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『From Hunter To Rebellion 』
楓姫(gb0349)

「くっ‥‥このままじゃ」
 普通の救援が目的だった。
 入ってきていた情報では、それほど難しくなく、力押しでもいけると感じていた。
 だが――

『ナイトハンター! 右側からっ!』
 非情なる音がコクピットへも伝わってくる。
 う、うごかないっ!
 切り捨てたのはキメラではなく、自分の愛機の――。
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 木霊したのは楓姫の声だったのか、ナイトハンターの声だったのか。




 テキサス基地から程遠くないところ。
 テキサス西部での出来事だった。西部では山が多く、もとより人が住むことが少なかった為か現状キメラが潜伏している。
 そこで多発していたのはやはりキメラの目撃情報だった。
 キナ臭さが漂う中、一つの依頼が掲示される。大型キメラの来襲討伐だった。
 大型ということもあり、KVでの戦闘となることが見えている。
――いけるっ
 告知を確認した楓姫は拳を握り締めた。
「ナイトハンター、共に行こう」
 自分の愛機を思い浮かべつつ、楓姫はオペレーターに依頼の遂行意思を告げる。
 手続きは簡単だった。所定の書類にサインをした後、指紋照合システム。KVの移動申請書も添付してある。
 何度も激戦地で戦ってきた相方。今回も、いけるはずだと。

ナイトハンター。それは楓姫の愛機・バイパーに付けられた名前だった。そして――彼女自身の戦場での称号。
 幾多の改造を乗り越え、今の形を作り上げた愛娘的存在だ。
 そして共に築き上げてきた実績。離れがたい、それほど愛おしい存在だ。

『ナイトハンター、よろしくな』
 戦場でよく顔を見合わせる相手というのは重なるものだ。
「ああ、またよろしくだな」
 既に何回か背中を共にした相手だとこちらの緊張も軽くなる。
 楓姫から笑みが零れた。


「ふむ‥‥」
 目の前に現れたキメラを見つめる。確かに、コレは大きい。だが、今まで手を合わせていたものとあまり変わらないとも言える。
「簡単だな‥‥いくぞ、ナイトハンター」
 そっと目を瞑り、祈りの言葉を唱える。気持ちを乗せて、KVと一体化となるイメージ。そう、大丈夫。あたし達は、一心同体‥‥。
『ナイトハンター出撃しますっ!』
 装着しているのは機槍「ドミネイター」、そして試作型スラスターライフルだ。
 これらもナイトハンター同様、それなりの手心を加えている。
 飛行形態で、近くまでよると、他のメンバーとの合図を取り人形へとチェンジする。
 ドミネイターを構えると、ナイトハンターは一気に前に間合いを詰めた。
 大型キメラは、気付いたのだろう、青い光を放ちながら威嚇の咆哮を上げる。
 発せられた風圧を受けつつも進むナイトハンター。そして槍の先端がキメラに当たる感覚で、上へと跳ね上げた。
 後退するキメラ。空いた胴体。勢いを付けて槍で刺しぬく。
『GUAHHH!!』
 飛び散る青い液体と、呻き声。楓姫は、冷静な視線でモニターを見つめる。
 視界の片隅にもう一匹、キメラが入った。同型だ。
 突き刺した槍を引き抜くと、そのまま薙ぎ払う様に足を軸に回転をする。
 その時だった。
「!!」
 軸がずれ、ふらりと崩れ落ちそうになり、両足を広げて立つ。
『どうしたナイトハンター! 油断するなっ!』
 声をかけてくれた傭兵は、そのまま楓姫が払おうとしていたキメラを機剣で切り裂いた。
「あ、あぁ‥‥どうやら関節部分が逝かれたらしい」
 片足に乗せようとすると、妙に不安定さが増す。両足にして、漸くといった具合なのだ。
『‥‥いったん引き返せ。こいつら、まだまだ沸いてきそうだ。補給がてらにメンテしてこいや』
「あぁ、すまん‥‥そうさせてもらうとする」
 まだ戦闘は始まったばかりだった。
 序盤のうちの不具合は、後で巻き返せる。これは大量抹殺なのだからと。
 その言葉に甘えると、楓姫はそのまま人型で飛び上がり基地へと引き返した。


「えっ!?」
「残念ながら、コイツはもう無理じゃ」
 基地のドッグにいたベテランの整備員はナイトハンターを軽くたたきながら説明を始める。
「そ、そんなっ! だって、この子は何回も改造を重ねて強化してあるんですよ!?」
「‥‥その強化が、原因のようじゃな」
「‥‥え?」
「人間も、鍛えればそれなりのものとなる。しかし、間違った鍛え方をしたらそれはある日突然壊れてもおかしくないものとなる――寿命を縮める他ならない」
 綺麗に磨き上げられたボディーを優しく撫でる。
「――寿命?」
「そうじゃ。おぬしはコイツをかわいがっとったようじゃの? わかるわかる、整備する人間からしたら、こんなに大事にされとると嬉しくなるわ。じゃがの、誰にだって寿命があるように、機械にだって寿命はある」
 ふと見上げ、上に聳える頭部を見る。楓姫もつられて見上げた。ナイトハンターは、微笑んでいるように見えた。
「コイツは‥‥幸せじゃ。ええ顔しとるわい。―――機械はな、消耗するだけなんじゃよ。幾多の部品を変えても、根っこの部分は所詮最初に生まれたまま。そして改造したとしてもパーツを交換するだけのものじゃ。根っこの、生まれたままの部分が変わらない。それは、いいものを取り付けてもそこが換らないんだから、使い続けると支障が出てくる。機械の寿命は、そこがネックじゃ」
 人もそうだろ?と。
 座るように促され、そっとマグカップを渡された。そこには熱い珈琲が注ぎ込まれる。

「タダの改造じゃない。こいつは、何回も戦場に足ったんじゃろ。その時の損傷を治す施しがいっぱい見られたわ。まぁ、それがちと乱雑だった部分もあってというのもあるかのぉ。負荷が掛かり過ぎておる」
「――だが、私はまた戦場に戻らなければっ」
「無理じゃ。先程エンジン部分に致命的な損傷が見られた。再び戦おうとすれば、足は愚か‥‥おぬしの命までないぞ」
「くっ――」
「じい、そこまでにしておけ」
 男の声が後ろからした。振り返ると、優しい鳶色の目をした――40台半ばだろうか、男性近寄ってくる。
「ふぉっふぉっふぉ、大尉殿。どうかしたかの?」
「こんな可愛いお嬢さんの相手がじいだけじゃ、可哀想だろ? テキサス、南部の男も教えておかないとな」
 男は笑むとすっと楓姫に手を差し出した。
「先程のキメラ退治に来てくれてた子だね? 私はハリソン。ここで大尉をやっている。よろしく」
「わ、私は楓姫――」
「ほぉ? プリンセスメイプルか。かわいらしい名前だ」
「か、かわいらしくなど」
「ふ、姪が丁度君と同じくらいでね。どうだね、少し話をしないかな?」
「大尉殿っ、私は戦場にっ」
「――君の機体はもう無理なのだろう? それなら、少し付き合って欲しい」
 最初とはうって変わった真剣な声。その様子に、楓姫は渋々と彼の歩みに付き従った。
「――ここは、いつもキメラが蔓延っていてね。基地といえど、安心は少ないんだ」
 歩いていくと、そこは奥に在るもう一つのドッグだった。どうやら基地に在住中・軍が利用するものとなっているらしい。
「数々の若者達が、昔から命を散らしている。――いや、君たちの話が少し聞こえていてね? 軍の方でも、確かに改造を行なうし、メンテナンスも欠かせない。だが、やはり不具合というのは付物で――戦場で命を落とす多くのものは、その不具合の発見が遅れたものが多いんだよ」
 一つの布に被ったものが静かに立ち尽くしていた。
「‥‥そういう私も、数ヶ月前の戦いで手をやられてしまってね。――機体が生きていても、人間が駄目になることがある」
 ふと、視線を落とした。足元に転がる、一つの鍵を拾い上げる。
「――もし、君が戦う勇気をもち続けるというのなら、これをあげよう」
「――これ、は?」
 手にしっくりと来る大きさ。そしてその形状は。
「――私のスレイヤーだ。名前は、付けていない。付ける前に、この手を動けなくした」 そっと軍服の上から右腕を押さえる。
 生身ではありえない、薄い感覚が浮き出る。
「で、でもっ―――」
――今は、まだあきらめきれない。ナイトハンターを。
「いつでもいい。――だが、君に持って貰いたいんだ」
「ど、どうしてですか?」
「それは――」
 その時だった。基地全体に響く警報が鳴り響いたのは。

『緊急事態発生。各員は所定の位置につき――』

「くっ、こんなときにスクランブルか‥‥。君も、来るか?」
 厳しい顔、そして振り返ると少し優しくなる。
「は、はいっ!!」
 2人は駆け出していた。ここは基地の奥深い場所。何があったのかまず確認を取らないといけない。すれ違うものたちに聞くも、原因は不明。
 どうしたのだろう、胸騒ぎが強まる。
「大尉殿っ! 敵襲ですじゃっ」
 何回か過度を折れ曲がったとき、整備員のじいは二人に向け叫ぶ。
「敵襲か――楓姫、君は無茶をするな」
「で、ですがっ!」
「――ここは私の基地だ。君は、あくまでも傭兵に過ぎない。――逃げろっ」
 肩を掴み、近付きながらいう。目は真剣そのもの。だが、楓姫も気持ちは負けていられない。
「わ、わたしもっ!」
「無駄死にするなっ! 君の装備は、整ってもいない。命を粗末にするなっ!」
 息を呑む。そうだった、ここへの装備は機体を重視して――。
 悔しさにうっすらと視界が滲む。
「――じいを頼むっ」
「大尉っ!」
 大尉は駆け出した。そして、それはシェルターに差し掛かるときだった。



  基地全体を、大きく揺らす衝撃が走った。
  悲鳴が聞こえる。
  衝撃で、思わず瞑ってしまっていた眼を開ける‥‥と、そこには。



「大尉っ!!!!!!!」
 崩れた壁の下に、先程まで並んでいた姿があった。
「大尉っ! 大尉っ!!!」
 壁の破片を避けつつ、楓姫は駆け寄る。
「大尉っ!!!!」
 手を掴むと、うっすらと瞳が開けられた。鳶色の瞳は、中を彷徨い、そして楓姫を捕らえ――
「アンジュ‥‥無事、だったか」
「??」
「アンジュ‥‥私は‥‥ぐふっ」
「た、大尉!?」
 胸元にやった手から、ペンダントが零れ落ちた。
 落ちたペンダントは、二つに開き――中に入っていた写真が見える。
 それは、楓姫と似た鳶色の瞳の少女の。
「大尉っ!!!!!」
 なぜだろう、たった、数刻しか一緒にいなかった人なのに。

「嬢ちゃん‥‥」
 後ろから聞こえた声に振り返る。それは、ドッグにいた整備員、じい。
「‥‥大尉の、大尉のスレイヤーは動くんですか」
 瞳に、意志の炎がついていた。
「――もちろんじゃ、この基地、最高の機体じゃ」
「――大尉、お心、感謝します」
 すくっと立ち上がった楓姫は、元の道へと踵返した。
 手に握られた、スレイヤーの鍵。そして――大尉のペンダントを握り締めて。



「こんにちは、スレイヤー‥‥今日から、私がマスターだ」
 白い布に覆われていたスレイヤーは立ち誇り、楓姫を見下ろしていた。


――Night of Rebellion
 この後、彼女と戦場を共にすることのなったスレイヤーが、ここに存在したのだった。


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CATCH THE SKY 地球SOS
2011年11月21日

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