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『●Don't worry 』
ノビル・ラグ(ga3704)

 ハロウィンを間近に迎え、皮をくり抜かれたカボチャを見つめるノビル・ラグ(ga3704)。去年の今頃は、こんな心境で過ごしていなかっただろう、とぼんやり思った。
 以前戦った、シルヴァリオの片腕――青髪の女性の事が未だ彼の心に引っかかりを残していたのだ。
 正確に言えば、彼女、ではなく彼女の『兄』の生死と所在である。その風貌からシルヴァリオが彼女の兄かと思ったのだが、それは彼女にもシルヴァリオ自身にも否定されている。
 彼女の昏い瞳と死地を求めていたような戦い方。そして、彼女はノビルの目の前で彼を含めた仲間に討伐された。
 自ら選んだ生き方だったにしろ、彼女は孤独だったし、苦しんでいた‥‥それを思うと、何故だか悲しい。
「‥‥このまま悩んでいても埒が明かない、よな」
 俺の柄でもないし。そうしてノビルが取った行動というのは――とある写真をプリントアウトし、それをヒントに彼女‥‥ルエラの『兄』を探すことだった。
(あいつの兄貴がまだ何処かで生きてるんだとしたら――ルエラの事を‥‥彼女の最期を伝えたい)
 ノビルに『なぜそうまでしてやるのか』と尋ねれば、一体どんな返事がくるのだろうか。
 そうして彼はルエラの故郷を再び訪れる。それと同時に、彼女の死地でもあった地域である。
「この男に似た人を知りませんか?」
 ノビルが差し出したのはシルヴァリオという、人類の敵である男の写真だった。
 ルエラが兄と見間違えたというのだから、有力な手がかりに繋がると思われたのだ。
 聴きこみを開始するも、大半の人がシルヴァリオの事を言い、
 肝心な情報‥‥ルエラの兄は知らないと言う。
 ノビル自身、ルエラの兄らしき人物の名前も知らなかったし、聞けばこの街に元々住んでいた人の多くは戻ってきていないらしい。
 それはそうだろうとも思う。バグアがいつ襲ってくるとも分からない世の中だ。
 彼が真に知りたい情報は、やはり入ってこない。

――やっぱり、そうすぐに見つかるもんじゃないよな。

 もちろん、すぐに見つかるとは思っていない。その反面、ルエラの兄も家族を探しに戻って来ているかも――という期待もあった。
 しかしノビルは、この街だけでなくいろいろな場所でも聴きこみを行った。
 無下に断られたり、似たような男を見たという情報もあったけれど、結局違う人だったり。
 唯一彼女に繋がった出来事というのは、軍に在籍していた頃、故郷の街に何度か姿を見せていたという。
 そしてノビルと同じように、兄や家族を、心の拠り所を探したのだろうか。
「Trick or Treat!」
 仮装した人々や、お菓子を手にした子供たちが彼の側を通りすぎる。ルエラにも、こんな無邪気に笑いあえる時期があったのだろうか‥‥と、子供たちを見ながらノビルは悲しげな気持ちになった。
 
 小道を歩き、とある店を通りかかると、ちょうど掃除をしていたらしい女性とショーケース越しに目が合った。
 通りすぎればよかったのに会釈を一つすると、その店員はご丁寧にも店の前に顔を出してくれた。
「何か‥‥?」
「あ、いや、用っていうか‥‥この男に似た人を探していて‥‥知りません?」
 店員は差し出された写真をじっと見つめた後、ごめんなさいね、存じませんと首を横に振る。
「お友達?」
「いや、友達‥‥っていうか‥‥ちょっとした人の、兄貴なんですけど‥‥」
 そういえば、ノビル自身と彼女の接点は特にない。店員は怪訝そうな顔をし、もう一度写真を見つめた。
「大事な人、なの?」
「えっ!?」
 だって、随分探し回っているみたいですから‥‥と、店員は静かに微笑む。
「確か、この間もお店の前を通って。誰かにその写真を見せていましたわよね」
 前にも見られていたのか、と少し恥ずかしく思ったが、ノビルは写真を懐にしまうと『自分がしたくて、やったことだからさ』と明るい笑みを零す。
 聴きこみを再開しよう、と思ったノビルを残し、店員が中へと戻っていく。が、すぐにまた店の前に出てくると彼を呼び止めた。
「どうぞ――カボチャの魔法が、貴方にもささやかな幻を運びますように」
 と、差し出したのはカボチャの馬車を象ったキーホルダーだった。なんとなく女性向けのアイテムなような気も、する。
 どうしたものかと戸惑うノビルに、『今日はハロウィンですから差し上げます』と言いながら彼の手に乗せ、
「カボチャの馬車は幸せを運ぶそうです。貴方の純粋な心も、同じように幸せを運んでいるのだと思いますよ」
 ずいぶん詩的なことを言うのだなと思っていると、店員はそれでは、と再び店の中へ入っていった。
 店は骨董品を専門に扱っているようだが、ショーケースには青地に銀の細かい装飾で縁られた写真立てや、ティーカップなどが飾られている。
 写真立てに入っている男女の子供が、どことなく気になったが、今はそれ以外の目的がある。ノビルが立ち去っていくのを、店の女性は涼やかな顔で見送っていた。

●You're not alone

 あれからノビルは各所を探した。東奔西走、情報あればと情報屋にも当たってみたが、手持ちの情報自体が少なくて、条件では絞り込めなかったのだ。
 肝心のルエラの素性はかつて所属していた軍で経歴の流出も押さえられているし、もしかすると――‥‥軍でも関係者を追っているのかもしれない。そう期待するほかなかった。
「‥‥ゴメンな。俺に出来んのは此処迄だ」
 シオンの花束を添え、彼女の魂に安らぎが訪れることを祈りつつ、ノビルは静かに目を閉じた。
 時は既に夕暮れ。今日も情報が掴めなかったけれど、彼女のために出来ることは――やってきた。
 彼女の墓は、故郷の見晴らしの良いところに作られた。とはいえ、街の人が作ったわけではなく、ノビルが望んで作ったものだ。しかし、そこに彼女の遺体はない。
 バグア関係者として、遺体はあの時UPCが回収している。二度と帰ってこないのだ。

「‥‥兄貴、生きてるといいな。いつかここに立ち寄って、手をあわせてくれるのを願ってる」
「――ふぅん。良く知りもしない敵だった女のために、御苦労なことね」

――今。なんて言った?

 鮮明に聞こえた女の声。ノビルは思わず、肩越しに振り返る。
 ノビルの場所から20メートル以上は離れていただろうか。黒い外套を身に纏った女性。
 青い髪の色は見えるのに、表情は夕日の逆光でよく見えない。
「あ‥‥」
 思わず瞳を見開き、よろよろ立ち上がったノビル。
「シオンの花言葉、知ってて持ってきたの? 思い出、って言うらしいわ」
 女性の声は以前のような敵意のこもるそれではなかった。何処か親近感のある口調で。彼女は『ありがとう』と言った。
「兄を探していたそうね‥‥無駄よ、どうせ誰も来やしないわ」
 誰ひとりとして、信頼しなかった自分に。会いに来てくれる人など、いるはずはないのだから。
「でも、お前だって悩んだんだろ!? 悩んで、辛くて‥‥それなのに‥‥」
「平気よ、もう済んだこと。まったくバカな人。そんな事考えてこんなところまで来たの? 私は死ぬのも生きるのも常に独り――」
 そんなはずがあるか、と反射的にノビルは言い返した。
「生きるも死ぬも一人きりなんて‥‥寂しい事言うなよ! お前は、ちょっと暗い道に迷っただけなんだ! だから‥‥」
 だから、なんだと言いたかったのか。ノビルはそれ以上言葉に出来ず、女性をもう一度見つめ――ようとしたが、そこに姿はない。
 幻だろうか‥‥? そう思った矢先、にゅっと彼の後ろから腕が伸びて、ノビルの頬に触れる。柔らかくて、微かに温かい、人のぬくもり。
 彼女の墓標の上に当の本人が腰をかけて、彼を見つめる。驚いたノビルを自分の方に向かせると、そっと顔を近づけた。
「ねぇ‥‥貴方の、名前は?」
「っ、ノビル。ノビル・ラグだ‥‥」
 顔、近いんだけど。
 妙に意識する位置だというのに、ルエラはぐいと身体を近づけてくる。
「ノビル‥‥貴方と、もっと早く出会えていたら‥‥私は――」
――誰かを信じてみようって、思えたかもしれなかった。
 その結果、例え生きていることは出来なかったとしても、心はきっと救われただろう。そう彼女は寂しげに笑った。
「私のために、してくれたのなら‥‥どんな形でも構わないし、ほんの僅かな隙間でいい。貴方の心のなかに居させて。それが、私の一番の救いになるわ‥‥」
 互いの唇が触れるか触れないかの所で、彼女の外套が風に流され視界を一瞬にして奪う。慌てて払いのけると、もう何処にも人の姿はなかった。
 そこに何もなかったかのように、静謐な時間が流れているだけ。
「‥‥ルエラ‥‥」
 名を呼んでみる。とくん、と心臓の鼓動が力強く脈打って、返事のようにも聴こえた。
 彼女の言葉を思い出し、胸に手を添えると、ポケットに硬い手触りがある。そういえば、とノビルはポケットの中身を取り出すと、骨董品屋で貰ったあのキーホルダーが出てきた。
「はは‥‥幻、見えたぜ。店員さん‥‥」
 それを握りしめ、ノビルはもう一度棺のない墓標を優しく見つめ、じゃあな、と口にしてその場を立ち去る。
 彼女は、もう孤独の中には居ない。そう信じて。


-END-

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ga3704 / ノビル・ラグ / 男性 / 外見年齢16歳 / イェーガー】
【gz0328 / シルヴァリオ / 男性 / 25歳 / バグア】
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2011年11月14日

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