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『見知らぬ少女 』
夜神・潤7038)&(登場しない)

 夜神潤が階段を昇っていると、女子生徒達がひそひそとこちらを見て話しているのが聴こえる。

「あの人誰だろうね」
「格好いい……大学部の人かな」
「格好いいね。講師なのかな」

 上から初等部、中等部、高等部となっている学園の構造上、上級生、ましてや大学部の敷地は聖学園の外部に存在するので、階段を昇るとどうしても下級生達の好奇の目にさらされてしまう。
 潤がちらりと女子生徒達の方を見ると、女子生徒達は顔を赤らめて散り散りに行ってしまった。何なんだ……。潤は釈然としないものを感じながら、中等部の階へ辿り着いた。
 ちょうど目の前を歩いている生徒に話しかける。

「すまない、人を探しているんだが」
「? 人ですか?」

 まだまだ身体が出来上がっていないどころか、声変わりすらしていない少年が首を傾げた。やはり年齢が離れているせいか、どことなく態度がぎこちない。

「前の舞踏会でデビュタントの手本になっていた女子を探しているんだが……」
「女子でですか? んー……多分雪下さんじゃないですかねえ。雪下さんは多分友達と一緒に中庭で遊んでいると思いますけど」
「分かった。ありがとう」

 中等部生徒達は休み時間になったら階段上り下りを気にする事もなく、中庭でごろごろ転がって遊んでいる姿を見かけるが、その中に混ざってたのか。生徒に頭を下げると、急いで階段を駆け下りた。行き違いにならないといいが……。何分この学園の構造は複雑だ。あちこちに渡り廊下があるのだから、そこで行き違ったら目も当てられない。

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 正直、潤は中庭にはあまり行きたくない。理事長館の結界が原因で、チリチリとした痛みを伴うためだ。だが、あそこにいると聞いた以上は……。
 と、そこで少女達がきゃっきゃと話しているのが見えた。

「でー、椿ちゃん殴っちゃったんでしょう?」
「うるさいなあ。あれはわざとじゃないんだから……」
「またまた〜、やきもち焼いちゃってさ」

 2人の女子生徒がキャッきゃと話しながら中庭の方向から歩いてきた。
 バレエ科の女子は、見ていればほとんどすぐに見分けが付く。バレエで踊る少女達はほとんど食事制限がかかっているせいで、皆身体つきが華奢なのだ。

「すまない、ちょっと人を探しているんだが、時間大丈夫か?」
「えっ? はい……いいですけど」

 片や勝気そうな目でこちらを見上げ、片や「格好いいー」と言いながら勝気な少女の腕に絡みついて喜んでいる。その勝気な少女は「椿ちゃん」と呼ばれていたが。

「雪下って生徒を探しているんだが……」
「えっ? 雪下は私ですけど」
「……君が?」
「はい」

 答えたのは勝気な少女だった。もう片方の少女は「何なに、椿ちゃんったら大人に声かけられたの!? 大人!!」と騒ぎ「かすみ、うるさい」と顔を抑えられている。
 ……前会った子は彼女ではないはずなんだが。

「すまない、1つ訊いていいか?」
「何でしょう……」
「舞踏会に参加していたバレエ科の生徒は君だけか?」
「ええっと……中等部の1年生だけだったら、私だけだと思いますけど」
「椿ちゃん、成績優秀だから先生にお手本してきなさいって言われたんですよ〜」
「うるさい、かすみ。今話している所なんだから」
「……そうか」

 じゃああの時混ざっていた少女は……?
 他の学年の生徒かとも思ったが、彼女達の話を聞いている限り、彼女の踊りはお世辞にも上手いとは言えないから、選ばれるのはありえないだろう。

「ありがとう」
「あー、いえ」

 そう言ってその場を離れようとした時だった。

「ごめーん、お待たせ!」
「遅いっ!」
「もうそろそろ移動しないと遅刻するよ?」

 聞き覚えのある声に、思わず潤が振り返る。
 少女達の友達らしい少女が、中庭からパタパタ走ってきたのだ。さっきまで中庭の芝生に屈んでいたのか、スカートにはあちこち芝がついている。それを少女達がパンパン叩いて掃ってやっていた。

「なかなか見つからなくって……」
「大事なものなら落とさないようにしないと駄目でしょう?」
「うん、ごめん」

 友達と言い合って笑い合っている少女は、間違いなく前に踊っていた少女だった。

「おい」
「はい?」

 少女は振り返った。
 こちらの事を覚えていないのか、きょとんとした顔をしている。

「前に、会わなかったか……?」
「会ったって……会いましたっけ?」

 少女は困ったような顔をして首を傾げた。
 さっきまで椿の隣で騒いでいたかすみと言う少女は「何、椿ちゃんは人違いでえりかちゃん目当て!?」とまたきゃっきゃと騒ぎ始め、「かすみ、うるさい」と椿に叩かれていた。

「前に練習で」
「練習……あ」

 ようやく何か思い出したらしいが、途端にさっきまでの笑顔が引っ込み、慌てたように口を大きく開ける。

「多分知りません! 知りませんったら知りませんっっ!!」
「えっ、ちょっと待……」
「失礼します!!」

 そのまま何故か少女は中庭の方向へとUターンしてしまった。
 潤は、それに唖然となるしかできなかった。

「あの、あの子何か先輩に変な事しましたか?」

 椿は困ったように眉を潜めて潤を見上げた。

「いや、そう言う意味ではないんだが。彼女は?」
「うちの友達です。楠木えりかです」
「そうか……ありがとう」

 別に思念に当てられたとか、そう言うのはないみたいなんだが……。
 何だ彼女の慌てようは。
 どう考えても……何か隠しているな。中庭に走って行ったって事は、理事長館にでも走って行ったのか……。俺が中に入れないのを分かっていたのか?
 ひとまず彼女の事は、覚えておく事にした。

<了>
PCシチュエーションノベル(シングル) -
石田空 クリエイターズルームへ
東京怪談
2011年12月19日

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