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『ハロウィン限定洞窟への招待 』
朱麓(ia8390)


 神楽の都の片隅にて。
「だから万屋っつったら万屋なんだよ。何でも引き受けるが安売りはしないよ」
 煙管を口から離した店主の朱麓(ia8390)が機嫌を損ねてそっぽを向いている。
「そうですか。可愛いわんちゃんでぜひ、お嬢さまに譲ってほしかったのですが‥‥」
 朱麓の万屋に訪れていた老紳士はそう言って怪しい笑みを浮かべて後ろを振り返った。
「それでは仕方ありませんわね‥‥」
 そこには、土間で朱麓の朋友である忍犬「緋焔」と戯れていた娘が残念そうにしていた。今日の緋焔は白い執事服を着用しているので特にらぶりー。このお嬢さまがかわいがるのも無理はない。
「じゃあ、お騒がせのお詫びにこれをプレゼントしますね」
「ん?」
 娘から受け取った手紙を見てにやりとする朱麓。
「へぇ、これは‥‥」
 顔を上げると二人の姿はなかった。
 その代わり、友人の深夜真世(iz0135)が万屋に入ってきた。
「いらっしゃい、真世」
「トリック&トリート!」
 やぶからぼうにそんなことを言って決めポーズ☆。
「‥‥あー。そういやハロウィンだったか?」
 朱麓、もうどこから突っ込んでいいのか分からずとにかく呆れた。
 ここにお菓子をねだりに来たのは、いい。だってハロウィンだから。
 服装がいつものメイド服なのも、まあ許す。まるごと闇目玉よりましだ。
 しかし、なぜにトリックとトリートを両方要求するか?
「随分と欲張りだねぇ。じゃ、あえてのトリックで」
 苦笑しながら答える朱麓。ついでに緋焔に目配せする。
「何よ、朱麓さん私を馬鹿にしてるでしょ〜。今日の私はちゃんと悪戯もできるんだからねっ」
「悪戯ならいつもしてるだろうに‥‥。ともかく、これでも食べて落ち着きな」
「わん!」
 緋焔がたくさんクッキーの入った籠を咥え真世に近付いた。
「きゃ〜っ! 緋焔ちゃんありがとねっ」
 途端に機嫌良くなる真世。やれやれと朱麓は髪をくしゃりとかく。
「それじゃ、悪戯は何がいいです?」
「ああ、そんなことより‥‥」
 ぽり、と早速クッキーをかじる真世に茶を出し、自分もクッキーを咥えたところで何かを思い出す朱麓。ごそごそと先ほどの怪しい手紙を差し出した。
 どれどれ、と真世が見ると『ハロウィン限定洞窟へのお誘い』と書かれていた。
「で、もし良かったら一緒に行くかい? 怪しさ満点の手紙だけど」
「うんっ。行きます〜♪」
「わんっ」
 というわけで、二人と一匹が洞窟にレッツゴー。


 手紙に書かれた場所は、某山中にてすぐに発見できた。
 早速、足を踏み入れる。
「それにしても、朱麓さんて洞窟好きですよね〜」
「別にそんなことたぁないさね」
 かぼちゃランタンを掲げた真世がびくびくしているのに対し、朱麓は慣れたようにすたすた歩く。朱麓、結構洞窟依頼をギルドから受けている。真世に誤解されるのも無理はない。
「罠とかあったらどうするんですか?」
 ここで朱麓、足を止めくるりと振り向いた。
「そんなのは勘で分かるんだよ」
 にっ、と笑って自信たっぷりに言う。
「それじゃ、この手紙って罠なのかなぁ?」
「ははっ」
 首を捻る真世に、思わず笑う朱麓。
「そいつを確かめに行くんじゃないか」
「えーっ! ちょっとぉ」
「ま、罠ってのは引っ掛けるために設置するんだ。おのずと設置場所なんて分かるもんなんだよ」
 そんな話をしつつ前進すると、広間に出た。
「あ。ねえねえ朱麓さん、宝箱があるよ?」
「あー。それ、罠だから‥‥」
「きゃーっ!」
 まさか引っ掛からないだろうと壁を調べていた朱麓だが、真世の悲鳴にはビックリした。振り向くと、体はメイド服で頭が宝箱のバケモノが立っているではないか!
「ったく、世話の焼ける娘だねぇ」
 胸元をざっくりさらし崩して着た旗袍「紅雀」を纏う身体がうねるような動きをしたっ。
 その流れの中でびらりと手にした鉄扇「刃」を開くと腰を屈め一気に間合いを詰める。敵が一歩踏み込んだその瞬間、縁が円弧の刃となった鉄扇が下から上へ一直線に煌くッ!
――ぼろっ。
 深々と真世の頭部に噛み付いていた宝箱型のアヤカシは二つに割れると瘴気に戻った。その下から涙目の真世の顔が現れる。
「ああん、朱麓さん〜」
「はいはい、次から気を付けとくれよ?」
 朱麓に泣きつく真世だが、ここではっとする。
 何と、メイド服の胸元がすっぱりと切れているではないか。肌は無傷。
「いやあぁぁん」
「あ、すまかなったね。ちと深かったみたいで。‥‥ほら、これでいいだろ?」
 胸元を隠しへたり込む真世に、朱麓は「こうしてこうしてこう」とか着替えさせるのだった。


 さて、さらに洞窟を進む二人と一匹。
 先頭の朱麓は、胸元がとっても開放的で豊かな胸が半分見えている。
 続く真世は、先ほどのダメージで服の両袖を脱いで腰に巻きつけ、胸は白い帯で巻いただけの肩出しへそ出し状態。
 えらく露出度が多いわけで、ここをアヤカシにでも襲われたら大変なことになりそうだ。
「真世についちゃああたしがやりすぎちまったんだしね」
 何かあれば身を挺してでも真世を守ってやろうと朱麓は面を引き締めている。
 その時だった!
「朱麓さんっ!」
「前に出るんじゃないよ、真世っ!」
 敵襲は音もなかった。
 突然、通路前方から伸びてくる大量の‥‥蔦!
 その数は半端ではない。
「くそっ」
 不覚を取る朱麓。
 無理もない。普段なら武器を手に詰めるが、今は真世をかばったため出足が遅れた。
「やたら粘着質なのは、痺れさせるためってわけかい?」
 腕や足に絡むのは分かるが、首元やさらした胸元から大量にぬめぬめ塗れた蔦が侵入しては巻きつき張り付いてきたのには嫌悪感を示す。粘液から肌に何かが浸透している。
「いやん、何この感覚〜」
 真世の涙声も聞こえる。かなり肌をさらしていたので、鳥肌の立つ感覚にかなりぐったりしているのだろう。このままでは自分も、という思いもあるが‥‥。
「緋焔!」
 頼りになる相棒に声を掛ける。いままで目立たない位置に置いていたので捕らわれてないはずである。
 が、反応がない。
「緋焔、どうしたっ!」
「わんっ!」
 ようやく反応した緋焔が駆け出す。朱麓と真世に絡むだけ絡んでいるだけにもう緋焔を追う蔦はない。
「ああん、もう駄目‥‥」
 真世の反応がなくなったとき、蔦は瘴気に返った。
「おんっ!」
「よし。よくやったよ、緋焔‥‥」
 何とか、根っこの部分を緋焔が倒したようだった。


「やれやれ、酷い目にあったね」
 その後、更衣室のような部屋を発見し全身のぬめりを取っていた。
「くぅん‥‥」
 緋焔は外で見張り。「朱麓さんってやっぱり胸が大きいんですね〜」とか、「真世も魅力的じゃないか」などと声が漏れている。
 その時!
「あ〜っ! 朱麓さん、壁にちっさな穴がある」
 びくっ、と飛び上がる緋焔。
「向こうに闇目玉でもいるんじゃないだろうね!」
 どたどたと長タオル一枚を巻いた姿の朱麓と真世が鈍器を手に怒りの形相で出て来ると、ここではじめて隣にも部屋があることを発見。すぐに突入する。
「くぅん‥‥」
 緋焔が呆然としていると凄い音が中から響いた。
 やがて出てくる二人。
「まったく‥‥」
「さいってー」
 鬼の形相の二人に思わず身を縮める緋焔だったり。

「そんな訳の分かんない洞窟も、ここが最奥ってわけか‥‥」
「何もないね、朱麓さん」
 ほぼ一本道だった洞窟。ここが最後の部屋だった。
 見回しても何もない。
「一体、何だってんだ?」
 思い返す朱麓。懐から怪しい手紙も出す。
 事の発端は、万屋に来た老紳士と娘の二人組。ここに来たのはこの招待状を貰ったからだが‥‥。
「ふふふ‥‥愚かな人間がまんまと引っ掛かりおったわ!」
 突然、背後から高笑いと共にぐももももと筋肉質の狼男のような影が被ってきた。
「何?」
 振り向くと、一番後ろにいた緋焔が覚醒したかのように凶悪な面構えとなり巨大化し人の背丈より高い狼男の姿となっていた。
「どうしたってんだい、緋焔!」
「朱麓さん、危ないっ」
「真世っ!」
 振り下ろされる巨大な狼男の爪。真世は身を挺して朱麓をかばった。はちきれる衣装、落ちるかぼちゃランタン。
 ああ、次は朱麓が襲われる!
 しかし、朱麓の目にはにやりとした会心の笑みが。
 そのまま武器を構える。緋焔を攻撃する気か?
「前にも言ったが、罠ってのは引っ掛けるためにあるってね」
 狼男の攻撃をかわすと、何と振り向いた。
 そこには、最初に伸びてきた狼男の影がある。
「どうして光の前に影ができるんだろうねぇ?」
 容赦なく影の映る石壁に鉄扇を叩き込む。
――グォォォッ!
「朱麓さん、こっちも」
「はっ!」
 影から瘴気が散るうちに、怪しい手紙が蝙蝠となったが真世の叫びに反応した朱麓が叩く。これも瘴気に返る。
「くぅん‥‥」
 残ったのは二人と、何が起こったかわからないとばかりに首を捻っているいつもの緋焔だけ。
「大丈夫か?」
 朱麓が朋友に手を差し伸べたところで、意識が揺らぐのだった。


「くぅん‥‥」
「はっ!」
 朱麓は意識を取り戻すと、そこは万屋の玄関土間だった。老紳士と娘もいる。
「そうですか。可愛いわんちゃんでぜひ、お嬢‥‥」
「ハッピーハロウィン」
 老紳士がいったところで、朱麓はクッキーを娘に手渡した。にっこりと微笑む娘。
 そして店を辞す二人。
 すると、入れ替わりに真世が入ってきた。
「トリック&トリート!」
「トリート。‥‥それより、どうして『まるごと闇目玉』姿なんだい?」
 先の二人に悪戯される時より滅茶苦茶な真世に、思わず笑う朱麓だった。
 それはともかく、そんなこんなで今度は真世の悪戯が始まるのを朱麓はまだ知らないのだった。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ia8390 / 朱麓 / 女性 / 23 / 泰拳士】
【iz0135 / 深夜真世 / 女性 / 18 / 弓術師】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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朱麓様

 いつもお世話様になっております。
 大変お待たせしました。洞窟冒険ハロウィン編をお届けします。朋友と一緒♪、ついでにまよまよも一緒♪(相変わらず戦力外でスイマセン)。この度は真世までお誘いいただきありがとうございました。書いててとっても楽しかったです。

 諸事情でコメント字数が少なくてスイマセン。
 この度はありがとうございました。
PM!ハロウィンノベル -
瀬川潮 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2011年11月21日

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