▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『●魂が恋求めるは 』
リサ・アローペクス8480)&クレアクレイン・クレメンタイン(8447)&(登場しない)

 未来の妖精王国――三島王朝の王立アカデミー。
 事は急速に動いていた、たび重なる竜族の侵略、王城は今にも敵の手に渡ろうとしている。
 女魔導士が王城を脅かす竜族に、決戦の構えを取っていた。
 魔法陣の上には、鳥インフルエンザを患った一羽の鶴であるが、この鶴、元は愛しい嫁と結婚寸前に鶴にされた亀蔵と言う男だった。
 竜族の魔の手により、正月に玉手箱を通販の御節と騙され、開いた揚句、鶴にされたのである。
 その上に、致死性の流感を患った不運な男。
 女魔導士は、鳥類と遺伝学的に類似した竜族に鳥インフルエンザが致命傷を与える事を知り、男を21世紀から召喚するのだが。
 ――対峙する二人。

「この命、この王国の為なら、死しても構いません」

 肉体の交換を願い出ては、我が身を竜に食わせる事で、内部から破壊する……それには、亀蔵の肉体が必須である。
 黒髪のワンレングスの女性、クレアクレイン・クレメンタイン(8447)――クレアは、掻い摘んで説明をすると、時間がないとばかりに彼を促す。
 ――その女性には見覚えがある、何故なら、亀蔵にとっては無二の女性、なんと嫁の親友であった。

「(……この状況、もしや、彼女にも)」

 男性の身体にも、未練はある――もしかしたら、鶴になった身体が元に戻る可能性も無くは無い。
 だが、未来の嫁に危機が迫ると言うのなら……亀蔵はゆっくりと頷いて、了承、の声をあげた。
 人語ではなく、クウーと鶴の、そして自分が思ったよりも弱弱しい鳴き声でしかなかったが、女魔道士には通じたらしい。
 唇が、ありがとう、と紡ぐのを理解し……そして、目が覚めた。



「夢、夢か――俺は一体、いや」

 酷い悪夢だった、そう思い込むよりも先に、肉体に違和感を覚える。
 細身の体躯に、艶やかな黒髪、そして声をあげれば間違いなく女性のものであり、先程の夢が夢でない事は理解できた。
 紛う事無き事実、実際に、彼は――否、彼女は、召喚されたのだ。
 男の安アパート、食べ散らかしたカップラーメンの残骸や、放りだされた衣服。
 ホロリ、何かが瞳から零れ落ちた。
 あふれる涙は止まらず、愛妻の事を思い、涙した――元来ならば、男性に愛され、今から幸福な道を歩むであろう妻。
 それなのに、自分は女の肉体を持ってしまった、男性として契りを交わす事は許されない。
 そして、妻の親友が逝く事を知ってしまったという事実。 

「どうしたの?」

 愛妻が可愛らしい顔を覗かせ、男泣きである筈の涙は、女性ホルモンに刺激されて更に頬を伝った。

「ごめん、ごめんな――」

 啜り泣き、それでも謝罪を繰り返す声音は、どう聞いても女性のもので、更なる哀しみが押し寄せてくる。
 こうなってしまった自分を、愛してくれるだろうか……妻は。

「いいの……」

 落ちつける筈の、妻の諦観と笑顔が更に彼の胸に突き刺さった。
 妻の抱きしめる腕の中で、亀蔵、いや、クレアは泣きに泣いたのだった。





 日々、泣いて暮らす日々――男体への未練、自分に突如襲った不幸、妻の笑顔。
 自分が悪いのならば、納得できたのだろう……だが、此れは青天の霹靂とも言える不幸だ。
 時に運命は、小さきものを残酷に蹂躙していく――何故、自分が。
 そんな折、妻の養父であるリサ・アローペクス(8480)が自分と妻を招待する、と言う。
 どのような顔をして、会えばいいと言うのか……悩むクレアに、妻は微笑んだ。
 リサもまた、妻の亡夫の記憶を継ぐ者……クレアと同じく他人の肉体を継承する人種である。
 言わば『同じような』境遇の人物だ。
 リサは、泣き暮らすクレアクレインの話を妻から聞き及び、行動に至ったのだろう――同じような境遇の人物に、クレアは内心喜びを隠せない。
 だが、女になった父に娘さんを下さいという自分も奇妙だ……何を話せばいいのか。
 瀟洒な、二十代白人女性の私室。
 ノートパソコンには、書きかけのブログ、ベッドには凛とした女性が着そうなスーツやスカート、ドレスなどが置いてある。
 ふわりと漂ってくるアロマは、気分がスッキリするようなミントの香りだ。

「ウイスキーでいいかな?」
「あ、はい」

 ウイスキーと、グラスを手にしたリサは、まあ、男同士飲もうじゃないか、とクレアへ微笑みかける。
 見た目は金髪の麗しい女性、動作も洗練された女性のもので、男性らしさは感じられない。
 暫し、見惚れるクレアだったが、妻の義父の記憶を受け継いでいる――思い出しては背筋を伸ばして何と切りだすべきか、思考を巡らした。

「そんなに気にしなくていい、私は性別や人種など、気にしないからね」
「いや、しかし……娘の婿が女になったって」
「そう言う事もあるさ、飲みなさい」

 グラスを酌み交わし、カラリと氷の音を立てつつ琥珀色の液体を飲む。
 じんわりと、アルコールが臓腑に沁み渡って心地よい。
 クレアは、自分の心が少しずつ晴れやかになるのを感じていた。

「はっはっは、男は辛いすよね、お義父さん!」
「うむ、何より妻の魅力に、私は気圧されっぱなしなのだよ」
「守ろうと思っても、良いところは常に妻が取っていく。いやぁ、世知辛い」

 陽気に談笑していたクレアとリサだったが、クレアは酒に弱いと見え、段々と泣きが入ってくる。
 黙って微笑みを浮かべ、リサはウイスキーを飲み干していく。

「でもね、妻には幸せになって欲しいんですよ。でも、俺には愛する資格と言うか――」
「あの子は、嫌だと言ったのかい?」
「いえ、そんな事は……」
「ふむ――私があの子の義父となった時も、簡単ではなかった」

 過去を思い起こせば、リサとて始めからすんなりと受け入れられたわけではない。
 本物と呼べる、確固たる絆になるには、何度も衝突を繰り返し、何度も傷つけ合いを繰り返した。
 それでも、心の奥底には大切にする、その想いが存在していた事を、リサも、クレアの妻も、そしてリサの妻も理解している。

「想いの問題だよ、想いの」
「想い……でも、想いで性別は変えられないすよ」
「そうだろう、だが、想いが無ければ性別も、虚しいだけではないだろうか――?」

 リサは語る、妻を愛している事。
 そして、同時に彼女は、リサ・アローペクスと言う女性であり、此れは亡夫の記憶なのである、と。
 だが、妻を愛している事には変わりがない、女性でも、男性でも……。
 性別を愛している訳ではないのだ、ウイスキーを飲みながら、あくまで穏やかに彼女は語る。

「でも、男として愛したかった」
「心は男だ、それでいい……性別は肉体の問題だからね。さて、ではそろそろ行こうか」
「え、何処へ――?」
「素敵なところだ」




 どうせだから、とリサが無理矢理クレアに着せたドレスは、驚くほどピッタリと体にフィットしており、クレアの凛々しさを強調させる。
 女ぶるまいをリサから盗み見しつつ、街を歩けばこのドレス、歩く度に翻り、足に纏わりつく。

「爪先を外側に向けず、真っ直ぐに歩くと良い」
「な、中々難しいっすね」

 辿りついたのは、東京の洒落たカフェ――美しい女店主が、リサと何度か言葉を交わし、互いに抱擁し、口づけをかわす。
 日本ではあまり見られない風習だが、ハグとキスはニューヨーク出身であるリサにとっては当然の事だ。
 女店主――後、クレアの義理の母になる事もあるかもしれない――の視線がクレアに移り、そして微笑んだ。
 おかえりなさい、と紡いだ言葉は優しい……凛とした、しなやかさを内包しているようだった。

「料理も美味しいが、勿論彼女の淹れるコーヒーも美味しい」
「じゃあ、コーヒーで」
「まあまあ、ここは私の――いや、彼女の奢りだよ」

 財布の中身を漁ったクレアは、リサの制止の声に顔を上げる。
 穏やかな表情の女店主が、当然、とばかりに頷いた……ありがとうございます、頭を下げて店内を見回せば、女性客ばかり。
 成程、お洒落なカフェと言う事で、人気も出るだろう。

「此処は様々な悩みを抱えて、女性が来るところだ。覚えておくと良い――彼女も、素晴らしい女性だろう」
「ええ」
「彼女は、その心で人を癒す」

 珈琲を飲みながら、不思議と落ち着く空間に心を委ねる。
 目の前に座る、義理の父となるリサの金色の睫毛が揺れた……とくり、鼓動が高鳴った気がする。
 何故、この人はこんなにも強くいられるのだろう、想いの強さを語る彼女には、譲れない信念が込められていた。
 それは、リサが言葉で人を動かす『αブロガー』と言う職業故なのかもしれない。

 ――想いは、本当に性別を超えるのだろうか。

 妻の面影を瞼に浮かべながら、目の前に座る凛々しさを秘めた義理の父、リサをコーヒーカップ越しに眺める。
 誰を愛し、何を愛し、そして、何を守るべきなのか……。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【8447 / クレアクレイン・クレメンタイン / 女性 / 19 / 王配】
【8480 / リサ・アローペクス / 女性 / 22 / アルファブロガー見習い】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

クレアクレイン・クレメンタイン様、リサ・アローペクス様。
この度は、発注ありがとうございました、白銀 紅夜です。

魅力的な内容で、とても楽しく書かせて頂きました。
リサ様とクレア様の魂の恋、恋慕とも思慕とも言えぬところで留めさせて頂きました。
リサ様の想いの強さと、クレアクレイン様の若さ故の、不安定さの対比を感じて頂ければ幸いです。

では、太陽と月、巡る縁に感謝して、良い夢を。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
白銀 紅夜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2011年12月13日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.