▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『お帰りなさいのトリック・オア・トリート〜リィムナ編 』
リィムナ・ピサレット(ib5201)


「ふぁ‥‥」
 もぞ、と布団が動く。
 ここは神楽の都。
 誰かさんの住まいの、誰かさんの寝間。
「ん‥‥」
 やがてむくりと起きる人物。
「うーーーーーん」
 上半身を起し腕を思いっきり伸ばしているのは、リィムナ・ピサレット(ib5201) 。
「ええっと、今日は‥‥」
 むにゃむにゃと目をこすっていたが、ここではっとする。きょろ、きょろと左右を気にするが、この部屋にはリィムナしかいない。幼少時から付いてしまった癖だろう。
 そして、掛け布団をそ〜っと上げて、中を見る。
 次に、右手を突っ込んでぺたぺたと敷布団を触っているようなしぐさ。
 やがていぶかしんでいた表彰がぱあっと晴れた。
「うん。今日はいい一日になりそうだねっ」
 元気良くぴょんと飛び起きる。布団はぐっちゃぐちゃのまま。
 リィムナはねぐりじぇの端をひらひらさせつつ窓際まで行き障子を開けた。いい天気。にっこり笑顔もさらに輝く。
「本当なら、今日みたいな日はお布団の乾きがいいんだけどね〜」
 ちなみにリィムナ、ちっちゃくて幼く見えるようにまだ子どもである。それなのに布団や洗濯に関する着眼点が育まれているのは、決して家事手伝いに熱心だからではない。
 そして、朝の支度をする。
 顔を洗って髪を梳かして、と思ったところで動きを止めた。
(そっか。髪の毛、切ったんだよね)
 ちょっと前までとは違う手櫛の手応え。
 元々リィムナの紫の髪の毛はとても長いというわけではないが、左耳の後ろあたりの髪が右耳の後ろと比較しバランスが悪くなっている。
(約束の、証だよね)
 にっこりとそんなことを思う。
 そしてほわんほわんと回想するのだった。

 神楽の都の一角、珈琲茶屋・南那亭にて。
「それじゃ、次の依頼は別々だね」
 テーブルに座るリィムが身を乗り出して話している。
「紅葉狩りは一緒に行けたがの。こういうこともあろう」
 対面に座って甘〜くした珈琲を飲むリンスガルト・ギーベリ(ib5184) (以下、リンス)が答えた。
「リンスちゃんの興味を引いた依頼か〜。一体どんなのかなぁ?」
「大川姫さま、というアヤカシらしい。おそらく強力な『魅了』を持っておるじゃろう」
「リンスちゃんは騎士だし、魅了されたらそのままふらふら〜っとついてっちゃうとかあるかも?」
「そ、そんなことはない。まあ、妾は魔術師のリィムナよりそういった攻撃には弱いが‥‥。じゃが、断じて敵アヤカシなどに魅了なぞされぬ!」
 リィムナの悪戯っぽい言葉に、むきになるリンス。
「それじゃ、おまじないだよ? 大丈夫、二人の絆があればアヤカシなんかに惑わされないよ!」
 くすっと笑ったリィムナ。そのままナイフを取り出すと、自分の左側の髪を一房切りリンスに手渡すのだった。
「リィムナ‥‥」
 意外な顔をするリンスに、リィムナは「約束だからね」とばかりにほっぺにキスをして送り出したのだった。


 さて、後日。
 神楽の都にて。
――どたどたっ。
 リィムナは板張りの廊下を走っていた。
 そして目当ての部屋を見つけると、がらぴしゃ〜ん!と襖を空ける。
 すると、中では湯上りでほこほこ湯気を纏う浴衣姿のリンスがいた。
「な、なんじゃ。リィムナではないか。どうした?」
「リンスちゃん‥‥」
 ぎくり、と一歩引くリンス。ずい、と一歩寄るリィムナ。
「前の討伐依頼、ギルドで報告書読んだよっ!」
 ぎくぎくっ、とリンス。頭に載せたたおるがずり落ちる。
「あ、あれは敵の魅了の力が強くて仕方なく‥‥。それに、依頼は成功したし」
「『大丈夫、二人の絆があればアヤカシなんかに惑わされないよ!』って約束したのに。‥‥それなのにリンスちゃん、一人だけ魅了されて自分が悪魔っ娘になったと思い込んで仲間にトリックオアトリート!って言いながら襲いかかったとかって‥‥」
 ごにゃごにゃ言うリンスに、すぱっと突っ込むリィムナ。リンスにそれ以上の言い訳はない。
「あたし達の絆ってそんなものだったんだ!」
 眉の根を寄せて迫るリィムナ。リンスは今まで向けられたことのない表情にたじたじとなっている。
「まったくリンスちゃんたら酷いよねっ!」
 リィムナは容赦なくぷんぷん怒る。
「そんな‥‥」
 狼狽するリンスは声を掛けるが、リィムナは「知らない」とツン。
 すると、リンスがなにやらばたばたと動き始めたぞ。
「そ、そうじゃ。新作の泰ニャンお面が出来たのじゃー!」
「つん」
「ほ、ほらほら、猫ダンスじゃ」
「う‥‥。つん」
 慌てて自作の猫面を出したり、まるごとにゃんこに着替えてにゃんにゃん踊ったりする。しかし、リィムナとしてはごまかされるつもりはない。‥‥背を向けて浴衣からまるごとにゃんこに着替えるときだけは心惹かれたが。
「リィムナ‥‥」
 力なくうなだれるリンス。しかし、すぐに何かを決心したような顔を上げた。
「待っておれ」
 どたた、と部屋をでるリンス。すぐに戻ってきたその姿は。
「す、好きにしていいのじゃ‥‥」
 何と、ビキニ「ノワール」姿となっているではないか。
「んん‥‥、つん。許さない」
 しかし、この誘惑にもリィムナの機嫌は直らなかった。
 この時、リンスの中で何かが弾けた。


「嫌じゃ嫌じゃ! リィムナが妾を見てくれないなんて嫌なのじゃー!」
 何とリンス、床に仰向けになり、幼子の如く手足をバタつかせ大泣きしながら駄々をこね始めたのだ。
 目を見開くリィムナ。
 こんなリンスは見たことがなかった。
 リンスは、リィムナの姉がお世話してるお嬢様で開拓者になる前からの親友。お人形さんみたいに可愛いいと思い、憧れ、いつも見てきた。いや、いつも一緒だったし、彼女のことを思うとより元気が出た。「親友!」、「可愛い!」と、素直に彼女を褒める言葉も出る。リィムナ自身の、自慢でもあったのだ。
 それが、こんなに子どもっぽく泣いている。普段の気高い様子からは想像もしなかった。
 そしてリィムナ自身、はじめて気付き息を飲んだ。
 どうして自分でも気付かず、こんなに意地悪して機嫌の悪い振りをしていたのかが――。
「リンスちゃん‥‥」
 そんな飾るところのない、いわば心が裸のままのリンスを見てリィムナが微笑んだ。いや、安心したのだ。
「あはは。今までの、嘘だよ〜」
「な、なんじゃと?」
 リィムナはばつの悪そうな顔をして視線をそらせながら言う。リンスのほうは、ぴた、とビキニ姿でじたばたしていた格好のまま固まり、思わず聞き返していた。
「リンスちゃんがおろおろしたり泣いたりする姿が可愛いからつい意地悪になって悪戯しちゃったんだ♪」
 なんちゃって、と舌をぺろりと出すリィムナ。すぐさま爽やかな顔で悪戯した事をばらす。
 リンスはこれを聞き、ごごごと身を起したぞ。
「悪戯、じゃと‥‥?」
「だってリンスちゃんが‥‥」
「問答無用じゃっ!」
 あっという間に襲い掛かられて組み敷かれるリィムナ。
「妾が、妾がどれほど‥‥」
「リンスちゃんが可愛いのが悪いっ!」
 どったんばったんしたかとむに〜っ、と互いのほっぺたを引っ張る。リンスがもう一方の手でリィムナの鼻を押し上げれば、リィムナはリンスの鼻を摘んでくる。もみ合ううちにリンスのブラがあやうくポロリしそうになったり、リィムナの純白のねぐりじぇみたいな服が脱げかけたり‥‥。
「ぷっ‥‥」
 ここで、リィムナがリンスの変な顔を見て笑ってしまった。
 リンスも目を見開き、ようやく我に返った。改めてリィムナの変顔に気付き、くすっ、と吹き出してしまった。
「リンスちゃん、水着がずれてる」
「リィムナも服が乱れてしまったのぅ」
 身を起して向き合って座ると、互いの服を調えてやった。視線が自然に合ってしまい、またぷっと互いに笑い合う。
「ただいま、じゃ」
「うん。お帰りなさい」
 リンスは、無事に心のふるさとに帰って来れたことを喜んだ。リィムナも、にっこり。
 そして、惹かれ合う。
 自然と目と目が近くなり‥‥。
 こつん、と額を合わせて、それでも見つめあった。
 漏れる吐息。
 次の、瞬間。
「あ、そうだ!」
 リィムナが声を上げた。
「ちゃんとお菓子と甘い飲み物を用意してリンスちゃんの帰りを待ってたんだよっ♪」
 いそいそと持参物を取り出すリィムナ。
「うむ、二人でお菓子パーティじゃな。‥‥よし、大いに楽しむのじゃ!」
「そうそう。今夜はお菓子パーティ! ハロウィンだもん、悪戯とお菓子がなくちゃね!」
 リンスもノリノリだ。早速、ジュースで乾杯。
 そして。
「‥‥って、あたしばっかり飲んでる様な?」
「気のせいじゃ。‥‥うむ。美味しそうに飲むリィムナはやっぱり見てて和むのぅ」
「ほんと? よぉし、じゃあもっと飲むよ」
 こうして、夜遅くまで仲良しお菓子パーティーは続くのだった。
 アヤカシの魅了よりも甘い、とっておきの二人だけの魔法のような時間の中で。


 翌朝。
「よしよし。泣くでない」
 リィムナはリンスに慰められていた。どうやら布団を乾かさないとならない状況になっているらしい。
 もちろん、胸の中で泣くリィムナにリンスのしてやったりな笑顔を見ることはできなかった。
 と、ここでリィムナが素朴な疑問に顔を上げた。
「あれ。寝るときは一緒の布団だったような?」
「そ、それはきっと妾の寝相が悪かったのじゃな」
 ぎくりとして言い訳するリンスだった。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
ib5201 / リィムナ・ピサレット / 女性 / 10歳 / 魔術師
ib5184 / リンスガルト・ギーベリ / 女性 / 10歳 / 騎士


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
リィムナ様

 いつもお世話様になっております。
 大変お待たせしてしまい、申し訳ありません。リンスさんとのハロウィンお菓子パーティー、お約束なオチもあるよなお話をお届けします。
 そういえば、リィムナさんとリンスさんは数値的に見ると長所と短所をお互いに補い合っているんですねぇ。いいコンビです♪
 出だしの爽やかな朝は、オチとの対比としてお楽しみください。

 この度はありがとうございました。
PM!ハロウィンノベル -
瀬川潮 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2011年11月24日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.