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『お帰りなさいのトリック・オア・トリート〜リンス編 』
リンスガルト・ギーベリ(ib5184)


 開拓者ギルドから出発した一行は、依頼のあった村で活動していた。
「なぁんか、聞き込みした手応えじゃ敵アヤカシの『魅了』、かなり強力っぽいぜぇ?」
「そりゃまた厄介だわね」
「ハナからそん予感はしたし、何とかなるネ」
 そんな会話の中、今回の依頼メンバーとなっているリンスガルト・ギーベリ(ib5184) (以下、リンス)は動じる風もなかった。‥‥もっとも、彼女が動揺する場面など滅多にないのであるが。
「そうじゃの。出発前からその可能性を考慮しておったし、何とかなろう」
 リンスはそれだけ言って、光沢豊かにウェイブする長い金髪を翻し背を向けた。
 普段と変わらないといえば変わらないのだが、彼女を良く知る者が見ればたちどころに分かってしまう。
 実は彼女、龍の獣人で背中に小さな龍の羽が残っている。羽ばたく力などはないのだが今、小さくリズム良く揺れている。
(約束したのじゃ)
 仕事仲間に背を向けたまま何をしていたかというと、何やら小さなアイテムをこっそり握り締めていた。出発前、大親友――いや、今となってはかけがえのない存在のリィムナ・ピサレット(ib5201) から貰ったものだった。
 白い手からはみ出ているのは、紫色の髪の毛。
 そう、リィムナの紫の髪房だった。
「う‥‥」
 ここで、リンスがぽんっと真っ赤になった。
「リンスちゃんは騎士だし、魅了されたらそのままふらふら〜っとついてっちゃうとかあるかも?」
「そ、そんなことはない。まあ、妾は魔術師のリィムナよりそういった攻撃には弱いが‥‥。じゃが、断じて敵アヤカシなどに魅了なぞされぬ!」
 出発前、悪戯っぽくリィムナに言われ、リンスはむきになったものだ。
「それじゃ、おまじないだよ?」
 リィムナはそう言ってナイフを取り出すと、自分の髪の毛をひと房切り、輪にして手渡すのだった。
 いや、それだけではない。
「む? リィムナ‥‥」
 真っ赤になるリンス。リィムナが踵を浮かせてリンスの白い頬にキスしたのだ。
「‥‥おまじない」
「う‥‥」
 にまっ、と悪戯そうで満足そうなリィムナ。リンスは目を真ん丸く見開いて頭がくらくらするのだった。

「む、いかんいかん。妾の出番じゃの」
 場所は変わって、アヤカシ討伐現場。仲間が敵アヤカシ『大川姫さま』を遠距離攻撃している。リンスの役目は敵後背からの強襲。ブロークンバロウを抱え、一気に突貫するッ!
(妾とリィムナの絆があれば、アヤカシ如きに魅了などされぬ!)
 間合いにもうすぐの位置まで迫る。さすがに気付く大川姫さま。
 振り向いたその顔は悲恋・悲哀のたけを刻んだ能面のように美しく恐ろしかった。
 リンスは手首に巻いた紫の髪房に目を落とし、我が友の姿を強く思い描いたっ!


 さて、後日。
 神楽の都にて。
「ふむ、いい湯じゃったの。後は寝るだけじゃの」
 湯上りのリンスがほこほこ湯気を纏う浴衣姿で自室に戻りくつろごうとしていたところ‥‥。
――どたどたっ。がらぴし〜ん!
 入ってきたのはリィムナだった。仁王立ちして小さな肩をぷるぷる震わせている。
「な、なんじゃ。リィムナではないか。どうした?」
「リンスちゃん‥‥」
 ぎくり、と一歩引くリンス。ずい、と一歩寄るリィムナ。
「前の討伐依頼、ギルドで報告書読んだよっ!」
 ぎくぎくっ、とリンス。頭に載せたたおるがずり落ちる。
「あ、あれは敵の魅了の力が強くて仕方なく‥‥。それに、依頼は成功したし」
「『大丈夫、二人の絆があればアヤカシなんかに惑わされないよ!』って約束したのに。‥‥それなのにリンスちゃん、一人だけ魅了されて自分が悪魔っ娘になったと思い込んで仲間にトリックオアトリート!って言いながら襲いかかったとかって‥‥」
 ああ、何たる失態か。リンスも言い訳きかないと分かっているのかいつもの堂々とした様子がどっかいってるぞ。
「あたし達の絆ってそんなものだったんだ!」
 眉の根を寄せリンスに迫るリィムナ。リンスに今まで向けられたことのない表情だ。
「まったくリンスちゃんたら酷いよねっ!」
 ああ、ぷんぷん怒っているぞ。
「そんな‥‥」
 途端に狼狽するリンス。声を掛けるが、「知らない」とツン。もうどうしていいかわからず目を回している。それでも何とかこの場を取り繕うために動き始めたぞ。
「そ、そうじゃ。新作の泰ニャンお面が出来たのじゃー!」
「つん」
「ほ、ほらほら、猫ダンスじゃ」
「う‥‥。つん」
 慌てて自作の猫面を出したり、まるごとにゃんこに着替えてにゃんにゃん踊ったりしたが事態は好転せず。‥‥背を向けて浴衣からまるごとにゃんこに着替えるときだけは少し反応したようだが。
「リィムナ‥‥」
 いつもは見せない、力なくうなだれる姿。しかし、リンスはすぐに何かを決心したように顔を上げた。
「待っておれ」
 どたた、と部屋を出るリンス。すぐに戻ってきたその姿は。
「す、好きにしていいのじゃ‥‥」
 何と、ビキニ「ノワール」姿となっているではないか。
 十歳の、まだくびれきってない白い肢体を申し訳程度に黒い布が覆っている。何も隠すもののないつるつる素肌の肩をいま、恥じらい俯く動きに合わせ金髪が撫でて前に垂れた。「好きにしてもいい」と言っても恥じらいは残るのだろう。前を隠すように左手を斜めにし、肩から真っ直ぐ垂らしている右腕を抱いた。腰を隠すぱんつはアダルトにざっくり抉れている。くねらせた膝にあわせて丸出しの腰骨が悶えるようにうねった。
「んん‥‥、つん。許さない」
 しかし、この誘惑にもリィムナの機嫌は直らなかった。
 この時、リンスの中で何かが弾けた。


「嫌じゃ嫌じゃ! リィムナが妾を見てくれないなんて嫌なのじゃー!」
 何とリンス、床に仰向けになり、幼子の如く手足をバタつかせ大泣きしながら駄々をこね始めたのだ。
 リンスは、ジルベリアの地方貴族の家に生まれ。優れた統治者である母に強い憧れを抱き研鑽を積み、幼いながらも気高く、誇り高く、そして格調高かった。それが、プライドも誇りもなくただの子どもとして泣いている。
 いや、子どもなのだ。
 純粋で、真っ直ぐで、希望のみの瞳を輝かす――。
「リンスちゃん‥‥」
 そんな飾るところのない、いわば心が裸のままのリンスを見てリィムナが息を飲んでいた。そして、すぐ笑顔に。
「あはは。今までの、嘘だよ〜」
「な、なんじゃと?」
 リィムナはばつの悪そうな顔をして視線をそらせながら言う。リンスのほうは、ぴた、とビキニ姿でじたばたしていた格好のまま固まり、思わず聞き返していた。
「リンスちゃんがおろおろしたり泣いたりする姿が可愛いからつい意地悪になって悪戯しちゃったんだ♪」
 なんちゃって、と舌をぺろりと出すリィムナ。すぐさま爽やかな顔で悪戯した事をばらす。
 リンスはこれを聞き、ごごごと身を起したぞ。
「悪戯、じゃと‥‥?」
「だってリンスちゃんが‥‥」
「問答無用じゃっ!」
 ああ、のしかかられるつもりだったのが反対に襲い掛かっているっ!
「妾が、妾がどれほど‥‥」
「リンスちゃんが可愛いのが悪いっ!」
 どったんばったんしたかとむに〜っ、と互いのほっぺたを引っ張る。リンスがもう一方の手でリィムナの鼻を押し上げれば、リィムナはリンスの鼻を摘んでくる。もみ合ううちにリンスのブラがあやうくポロリしそうになったり、リィムナの純白のねぐりじぇみたいな服が脱げかけたり‥‥。
「ぷっ‥‥」
 ここで、リィムナがリンスの変な顔を見て笑ってしまった。
 リンスも目を見開き、ようやく我に返った。改めてリィムナの変顔に気付き、くすっ、と吹き出してしまった。
「リンスちゃん、水着がずれてる」
「リィムナも服が乱れてしまったのぅ」
 身を起して向き合って座ると、互いの服を調えてやった。視線が自然に合ってしまい、またぷっと互いに笑い合う。
「ただいま、じゃ」
「うん。お帰りなさい」
 リンスは、無事に心のふるさとに帰って来れたことを喜んだ。リィムナも、にっこり。
 そして、惹かれ合う。
 自然と目と目が近くなり‥‥。
 こつん、と額を合わせて、それでも見つめあった。
 漏れる吐息。
 次の、瞬間。
「あ、そうだ!」
 リィムナが声を上げた。
「ちゃんとお菓子と甘い飲み物を用意してリンスちゃんの帰りを待ってたんだよっ♪」
 いそいそと持参物を取り出すリィムナ。
「うむ、二人でお菓子パーティじゃな。‥‥よし、大いに楽しむのじゃ!」
 リンスもノリノリだ。早速、ジュースで乾杯。
 そして。
「‥‥って、あたしばっかり飲んでる様な?」
「気のせいじゃ。‥‥うむ。美味しそうに飲むリィムナはやっぱり見てて和むのぅ」
「ほんと? よぉし、じゃあもっと飲むよ」
 こうして、夜遅くまで仲良しお菓子パーティーは続くのだった。
 アヤカシの魅了よりも甘い、とっておきの二人だけの魔法のような時間の中で。


 翌朝。
「リンスちゃん〜」
「よしよし。泣くでない」
 おっきな世界地図の描かれた布団を前にして、大泣きするリィムナをリンスが抱いて慰めていた。どうやらリィムナ、おねしょをしたようだ。
 もちろん、胸の中で泣くリィムナにリンスのしてやったりな笑顔を見ることはできなかった。
 二人とも大泣きしてこれでおあいこではあるが、リィムナにバレたらどうするのだろうというのは余談である。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ib5201 / リィムナ・ピサレット / 女性 / 10歳 / 魔術師
ib5184 / リンスガルト・ギーベリ / 女性 / 10歳 / 騎士


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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リンス様

 いつもお世話様になっております。
 大変お待たせしてしまい、申し訳ありません。リィムナさんとのハロウィンお菓子パーティー、オチはしてやったりですよなお話をお届けします。
 今回、戦闘シーンはメーンではないので省かせていただきました。所持武器は、ちょうどマイページを拝見した時の装備で描写させていただいてます。ビキニ姿の描写が念入りなのは気のせいです(笑)。

 この度はありがとうございました。
PM!ハロウィンノベル -
瀬川潮 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2011年11月24日

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