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『とあるお店の軒先で。〜静寂なる夕べ 』
滋藤 柾鷹(ia9130)

 さて、と滋藤 柾鷹(ia9130)は眼差しを、手の中にある南瓜へと注いだ。それはそこそこの大きさの、まるで人間の顔にも、また別の生き物の顔にも見える不思議な模様をしていて、どことなく不気味にも、愛嬌があるようにも見える。
 別に南瓜を買いに行こうと、柾鷹は町に出てきたわけではなかった。けれども偶然通りがかった店先にごろりと並べられた、不思議な模様をした幾つもの南瓜の中でも、なぜかこの南瓜に惹かれてつい、買ってしまったのだ。
 ――のは良いが、さて、果たしてどうしたものか。曲がりなりにも食べ物であるのだから、このまま飾っておくわけにもいかない。と言ってこの南瓜を果たしてどうすれば良いのか、とっさに妙案も思いつかない。

「――すまない。もう3つばかり、貰えるだろうか?」

 しばしの間、じっと伺うように手の中の南瓜を見下ろし考えてから、柾鷹は店のおやじにそう、声をかけた。はい、とおやじが頷き、運びやすいように2つずつ縄で結わえてくれたのを、両手に下げて礼を言う。
 せっかくだからこの南瓜を手土産にして、このごろ顔を見ていない友人への差し入れにしようと、思ったのだ。自分ではそうは思っていないようだが、お人好しが少しばかり過ぎるあの友人は、時々自腹でギルドに依頼を出してしまったりするのでしばしば、懐の寂しい思いをしているらしい。
 案の定、以前に何かの折りに聞いた記憶を頼りに町並みを抜け、ぶらぶらと両手に南瓜をぶら下げて柾鷹がその古い借家を訪ねてみれば、その友人・木原 高晃は縁側で出涸らしをすすり、のんびりとくつろいでいる所だった。塀の向こうから「木原殿」と声をかけると、をぉ、と目を丸くする。

「しばらくだな。どうしたんだ?」
「面白い南瓜を手に入れたので、久しぶりに木原殿の顔でも見がてら、持ってきた。邪魔をして良いか」

 そう言いながらひょい、と右手に下げた南瓜を塀の上に持ち上げると、はは、と笑顔が返った。そうして大きく頷いて、表へ回れと手振りする。
 言われたとおりに表玄関に回ると、ちょうど高晃が中から戸を開いてくれた所だった。そうして柾鷹が両手に2つずつぶら下げた南瓜を改めて見て、どこか子供のような無邪気さで「夕飯のおかずが出来た」と喜ぶ――どうやら予想に違わず、また寂しい懐具合だったらしい。

「また何か、あったのか?」
「いや、何がってほどじゃないんだがな。依頼からの帰り道に、ちょっと休憩しようと思って入った茶屋で、一緒に団子を食ってたばあちゃんが会計の段に財布がすられた事に気付いてな――」
「――そうか」

 大体その後の情景が想像できて、高晃らしいと思い、苦笑した。彼の事だからその老婆を見捨てて先に行く事も出来ず、一緒に探してやったあげくに、老婆の分の代金まで払ってやったのに違いない。
 ならばちょうど良かったと、柾鷹は下げてきた南瓜をごろり、床に並べた。その、緑や黄色の様々な南瓜にまず高晃は目を見張り、それから柾鷹が心を惹かれた、奇妙な顔に見える模様に気付いて笑う。
 中でも高晃は、そのうちの1つを指さして「あいつに似てる」と笑い声を上げた。そうして名をあげた、彼の腐れ縁であるサムライの事を思い出し、そういえば、と柾鷹も苦笑を浮かべる。

「彼は、今はどうしているのだ?」
「ん? どうだろうな。ちょっと前にはそこらで芋ようかんをつついてたが、この頃はギルドの方も賑やかみたいだからな」

 なんか依頼でも受けてるんじゃないか、と笑った彼自身は今は、少しばかり依頼を控えているという。なぜだと理由を尋ねれば、そろそろ寒くなってきたから、と当たり前だが理由にならない理由が返ってきて。
 寒さが苦手という風情には見えないが、と首を傾げると、高晃は南瓜をごろごろ転がしながら、渋い顔になった。

「ほら、あんたも会ったことあっただろ。うちの御師」
「ああ」
「寒くなってくると御師のやつ、俺を呼びつけてやれ薪を運べだの、すきま風が酷いだの、文句を言うんでな」
「そう、か」

 そう、呟いて酷く遠い瞳になった高晃に、柾鷹もかつて出会った、彼の師たる青年の姿を思い起こした。どこか風のようにひょうひょうとしていて、マイペースな青年。
 その所行は実にかの青年らしいが、またそれに応えて呼びつけられる高晃も高晃だ。おまけにその師に呼びつけられるのを見越して、依頼を受けるのも控えているというのは、実にお人好しの一言につきる。
 が、そうは思っていない当の本人は、しみじみと「どうしてこう、俺の周りには厄介ごとが多いんだろうな」と心の底からのため息をついていた。それを敢えて指摘する柾鷹でもなく、そうか、とまた頷くにとどめる。
 ごろごろと、高晃が南瓜を転がす音が狭い部屋に響いた。それから彼はふと思いついたように、なぁ、と柾鷹に呼びかける。

「あんた、どうせだから夕飯を食っていかないか? もらいっぱなしってのも悪いしな」
「そうだな。そうするか――ああ、そう言えば巷ではそろそろ、ハロウィンか。せっかくだ、ランタンでも作ってみるか?」
「をぉ、良いな、それ。あんた、作り方わかるか?」

 頷いた柾鷹がふと提案すると、高晃は面白そうに頷いた。だがさすがにランタンの作り方までは知らないらしく、こくり、と首を傾げて尋ねてくる。
 尋ねられた柾鷹とて、これこれこうと説明できるほどには、ジャック・オー・ランタンの作り方に精通しているわけではなかった。せいぜいが巷で見聞きしたくらいだ。
 そう言うと、だよなぁ、と高晃は何かを考えるように頭をかいた。そうして「ちょっと出かけてくる」と柾鷹に言い残し、ふらり、借家を出ていってしまう。
 何か、思いついたことがあったのだろうか?
 高晃の行動の意味を考えながら、ごろりと床に転がった4つの南瓜とにらめっこをする柾鷹である。見れば見るほど不思議な模様の、ジャック・オー・ランタンになる為に生まれてきたと言っても過言ではないような、その南瓜。
 あちらの南瓜は弟に似ているだろうか。否、角度を変えれば昔の主に似ているかもしれない。ひっくり返して裏から見れば、いつぞや依頼で出会った某の顔にも見えてくる。いやいや、昔にまみえたアヤカシにも似ているだろうか?
 無言で南瓜を見つめながら、あてどもなくそんな事を考えていると、再び借家の扉ががらりと開いた。ひょい、と目を向ければ高晃が、待たせたな、と頭をかきながら戻ってきたところだ。

「否、それは構わぬが――何かあったのか?」
「ん、近所にこーゆーのが得意なヤツがいたの、思い出したからな。ちょっと作り方を確かめてきた。夏頃だったか、祭に並べるのに西瓜で似たようなのを作ったんだが、同じで良いのか解らんしな」
「――それは、高晃殿も手伝ったのか?」
「中身は全部食って良い、って条件だったからな。何人か、知り合いも呼んで手伝わせた」

 彼の微妙な言い回しに、もしやと思ってさりげなく尋ねてみると、案の定、高晃はあっさりと肯定した。相変わらず、妙なところでお人好しに生きている男である。
 とまれ、作り方が解ったのは幸いだ。早速、廚から包丁と深皿、ナイフに匙を持ってきて、ジャック・オー・ランタン作りに取りかかった。
 せっかくだから、南瓜の模様に合わせて顔を決めて。慎重に包丁を入れて、ナイフで切れ込みを作って、匙で中身を掻きだして。
 もしひょいとでも借家の中を覗き込んだ者がいれば、大の男が2人向かい合って、膝の上に南瓜を抱え込み、無骨に匙を動かしながら無心に中身を掻きだしては深皿に積み上げていく様は、さぞかし不気味か、或いは滑稽に映ることだろう。ふと柾鷹がそう言うと、高晃はきょとんと目を見張った後、違いないと爆笑した。
 どちらも志体持ちなので、下手に力を入れると南瓜の皮を突き破りかねない。と言って生の南瓜は普通には結構かたいから、力を入れないのも難しい。
 そんな、微妙な力加減をしながら何とか彫り上げたジャック・オー・ランタンは、恐ろしげな顔をした、けれども妙に愛嬌のある仕上がりになった。よし、と男2人で満足げに顔を見合わせ、それから山盛りになった深皿の中の南瓜の中身へと向きなおる。
 掻きだしたものだから、当然ながら形は不揃いで、種も身もぐちゃぐちゃになっていた。さてこれをどうしたものか、と眼差しを向けた矢先に高晃が、ふむ、と鼻を鳴らした。

「潰せば形も解らないだろ。南瓜できんとんでも作るかね。芋ようかんの代わりに南瓜ようかんは――まぁ、やってみるか」
「――作れるのか?」
「ん、味は保証しないぞ。きんとんの方は大丈夫だと思うが」

 言いながら、高晃は深皿の中に山積みになった南瓜のかけらをつまみ上げて、丁寧に種とわたを取り始める。柾鷹もそれにならって、じっと南瓜を睨むように種をほじり出し、わたを取った。
 それが済んだら、高晃が鍋に湯を沸かしてざるを乗せ、その中に南瓜をポイポイ放り込んで蒸し上げる。その間に柾鷹が、先ほどよけた種とわたの中から、今度は種だけをさらに取り分けて。

「これはどうするのだ?」
「ん。何日かザルで干した後に、鍋で煎って食うんだ。あんたもちょっと持って帰ってやってみるか? 旨いぞ?」

 湯気を上げる鍋をにらみながら、当たり前のように言葉を返した高晃に、なるほど、と頷いた。
 柾鷹とて、1人暮らしに困らない程度には自炊出来るのだけれども、あまり得意ではない。だから南瓜を持ってきた理由の幾ばくかは、高晃はたまに人に芋ようかんなどを振る舞ったりしているので料理もそこそこ出来るだろうと思ったからなのだが、どうやら正解だったようだ。
 だがもちろん、そんな事実は胸の中にしまったまま、柾鷹はわたの中から種だけを取り出すと、丁寧に水洗いをして渡されたザルに並べた。その間に蒸しあがった南瓜が、きっちり半分ずつ2つの皿に移され、ホカホカ湯気を立てている。
 そうして柔らかくなった南瓜を匙や棒で突いて潰しながら、ちらり、柾鷹は高晃の手元を見る。結構、力任せに南瓜を潰していっている自分と対照的に、高晃の手つきは無造作だが、的確に塊を粉砕していっているようだ。
 よほど慣れているらしい、と感心した。南瓜にしろ芋にしろ、小さな粒すら残さずきれいに潰しきるには、なかなかの腕が必要だ。
 自らに与えられた課題(?)をこなしながらも、柾鷹はそう、しみじみと頷いた。

「高晃殿は、料理が得意なのだな」
「得意、ってわけじゃないけどな。ああ見えて、うちの御師は飽き性でな‥‥同じ料理が2日でも続いたら、もう食べ飽きたとか言って食わないんだ」
「そうか――」
「だいたい、御師の周りに集まる奴があまり、料理は得意なヤツが居なくてな。一人立ちした後も、たまーに呼びつけられて飯を作らされる。まぁ、今居る妹弟子2人は素直だし、あいつ等の料理は御師も気に入ってるのか、最近は呼ばれないけどな」

 柾鷹の言葉に遠い目になった高晃の言葉に、そうか、と柾鷹も言葉少なに頷き返す。高晃の2人の妹弟子には、彼も面識があった。
 そういえば彼女達はどうしているだろうと、考えながら手を動かしているうちに柾鷹の担当の南瓜もどうにかすべて潰れたようだ。そう告げると、さらに茹で小豆と、少量の塩を投入されて、さらに混ぜろと要請される。
 どうやら、柾鷹の方の皿は南瓜きんときになるようだ。とっくに潰し終わっていた高晃の方は、また鍋に戻して溶かした寒天と一緒にことこと煮込んでいて、どうやらようかんになる模様。
 すっかり混ざってしまったら、それを鍋ごと水に漬けて冷やし固めるようだ。鍋ごと、というのが何とも豪快で苦笑いを禁じ得ないが、よく考えてみれば高晃がようかん用の冷やし型など持っているはずもない。
 こればかりは時間が経つのを待つしかないので、あとはきんときを堅く絞ったふきんで丸め、形を整えるだけだ。と言ってもこれがまた難しく、不格好なきんとんが幾つも出来上がる羽目になった――高晃もどうやら、見た目の部分は柾鷹と同レベルらしい。
 ちら、と高晃を見ると、相手もどうやら同じように考えながら、柾鷹へと視線を向けたところだった。ばっちりと目が合って、何やら妙におかしくなって同時に吹き出して。
 その頃にはすでに外も、薄暗くなっている。作ったジャック・オー・ランタンに早速灯りを点して、縁側で並んで食べた南瓜きんとんは、それでも苦労した甲斐あって、たいそう美味しかった。
 1つ、また1つとつまみながら、ふと先ほど頭をよぎった疑問を思い出す。高晃の2人の妹弟子――柾鷹自身も縁あって関わりを持つ2人の陰陽師志望の少女は、今頃どうしているのだろう。

「――高晃殿、何か聞いているか」
「さてな。1度ばかり、文が来たことがあったが、相変わらず御師に遊ばれてるらしいぞ」

 その疑問を問いかけれた柾鷹に、問いかけられた高晃はこくりと首を傾げてそう言った。遊ばれてる、というのは語弊があるにしても言い得て妙だと、その情景を想像して柾鷹は苦笑を漏らす。
 年若い少女ならなおさらに、この場に居たら甘い菓子に目を輝かせただろうか。といって五行に送ることが出来るわけもない。
 だから柾鷹は暗くなりゆく庭を見つめて、高晃と並んで南瓜きんときを食べながら、新しい茶葉で淹れられたお茶を飲む。飲みながら時折、そういえば、と他愛のない話をする。
 ――それは秋深まりゆく、とある夕暮れのこと。





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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /  PC名  / 性別 / 年齢 /  職業  】
  ia9130 / 滋藤 柾鷹 /  男  /  27  / サムライ

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きましてありがとうございました。
‥‥って、発注とかはもう全くお気になさらず、なのですよ!よよよ!!(あせあせ

どちらでも、との事でしたので、少し悩みましてお人好し陰陽師を召還させて頂きました(笑
や、あの、無愛想サムライだと多分、自分から世間話を振るとか絶対しないのでその、長屋で息子さんと二人、黙々と南瓜と格闘することに‥‥(ぁぁ
‥‥しかして、こうして振り返ってみると蓮華がお預かりしている中で、一番愛想が良いのはどう考えても旅の魔法使いのお嬢さんだったり;

息子さんのイメージ通りの、久しぶりの知己との懐かしい再会のノベルであれば良いのですけれども。
ほんとーに自由に書かせて頂きましたが、いつでもリテイクはオープンな気持ちでお待ちしております(ぁ

それでは、これにて失礼致します(深々と
PM!ハロウィンノベル -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2011年11月15日

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