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『突撃、芸術の秋! 』
綺咲・桜狐(ib3118)


「桜狐、貴女何を熱心に読んでいるの?」
「何かのイベントのチラシみたいですね。芸術の秋、神楽一展覧会‥‥出品者募集要綱?」
「あのぉ〜、恋華、イゥラ。覗き込むのはいいのですけど。その、両方から挟むと私の頭がですね」
 揃ってバスト自慢の二人である。テーブルに向かう綺咲・桜狐の手元を後ろから覗こうとすれば言わずもがなの状態。
「ああ、ごめん。だって反対側回ると字が読み難いんだもの」
「これ見てくださいよ。商品が三儀遊覧飛空船ツアー、各地の宿も地元最高級をご用意って」
「船賃と宿泊費だけ無料で残りは自腹でお願いしますとかいう話ではなくて?」
 冷静な意見を述べるイゥラ・ヴナ=ハルム。そこを確認せずにいざ出発となって青くなるのは勘弁願いたい。
「食事も観光も全部付いてるんですよ。お買い物はさすがに付いてませんけれど」
「へぇ三儀の芸術巡りね〜。普通はお供の依頼でも受けないと行く機会も無いわね」
「それだって一箇所行けるくらいです。精霊門で行くから船旅も楽しめないですし〜」
 アル=カマルもジルベリアも全部一気に回っちゃおうっていうんだから剛毅な。
 悪くないわと胸の内で浅葱 恋華が算盤を弾く。これだけの旅費を三人で出そうと思ったら‥‥。
「世にはお金があるもんだわ」
 ツアーというからには他の参加者も居るのであろう。一体正規の料金はどれ程するのやら。
 各地の展覧会も兼ねているようだが。優秀作品は船に載せて、金賞製作者はゲストという事で招待らしい。
「金賞取らないと、ですけどね。同行者二人まで可だそうです」
「誰か一人、入賞すればいいって事よね。そうしたら皆で行けるわ」
「狙うなら少しでも確率を上げる為、三人で別の作品を提出した方がいいだろう」

 そうと決まれば――!
 三人のにわか芸術の秋は始まった。
「って桜狐、これ締切三日後じゃないの!徹夜じゃないと間に合わないわよ!」

 ◆◆◆

「絵の具、買い揃えてきました!‥‥あと、作業中のおやつに『フィッシュあんどチップ』と油揚げも」
 大きな袋を抱えて帰ってきた桜狐。気合が入って尻尾が大きく振れている。
「長丁場になりそうですしね。お茶も薬缶で用意しておきましょう」
 物を壁際に全部寄せて何とか作った作業場では黙々とイゥラがイーゼルを組み立てている。
「ちわー、石屋っす。ご購入の石材、持って参りやんした!」
「あ、中まで運んでくれるかしら。そこに台を作ったから乗せて欲しいんだけど」
 恋華は彫刻用の石材設置の指示へ。人足が二人掛かりで床を傷つけないよう慎重に運び込む。
「出来上がったら会場に搬入するのも手伝ってくれるかしら」
「お安い御用でやんす。運ぶのは購入料金に入ってやすから、二回目は本当は料金頂きやすけど、おまけしやす」
「嬉しいわ。ふふっ」
 さりげなく色仕掛け。石材選びの時から鼻の下を伸ばしていた石屋はもう目尻が下がっていた。
「床が抜けないぎりぎりの重さって言ったらこれになったわ」
「大きさは丁度いいんじゃないかな。軽い方が彫るのにも苦労しないだろうし」
 外で作業する訳にはいかない。だって。

「恋華、何してるんですか‥‥!?」
「ちょ、何で脱ぐのよ!脱ぐ必要なんて無いじゃない!?」
「だってそういう事なら、文字通り一肌脱がないとね〜♪」
 次々と服を脱ぎ散らしてゆく恋華にイゥラと桜狐は丸くする。
 下履きまでもポーンと躊躇なく脱ぎ。
「さぁて、どんなポーズがいいかしらね」
 こう、それともこう?と腕を頭の後ろで組んでみたり、淑やかに横座りで脚を流してみたり。
「‥‥本当、突拍子もないコトするんだから」
 頬を赤く染めたイゥラが呆れた声を出す。桜狐の方はまだ呆然としている。
「桜狐、描き始めないといつまでも恋華がこの格好してるよ、きっと」
「は、はいっ!え〜とポーズは‥‥尻尾が見えた方がいいですね、とても綺麗ですし」
「後ろ姿じゃ芸が無いね。上半身を捻って、そうその角度」
「この姿勢、結構辛いわよイゥラ」
「デッサンが終わったら一回休憩入れるから、我慢して我慢」
「あはぁっ♪綺麗に描いて頂戴ね?」
 真剣に絵を描き始めると、恥じらいも飛んだ。というかそんな余裕は無い。
 じっくり観察して筆を走らす桜狐。
 繊細なタッチで凛々しくピンと立った真紅の尾を燃え盛る炎のように描く。
「お尻‥‥」
「艶と張りが足りないわ。もっと肌の色に光を重ねないと」
 それじゃ恋華が怒るよ?
 アドバイザー、イゥラの指摘が飛ぶ。もぐもぐとフィッシュフライを摘まみながら。
「こ、こうですか?」
「いい出来よ。恋華お疲れ〜、見に来てごらんなさい」
「ふぅ〜。上出来じゃない桜狐。これ展覧会終わったら家に飾っておきたいわ」
「‥‥自分のヌードを?」
「芸術作品だもの厭らしさなんて何処にも無いわ」
「誰か家に来たら恥ずかしいと思うんだけどね」
「恋華、大胆すぎます‥‥」

「じゃ次はイゥラがモデルね〜」
「な、何で私まで脱がなきゃいけないのよっ。私は嫌よ!?」
 服に手を掛けて脱がそうとする恋華に抵抗するイゥラ。
「だって私、裸婦像が彫りたいんだもの。お月様のご神託の通り♪」
「‥‥月なんてないじゃない。ほら夜が明けて鳥がピヨピヨ鳴いてるわよっ」
「モデルしてる間に閃いたのよ。その頃はまだお月様出てたもの〜」
 徹夜明けだというのに高いテンションである。いや徹夜明けだからこそか。
「まったく、しょうがないわねもう」
「わくわく♪」
 仕方ないとか言ってる割にはノリノリで脱いでいるイゥラである。
「イゥラまで脱ぐんですか‥‥!?」
「だって恋華が脱げって言うから、しょうがないじゃない?」
「胸を手で覆って。恥じらいじゃなくてこっち睨むような感じで」
 そうそう爪を出して毛を逆立てて威嚇する猫みたいに。
「恋華、服は‥‥」
「このままでいいの、いいの」
 一糸纏わぬ姿で石材に向かい、鼻歌交じりに槌と蚤でイゥラの姿を映し取ってゆく。
「時間掛かるわね。桜狐、下の方お願い」
「そ、そ、その格好のままテーブル上がって、ええっ!?」
 両脚を開いてしっかりと姿勢を安定させ、頭部に取り掛かる恋華。
「イゥラ〜動かないでよ。うふふっ」
 耳の三角には拘りを持って。丹念に仕上げてゆく。

「ふぅ、何とか余裕をもって間に合いましたね‥‥」
 締切まで残す事、あと一日。
「まだ一日あるじゃない。イゥラ、貴女も作る時間あるわよ」
「そうね、桜狐‥‥」
 二人の魔の手が迫る。
「え、あの‥‥わ、私は別に脱ぐつもりはないですけど」
「お〜う、こっ♪貴女だけ何も無いってのも不公平よね?」
「まさか、あんた一人だけこのまま逃げようってんじゃないでしょうねぇ」
 にやっと唇の端を両脇に広げるイゥラの両手の指が蠢く。
『せ〜のっ♪』
「きゃああああああっ!?」
 逃げようとしたって無駄だ。二人掛かりで脱がされて、桜狐の服が部屋の中を舞う。

 ああ。小鳥の囀りが爽やかで心地よい。
 はっと現実を思い出して飛び起きる桜狐。昨日の格好のまま、上には毛布が掛けられていたが。
 イゥラも丸まって同じように毛布一枚で床に転がっている。
(恋華は‥‥?)
 こちらも毛布、を最初は掛けていたらしきと思われるが、豪快にはだけて寝ていた。
「れ、恋華!?いくら何でもその格好じゃ風邪を引きますよっ」
「ん‥‥あ、桜狐おはよ〜。いたた、やっぱり床で寝たら身体が痛いわね」
「とにかく服を着てくださいってば‥‥そうだ私の服‥‥」
「その辺に散らばってるわよ。ふわぁ〜、さすがに徹夜続けるときついわ」
「あの‥‥ショーツだけが見当たらないんですが一体‥‥」
「イゥラの下にでもなってるんじゃない?」
「私の下‥‥?ああ、これ?」
 二人の声に目を醒ましたイゥラが指先に摘まんで見せたのは純白の紐ショーツ。
「桜狐ってこんなの履いてるのね〜。だ・い・た・ん♪」
「返してください〜。は、早くしないと石屋さん来ちゃいますっ」
「そういえば昼に搬入して貰うって約束だったわね」
 その前に。イゥラの完成品見せて!
「ほぉ〜、これは可愛らしい」
「ね、桜狐って感じが出てるでしょう?」
「私も、その見たいです‥‥」
 二人の顔が妙ににまにましているのが気になるが。
「ええ〜っ。これを展覧会に出品するんですか!?」
「当然。もう作りなおす時間は無いわよ。今日が締切だもの」
「それはそうですけど‥‥」
 くったりと疲れきって寝そべる唇に油揚げが咥えられて。何とも幸せそうな顔をしている。
 描き込まれた床と壁は淡いタッチで、桜狐の姿がくっきりと構図の中に浮かび上がり。
「この腰からお尻にかけての線が我ながらいい出来だと感じてるわ。すらっとしてて」
「私はこの桜狐の表情が好きね〜。半分寝てるのに、はむはむと本当に幸せそうな顔してること」
「や〜ん」
「だってね、描いてるうちに桜狐が寝ちゃったんだもの。油揚げ食べさせたら起きるかと思ったんだけど」
「油揚げ美味しいですぅ‥‥とか言ってたから、てっきり意識あるもんだと思ってたわ」
「全然覚えてないです‥‥はぅ」
「とりあえず服着て身支度してっと。イゥラ、絵の具乾いた?」
「まだ布を被せるのには不安があるわね、そのまま運ぶしかないと思うわ」
「そんなぁ〜。これそのまま荷車に載せるんですか?」
「危ないから手で運んでいくわよ。二人で端と端持って、一人支えてれば私達でも運べるし」
「それって街中の晒し者‥‥」
「どうせ展示するんだから同じよ。皆見に来るんだろうしね」
「それはそうですけれどぉ〜」
 恋華とイゥラは完全に開き直っている。桜狐はそこまで肝を据えられない。

 ◆◆◆

 残念ながら金賞は取れなかったが。
 獣人乙女達の作品は並べて特別展示され好評判を呼んだ。

「ふ〜ん、特別賞の粗品だって。何かしら」
 展覧会の期日が終わり、展示品も手元に戻されて。何か小さな包みが届いた。
「金賞製作者の特製ミニミニ彫像って書いてあるわ」

『貴女達の作品は大変素晴らしく私のインスピレーションを刺激されました』
 製作者の署名が入った直筆の短い手紙が添えられていた。
 包みの中には綺麗に包装された小箱が。
「開けてみますね‥‥」
「これは‥‥うふふ、玄関に飾っておきましょ」
 左側に桜狐が描いたポーズそのままの恋華が右腕を奥に向かって伸ばし。
 右側には挑戦的な表情で両腕を突き出したイゥラ。
 その二体の腕に支えられるように、油揚げを咥えて眠りこける桜狐。
 掌に乗る大きさだが、銀細工で針の先程の細かい所まで作られたそれは良く出来ていた。
「胸の大きさが不正確なのはちょっと不満だけど」
 イゥラより小さく作られたのが不満らしい。
「立体像から作るのと絵から想像するのじゃ、違うでしょ」
「そうだけど‥‥絵から見たって判るじゃないっ」
「まぁ絵画と彫刻は買い取ってくれるという御仁が居たし、旅行は獲得できなかったけど万々歳ね」
 獣人マニアだという金持ちがそれはいい値段を付けてくれた。
 むしろそれで良かったのかもしれない。あの作品がジルベリアやアル=カマルでも展示される事を考えたら。
 ‥‥恥ずかし過ぎる。あの寝姿の絵だけは。
 そう胸を撫で下ろす桜狐であった。
「‥‥で。そ、その。玄関に飾るのだけはやめてください!お願いしますっ」

 〜 了 〜


■登場人物■
【ib3118】綺咲・桜狐/女性/外見年齢16歳/獣華遊撃隊・おきつねさま
【ib3116】浅葱 恋華/女性/外見年齢20歳/獣華遊撃隊・おいぬさま
【ib3138】イゥラ・ヴナ=ハルム/女性/外見年齢21歳/獣華遊撃隊・おねこさま

■ライター通信■
大変長らくお待たせ致しました。ご発注ありがとうございます。
賑やかに会話の多い内容となりましたが、お楽しみ戴ければ幸いです。
絵にしたらこれ大変な事になりますね(笑)
光景を想像しながら楽しく執筆させて戴きました。
この三人で金賞取って旅行に向かったシーンも楽しいだろうなと夢想しつつ。
これからもどうぞ舵天照の世界を満喫くださいませ。
■今年は○○の秋ノベル■ -
白河ゆう クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2011年11月21日

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