『おくりもの 〜心寄せて〜 』

桔梗（ia0439）

●年末の催しもの
　師走のある日のこと。
「‥‥年の瀬、贈り物、交換会？」
　神楽・開拓者ギルドの一般休憩処の囲炉裏端で、手を炙りながら桔梗（ia0439）が問うた。
　ですです、と梨佳（iz0052）は見習いながら職員めかして頷いて、開拓者間交流の一環で行うのですと一人前に説明した。
　何でも、有志が集まって一人一個ずつ贈り物を持ち寄り、籤引きで一個ずつ引き当てるのだとか。
「誰のものが当たるのか‥‥分からない、のか」
「ですねー　なので贈り物は一部の人しか喜べないようなのは避けた方が良いそうなのです〜」
　梨佳はそう言って、桔梗の顔を覗き込んだ。あのですね、と言い置いて小首を傾げる。
「あたし、今日はもう上がりなんですけど‥‥んで、まだ贈り物用意してないんですけど‥‥」
　一緒に買い物に行きませんか？
　そう言った梨佳がほんのり赤かった。桔梗もちょうど依頼を終えて一休みしていた所だったから、うんと頷いて梨佳に付き合う事にしたのだ。

●贈り物を探しに
　師走の神楽は何処も彼処も人で賑わっている。
　普段から人の多い街だが、年末ともなれば人の慌しさも相まって尚の事賑やかで騒がしい。
「わ、あの赤い服のおじいさんは何ですかー？」
　ジルベリア風の赤い衣装を身に纏った老人は白い髭をふさふさとたくわえている。彼の地より伝わった伝統、クリスマスに登場するサンタクロースだ。
　何の警戒もなく無邪気に近付いてく梨佳、サンタクロースに扮した客寄せの男性からキャンディーケーンを貰った。
「桔梗さんもー♪」
「ん。ありがと」
　二人揃ってサンタさんありがとうとお礼を言えば、客寄せサンタも笑顔で応じる。
　ねじり模様が楽しい飴を舐めながら通りを歩いて、やって来たのは幅広い取り扱いが自慢の雑貨屋だ。
「何を選ぶか、内緒」
「ですねっ♪」
　当たった時のお楽しみ、という訳で、二人は別々に店内を散策し始めた。

　贈り物は内緒だけども一緒に買い物をしている事に変わりはないもの。つい相手の姿を探してしまうものだ。
　二つ三つ向こうの棚に、茶色い頭が揺れている。
　元気にぴこぴこ揺れる二つ結びの髪は、小柄な桔梗よりなお小柄な梨佳のもの。
（‥‥何。探しているんだろ）
　高い場所にあるものを手に取りたいのだろうか、懸命に伸び上がっているのが髪の揺れから感じられて、桔梗が手伝いに行こうか迷っていると、梨佳が棚から顔を出した。店員に踏み台を出してもらったらしい。
「あ、桔梗さーん♪」
　無邪気に手を振っている。
　にこ、と微笑を返して、桔梗は再び品物を選び始めた。
（これは、みんなで交換。だよな）
　陶器の貯金箱を手にして、ふと思う。
　暫くその場で思案していた桔梗は、踏み台利用の梨佳に見つからないよう、こっそり身を屈めて移動し始めた。

●繋いだ手は温かく
　会計を済ませ選んだ品物を贈り物用に包んで貰ってから、二人は揃って店を出た。
　小さな紙袋を胸に抱えた梨佳が、横を歩く桔梗を見上げて、にこにこ問うた。
「桔梗さん、どんなのにしたですか？」
　楽しみは交換会まで取っておいた方が良いと解ってはいても、彼が用意したものが何かはやっぱり気になるものだから、つい尋ねてみたくなる。
　そんな梨佳の無邪気な問いに、桔梗は曖昧に微笑んで――小さな包みを梨佳に手渡した。
「‥‥これ。梨佳に」
「あたしに‥‥です？」
「こっちは、誰に行くかわからない、から」
　交換用の包みを示し、交換会とは別に梨佳の為に贈り物を選びたかったのだと彼は言った。
「開けてみて‥‥良い、ですか？」
　梨佳の為の贈り物だから勿論だと頷く桔梗。
　逸る心を抑えつつ封を解くと、中からふわふわした髪紐が一組現れた。見目にも暖かそうなふわもこの髪飾りだ。
「可愛い‥‥！」
　目を細めた梨佳は付けてっていいですかと桔梗に尋ねた。髪の両側に結ぶと、思った通りよく似合う。
「サンタクロースは良い子に贈り物をくれる、らしいから。頑張ってる梨佳に‥‥贈りたいなって」
「桔梗さん‥‥」
　頑張ってるのも良い子なのも、桔梗の方なのに！
　なのに彼は、いつも梨佳を励まし応援してくれて――梨佳は嬉しかった。だからその嬉しさを目一杯表して、その場で、くるくると回ってみせた。
「桔梗さん、ありがとうです！　皆さんきっと可愛いって褒めてくれるですよ♪」
　梨佳の喜びそのままに軽快に跳ねる髪に合わせて、ふわふわの髪紐も柔らかく揺れた。

　店を出て暫く、にこにこと横を歩いている梨佳の顔が上気していた。吐く息の白さが濃い。
　――何だか、手が冷たそう。
　手袋も嵌めずに真冬の街を歩いている少女の手が冷え切っているように感じられて、桔梗は無意識に手を伸ばした。
「‥‥あ、ごめん」
　ほんの一瞬触れ合った指先の感触に桔梗自身が驚いてしまって、慌てて手を引っ込める。
　きょとんと梨佳は慌てる桔梗の顔を見つめて――離れた手を追って、自ら指を絡めた。
「！？」
「ちっともごめんじゃないですもん。この方が嬉しいです♪」

　傍にいない時も心はいつも繋がってる――けれど、一緒にいる時はもっと近くにいたい。
　梨佳が絡めた指先を、桔梗はしっかりと握り返した。
「来年も、また、宜しく」
「はいです♪　あたしこそ、ずーっとよろしくなのですよ♪」
　手を繋いだ分だけ縮まった距離は温かな気持ちを運ぶ。
　仲良く身を寄せ合った二人は、開拓者ギルドへ向かって歩き始めたのだった。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ia0439　／　桔梗　／　男　／　15　／　梨佳の大切な人】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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周利でございます。いつも御依頼と優しいお気遣い、ありがとうございます。
買い物のひととき、プレゼント交換や、そっと手が触れ合う瞬間など――
初々しくも微笑ましい二人を、幸せな心地で描かせていただきました。

梨佳は桔梗くんが大好きです。
桔梗くんが梨佳に甘え過ぎだなんて、とんでもない！
こちらこそべったりで‥‥梨佳は果報者だと、共々感謝しております♪

周利も、桔梗くんと背後さんの優しい御心の在り方が大好きです。
思い遣る気持ちをお持ちのお二方へ、梨佳を安心してお預けさせていただいております。
ですから、どうか安心してください。私達は‥‥あなたがたが、大好きですｖ

ＷＦ！Ｘｍａｓドリームノベル

周利　芽乃香

舵天照 -DTS-

2011年12月26日