸で立っていたとは思えないほど羞恥に染まった少女は、人気のない校庭の隅に辿り着くと、茂みに隠れるようにして座り込んだ。攻撃性がすっかりなくなったその姿は、まごうことなく今雫に探されている玲奈だった。
 呼吸がすっかり整うと、玲奈は急いで移動しようとしたが、誰かがやってくる気配に行動を中断した。
 そろそろと気配のほうを窺うと、一人の男子生徒と、複数人の女子生徒が立っていた。白いテニスウェアが初々しい。
「先輩、その、試合お疲れ様でした」
「あ? うん、サンキュ。つかなんで俺一人、こんな盛大に祝われてるの?」
「そ、それは……」
 気配を殺して聞き耳を立てていた玲奈の足元に、白い花が一輪、咲いているのが見えた。ポピーだ。
 なんとはなしにしゃがみこんで摘もうとしたとき、体育館から怒鳴り声が聞こえてきた。聞き覚えのある声だ。その声に、玲奈の目がはっと見開かれる。
「いけない! バレーの練習があるんだった!!」
 その大声は確実に少女達に聞こえたはずだが、もはや玲奈の頭の中に彼女達のことなど残っていなかった。
 半裸のまま更衣室に滑り込み、体育着とブルマを着用。スキンヘッドの頭に鬘を被り、慌てて体育館に行くと、既に準備体操を終えてサーブ練習が始まっていた。玲奈も慌ててランニングと準備体操を済ませたころには、レシーブ練習が始まっていた。
「遅ぇぞ、三島ぁ!」
「す、すみません!」
「ちんたらちんたらしやがって、倍量こなせェ!」
 そう言いながらボールを飛ばしてくるコーチに、玲奈は怒鳴り返しながらレシーブを受けた。
「今から倍なんか無理だっつーの、ふざけやがってぇぇぇ!」
 直後、レシーブとは思えない剛速球がコーチの顔面に激突した。

■□■

 結局、倍量どころでない練習をすることになった玲奈は、それでもまだ帰宅することはなかった。バイトがあったからだ。
 職場であるメイド喫茶に裏口から入ると、慣れた仕草で制服へと着替えた。それから下着も、ビキニではなく晒しと褌へと変える。メイド服の下にブルマでは、あまりにオタク心を刺激しすぎて危険だ。楚々とした仕草で店内に入ると、常連客の一人が玲奈を見つけて手招きをした。
 隣の席に座ると、優しげな声がかけられた。
「今日玲奈ちゃん遅かったね。何かあった?」
「ううん、なんでもないんですう。ご主人様のお出迎えができなくて、ごめんなさい」
「いいんだよ。でも嫌なことがあったなら言っていいんだからね」
「ご主人様ぁ」
 抱き着き、上目遣いで甘える玲奈に客も嬉しそうだ。定番のコーヒーにかけるおまじないをしたり、オムライスをスプーンで食べさせたり、十分に客を満足させれば仕事は一段落だ。
 会計を済ませて出ていくその背中に向かって、玲奈は恭しく腰を折った。
「いってらっしゃいませ、ご主人様。……早く帰ってきてくださいね?」
 そういった業務を何人かにして、一日の仕事はおしまいだ。反省会で、昼間に引き続きまたしても遅刻を咎められた玲奈は肩を落とし、制服のままメイド喫茶を出た。とっくに月が上がっている道を、街灯が明滅しながら照らしている。玲奈はいつもより遅めの歩調で帰路についた。落ち込んでいたのもあったが、純粋に疲れていたというのもあった。時折すれ違う車と、陰から陰に走る野良猫以外、生き物の気配はない。玲奈はそれを確認して小声で流行の歌を口ずさみ出したが、その声はすぐに途切れた。
「おっ、いたいた」
「本当にこいつがやったのかよ?」
「マジだって。俺外待機だったし」
 いないと思っていた人間の出現に、玲奈は眉を寄せた。昼間の不良達だ。人数は少なくない。前方に立つ三人に気を取られているうちに、背後にも数人が立つ気配がした。
「……なに、あんたたち。仕返しにでも来た?」
 内心舌打ちをした玲奈に、リーダー格と思わしき男がにやにやと笑った。
「ちょっと話があってさ」
「遠慮しとく。他当たってちょうだい」
「え、マジで? じゃ、他の人にあげちゃうけど」
 男が顔の横に掲げた紙――もとい写真には、日中、羽の生えた姿を晒した玲奈の姿が刻銘に写されていた。しかもそれ一枚ではなく、玲奈がが翼を生やし、服が破れ、鬘を落して姿を変える連続写真が撮られていた。
「な、困るだろ? 宇宙人だなんて……バレたくないよね?」
 ぶつりと何かが切れた音がした。
「……う」
「何? 泣いてんの?」
「……宇宙人ちゃうわ」
 ぼそりと零された声から滲む怒りに、男達はわずかに距離を取った。しかし、足りない。玲奈の手が、リーダー格の男の首に巻きついた。
「宇宙人ちゃうわァ! エルフの尼僧にして戦艦、甞めんな! バラす前に殺す!」
「あ」
 玲奈の目が見開かれたのとほぼ同時に、リーダー格の男が呻き声を発して脱力した。玲奈が手を放すと、その体は崩れ落ち、首にはどす黒い跡がくっきりと付いていた。
「てめぇらどうせ、悪霊だろうが! 分かってんだよ! ここで死ね!」
 手を月に向かって掲げた玲奈の髪がさらりと風に靡き、そのまま地面に落ちた。代わりに、より長い髪が頭皮から伸びてくる。だが、手を掲げたのは髪を伸ばすためではない。指令を出したのだ。
 空から、月夜にはふさわしくない鮮烈な光が降り注いでくる。
「ほら、祈りな」
 ばんと音をたてて、玲奈の背で翼が開いた。その影響でメイド服が破れ、晒しと褌だけの姿となるが、狂気を纏うその姿に可笑しみはない。どこから取り出したのか数珠を手に取ると、玲奈はそれで近くにいた不良、もとい悪霊の首を絞めた。その周囲に光の槍が降り注ぎ、逃げようとする悪霊達の体を貫く。玲奈は絞殺した悪霊の頭を蹴り抜きながら哄笑した。
「アハっ! アハハハ、あっひゃひゃひゃひゃ! 消えろ消えろ! みーんな死んじまいなあ!」
 口が裂けそうなほどの笑みを浮かべる玲奈の左目から、空から降ってくるのと同じ光がほとばしる。嫌な臭いと共に焦げる悪霊を見て、玲奈は子供のようにはしゃいだ。
 玲奈は逃亡を図る悪霊達を決して逃がさなかった。頭に目があるかのように。だが頭に目がないのは明らかだった。――背後、壁に隠れて目を見開いている雫に気付かなかったのだから。
「玲奈、ちゃん……?」
 大きな目から涙が零れても、玲奈は狂乱から戻ってくることはなかった。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
一 一 クリエイターズルームへ
東京怪談
2011年11月04日

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