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『法律改定! クリスマスを取り戻せ! 』
弓亜 石榴(ga0468)

●ぱんちら
 師走、しわす、師匠も走る十二月。
 本当に教師陣が走っているかどうかはともかく、傭兵達の学業施設・カンパネラ学園も例外ではない。バグアだ宇宙だ生徒会長辞任に加え、地上へ学業機能を残しての本校分離と立て続けに問題が持ち上がり、教師も生徒達も落ち着かない日々を過ごしている。
 そんな慌しい年末の学園で、高城ソニア(gz0347)は、今日も今日とて図書館に入り浸っていた。

「「ソニアさん、ソニアさん?」」
 毎度の事ながら分厚い本を大事そうに抱えて書庫を出たソニアが閲覧ルームに向かおうとしていると、背後で呼び止める声がした。
(妙ですね、書庫には誰もいなかったはずですが‥‥)
 空耳だろうと歩き始めると、また彼女を呼び止める声がした。
「誰かいるんですか‥‥?」
 ちょっぴり怖くなって恐る恐る声を掛けると、足元ですよと声がした。
 そこで漸くソニアは――自分の背後に小柄な人のような饅頭の集団がわらわら付いて来ている事に気付いたのだ。
「こんにちは、ソニアさん」
 饅頭の一人が言った。
 わらわらと沢山いる饅頭達は皆同じ顔、一様に赤い髪をツインテールに結い上げて、揃いの制服に身を包んでいる。とても可愛らしいのだが、見分けが付きやしない。
 とりあえずソニアは、挨拶してきた一人と目線を合わせようと少ししゃがみ込んだ――その時。
「「「シャッターチャンス!!」」」
 激しくフラッシュが焚かれたかと思うと、次の瞬間、ソニアの周りをカメラを構えた饅頭達が囲みこんでいた。
「いやー、いいぱんちらだったねー」
「これは女王様に献上しなくては」
「この写真があれば女王様もきっと‥‥」
 皆口々に言い合ってデジカメの再生ボタンを押すと。
「‥‥な、何なんですかー!!」
 絶妙な位置から撮られた、ソニアの恥ずかしい画像がわらわら表示されていた!

●ハロウィンが終わらない国
「何するんですかぁ‥‥」
 恥ずかしい写真を無限に見せ付けられたソニアは抵抗の意思すら失くし、がっくりとその場に崩折れて涙目で饅頭達を見つめた。
「何って、女王様のお好きなぱんちら写真を‥‥」
「そう、女王様!」
「女王様が大変な法律を作ってしまったのです!!」
 口々に喋っているが、大事な情報はどれだろう。
 一人ずつ説明してと頼むと、饅頭達はびしっと一列に並んだ。お城の女王様に仕える饅頭兵士だそうで、こういう時の整列具合は大変美しい。
 前から順番に一言ずつ解説を頼む事にした。以下要約。

「不思議の国に巨大カボチャが居座ってしまいました」
「お城の女王様が巨大カボチャがなくならない限りクリスマスを禁止すると言い出して」
「『クリスマスだろうがバレンタインだろうがカボチャが無くならない限り永遠にハロウィン法』を成立させてしまったので」
「国民(主に饅頭兵士達)が困っています」
「どうか女王様を説得して、クリスマスを迎えられるようにしてください!」

「‥‥はぁ」
 一通り聞き終えたソニア、何故また自分にと首を傾げ――以前にもこんな事があったようななかったような気がしてきた。

 微妙な表情で考え込んでいるソニアに饅頭兵士達が畳み掛ける。
「ねえ? ソニアさんじゃないとできないんですよ! お願いしますよ!」
「あの女王様の暴挙を止められるのは貴女しかいないんです!」
「もし付いて来てくれなかったら、ぱんちら画像で女王様を説得しちゃいますからね!」

「!! それはダメー!!!」
 契約成立。
 かくして女学生一人、不思議の国へご案内――

●Treat & Treat !
 そんな訳で、饅頭兵士達はソニアを連行して不思議の森を歩いているのだった。
 一体どこへ連れて行かれるのだろう。女王様には会いたくないな、何となく。
 先頭を歩いていた饅頭兵士が振り返って言った。
「この先に、巨大カボチャがあるのです!」
「森の番人、ロジャーじいさんとミルーネばあさんが護っているのです!」

 辿り着いた先には素朴な小屋が建っており、煙突から長閑な煙が立っていた。
 ひとつ異様な事があるとすれば――小屋の表から見ても判る程大きなカボチャが裏手に鎮座している、という事。
「あれがなくならないとクリスマスはやって来ないのです!」
 饅頭兵士達に促され、小屋の戸を叩くと中から「お入り」老人の声がした。
 訪問者を認めて明らかに落胆した様子の老婆はミルーネだ。
「どちらさんだえ?」
「『クリスマス(中略)ハロウィン法』を撤回させる為に、元凶のカボチャ退治に来た者です!」
「帰ってくれんか。裏のカボチャは誰にも渡さん!」
 兵士の一人の答えに、ロジャー爺は敵意を顕わにして皆を外へと追い出した。
 ――どんどんどん!
「「開けなさい! 女王様の命令です!」」
「あの子の為のカボチャなんだよ。あたし達から取り上げないでおくれ!」
「あの子? あの子って誰ですか!? 落ち着いて! 話を聞かせてください!!」
 ――かちゃり。
 扉が開いた。事情だけでもと尋ねた話は、孫を待つ寂しい老人達の物語だった。

「あたし達はね、毎年小さな魔女さんを待っているんですよ」
「ミサキと言ってな、可愛い子なんじゃ」
「パンプキンケーキが大好きでね、いつも焼いて待っているのよ」
「カボチャの外側は、わしがランタンにするんじゃ」
 微笑ましい話である。
 ところがミサキがぱったり来なくなってしまった。孫の来訪でハロウィンを数えていたロジャーとミルーネは、それ以来いつ孫が来ても良いようにカボチャを用意しておく事にしたのだと言う。
「つまり‥‥ミサキさんが来れば、あのカボチャはケーキになるんですね?」
 そうだと二人は頷いた。

●女の戦場
 事情を聞いた饅頭兵士達は口々にミサキに会いに行こうと言い出した。
「良い事をすると気持ちが良いですよソニアさん!」
「人助けです!」
「しかも若い娘さんのぱんちらが撮れるチャンスです!」
「「「ぱんちら!!!」」」
 俄然やる気を見せ始めた饅頭兵士達。
 結局目的はそれですかと突っ込む気も失せて呆然と立っているソニアに、一人の兵士が近付いて囁いた。
「協力してくれないなら‥‥ソニアさんの写真献上でも構いませんヨ?」
「‥‥お供させていただきます」

 さて、肝心のミサキ嬢は何処にいるのだろう。
 老夫妻に孫の居場所を尋ねたソニアは驚いた。何とカンパネラ学園の寮にいるのだと言う。
「強引? 都合良過ぎ? そんな事ないですよ!」
 饅頭兵士達に励まされてしまった。
 ともあれ学園へ戻る事にして、寮の自室に一旦戻ったソニアは大きめの籠に饅頭兵士達を詰め込んだ。
「「苦しいです! ソニアさん、虐待、虐待!!」」
「ミサキさんに会いに行くんです、少し我慢してくださいね♪」
 ぎゅっと上から蓋をして、ミサキという人物を探して傭兵データを検索すると、彼女はちょうど調理実習室の使用許可を取っていた。
「ご都合主義? そんな事ないですよ!」
 ひょこ、と出た饅頭を押し戻し、調理実習室に向かうと、気配のない実習室の扉を開けた。

『ユリはガトーでチエは型抜きナオはきっとエクレアで‥‥‥』

(‥‥ひぃっ!!)
 薄暗い実習室に一人、ぶつぶつと呪文を唱えている少女――ミサキを発見し、ソニアは慌てて扉を閉めた。
「あのぅ‥‥」
「何!? 私の今後が掛かってるんだから、そっとしといてくれない!?」
 殺気だったミサキに怯えを感じるものの、ここで退いては自身が生贄になり兼ねない。ソニアは籠の蓋を開けて、饅頭兵士達を解放した。
 押し込められて潰れ掛けていた饅頭達は、ぷるぷると身震いして元の大きさに戻るとミサキを囲んで一斉に話し出す。
「「ミジャージイサンガマッテイルンデス」」
「皆さん、整列!」
 一緒くたになって、何を言っているのかわからない。ソニアが号令を掛けて一列になった兵士達は、ミサキの祖父母であるロジャーとミルーネが彼女の訪問を待っているのだと伝えた。
「そうは言われてもね‥‥私、今忙しいのよ」
 薄暗い調理実習室で一人菓子作りをしていた辺りで察しろと言いたいらしい。
 誰かへのプレゼントですかと問えば、女友達同士の手作り菓子交換だ言う。それは大変だ、女友達ほど辛辣で怖いものはない。
「何を作るか決まっているんですか?」
 ううんと首を振ったミサキ、友達が作るであろう菓子を挙げて悩んでいるのだと答えた。
 そういう事ならと饅頭兵士達が口々に話し始めたので、再び整列させて一人ずつ発言を許可してゆくと――
「ミルーネばあさんはお菓子作りが得意です!」
「カボチャ用意して待ってます!」
「ホワイトチョコとカボチャを混ぜたパンプキンチョコなんてどうですか!」
 ――との事。
 ミサキは複雑な表情でソニアに問うた。
「お婆ちゃん、元気‥‥?」

●それから
 饅頭兵士達はミサキを連れて不思議の国に戻って行った。
 その後風の便りに聞いた所に拠ると、老夫婦と再会した彼女はミルーネ婆と一緒に巨大カボチャで菓子を作ったそうで、女王様の法律も改定の運びとなったらしい。
 書庫で本を選びながら、ソニアは饅頭兵士達に想いを馳せる。
(皆さん、楽しかったです‥‥そう言えば!)

 デジカメの画像データ消去を忘れていた――どうしよう。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ga0468 / 弓亜 石榴 / 女 / 15 / 饅頭兵士ズ 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 周利でございます。
 まさかの放置プレイ状態だった商品サンプルが、このような事態を招いてしまうとは‥‥!

 一体何回『ぱんちら』って書いたでしょ、私。
 これでソニアの恥ずかしいお写真は、ご勘弁いただけます‥‥よね!?
 びくびくしつつも好き勝手に楽しく書かせていただきました♪ ありがとうございましたv
WF!Xmasドリームノベル -
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CATCH THE SKY 地球SOS
2011年12月12日

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