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『子育ても大変だ 』
藤田・あやこ7061)&鍵屋・智子(NPCA031)
 煤や灰があたりに漂い、空気を染める。
 元の空気がすでにどんなものだったかもわからない。
 響き渡るのは怒声と泣き声。
 そこかしこから立ち上る煙が、親子の姿をゆらゆらとゆがませる。
 
 時は戦時。
 場所は東京。

 資材供出で山積した玩具を背に泣く子供。その子に非国民、と叱り、その腕に抱いた玩具を取り上げる親の姿。
 玩具の軍艦は鉄材に。セルロイドの人形は爆薬となる。
 お寺の鐘さえ戦争の材料になる時代。
 子供の玩具すら、容赦なかった。

 そこは狭い空間。
 土と様々な体臭が入り交じったにおいがあふれている。
 おびえた少女の腕には人形が抱かれ、同じような表情で小さく蹲っている少年の腕には、軍艦の玩具があった。
 姉である少女は弟である少年の肩を人形ごと抱き、恐怖に瞳を閉じた。
 地上では空襲をつげるサイレンが鳴り響き、ミサイルが投下される爆音が防空壕ごと揺らした。
「ここも危ない! 逃げた方がいい!!」
 誰かの叫び声に、騒然となる防空壕内。
 姉弟は大人の逃げる渦に巻き込まれ、もみくちゃに引き離される。
 それでも玩具を持っていない方の腕を懸命にのばし、手が触れあおうとした瞬間、光に包まれた。
 軍艦ごと焼かれる弟の姿。姉も人形とともに髪を焼かれ、本人も焦土と化した地面にたたきつけられた。

 時は進み、現代日本。
「ちょっと貴方にやって欲しい事があるの」
 いきなりやってきた少女は、藤田あやこに思い切り上から目線に話しかける。
 少女の名前は鍵屋智子。年齢は14歳とかなり若いが、天才科学者である。
 夫二人に先立たれ、それでも割り切った独身生活を謳歌しているあやこに、鍵屋は特命を言いつける。
「子守?」
 聞き返したあやこに、鍵屋は大きく頷く。
「ただの子守ではないのよ」
 とはじめる。
 なんでも拉致少女の脳髄が移植された軍艦だと言う。IO2が虚無の境界から押収したもの。
 あやこはどん引きしたものの、引き受けることにした。

 羽田、開かずの格納庫。
 あやこの目の前には、翼を広げた巨大な軍艦の姿。
 ミニスカOL姿で見上げながら、機体を愛おしそうに撫で、優しく語りかける。
「お母さんよ〜」
「帰れ糞ババア」
 大音量で拒まれ、あやこは耳を塞いで苦笑する。
 軍艦の子守ってどうすればいいのかな、と思案しながら機体を見つめる。
「…まさか、蝶のデザインを描いたら怒られるよね…」
 ブティックモスカジの創業者でもあるあやこは、機体に描かれた蝶の模様を想像して一瞬うっとりとした。

 結局、子守をしたのだかわからないまま、あやこは港区にある、カフェ・かもめ水産の女店主に戻り、大皿を抱く。
「育児って大変ねぇ…。ま、いっか!」
 あやこは暇そうに大皿の縁を指で辿り、マイペースな面持ちで呟いた。
 店内の片隅に、セーラー服姿で丸坊主の少女が座っていた。その手には錆び付いた古い軍艦の玩具が握られている。少女は魂の抜けた人形の様にぼーっと座っていて、周囲には鬼火や赤子のような人影があった。
 あやこはその少女を見つめながら、鍵屋の顔を思い浮かべた。
「あの子がその戦艦? の端末? へ〜」
 あやこの話に、常連客のエルフは頷く。
「心が閉じたままなのが気がかりで…」
 嘆くあやこに、エルフは首を少し傾げてあやこの少し後ろに視線を向ける。
「因業だね…土地つーか家系? 凄く根深いね」
 視線を戻し、慣れた手つきで占う。
「業なの?」
 戸惑うあやこに、エルフは少女を霊視し始める。
 すると、姉弟の霊が現れた。その手には軍艦と人形の玩具が。
「受容してあげて…」
 エルフに促され、あやこは微笑む。
「お母…さん?」
 呟く少女に、あやこは大きく頷いて、両手を広げた。
 少女は転がるようにあやこの腕の中に飛び込み、初めて表情をあらわにして、泣いた。
 瞬間、少女の背後が光に包まれ、すっかり様相が綺麗になった姉弟が、光の中にとけるようにゆっくりと消えた。
「成仏…したみたいね」
 エルフの女客は、カードを小さく弾いた。

「おか〜さん、あのスカート欲しい〜」
 少女があやこの手を引いて、マネキンに着せられたスカートをつかむ。
「わぉ」
 あやこは値札を見て怯む。
 が、くるっと少女に向き直り、にっこりと微笑む。
「おか〜さん、頑張って稼ぐからねっ」
「うん、おか〜さん頑張って☆ わたしもお手伝いするねっ」
 母は強し。
 少女の髪が綺麗に生え揃う頃には、ウィッグをはずして、沢山お洒落して出かけよう。
 あやこは少女の笑顔に心の中で誓った。
 
PCシチュエーションノベル(シングル) -
夜来聖 クリエイターズルームへ
東京怪談
2011年11月30日

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